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伝えたいことをそのまま伝えてはいけない…「浄水器」のすごさを語ってもカフェの売り上げがあがらない理由

プレジデントオンライン / 2023年6月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Medvediuk

商品やサービスの魅力を、相手に伝えるにはどうすればいいか。編集家の松永光弘さんは「たとえば、カフェの経営者が、浄水器の精度の高さをそのまま伝えても、受け手にとっては『他人ごと』である可能性が高い。相手に納得、共感してもらうには、『伝えたいこと』を再解釈して言い換えることが必要だ」という――。

※本稿は、松永光弘『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■「伝えたいこと」は、しょせん「他人ごと」

「伝えたいこと」を伝えたほうがいいとよく聞きます。しかし、「伝えたいこと」をそのまま伝えても、なかなか受け入れてはもらえません。

それが受け手にとって「伝えられたいこと」でなければ、読んだり聞いたりしてもらえないからです。

ならば、受け手の注意を引くこと、ウケることだけを考えればいいのかというと、それもちがいます。当たり前の話ですが、いくらウケても、それが「伝えたいこと」と無関係であれば、そもそも伝え手にとって伝える意味がありません。

「伝えられたいこと」は、ただ受け手に望まれているだけでなく、伝え手にとっても意義のあるものでなくてはいけない。あくまでも「伝えられたいこと」は「伝えたいこと」を変換したものであるべきです。

では、「伝えたいこと」を「伝えられたいこと」に変換するにはどのようにすればいいのか。

『怒りの葡萄』などで知られる作家、ジョン・スタインベックは、つぎのような言葉をのこしています。

「自分に関する物語でなければ、人は耳を傾けたりしない」

すなわち、ポイントは、受け手が「自分ごと」と感じられるようにすること、にあります。

「伝えたいこと」は伝え手目線のものであり、受け手にとっては「他人ごと」です。他人ごとだから、興味もわかないし、耳を傾ける気にもなりづらい。それを受け手が「自分ごと」と感じることができるように、再解釈して意味や価値を置きかえていく。

■浄水器の効果を、コーヒーの美味しさに言い換えられるか

ここはまさに、ぼく自身が企業などからアドバイスを求められることが多いところなのですが、やや身近なケースでいえば、たとえば、以前、あるカフェの経営者から、「新たに導入した浄水器の精度の高さをお客さんにアピールしているのだけれど、なかなかわかってもらえない」と相談を受けたことがあります。

その浄水器をつかえば、驚くようなレベルで水から不純物を取り除くことができる。同等の機器を備えているお店はそう多くはないはずだから、そこを自店の売りとしてお客さんにアピールしたい……ということですが、その気持ちはわからないでもありません。

すばらしい機械や設備を導入すれば、たしかにそのすごさを誇りたくもなるし、お客さんにも伝えたくなるでしょう。

でも、これは「伝えたいこと」であって「伝えられたいこと」ではありません。おいしいコーヒーを楽しみたいと思ってカフェを訪れるお客さんのほとんどにとっては、残念ながら「他人ごと」である可能性が高い(コーヒーを飲もうと思っているときに、コーヒーのおいしさには興味があっても、水の不純物を取り除くこと自体にはそこまで興味がない)。

そのまま伝えても、理解はしてもらえるかもしれませんが、すぐに納得したり、共感したりしてもらえる可能性は低いでしょう。

ただ、この「伝えたいこと」を再解釈して、たとえば「ほかにはない純度の高い水のおかげで、コーヒー豆の風味をしっかりと感じることができる」のようにいい換えることができれば、事情はちがってきます。

このひとことをもとに、キャッチコピーを書いたり、ポスターをつくったりしてアピールすれば、お客さんのなかにも「自分ごと」として受けとめる人が出てきて、納得したり、共感したりしてもらいやすくなります。

カフェで働く男性バリスタがカップにお湯を張り、温めている
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

■つい「伝えたいこと」を伝えてしまう

ほかの例でいえば、ぼくが企画および編集を担当した、クリエイティブディレクター・水野学さんのブランディングデザインに関する本のタイトリングの際にも、同じ考え方をしています。

この本は、水野さんが慶應義塾大学で実施した講義をまとめたもので、いまではたくさんの経営者に愛読されるロングセラーとなっています。

もちろん、それはもととなっている講義が、明快かつ本質的で、とてもすばらしいものだからなのはいうまでもありません。ただ、本として「伝える」ことを考えるときには、やはりそれなりに工夫も必要です。

「伝えたいこと」は、まさに「水野さんが非公開で話したブランディングデザインの講義内容を知ることができる」。

でも、そのままでは、書籍化するにあたって主として読者になってもらいたい相手、つまりは企業の経営者をはじめとした事業にたずさわる人たちにとって「伝えられたいこと」ではありません。

そこで「伝えたいこと」を再解釈して、「自分ごと」として受けとめられるようにと工夫したのが、つぎのタイトルです。

『「売る」から、「売れる」へ。 水野学のブランディングデザイン講義』

「伝えたいこと」から「伝えられたいこと」への変換とは、こういうことです。いまはカフェと本の例でお話ししましたが、つい「伝えたいこと」ばかりを伝えてしまっていることは、さまざまなビジネスシーンにも、日々の暮らしのなかにも数多く見られます。

事業企画をプレゼンするときに、自分のこだわりばかりを熱心に語ってしまう。

商品をお客さんに紹介するときに、そこでつかわれている専門的な技術について過剰に時間をかけて説明してしまう。

力を貸してもらいたいと頼みごとをする相手に、自分がどう困っているのかということばかりを話しつづけてしまう。

家族への不満を、辛辣(しんらつ)な言葉で本人にぶつけてしまう。

いずれも「伝えたいこと」をそのまま伝えたせいで、受け手としては納得したり、共感したりするのが難しくなっています。

誤解のないようにつけ加えますが、「伝えたいこと」が重要でないといっているのではありません。あくまで、それをそのまま伝えれば伝わるわけではない、というお話です。

自分なりに「伝えたいこと」をもつ。そのうえでそれを受け手にとっての「自分ごと」になるように変換していく。

そうすることで、受け手に伝わる伝え方ができるようになるのです。

■メッセージは、受け手にとっての「魅力」

「伝えたいこと」を「伝えられたいこと」へと変換する。

それが「伝えるべきこと」──。

いまお話ししたことは、ごく簡単にいえば、こういうことです。

でも、ひと口に「伝えられたいこと」といっても、「耳を傾けてもいいかな」というレベルのものもあれば、「ぜひとも詳しく聞きたい」というレベルのものもあります。

受け手にしっかりと納得してもらい、あわよくば共感してもらうことを考えるなら、後者のように、少し前のめりになってかかわってもらえるような投げかけをしたいところです。

受け手を引きつける「引力」が、そこにほしい。そのためにも、「伝えるべきこと」は、受け手にとって「魅力」と呼べるものになっている必要があります。

この点をふまえて、ここまでのお話をまとめると、「伝える」ために、まずやらなくてはいけないのは、つぎのことです。

伝え手の「伝えたいこと」を、受け手を引きつける「魅力」へと変換し、ひとことでいいあらわす。

この「ひとこと」を、ぼくは〈メッセージ〉と呼んでいます。

〈メッセージ〉とは、伝え手の「伝えたいこと」を代弁するものであり、受け手にとっての「伝えられたいこと」「魅力」でもあるひとこと。

この〈メッセージ〉がきちんと定められているからこそ、文章であれ、お話であれ、ビジュアル表現であれ、あるいは事業であれ、適切に表現し、適切に伝えることができるようになります。

あらゆる伝えるコミュニケーションの〈表現物〉は、まず〈メッセージ〉があって、そのあとに存在するものです。

もっといえば、文章を読んだり、話を聞いたりして、すばらしいと感じたのだとしたら、多くの場合、それは文章や話の書き方、話し方がすばらしいという以前に、〈メッセージ〉がすばらしいということ。

本当の意味で「伝わる」のは、文章などの表現の部分ではなく、その奥に内在する〈メッセージ〉なのです。

座ってノートにメモを書き込む女性
写真=iStock.com/marchmeena29
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marchmeena29

■すべては〈メッセージ〉からはじまる

本書の「はじめに」にも書いたように、ぼくは編集家として、出版などのメディアに関係する仕事だけでなく、企業や各種団体のプレスリリースや発表資料、オウンドメディア、メディア掲載記事をはじめとしたさまざまな発信にかかわったり、教育事業に取り組んだり、講演活動をしたりと、いろいろな伝えるコミュニケーションにたずさわっていますが、基本的にそれらすべてを、この〈メッセージ〉を手がかりに監督しています。

〈表現物〉にきちんと〈メッセージ〉が存在しているか。

それは十分なものか。

そういう目で見ながら、もし不十分なところがあるのなら、伝えるコミュニケーションの構造のどこの部分の通りがわるいのか、その原因は……などとイメージのなかで点検しつつ、文章の書き手やクリエイター、経営者らに対して補強のための質問を投げかけて必要な答えを導きだし、まずは〈メッセージ〉が妥当なものになるようにうながしていきます。

そして、そこが定まったら、〈メッセージ〉が語られるために十分なものであるように、文章やビジュアルなどの〈表現物〉を調整していく。

そうやって、伝え方を「伝わる化」していきます。

(ちなみに、同様の取り組み方は、今後、AI活用にも必要になるのではないかとみています。この先、AIがさらに身近な存在になり、文章をはじめとする「表現の作成」においても重要な役割をになうようになったとしたら、伝え手である人間には、これまでのような「うまく書く力」「つくる力」ではなく、「伝えるコミュニケーションを制御する力」が求められるようになるでしょう。

その際、AIへの作業リクエストはもちろん、AIが生みだす〈表現物〉の目利きや修正に必要となるのは、まさにこの〈メッセージ〉目線です)。

■「伝える」の本質は「メッセージ」にある

〈メッセージ〉は、ほんの1文の短い言葉にすぎません。

伝える場に応じて、これをもとにその場に適した〈表現物〉をつくっていく必要もあります。

そういう意味では、〈メッセージ〉はそれだけでコミュニケーションのすべてを完結させるものではないかもしれません。

松永光弘『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)
松永光弘『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)

でも、〈メッセージ〉があるからこそ、「選びとり」「組み立てて」、伝えるために必要な〈表現物〉を適切につくることができます。

ゲーテは、つぎのような言葉を残しています。

「明晰(めいせき)な文章を書こうと思うなら、その前に、彼の魂のなかが明晰でなければダメだ」

「伝える」の本質は〈メッセージ〉にあります。

〈メッセージ〉を定めるからこそ、「伝える」ことができるのです。

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松永 光弘(まつなが・みつひろ)
編集家
1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングや発信、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいる。ロボットベンチャーをはじめとした企業のアドバイザーもつとめており、顧問編集者の先駆的存在としても知られる。また、社会人向けスクールの運営にたずさわるほか、自身でも大企業や自治体、大学などで編集やコミュニケーションに関する講演を多数実施し、好評を博している。

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(編集家 松永 光弘)

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