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「徹底した守り」のはずが2期連続の巨額赤字…ソフトバンクG・孫正義社長がそれでも強気でいられるワケ

プレジデントオンライン / 2023年7月3日 8時15分

株主総会で経営戦略を説明するソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長=2023年6月21日、東京都千代田区[同社提供] - 写真=時事通信フォト

■「反転攻勢」に打って出ると明言

6月21日、ソフトバンクグループ(SBG)は定時株主総会を開催した。孫正義会長兼社長は、プレゼンテーションの冒頭で「反転攻勢」に打って出ると明言した。今回の反転攻勢に、重要な役割を担うのが英国の半導体設計企業のArm(アーム)だ。同社の上場によって、SBGはアームの事業運営体制の強化に必要な資金を調達し、AI関連分野での収益を拡大する考えとみられる。

長い目で見ると、世界的にAIの利用は増加するだろう。それを支える半導体の開発に、アームは中心的な役割を果たすと期待されている。AI利用の増加に必要な高度な半導体の設計需要を取り込み、アームの高い成長を実現する。それによって、アリババに続く成長企業を生み出す。そうした展開をSBGは真剣に目指し始めた。

ただ、目先、SBGの事業環境は不安定に推移する可能性が高い。5月下旬以降、AIの成長期待などを背景に世界的に株価は上昇したが、先行きの期待は行き過ぎだとの警戒感も強い。米欧では金融引き締めが長期化し、金利の上昇によって株式市場の不安定感は高まりやすい。

今後の株式市場の展開次第では、SBGが出資した企業の株価が下落し、業績の不安定感が高まることも想定される。今後のシナリオの一つとして、SBGはリスク管理を強化しつつ、アーム上場のタイミングをはかることになりそうだ。

■2年連続で赤字決算の背景

2023年3月期、SBGの最終損益は9701億円の赤字だった。2022年3月期(1兆7080億円の最終赤字)から縮小したが、2年続けて最終損益は赤字だった。

その背景には多くの要因がある。まず、地政学リスクが高まったことだ。ウクライナ紛争が起きた。朝鮮動乱以来、約70年ぶりに主要国が本格的に参加した戦争といえる。先行きの不透明感が高まったため、世界の主要投資家や企業は長期の視点でリスクをとることは難しくなった。

台湾問題も見逃せない。中国では政治体制の強化を優先する習政権が、台湾への圧力を強めた。半導体など先端分野で米中の対立も先鋭化した。台湾、韓国に偏在した半導体の供給は不安定化した。日米欧の政府は、経済から安全保障までさまざまな分野で重要性が高まる半導体の生産を国内で行うよう、主要企業の直接投資を求め、補助金政策などを強化した。

また、世界全体でインフレが進行した。米中対立、コロナ禍の発生、ウクライナ紛争などを背景に、エネルギー資源や穀物、車載用などの半導体など多くの品目で需給のバランスは崩れ、物価は上昇した。2022年3月以降、インフレ鎮静化のために連邦準備制度理事会(FRB)などは金融引き締めを実施し、世界全体で金利は上昇した。

■新規投資と人員を減らし、守りを固めていたが…

さらに、世界的に景気の先行きは不透明化し、企業の業績懸念も高まった。米国では、SNSやサブスクリプションなどのビジネスモデルの行き詰まり、コスト増加などによりグーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アップル(GAFA)などIT先端企業の業績が悪化した。スマホやパソコンの需要も減少した。2022年、米国のナスダック総合指数は33%下落した。

特に、ソフトバンクグループが出資した、ITスタートアップ企業からは急速に投資資金が流出した。テレワークによる空室率上昇もあり、米国では商業不動産の価値も下落した。2023年3月には、米シリコンバレー銀行などが破綻し、欧州ではクレディスイスの救済買収も実施された。

厳しさ増す事業環境に対応するため、SBGは新規の投資を減らした。人員も削減した。アリババ株の売却や投資先企業の株式公開も進めた。現金は積み増され、経営の守りは強化された。

■「アームの爆発的な成長に没頭する」と宣言

一方、6月21日に開催された株主総会のプレゼン資料で、SBGは反転攻勢に打って出る考えを明確に示した。一つのポイントは、AIの利用増加にある。SBGは、AIがわたしたち人間の知能と同等、それを上回る能力を持つ世界(シンギュラリティ)の実現を目指している。

それが実現すると、これまで多くの時間とコストがかかったシミュレーションなどが行いやすくなる。企業の事業運営、経済運営の効率性は高まるだろう。AI進化の加速に重要な役割を担うのがアームだ。

2022年11月の決算説明会で孫氏は、「今後、数年はアームの爆発的な成長に没頭する」と宣言した。その後、世界のIT先端分野では急激に生成AIの利用が増えた。株主総会のプレゼン資料によると、アームの収益はAI利用増加に伴って伸びている。2022年度の収益は14億8400万ドル(1ドル=140円換算で約2080億円)に増加した(前年度は9億9900万ドル)。

アームが提供するチップの設計図は、米エヌビディアが開発した“グレースCPUスーパーチップ”などに採用された。それを支えに、“チャットGPTなど”生成AI利用は急増した。AIの開発も勢いづいた。

■アリババに続く高成長企業に育てようとしている

中長期的に、自動車の自動運転、教育、金融などあらゆる分野でAIの利用は増えるだろう。アームの半導体設計技術の重要性は高まる。そうした展開を念頭に、SBGはアームの上場を計画している。

4月下旬の報道によると、年内に、アームは米ナスダック市場への上場を目指している。株式の公開によって、80億~100億ドル(1兆1200億~1兆4000億円)の調達が目指されているようだ。

資金は、より高性能なAI対応チップの設計技術の向上、買収、半導体企業など世界のIT先端企業とのアライアンス強化などに再配分されるだろう。SBGはアームの収益範囲を拡大し、アリババに続く高成長企業に育てようとしている。それが現実のものとなった場合、SBGはアーム株を担保にするなどして資金調達し、先端分野での投資を強化するだろう。

回路基板製造
写真=iStock.com/SweetBunFactory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SweetBunFactory

■反転攻勢の孫会長が直面する課題

ただ、アーム上場によって資金を調達し、AI関連分野でのビジネスを強化するという成長戦略が想定された成果を実現するか否か、不確定な要素は多い。その一つとして、短期的に、世界経済の先行き不透明感は高まり、株価が不安定化するリスクは上昇しそうだ。

2023年6月の連邦公開市場委員会(FOMC)にてFRBは2023年中に、追加で2回の利上げを実施する考えを示した。エネルギーと食料品を除くインフレの高止まりは大きい。それは米国に限った問題ではない。ユーロ圏やカナダなど主要な先進国で価格変動性の大きい品目を除いた消費者物価は高止まりしている。

また、中国経済は高度成長期の終焉(しゅうえん)を迎えつつある。特に、不動産の投資減少は鮮明だ。建材や家電など多くの分野で過剰生産能力も深刻化した。5月、若年層(16~24歳)の調査失業率は20.8%、調査開始以来で最悪の水準に上昇した。そのため、世界全体で景気後退懸念は高まりやすくなっている。

■本当の意味でのリスク管理能力が問われる

リーマンショック後と異なり、世界的に物価は高止まりしている。米欧の中銀にとって、景気減速や後退に配慮し、金融政策を緩和に転換することは難しい。むしろ、金融引き締めの長期化懸念によって金利上昇が懸念される。世界全体で個人消費や設備投資は減少し、株価が下落するリスクも高まるだろう。

そうした展開が現実のものとなれば、SBGの業績不透明感は高まるだろう。ビジョンファンドは相対的に成長期待の高いスタートアップ企業などに資金を投じた。金利上昇などによって世界の金融市場でリスク回避の心理が強まれば、スタートアップ企業の株価下落圧力も高まるだろう。

6月下旬、AI成長期待は行きすぎと考え、IT先端銘柄を手放す投資家も増えた。物価、地政学リスクなど複合的な要因を背景に世界経済の先行き不透明感上昇を警戒する投資家も多い。

当面、SBGは投資先企業の財務体力、成長性をより詳細に検証し、リスク管理を徹底するだろう。それによって業績の安定性を高めつつ、SBGはアーム上場のよりよいタイミングを見定め、AI利用拡大による成長加速を目指すと予想される。今後、SBGの本当の意味でのリスク管理能力が問われることになる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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