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脱毛ヤケドすらお手上げなシロウト医師ばかり…皮膚科専門医が「金儲け」と批判されても医療脱毛を続けるワケ

プレジデントオンライン / 2023年7月1日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ugur Karakoc

医師のいる「医療脱毛クリニック」での皮膚トラブルが相次いでいる。しかもそうしたクリニックは「うちでは手に負えない」として皮膚トラブルの治療にも応じない。皮膚科専門医の花房崇明さんは「医療脱毛が注目を集めたことで、皮膚科の専門知識を持たないまま、医療脱毛を行う医師が急増している。そこには業界特有の事情がある」という――。

■「うちでは手に負えないので皮膚科に行ってください」

「医療脱毛でやけどをしてしまい、うちでは手に負えないので皮膚科に行ってくださいと言われました」

大阪にある私の皮膚科クリニックには年に3~5人ほど、このような患者さんが来院されます。紹介状があるわけではなく、途方に暮れてご自身で病院を探して来られるのです。

医療脱毛用のレーザー脱毛器には、高い出力のレーザーをワンショットずつ照射していく「ショット式」、低出力のレーザーを施術エリア全体に時間をかけて照射していく「蓄熱式」の2種類があります。特に「ショット式」のほうが一度に高い出力を皮膚に照射するためやけどのリスクが高く、脱毛器の先端部の四角い形のやけどの痕が残ってしまった患者さんもいました。

蓄熱式でもやけどのリスクはあります。私も過去にはアトピー性皮膚炎の患者さんの医療脱毛で、予想以上に肌の反応が強く出てしまい、やけどさせてしまったことがあります。しかし、すぐに適切な処置を行い、そのまま2~3カ月、皮膚科専門医として責任を持って完治まで治療を継続させていただきました。もちろん、肌トラブルのない患者さんであっても簡単ではありません。

■なぜ医療脱毛の医師が診てくれないのか

そもそも医療脱毛というのは、レーザー機器を使用して行う「レーザー脱毛」とよばれる施術方式を指します。ちなみにエステサロン、脱毛サロンで主に行われているのは光脱毛(IPL)、フラッシュ脱毛などと呼ばれる脱毛方式です。

永久脱毛の効果を得るためには、毛根で毛を作り出す「毛母細胞」と毛根の近くで毛根に毛が生える命令を出す「バルジ領域」を破壊する必要があり、この行為は医師法で医療行為に当たります。そのため、医療脱毛レーザーを照射できるのは、医師または医師の指示を受けた看護師のみです。医師がいれば場所を問わないわけではなく、医療機関でしか行えません。

では、なぜ医師がいる医療機関で脱毛を行った患者さんが、新たに皮膚科を受診しなければいけないのでしょうか。

■皮膚科の研修を受けなくても医療脱毛はできる

脱毛クリニック 時給10,000円
【募集科目】科目不問(未経験可)
【業務内容】医療脱毛施術前の問診

私が今月、目にした医師向けの求人情報です。

医師というのは医師免許を取得後、2年間の初期研修期間を修了しさえすれば、特別な資格などなくてもクリニック開業が可能になります。この初期研修期間は内科、救急科などの必修分野として定められた診療科目のローテートが義務付けられていますが、皮膚科での研修は必須ではありません。

初期研修を終えた医学部卒業後3年目の医師や、初期研修後、診療科での勤務経験が浅い皮膚科医・形成外科医以外の医師をアルバイトとして配置し、施術に関することはすべて看護師が行っている営利目的のクリニックも一部にはあると聞きます。上記の求人もそうした医師を募集するためのものでしょう。

それでも「医師ならやけどの処置ぐらいできるだろう」と思われるかもしれませんが、皮膚科の保険診療の経験がないと難しいのだと感じた出来事がこれまでに何度もありました。

■「皮膚科だから安心」とも言い切れない

例えば、前日に熱湯でやけどをして夜間救急を受診したお子さんを翌日、当院で診察したところ、応急処置として患部を保護するだけのワセリンなどが塗られていただけというパターンです。

状態にもよりますが、やけどの初期にはステロイド外用薬をできるだけ早く使用して炎症を抑えるのが皮膚科では常識です。ただ、やけどが治っていくその後の過程においては、ステロイドを塗るとキズの治りが遅くなったり、ばい菌に感染しやすくなったりすることもあるため、経験の浅い夜間救急の当番医は無難にワセリンを塗ったのでしょう。

では、皮膚科医なら安心なのかというと、そうとは言い切れないのが難しいところです。前述したように医学部卒業後3年目にはアルバイトが解禁になるなど、普通の医師として診療ができます。そして、日本では「自由標榜制」によって、麻酔科以外であれば、経験年数に関係なく、自由に診療科目を選び、看板を掲げることができるのです。

極端な話、皮膚科での勤務経験ゼロでも、「皮膚科医」を名乗れるというわけです。「皮膚科医」「美容皮膚科医」を名乗っていても、皮膚科専門医ではない医師もいるのが現状です。

■脱毛トラブルは症例の見極めが難しい

一方、皮膚科を専門とする「皮膚科専門医」は、2年間の初期研修後、研修指定病院で5年以上の研修を修了し、所定の回数の学会発表や論文発表を行い、年々難化する皮膚科専門医の認定試験に合格した医師のみが名乗れます。5年毎の更新手続きも必要です。もちろん、専門医の資格がなくても知識やスキルの向上に努めている医師はいらっしゃいます。

ただ医療脱毛において、レーザー脱毛による副作用はやけどだけではありません。

例えば脱毛の出力が強いと毛穴にニキビのような反応が起きてしまうことがあります。これは毛穴のやけどで、本来はステロイドの塗り薬で治療しなければいけないのですが、見た目は、まるで膿んだニキビのようなので、膿んだニキビの治療に使う抗菌剤の塗り薬を塗ってしまうケースもあります。当然、抗菌剤を塗っても治りません。

他にもレーザー脱毛をすることによって、逆に毛が太くなる「硬毛化」という現象が起きることもあります。このように見極めが難しい症例がたくさんあるため、個人的には特にレーザー治療を受けるのであれば、やはり皮膚科専門医あるいは形成外科専門医でなければ安心できないと考えています。

■根底に「楽して儲けている」というイメージが

このように皮膚科専門医でない医師が医療脱毛に携わっていることについて、医療側で問題にする目立った動きは今の所ありません。

その理由の一つに、医療脱毛をはじめとする美容医療について「美容は医療ではない」と考えている医師が少なくないことがあります。私自身、大学病院でアトピーなどの保険診療の経験を積み、皮膚に関する研究論文を発表していた頃はそう考えていましたし、開業当初も同じように思っていました。

そして、私のような皮膚科専門医が保険診療だけでなく、自由診療の美容医療を行うことに対して、「楽して儲(もう)けている」と、いいイメージを持たない人がいるのも事実です。

実際、当院で医療脱毛やシミ取りなどの美容医療を始めた頃、他科の医師から「先生はちょっとレーザーを当てるだけで、何万円ももらえていいですね」と言われたこともありますし、同じように思っている方がいることは感じていました。私の説明不足が原因だったものの、信頼していた院内のスタッフからも「とうとう院長はお金儲けに走るんですか?」と言われたこともあります。

レーザー脱毛を受ける男性
写真=iStock.com/Paz Ruiz Luque
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Paz Ruiz Luque

■保険適用で治るニキビに100万円かける人も…

それでも私が開業から1年半で美容医療を取り入れたのは、前述した他院での医療脱毛の副作用のやけどの患者さんだけがきっかけではありません。他のクリニックでのレーザー照射によって余計にシミが濃くなってしまったケースや、保険適応の塗り薬で治るはずの普通の「ニキビ」に対して、100万円もする高額な美容医療の「ニキビ跡」の治療を受け続けていたために治らないなどの理由で、当院を受診する患者さんたちがたくさんいたからです。

また平然と「副作用は診られないから、皮膚科に行ってください」と言う美容クリニックや医療脱毛専門クリニックもあるようで、患者さんの不安な気持ちを考えるとやり切れないですし、美容医療や医療脱毛を謳(うた)っておきながらトラブルになると最後まで責任を取らずに丸投げしてくる姿勢にも、同じ医師として憤りを感じていました。

一般皮膚科の知識を備えた私たち皮膚科専門医が美容医療を行えば、万が一、トラブルが起こっても適切な対処ができます。例えば美容医療のみのクリニックでは、アトピー性皮膚炎やニキビなどの肌トラブルを抱えた患者さんはリスクがあるため、医療脱毛を断られることもあるようです(トラブルが起きてから皮膚科に行ってくださいというより誠実だと思います)。

■皮膚科専門医の私が医療脱毛を行う理由

私自身、アトピーや髭が濃いことに悩んできたから分かるのですが、アトピーやニキビ肌の治療をしていても、ムダ毛剃りや髭剃りなどのたびに肌荒れが悪化してしまうという悪循環に陥っている患者さんは少なくありません。

しかし、リスクを考慮しながらレーザーの出力の調整、丁寧なアフターケアなどを行えば、施術は可能です。肌荒れが悪化する根本的な原因を解決することができるので、当院では医療脱毛をアトピーやニキビに悩む患者さんに提案することもあるほどです。私自身も、医療脱毛によって長年の顎周りや頬のアトピーの悩みから解消されました。

もし、皮膚科と美容医療、両方の知識と技術があれば、最小限のリスクとダウンタイム(痛みや赤み、腫れなどが回復するまでの期間)で最大限の効果を追求することが可能になります。このような理由からも、皮膚科の一般的知識を有する皮膚科専門医が美容医療を行う意義は大きいと考えています。

■保険診療だけでは経営が難しくなっている

皮膚科専門医でない医師のクリニックが美容医療を始める背景として、保険診療だけでは経営が難しくなっているということがあるでしょう。最近は電気やガスなどの光熱費だけでなく、薬剤や医療用手袋などの診療材料費の価格も上がっていますが、高騰する経費を定められた診療報酬に価格転嫁をできないのが保険診療の難しいところです。

また、患者さん一人ひとりを丁寧に診察すればするほど、評判を聞いて多くの患者さんが来てくださるようになります。その一方で待ち時間が長くなってしまうために、スタッフたちは患者さんから叱られ、帰宅時間も遅くなって疲弊していく……。こういったジレンマを抱えているクリニックは少なくないはずです。

タブレット端末片手に患者からの聞き取りをする医師
写真=iStock.com/pcess609
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pcess609

特に皮膚科はあらゆる診療科の中で最も診療報酬の単価が安く、人員を増やしたり、スタッフの給料を上げたりするために利益を追求するには、1人の患者さんにかける時間を短くして回転率を上げるしかありません。

一方、美容医療は自由診療で、クリニックが単価を決めることができます。経営面でのメリットも、私が美容医療を取り入れた理由の一つです。ですから、皮膚科専門医のいないクリニックでも、経営の課題解決のために美容医療を始めることについて理解できないわけではありません。

■患者にとって「保険診療+美容医療」がベスト

特に医療脱毛はニーズの多さ、機械の扱いやすさから障壁が低いと考えられており、皮膚科以外のクリニックも参入しています。しかし、皮膚科専門医の私でさえ、医療脱毛を始めてから5年近くたっても「この肌にレーザーを当てても大丈夫か。やけどはしないのか」と判断する際の緊張感はなくなりません。それほど見極めが難しいのです。ですから、専門外の医師が医療脱毛を始めるのであれば、せめてやけどの治療法は習得しておいてほしいというのが本音です。

私自身は保険診療、美容医療どちらにも力を入れ、それぞれのメリットを活かせる「ハイブリット皮膚科」を提唱しています。それによって費用の面も含め、患者さんにとってベストな治療法を提案できるからです。実際、ニキビの治療などで美容医療の施術を希望して来院した患者さんであっても、まず保険診療で薬を処方し治療した後、それでも治らなければ美容医療に切り替えることもあります。

今、美容医療は若年者だけでなく高齢者、女性だけでなく男性にも広がっており、ますます皮膚科の専門知識をもって判断する場面が増えています。これ以上、不安な思いをする患者さんを増やさないためにも、皮膚科専門医による医療脱毛クリニック、美容クリニックはもちろん、患者さんのために理念を持って医療脱毛、美容医療を提供するクリニックが増えてほしいと心から願っています。

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花房 崇明(はなふさ・たかあき)
皮膚科医(医学博士)
医学博士(大阪大学大学院)、日本皮膚科学会皮膚科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本抗加齢医学会専門医、難病指定医。2004年大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学博士課程修了(医学博士取得)、大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学特任助教、東京医科歯科大学皮膚科講師・外来医長/病棟医長などを経て、2017年千里中央花ふさ皮ふ科開院。2019年医療法人佑諒会理事長就任。2021年より近畿大学医学部皮膚科非常勤講師兼任。2021年分院として江坂駅前花ふさ皮ふ科を開院している。

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(皮膚科医(医学博士) 花房 崇明)

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