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解雇通知書はカネになる…2社から裁判で計4700万円を勝ち取ったモンスター社員の「円満退社」の手口

プレジデントオンライン / 2023年7月3日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■年収500万円。でも、唯一納得いかないことが…

私は人生で2度、勤めていた企業を訴えたことがある。23歳の時は不当解雇された美容の商社を訴え、20カ月ほど法廷で争った後、和解金700万円を獲得した。安心したのもつかの間、中途入社した運送会社でも2回目の解雇通知書を渡されてしまう。しかしここでも約2年争った結果、最終的に解雇は撤回。4000万円の和解金(賠償金)を受け取る条件で、円満退社する運びとなった。

なぜ、私は合計4700万円もの和解金を得ることができたのか。今回は2社目との訴訟経験をもとに、不当解雇が抱えるリスクと会社との戦い方を解説する。

人生2度目の解雇通知書を渡されたのは運送会社から。私は配車係と呼ばれる仕事を担当していた。具体的な業務内容は、例えば大型免許を持つドライバーさんへ「大阪で荷物を積んでから、神奈川の工場まで走ってください」といった指示を出すもの。約15人のドライバーを担当し、基本給は額面で約22万円。月の残業は平均40時間前後。年収は残業代や賞与等、諸々込みで500万円ほどだった。

劣悪な雇用条件だとはまったく思わなかったが、唯一納得いかないことがあった。それは、突発的な事故や荷主とのトラブルで週休2日のうち1回は電話がかかってくることだ。

■役員からの説教後、わずか5日後に解雇通知

緊急対応の仕組みが組織的に整っていればいいのだが、残念ながらそこは考え方が古い会社で、「運送業だから」「ウチの会社はこうだから」といった企業勝手な理由により、勤務時間外のトラブル対応は配車係がセルフサービスで行うことになっていた。もちろんすべてサービス残業で、手当はつかない。

クビを宣告されたのは中途入社4年目を迎える頃、29歳の時だ。無休かつ無給のトラブル対応(会社携帯の対応)に疑問を覚えた私は、転勤を機に、仕事のオンとオフを切り分けることを上司に宣言した。けれどもサービス残業、言い換えるなら労働者の善意によって業務が成り立っている会社側からすると、私が自分勝手でワガママな権利を主張しているように感じたのだろう。また、これは実際に総務部長から言われたのだが、「自分たちが頑張ってやってきた努力をバカにされたような気持ちになった」そうだ。

在職中に一度だけ、総務部長と執行役員から「ちゃんと休日も電話対応しろ」と会議室でカミナリを落とされたことがある。真っ向から拒絶した私は、この説教日からわずか5日後、解雇通知書を渡されてしまった。そこには〈貴殿が希望する帰宅後、休日の電話が無い環境を会社が用意できないため〉との記載があった。裁判での会社側の主張によると、私のような社員の考え方、働き方ではお客さまの迷惑になるし、周りの社員にシワ寄せがいくことの懸念が根底にあったようだ。

■「解雇の撤回」を主張すべき理由

私が裁判で請求したのはシンプルに一点のみ。解雇の撤回だ。これは言い換えるなら「私は解雇されていない。今も従業員のままだ」と主張するのと同じ意味を持ち、つまり裁判期間中に支払われるはずだった賃金を請求できる。また、解雇無効が認められた場合、解雇されていなかったことに経歴が修正され、復職の権利も手に入る。

これは「地位確認請求」と呼ばれるもので、地位確認が認められると企業にとって大きな痛手となる。なぜなら解雇無効が法的に認められた場合、まとまった金銭の支払い義務が企業側に生じるからだ。

「解雇時の給与(月給)×紛争期間(月)=企業側の支払う金額」

上記の計算方法で算出した金額が、和解あるいは判決の際、企業側が支払う金額設定の一つの目安、判断材料になってくる。専門用語で「バックペイ」(民法第536条第2項)と呼ばれるこの支払いは、労使共に覚えておいて絶対に損はない。

企業からすると「ノーワーク・ノーペイの原則」を主張したいところだが、残念ながら「会社に貢献していなかった」という事実は関係ない。なぜなら会社の誤った判断のせいで「働きたくても働けなかった」からだ。よって地位確認が認められた場合、解雇していなければ支払っていたであろう給与を全額遡って支払う義務が企業側に生じる、というわけだ。

■「絶対に判決は避けたい」という状況に持ち込む

勘のいい方はお気付きかもしれないが、バックペイは長く争えば争うほど高額になる。企業側は「あんな問題社員に負けてたまるか」といった感情論ではなく、損得を合理的に計算する勘定論で、原告との戦いを慎重に進めなければならない。

一方で訴える側にとっては、「いかにして会社にとっての脅威になるか」という考え方で争うことが弱者の生存戦略として有効であることをお伝えしたい。多くのサラリーマンは「真面目に頑張って働いて、結果を出して、良い評価を得れば待遇が上がる」と考えがちだ。

しかし、「不真面目で解雇されるくらいの問題社員だが、復職したら会社に大損害を与える力を持っているので、絶対に判決は避けたい」といった状況に持ち込むことができれば、おのずと和解金額は上がるのだ。なぜなら会社側からすると、いくら払ってでも退職させたい迷惑極まりない存在だからである。

これら「法的知識」と「性格の悪さ」に加え、裁判期間中に「交渉術」の知識を学んだ私は、裁判序盤~最後まで「4000万円の賠償金を支払うなら和解(円満退社)する。支払わないなら判決(バックペイ+復職)で構わない」と一貫して主張し続けた。

■和解金は500万円、1000万円と上がっていき…

会社側は裁判序盤に約500万円、後半に約1000万円の和解金を提示してきた。判決日まで残り1カ月を切った頃、約1500万円を提示された時はさすがに心がグラついたが、和解金の30%以上は弁護士費用で吹っ飛ぶ。裁判期間中に借り入れた100万円の借金と、奨学金の残債400万円を返済したい事情もあった。

私は獲得金額の早見表(自作。弁護士費用等を差し引いた時の手取り額)を確認しながら、和解案を蹴飛ばし続けた。和解交渉中、弁護士や裁判官から何度も「譲歩」を求められた私だが、聞く耳を持たなかった。結局、泣く泣く会社側が折れ、白旗を上げた。

ちなみに一般的な不当解雇の解決金は、労働者側が勝利濃厚の場合、「バックペイ+α」が一つの目安になる。しかし、プラスαで慰謝料は認められにくく、仮に認められても50万~100万円ほどが「相場」と言われている。諸々の「運」も味方に付けた私の事例は再現性が低いだろうから、訴訟を検討する際はこちらを参考にしてほしい。

署名する場所を指す男性の手
写真=iStock.com/artisteer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artisteer

■「仲間に証言してもらう」は絶対やってはいけない

意外かもしれないが、大人のけんかは子供のけんかと大きく変わらない。言った、言ってない。やった、やってない。水掛け論が基本スタイルであり、これは戦いのステージが裁判になっても同じである。

よって第三者から正当な判断をしてもらうためには自身の主張を裏付ける証拠(あるいは相手の主張や嘘を突き崩す証拠)が必要になってくる。当然、個々の案件により集めるべき証拠は異なるので、これだけは集めておけといったアドバイスは難しい。だが一つだけ、「仲間からの証言を証拠としてカウントしてはいけない」という注意点は声を大にして伝えたい。

労働問題に悩んでいる方は「いざとなったら職場の同僚に証言してもらおう」と考えがちだが、これは完全に愚策である。なぜなら証言は証拠力が低いからだ。証言は嘘がつける。つまり証拠としての信憑性が低い。また、会社側も仲間を使って虚偽の証言で対抗することができる。こうなると第三者は何が何だか分からなくなる。証言以外の物的証拠をどれだけ集めることができるかが、生死をわけるキーポイントであることを強く意識すべきだ。

■物的証拠がない被害はやはり録音が最強

ちなみに私の裁判で会社側は、いかに私がダメ社員だったかを証明するため計3人の社員から証言をとり、証拠として提出してきた。法廷で証言台にも立ち、熱弁を振るっていた。だが、結果はお伝えした通りである。

どのような証拠を集めるべきか悩んでいる方は、まずは「労働に関する知識を集める」ことに汗を流してほしい。知識は武器だ。法律もそうだし、民事裁判で採用されやすい証拠は何かなど、いくらあっても困らない。なお証拠集めに関して、現時点で私は「職場のコピーを自宅に作る勢いで、全部の資料や音声をとりあえず集めておく」といった結論に辿り着いているが、モラル的にはいかがなものかと思うし、罪悪感を抱く方も多いかもしれない。

それでもやはり録音アプリは積極的に活用すべきだろう。威圧的に机を叩く音などを録音できたら、むしろこちらが感謝したくなるほどのレベルで強力な証拠になる。今時の録音アプリは無料でダウンロードでき、スマートフォンであれば相手も警戒心を抱きにくい。パワハラやセクハラ問題等、物的証拠が残りにくい被害を受けている方は、まずは自分の発言を記録に残すことを目的に、録音アプリを使ってみてはいかがだろうか。

ラップトップ上のレコーダー
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

■基本的に「会社と戦う」選択肢は獣道である

労働問題の慰謝料は50万~100万円も取れたら御の字の世界。弁護士費用を払ったら赤字になることは十分に考えられるし、投資あるいは消費する労力や時間は膨大。コスパやタイパを考えると「泣き寝入り」という道が合理的であるケースも多いのではないか。それでもどうしてもやり返したいという方は、例えば慰謝料+未払い残業代請求など、「合わせ技」で請求するのが好手だろう。

基本的に「会社と戦う」という選択肢は獣道だ。いざという時の保険くらいに考えるのが正解だと私は考えている。正直に言えば、誰も進んでいない道を進むのは、けっこうつらい。家族や友人からは「会社相手に勝てるの?」「裁判なんてやめて、気持ちを切り替えて、次のステージへ進んだほうがいいって」といったアドバイスが飛んでくる。

これらは純粋な親切心から来るので、拒絶するのは胸が痛むし、なんだか自分が悪いことをしているように錯覚する。まして戦う相手はかつての仲間だ。傷つけられるのもキツイが、傷つける側に回るのもそれなりにキツイ。裁判しているという事実がマイナスに影響するせいか、周りからは刃のような冷たい眼差しと評価を受ける。結果、「自分がやっていることは本当に正しいのか?」といった疑問が常につきまとうことになる。

■「解雇」と「円満退社」では雲泥の差がある

だが、不当解雇を訴えることは、本来もらうはずだった給与(あるいは私のように賠償金)を取り戻せるばかりではない。私の和解調書には「解雇を取り下げ、円満に退社した」という旨の記載がある。よって私は転職活動をする際、「前職は円満に退社しました‼」と笑顔で面接官に伝えることができるのだ。「解雇」と「円満退社」ではキャリアに雲泥の差がある。

人手不足が叫ばれるわが国において、前職を円満退社した人材を採用選考で「お祈り」しない企業は少なくないだろう。もしかしたら私のような訴訟経験者だって、何食わぬ顔で働いているかもしれない。アナタの隣で……。

労使間のトラブルは労働者だけでなく、会社にも深い傷を残しかねない。近い将来、日本社会で「ブラック労働者」という社会問題がなくなることを私は心から願っている。

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佐藤 大輝(さとう・だいき)
ブラック企業元社員
23歳の時、不当解雇されたブラック企業を訴え、20カ月間争った後、和解金700万円を獲得。29歳の時、不当解雇されたグレー企業を訴え、24カ月間争った後、和解金4000万円を獲得。神戸市在住の現在32歳。趣味は読書、バドミントン、海外渡航。これまでにバッグ一つで世界25カ国を旅した。ビジネス書と小説、どちらもベストセラー書籍を出版するのが夢。

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(ブラック企業元社員 佐藤 大輝)

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