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なぜ子どもを「息子・娘」と呼ぶのか…縄文時代から続く「家族」という日本人特有の感覚

プレジデントオンライン / 2023年7月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

縄文時代の日本人はどんな暮らしを送っていたのか。東北大学の田中英道名誉教授は「竪穴式住居に三世代が一緒に住む生活が1万年以上続いたので、皆が結ばれているという感覚が形成された」という。予備校講師の茂木誠さんの共著『日本とユダヤの古代史&世界史 縄文・神話から続く日本建国の真実』(ワニブックス)より、2人の対談を紹介する――。

■縄文時代は三世代が竪穴式住居に住んでいた

【田中】日本は、かつては資源が豊かな島国だったのです。海と森の恵みによって争いは少なく、都市には城塞(じょうさい)は必要なかった。ただ、日々の生活が大事になってくると、日本人はみな「家族」という意識が強くなってきます。なぜ、日本人の心は安定しているのかというと、基本的に「年功序列」ということが要因としてありますね。つまり、人が集まると必ず年上の人を意識します。そうすると一つの秩序ができるようになるのです。

これは、家族でも学校でも会社でもそうですし、また、天皇家という存在についても、日本で一番長く続く家系として、この国の主人なのだという意識ができあがっている。

この心境の形成には、長い間住んでいた竪穴式住居というのも意外に無碍(むげ)にできません。竪穴式住居は二世代・三世代が一緒に暮らすには、ちょうどいい大きさの家なのです。西洋のように個々の部屋で分かれるわけではないですから、家族の秩序というものを保たないと生きていけません。

父親、母親、兄弟、姉妹、お爺さん、お婆さん……こういう各世代が一つ屋根の下で暮らすことによって、しっかりと上下関係が生まれるわけです。そんな戦争のない縄文時代は、1万年以上続きました。

■日本人は大事にする「長い」という言葉

【茂木】「上下関係」というと、すぐ「差別だ!」「封建制だぁ!」と脊髄反射する人がいますが、世界共通の古来の共同体の秩序、現代社会では失われつつある家族の原型ですね。

【田中】共に暮らすことで、父母に対する尊敬というものが、おのずから生まれるのです。だから日本では「長い」という言葉が大事なのです。社長、部長、村長……このような“役割”があることによって秩序ができているといっていいでしょう。

共同社会にとっては、バラバラにならないことが何より大事です。その役割によって命令系統がはっきりし、それによってそれぞれが役割分担をして働くことができれば、これほど強い共同体はないのです。それが日本の共同社会の仕組みですね。精神的な一つの和ができるのです。

■日本の神々の名前には「むすひ」がつく

【田中】『古事記』に記されている日本の最初の神は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)といいます。その次が高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、その次が神産巣日神(かみむすひのかみ)です。この3柱の神は「造化三神」といって、とても大事な日本の神さまですから、皆さんも覚えておくといいでしょう。

【茂木】天照大御神やイザナギよりも上の世代にいる神さまで、お名前からは万物宇宙の根源的存在と考えられますが、具体的なエピソードを持たない謎の神々です。

【田中】これらの神々の名前には「むすぶ/むすひ」という言葉が出てきます。それはつまり家族を結ぶことが一つ、それから縄文の「縄で結ぶ」ということとも関連してきます。「息子」「娘」などの「ムス」もそういった意味、つまり両親が結ばれて生まれた言葉といえるでしょう。

日本人はそういった「皆が結ばれているという感覚」があるからこそ安心し、心が安定するわけで、守られているという意識を知らず識らずのうちに持っています。それは何かというと、自然の中で男でも女でも、大人でも子どもでも“安全に生きていける”という感覚なのです。

それが具体的なのは、集落の貝塚からわかります。貝というのは、海に行けばあるわけだから拾ってくればいいわけです。これは女でも子どもでもできることですね。森の木の実もそうです。栗は「どうぞお食べください」と天から落ちてきます。だからそのように自然の恵みの中で十分に生きられるならば、財産、蓄財にはあまり執着しなくなるわけです。

■日本の国家概念は縄文時代に芽生えていた

【茂木】やまとことばの「むすひ」には「産霊」という漢字をあてますね。まさに「魂を産む」といった生命の誕生に関わる言葉で、“苔のむす(産す)まで”に見られるように、昔から大切にされてきた言葉です。「おむすび」もそうかもしれません(笑)。

【田中】おっしゃる通りですね。家族とは人間のむすびの元といえるでしょう。「国家」という言葉に「家」という漢字をつけたのも、非常にうまい日本語です。西洋の「国」を表す「ステイツ」とか「ネイション」なんていう言葉には「契約」しかないともいえます。

そういう日本の国家概念というのは、もうすでに縄文時代に芽生えているものだとわかるでしょう。縄文の文明というのは、そういう意味でもとても大事なのです。

■「文明=戦争」だった西洋と日本との違い

【茂木】そもそも「文明」の定義は、西洋人がつくった定義です。都市国家、高度な官僚制、青銅器、文字をセットと考えます。それに合わせると、縄文には文明がなく未開の原始社会だと思われてしまいます。しかし、あれだけの遺跡、見事な土器や土偶を残し、天体観測もやり、海上の交易も盛んだった……これが文明じゃないというのはおかしな話です。

【田中】本当におかしなことですよ。西洋文明がなぜ城塞都市をつくるのか? その根底にあるのは「恐怖」です。周りの敵から攻められるからつくっているわけでね。それを文明と呼んでいいのでしょうか。

【茂木】日本には他者への恐怖がなかった。脅威があるとすれば自然災害だけです。

【田中】日本人が初めて奈良盆地の「大和」に都をつくった時は、山を城塞としました。鎌倉幕府も周りの山が防壁になりました。そういう意味で、弥生時代以降、とりわけ奈良時代以降は西洋的、大陸的になってくるのですが、それでもわざわざ街に壁をつくったりはしませんね。

山の風景
写真=iStock.com/T_Mizuguchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/T_Mizuguchi

地の利のある場所を都として活かしました。確かに、その頃になると日本人も戦争というのを意識してきます。「文明が戦争と共にある」という西洋の価値観は哀れなものです。

■マヤ文明やアステカ文明は日本とちょっと似ている

【茂木】ちょっと似ているのが、中南米のマヤ文明やアンデス文明です。彼らは城塞をつくっていませんし、インカは文字もないですよね。でもあれだけの建築物を残しました。

【田中】マヤ、アンデス……あそこには縄文人が行っているのですよ。現地に行くと「日本の縄文人が来たんだ」「俺は日本人だ」という人もいてね(笑)。土偶や土器も、非常に似たものが沢山あります。それに北米の先住民(インディアン)の人々も、日本人に似ていますね。

【茂木】黒潮に乗り、アリューシャン列島の海流に乗って、北米、中南米へ渡っていった人々はいたでしょうね。東日本大震災の時の漂流物が、アメリカ西海岸まで到達しているのですから。

■大陸からの渡来人が日本にもたらしたもの

【田中】そして、日本だけが西洋に侵略されなかった。これは極めて大事なことですが、ある意味でそれは、日本に《秦氏》がいたからともいえるのです。彼らが戦いの知恵をもたらした。

田中英道、茂木誠『日本とユダヤの古代史&世界史 縄文・神話から続く日本建国の真実』(ワニブックス)
田中英道、茂木誠『日本とユダヤの古代史&世界史 縄文・神話から続く日本建国の真実』(ワニブックス)

【茂木】戦乱の大陸から渡来した秦氏が、古代日本国家の中枢に受け入れられていますね。敵を味方に取り込んだ……ともいえると。

【田中】秦氏たちも日本を自分たちのものにしようという気は起こさなかったし、「こんなに良い国なのだから守ろう」という方向に自然と進んだのです。

【茂木】免疫のない人は簡単にウイルスにやられてしまいますよね。一度感染して自然免疫ができると強くなります。マヤ、アンデス文明の人々は日本人と同じモンゴロイド(※)です。

16世紀にスペイン人がもたらしたウイルスで大勢の人が亡くなりました。しかし日本には定期的に大陸系の遺伝子が少しずつ入ってきていたので、免疫力を強化していったことで生き残ったといえるのです(茂木誠『感染症の文明史』KADOKAWA)。

■天皇家が126代も続いている理由

【田中】まさにそうです。少しずつ入ってきたことによって大事に到らない。島国の特徴です。純血だけでは強くならない。

【茂木】実にいい感じで入ってきています。古代日本は、実は移民の国ともいえますね。

【田中】一気に入ってくる敵がいなかった。天皇が126代も続いている理由はそのあたりにあるのではないでしょうか。

※モンゴロイド:形質人類学上の人種の区分。ネグロイド(アフリカの黒人)、コーカソイド(白人、中東・北インドの諸民族)と並ぶ三大人種の一つ。東アジア、東南アジアの諸民族、アメリカ先住民までを含む。「東洋人」「黄色人種」とほぼ同義。

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田中 英道(たなか・ひでみち)
東北大学名誉教授
1942年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本国史 上・下』(扶桑社)、『日本神話と同化ユダヤ人』(勉誠出版)『京都はユダヤ人秦氏がつくった』『日本と中国 外交史の真実』(以上、育鵬社)などがある。

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茂木 誠(もぎ・まこと)
予備校講師
東京都出身。駿台予備学校、ネット配信のN予備校で大学入試世界史を担当。東大・一橋大など国公立系の講座を主に担当。世界史の受験参考書のほかに、一般向けの著書として、『世界史とつなげて学べ 超日本史』(KADOKAWA)、『経済は世界史から学べ!』(ダイヤモンド社)、『「戦争と平和」の世界史』(TAC出版)、『テレビが伝えない国際ニュースの真相』(SB新書)、『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)、『ジオ・ヒストリア』(笠間書院)、ほか多数。YouTube「もぎせかチャンネル」でも発信中。

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(東北大学名誉教授 田中 英道、予備校講師 茂木 誠)

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