NFTで成功する「絶対のポイント」とは何か…「ポルシェの失敗」と「ナイキの成功」が示すデジタル社会のルール
プレジデントオンライン / 2023年7月2日 13時15分
※本稿は、『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「1枚のデジタルアートに75億円」の衝撃
2021年、「ビープル(Beeple)」というアーティストがリリースした1枚のデジタルアートが約75億円という耳を疑うような値段で取引されました。
「NFT」という言葉が一躍知られるようになったのは、おそらく、この驚きのニュースがきっかけです。ちなみに、世界で初めてNFTが発行されたのは記録上で、2014年とされています。
時系列的には、その後、NFTコレクションの「クリプトパンクス(CryptoPunks)」やNFTゲームの「クリプトキティーズ(CryptoKitties)」が、トレンドに敏感なユーザーの間で人気を博し、2021年のNFTブレイクに至ります。
実際のところ「NFT」とは何なのか。
「NFT」は「NonFungibleToken(ノン・ファンジブル・トークン)」の略。「ノン・ファンジブル」とは「代替不可能」の意。したがって「代替不可能な価値をトークン化したもの」が「NFT」ということです。
■NFTはダイヤモンドのように「唯一無二」なもの
これが意味するところは、「ゴールドはファンジブル」「ダイヤモンドはノン・ファンジブル」と考えると、わかりやすくなります。ゴールドは「1gいくら」という相場で換金できます。たとえどんな形に成型されていようと、どこの金鉱山で採掘されたものであろうと、溶かしてしまえば同じ(代替可能=ファンジブル)だからです。
しかしダイヤモンドは、そうではありません。ダイヤモンドには4C(カラット/カット/カラー/クラリティ)という評価基準があり、ひとつひとつ異なります。「どれも溶かしてしまえば同じ。値段の違いは重量の違いのみ」というゴールドと違って、1つとして同じものがないダイヤモンドの価値は唯一無二、つまり代替不可能(ノン・ファンジブル)というわけです。
NFTにはさまざまな用途がありますが、中でも真っ先に成功事例となったのは、クリプトパンクスやビープルのようなデジタルアートでした。その理由は、まず、デジタルアートは「そのままトークン化できる」こと、さらに「ひとつひとつ異なり、その価値は代替不可能」という2点において、NFTとデジタルアートは親和性が高かったのでしょう。
■すべての取引履歴が「ブロックチェーン」に記録される
NFTで最も重要なポイントは、一次流通の対価だけでなく、二次流通のロイヤリティも、もとのNFT発行者(デジタルアートならクリエイター)に入るように設定できる仕組みがあることです。
クリプトエコノミー(仮想通貨の経済圏)で流通している「トークン」は、すべて「ブロックチェーン」というテクノロジーにひもづいています。ブロックチェーンとは、世界中のユーザーが共同で管理している「改ざんがほぼ不可能なデジタル台帳」であり、発行されたトークンの取引履歴は、すべてその台帳に記録されます。
また、Web3のインフラの上に構築された各種サービスには、あらかじめ決めたことを自動実行するようプログラムできる「スマートコントラクト」が実装されています。このテクノロジーにより、NFTが転売された際には、もとのNFT発行者に自動的にロイヤリティが支払われるように設定できるのです。これを「クリエイターフィー」「クリエイターロイヤリティ」などと呼びます。
![NFTは一定割合が還元される](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/3/1200wm/img_534474fd0f8f1ff66041b12d2c09054a252559.jpg)
通常、クリエイターが自分の作品を販売したときに得られる利益は、一次流通の際の対価のみです。一度誰かに売ったら、その後、幾度も転売が繰り返されようと、クリエイターには一銭も入りません。しかしクリプトエコノミーでは、その作品の創造主であるクリエイターの「所有」が守られている(ただし法的には、今のところ、NFTの所有「権」という概念はありません)。というわけで、クリエイターフィーは、「own」を是とするWeb3において、非常に重要な仕組みなのです。
■Web3はなぜ「NFTから火がついた」のか
さて、数多くのWeb3プロジェクトの中でも、途切れることなくNFTが注目を浴び続けている理由は2つ考えられます。
まず、単純に「絵的に映える」から。Beepleのデジタルアートに法外な値段がついたというニュースも、「作品」というビジュアル要素があったから取り上げやすかったのでしょう。これが目に見えない、手で触れることもできない、「数字」でしか示せないビットコインだったら、急速に話題が広がらなかったかもしれません。
もう1つは、金融としての法的な規制がなく、大手企業が続々参入を表明していることが衆目を集めやすいからです。仮想通貨は金融商品取引法や資金決済法などで厳しく規制されているのですが、その範疇にNFTは入っていません。いわば比較的自由に発行できる「楽天ポイント」や「Amazonポイント」のように、企業が扱いやすいのです。
一応、ポイントにはその種類により法的にクリアすべき項目があることを考え合わせると、ポイントよりもさらに法規制が緩やかといってもいいくらいです。
この参入障壁の低さから、楽天、LINE、メルカリ、DeNAなど既存の国内大手IT企業が続々参入を表明しており、ニュースになりやすい、世間で話題になりやすいというわけです。
■保有NFTが自分のアイデンティティになる
ただし「NFT事業を始める=Web3的である」とは限りません。
たとえば楽天のNFT事業は、独自のプライベートチェーンで展開されています。プライベートチェーンとは、イーサリアムのような誰でも参加できるパブリックチェーンとは違い、自社だけで閉じているチェーンのこと。つまり「楽天以外のマーケットプレイスとの互換性はない」ということですから、中央集権的な構造は維持されたままです。
NFTには、ただ「トークン化された価値を保有している」というだけでなく、「保有NFTが自分のアイデンティティになる」という側面があります。
NFTアートの中でも、特にプロフィールピクチャー(PFP)に人気が集まっているのも、デジタル世界におけるアイデンティティのニーズが高まっているからでしょう。
「装飾品」「持ちもの」なども、アイデンティティを表現する装置になりうることから、NFTには、世界の名だたる大企業も続々と参入しています。
ただし、単に参入すればいいという話ではなく、NFTをどう扱うかで、明暗は大きく分かれるのです。
■NFTホルダーの不信を買ったポルシェの例
ここでは大企業のNFTプロジェクトについて、「ポルシェの失敗」と「ナイキの成功」を例にとって考えてみたいと思います。
ポルシェの失敗とは、そのやり口がNFTホルダーの不信を買ってしまったという話です。
ポルシェのNFTは2023年1月に、0.911ETH(発売当時の相場で1490ドル)と非常に高額で売り出されました。名車の誉れ高い「ポルシェ911」にちなんだ値づけだといいます。ところが、それが売れ残ってしまい、最初の売値よりも安い値段で転売されるケースも出てきます。
そこでポルシェは、「売れ行きが悪いから」という理由で当初予定していたNFT供給量を減らし、さらに特典(ユーティリティ=NFTの使用価値)を追加。
それが二次流通(転売)の価格上昇につながります。こうして転売目当てのNFTホルダーを喜ばせ、沈静化に至りました。
しかし、その対応がNFTホルダーの批判を浴びることになります。ポルシェは、いったい何を間違えたのでしょう。
■敗因①「既存のブランドを売るもの」と勘違い
失敗の本質は、①NFTを「既存のブランドを売るもの」と勘違いしたこと、②運営がNFT供給量と特典を後出ししたこと、という2点にまとめられると思います。1つずつ見ていきましょう。
そもそもNFTの良さが活きるのは、「すでに確立されたブランド」を売ることではありません。「ホルダーと一緒にブランドを創る」からこそおもしろいのです。フリーミント(NFTの無料配布)を行うNFTプロジェクトが多いのも、そのためです。つまり、高額な値段設定は、必ずしも得策ではない。たとえ一流ブランドを確立している企業であっても、NFTでは、既存の価値を売るのではなく、新たな価値を創出すべきなのです。
にもかかわらず、ポルシェは「ポルシェ911」というブランドを売るNFTにしてしまった。これが失敗の本質①の意味するところです。
![ポルシェNFTの失敗](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/1200wm/img_06edf6a94378445ece354b305d94cf30287311.jpg)
■敗因②一方的に供給量を変え、特典を後出しした
さらに②として、ポルシェは、運営がNFT供給量と特典を後出しするという悪手を打ってしまいました。
なぜこれが悪手といえるかというと、NFTは需給で価格が決まるものだからです。
つまり先に購入したNFTホルダーの同意なしに、後から供給量を変更するのは、たとえ結果的にNFTの価格が上がったとしても裏切り行為に近いということです。特典の後出しもまったく同様のロジックで、既存ホルダーは運営側を信じられなくなるというわけです。
NFTとは「ホルダーと一緒にブランドを創る」もの、つまり運営とホルダーが一緒になって創り上げるプロジェクトです。そうである以上、「何を目指すプロジェクトなのか」という目的やビジョンを、できる限り、リリース前に説明すべきでした。こうした点も欠如したまま、リリース後に一方的に供給量を変え、特典を後出ししたとなれば、ホルダーの批判を浴びても仕方ありません。
■ナイキ「.SWOOSH」の成功例
一方、ナイキのNFTプロジェクトは見事といえます。
![comugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/6/1200wm/img_666247d4b1e5dc822d7026368d26f52387104.jpg)
ナイキのWeb3プラットフォーム「.SWOOSH」は、スニーカーやジャージ、アクセサリーなどデジタルアイテムをコレクションするコミュニティスペースです。誰でも参加でき、そこでコレクションされたアイテムには、自分のアバターが着用できる、今後リリースされるゲームで使用できる、リアルイベントの参加券になる、さらにはリアルなシューズと引き換えできる(今後そうなる可能性がある)、保有していることでアスリートとリアルで会えるチャンスがある、といった特典(ユーティリティ=使用価値)があります。
また、クリエイターは、「.SWOOSH」で自分がデザインしたアイテムを販売でき、ロイヤリティによる収益分配を得ることができます。そしてホルダーは、デザインなどのアイデア出しや、デザインコンテストでの投票を通じて、クリエイターを応援します。
■ブランドをともに創る体験を提供している
特にすごいのは、ナイキのデザインコンテストの仕組みです。
クリエイターは、ナイキの本物のデザイナーと一緒にデザインを考えることができるうえに、賞金やロイヤリティを受け取れます。
また、コンテストにはスニーカーそのものではなく、ジェネレーティブAI(人間の注文を受けて成果物を自動生成するAI)に入れるプロンプト(呪文=ジェネレーティブAIに注文する際の「言葉」)を提出する、というものなので、創作のハードルが低くなっています。このように、みんなでアイテムを創る「共創コミュニティ」になっていること、クリエイターは「コミュニティ内で応援や、デザインのプロの協力を得ながらデザインし、販売する」という「学び」と「収益」の機会を得られること――総じていえば、ナイキのブランドをともに創る体験をホルダーに提供しているという点で、きわめてNFTの性質に合致するプロジェクトといえるのです。
![NIKE「.SWOOSH」プロジェクト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/1200wm/img_db6b2c467f2f6d47099d93240a562e8b333559.jpg)
「.SWOOSH」発で、2023年4月にリリースされたナイキ初のデジタルスニーカーは「OurForce1(OF1)」と名付けられました。代表的なブランド「Air Force 1」を踏襲しながら、まったく新しいブランドとして「Our(私たちの)」を使ったネーミングです。「NFT」を前面にうたわなかったところも含めて見事です。
「みなで創り上げるもの」というNFTの本質を、わかっていなかったポルシェと、わかっていたナイキ。そこが、両者の明暗を分ける最大のポイントといっていいでしょう。
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Emoote共同創業者
シンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者。ビジネス書の編集者、グローバルWebメディア日本版の編集長を経て、現職。ベンチャーキャピタルのリサーチャーとして、Web3をはじめとしたデジタルテクノロジーの最前線を追う。新旧のデジタルテクノロジーに精通し、全体像を直感的に把握できるシンプルな図解と、平易な言葉による「誰にでもわかりやすい解説」に定評がある。Twitterなどを通じて、デジタルテクノロジーに関する最新情報を発信中。
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(Emoote共同創業者 comugi)
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