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子供からシニアまで万人に喜ばれる観光地をつくってはいけない…海外の富裕層を呼び込む"4つの条件"

プレジデントオンライン / 2023年7月7日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FTiare

インバウンドが復活している。観光地が北海道・ニセコのように富裕層を取り込むことはできるのか。金融アナリストの高橋克英さんは「日本の観光地が外国人富裕層をひきつける“次のニセコ”になるのは簡単ではない。4つの条件をクリアする必要がある」という――。

■訪日客1人あたりの支出額が増えている

訪日客数は2023年1〜5月の累計で863万人と、コロナ禍前の2019年同期の62%にとどまった(日本政府観光局「訪日外客数(2023年5月推計値)」)。2023年1〜3月の訪日客の消費額は1兆103億円と、2019年同期の87%にとどまる(観光庁「【訪日外国人消費動向調査】2023年1-3月期の全国調査結果(2次速報)の概要」、「【訪日外国人消費動向調査】2019年1-3月期の全国調査結果(2次速報)の概要」)。

一方で、訪日客1人あたりの旅行支出は21万1000円と、2019年同期の14万7000円から43%も増加している。国別では、中国(67万5000円)、オーストラリア(35万円)、フランス(28万5000円)の順で高い。

訪日客1人あたりの旅行支出が増えているのは、外国人富裕層の存在が大きい。世界的に金融緩和が続いたことで、彼らの株式や不動産など保有資産は増加。旅行など消費に回すおカネも増えているのだ。

■観光庁が「11のモデル観光地」を制定

こうしたなか、2023年3月、観光庁は、1回の旅行で100万円以上を消費する外国人旅行者を呼び込もうと、以下に示す全国11カ所を「モデル観光地」に選定した。自治体や観光事業者などに、事業資金の調達のほか、高級宿泊施設・体験ツアーの開発に詳しい専門家の派遣や、観光ガイドの人材育成、情報発信の方法などについて集中的に支援するという。外国人富裕層を地方にも呼び込み活性化を目指す目論見だ。

「11のモデル観光地」
◆東北海道エリア(北海道)
◆八幡平エリア(岩手県)
◆那須および周辺地域エリア(栃木県)
◆松本・高山エリア(長野県・岐阜県)
◆北陸エリア(石川県・富山県・福井県・岐阜県)
◆伊勢志摩および周辺地域エリア(三重県)
◆奈良南部・和歌山那智勝浦エリア(奈良県・和歌山県)
◆せとうちエリア(広島県・山口県・岡山県・香川県・愛媛県)
◆鳥取・島根エリア(鳥取県・島根県)
◆鹿児島・阿蘇・雲仙エリア(長崎県・鹿児島県・熊本県)
◆沖縄・奄美エリア(沖縄県・鹿児島県)

もっとも、「11のモデル観光地」は、日本全体のほとんどをカバーするのではないかという、広大なものであり、北は北海道から沖縄まで、満遍なく選ばれている。そもそも、那須や伊勢志摩などを除けば、どこのエリアを指しているのか分からなかったり、広域過ぎるものが大半だ。せとうちエリアなど、なんと5県にまたがっている。

■残念ながら「ニセコ」になることはできない

残念ながら、こうしたエリアをはじめ、日本の多くの観光地が、外国人富裕層向けリゾートとして日本唯一の成功事例かつ、世界的なスキーリゾートとなった北海道のニセコのように、ブランド化し持続的に発展することはなさそうだ。その理由としては、①官主導である、②「幕の内弁当型」である、③富裕層を理解していない、④消費主体で「投資」の観点がない、という4点が挙げられる。

①官主導である

日本では、官主導、地元自治体主導の観光策やリゾート計画が目立つ。それらは、卓上のこうあるべき論や、調査、アンケートなどから始まり、さまざまなデメリットやリスクも考えた結果、総花的で「幕の内弁当」のような施策となりがちだ。肝心の需要や「儲けること」が置き去りにされてしまい、一時的には成功しても、長続きせず、失敗するケースがほとんどだ。

官ではなく、民間の日本人、外国人を問わず、リスクを取りながら、自らの資金や資産をかけて、投資し事業する人間の意思に勝るものはない。儲ける、収益の観点に欠ける官主導では、観光によって地域が持続的に潤うことはないのだ。官の役割は、インフラの整備や景観、投資に関わるルールの制定など、交通整理に徹することではないだろうか。

そもそも富裕層、富裕層というが、外国人富裕層を呼び込むこと自体が目的になっていないだろうか。いかに観光を通じて地方を活性化させるか、ということが本来の目的である。であれば、なにも海外の富裕層を呼び込むことにこだわるのではなく、増え続ける日本国内の富裕層であったり、外交官や外資系企業駐在者など、日本に滞在する外国人富裕層をターゲットにするのもありだ。

■富裕層は混雑した観光地を好まない

②「幕の内弁当型」である

日本全国のほとんど全ての観光地・リゾート地が、インバウンド需要だけでなく、日本人需要も強化し、富裕層から中間所得者層、ファミリー層からシニア層まであらゆる層が楽しめるリゾートになることを望んでいる。

こうした「幕の内弁当型」の観光地・リゾート地が、国内外の富裕層を惹きつけることはない。子供からシニアまであらゆる年代・所得ステージの人々が訪れるのが理想ではある。しかし、それは富裕層の離反を招く施策だ。彼ら彼女らは混雑を嫌い、誰でも行ける観光地・リゾートを好まない。

例えば、世界的なスキーリゾートとなったニセコは、外資系ラグジュアリーブランドホテル(外資系最高級ホテル)が立ち並び、富裕層以外にとってハードルが高い観光地になってしまった面があるのは確かだ。しかし、「選択と集中」「売上より利益」というビジネス観点からも、外国人富裕層を対象とした高級化路線を継続するのが得策だ。

ニセコ
写真=iStock.com/SEASTOCK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SEASTOCK

誰でも行けるニセコにするのか、特別な日に行くニセコにするのか。前者になれば富裕層は逃げてしまう。「次なるニセコ」をみつけようとするだろう。

いずれにせよ、富裕層が集まる観光地には、富裕層でないマスリテール層も集まってくる。逆に、マスリテール層がメインの観光地に、富裕層が集まることはない。

■外国人富裕層は観光リテラシーも高い

③富裕層を理解していない

外国人富裕層の特徴として、金融リテラシー同様に、観光リテラシーも非常に高いことが挙げられる。事業経験に加え、保有金融資産における投資経験があり、株式、債券、不動産など各自に得意分野や思い入れのある分野がある場合も多い。同じように、実際に、世界各国の観光地・リゾートに滞在し、さまざまな体験や経験を通して、投資や事業の観点からも、観光・レジャーマーケットにも精通していたりする。

筆者は、国内外の富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントの立場で、数多くの富裕層と直接接してきた。こうした経験則からいえる富裕層の特徴として、①人と同じはいや、②面倒くさがり、③でも、構ってほしい、が挙げられる。過去のプレジデントオンラインの記事にも書いてきた(東京随一の“セレブ通り”を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ)。

また、①そもそも富裕層は自分の情報を開示しない、②コロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、といった点も挙げられる。これも過去に書いてきたことだ(「何度トライしてもソッポ向かれる」日本のメガバンクの富裕層ビジネスが全然刺さらない3つの残念な理由)。

実業家の手
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■日本流の「おもてなし」を求めているとは限らない

高いホテルに高い料理に高いサービスに、特別なオプショナルツアーを用意すればいいという単純なものではない。値段ではなく、人と違う場所やサービスを求めたり、多忙な日常から離れ、ただゆったり家族やパートナーと滞在することを求める場合も多い。日本人のような弾丸ツアーや詰め込み過ぎのスケジュールを好まず、必ずしも日本流の「おもてなし」を求めている訳ではなく、受け入れる我々日本人側の自己満足だったりする場合もある。

こうした国内外の富裕層に共通する特性や普段のライフスタイルを理解した上で、富裕層ビジネスを構築し対応しない限り、ハワイやコートダジュールにクーシュベルなど並み居る世界的な観光地・リゾート地を押しのけてまで、富裕層にわざわざ日本を選択してもらうのは容易ではない。

■投資を前提にしない限り「ニセコ」にはなれない

④消費主体で「投資」の観点がない

ニセコは、他の多くの国内リゾートとは違い、外国人旅行者だけではなく、日本に滞在する外国人や、海外富裕層・投資家をも惹きつけている。そのため、インバウンドによる宿泊費など消費がゼロになっても、活気を失わなかった。パウダースノーのおかげで、国内外の富裕層顧客がスキーヤー・スノーボーダーとして集まり楽しむため、良質なホテルコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、資産価値の上昇により、外資系最高級ホテルの進出などさらなる開発投資が行われる、という、投資が投資を呼ぶ好循環が続いているからだ。

観光業で儲けるのは簡単ではない。はやりすたりがあり、特定シーズンや土日への集中、人手不足、人件費高騰、混雑に渋滞、地元住民との軋轢など、問題は山積みだ。交通、宿泊、食事、おみやげ、アクティビティなどで稼ぐものの、薄利多売であったり、売上に波があったりする。

こうしたインバウンドなど観光客の消費を前提とした観光推進策ではなく、投資を前提としたものにしない限り、「次なるニセコ」が現れることはないのではないか。

例えば、投資を呼び込む施策こそが大事であり、観光はその一手段にすぎないという考え方はできないだろうか、観光という万人受けする聞こえのいいスローガンを掲げるのではなく、本当に、雇用を生み、税収が増え、地域が潤うという観点から、考えるのであれば、必ずしも観光業にこだわる必要はないはずだ。

例えば、台湾の大手半導体メーカーTSMCが半導体工場を新設する熊本では、雇用の増加を生み不動産価格の上昇や新たなインフラ整備などにより、地域経済が活況に沸いているという事例もある。

複数の収入の流れ
写真=iStock.com/Olivier Le Moal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olivier Le Moal

■「次なるニセコ」に求められる条件

ニセコは、この先も世界ブランドのスキーリゾート地として発展する可能性が高い。「次なるニセコ」として、目の肥えた外国人富裕層に選ばれる国内の観光地やリゾート地はどこになるだろうか。

東京、京都、富良野、安比、白馬、宮古島、石垣島など候補は数多くあるものの、東京、京都という大都市を除けば、ニセコのように外国人富裕層を惹きつける世界ブランド化したエリアはいまだにない。

富裕層対応という観点からすれば、外資系ラグジュアリーブランドホテルがある観光地・リゾート地は「次なるニセコ」の有力な候補地だ。こうしたホテルは、しがらみや先入観なく、単純にグローバルな視点から、ビジネスとして採算がとれるのか、成長性はあるのか、自社ブランドに貢献するのか、といった合理的な観点から立地や投資が選ばれているはずだからだ。リッツ・カールトンやパークハイアット、フォーシーズンズホテルなど外資系ラグジュアリーブランドホテルは、開業予定も含め、ニセコ以外にも、東京、京都、沖縄に加え、日光、横浜、志摩、奈良、大阪、福岡などに合計64確認できる(マリブジャパン調べ)。

また、箱根町の富士屋ホテル、長野県の上高地帝国ホテル、三重県の志摩観光ホテルといった日本を代表するクラシックホテルを有するような観光地・リゾート地も、候補地といえよう。

いずれにせよ、①官主導である、②幕の内弁当型である、③富裕層を理解していない、④消費主体で投資の観点がない、という課題を克服できるかが、「次なるニセコ」が現れるか否かの鍵となるはずだ。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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