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待ちに待ったスポーツ大会でわが子がボロ負け…気まずい帰り道に親が子供にかけるべき"最初の一言"

プレジデントオンライン / 2023年7月6日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cenkertekin

スポーツに取り組むわが子と親の距離感はどうあるべきか。スポーツと子供の成長について研究するリチャード・D・ギンズバーグさんは「子供の人格を形成するのはスポーツではなく、周りの人だ。親が子供のスポーツに関わりすぎると、子供の人格形成に悪影響を及ぼす」という――。

※本稿は、リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■「スポーツは子供にとっていいもの」という思い込み

ある教授が、大学院のスポーツ社会学の講義でユーススポーツや心理学の話題を取り上げました。その教授はこんな質問を投げかけました。

「スポーツは人格を形成するものでしょうか?」

この講義には主に教師やコーチ、アスレチック・ディレクター(訳注:高校・大学の運動部の運営管理者。人事担当及び対外的な窓口になる)が参加していましたが、みんなそろって大きくうなずいて見せました。「もちろんです」と全員が答えました。

「では、皆さんがじかに体験なさった、あらゆる悲惨なケースについてもそういえるでしょうか?」と教授は尋ねます。

「惨めな思いをしてきた子供や、怒鳴り散らす親、燃え尽きて競技に喜びを感じられなくなった10代の選手たちの場合はどうでしょう? 『何がなんでも絶対に勝つ』。これはアメリカでは行動規範になっているともいえますが、こうした考え方のために家族関係がぎくしゃくしたり、好ましい行動の基準が崩れてしまったりしたケースはどうでしょう? そしてついには、いじめや乱闘、10代の若者のステロイド使用、審判やコーチやファン、試合そのものに対する侮辱行為といった、選手や親、コーチの起こした不祥事がマスコミの見出しを飾って注目を集める事態になった場合はどうでしょう?」

教授の問いかけは核心を突くものでした。この講義の参加者は、アメリカ人がよく引っかかる落とし穴にすっかりはまっていました。スポーツは子供にとっていいものに決まっている、と何の疑いもなく思い込んでいたのです。しかし、ユーススポーツに関連した不祥事が起こると、冷静な大人たちは改めて立ち返ってその思い込みについて見つめ直します。

■「親からの過剰な期待」は子にとって危険な薬物

ある独特の衝動に駆られると、スポーツから得られる多くのプラス効果が削がれる恐れがあります。勝利に酔いしれたいという思いがそうです。

このような欲求は、親が子供に向ける大きな期待や心配といった、他のあらゆる感情と入り混じって試合中に表れ、危険な薬物に侵されているような状態になります。勝ち負けによって気持ちの浮き沈みが激しくなるのです。

親、コーチ、ファンという立場でありながら、テニスでサービスエースが取れなかったとか、野球で中継プレーをうまくできなかったとか、アイスホッケーでしっかりとボディチェックができなかったとか、バスケットボールでジャンプシュートを見事に決められなかったとか、そんなことで11歳の子供を怒鳴りつけるといったことがしょっちゅう起こります。

「何がなんでも絶対に勝つ」などと自分は考えもしないと思い込んでいる人でも、こんなふうに我を失ってしまうことがあるのです。

■子供の成長のためには時には勝利を犠牲にすべき

試合中でなくても、勉強の成績が悪かったり、チーム内の決まりを破ったりした選手を注意しようとするコーチに、親が横槍を入れることがあります。そうした選手たちは、勝利に貢献できるからという理由で、悪いことをしても許されてしまうことすらあるのです。

人格はスポーツが形成するのではありません。人が育むのです。親やコーチが優れた人格を育てるには、場合によっては勝利を二の次にして、公平かつ安全で、チームのためになること、さらには子供の先々の成長を優先しなくてはならないということです。

親や周りの大人から無茶な期待をかけられたり、感情をぶつけられたりすることなく、子供が競技スポーツを楽しみ、いろいろなことを学べるようにしてやらなくてはなりません。

■子供は遊びを形にしたスポーツからさまざまなことを学ぶ

遊びは子供の仕事です。遊ぶことこそ、子供の務めなのです。遊びを通じて知らず知らずのうちに、子供は物事を探求し、学び、成長します。上手に遊ぶには、余計な干渉をされず、時間が経つのも忘れ、夢中になってのびのびと楽しむことが大切です。

庭で一緒にサッカーをプレイしています
写真=iStock.com/Sushiman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sushiman

組織的なスポーツ活動はまさに、遊びの本格的な形態といえます。従うべきルールがあり、習得すべき技術やポジションがあり、そのうえでプレーが成立する。そんなふうに、スポーツは遊びを形にするのです。

どんなスポーツでも上達を促せば、激しい競争が生まれ、よりうまくなりたいという意欲が駆り立てられます。組織的なスポーツ活動でルールに則った行動をさせることで、子供は日常的な意味でもさまざまなことを自然と学んでいきます。

上達してそれに見合った結果を出すことに貪欲になり、自分の強さや限界を進んで認めるだけではなく、他の人の要求や権利も尊重することは、責任ある立派な大人になるためにはいずれも欠かせないものです。

スポーツはこうした領域の能力を高めてくれるものですが、良き親やコーチのアドバイスや指示や協力がなくてはうまくいきません。

■子供のスポーツに冷静でいられない親の問題点

子供がいいプレーをして楽しめるように育てていくうえで、障害となることの一つが親自身の悩みです。親は自分にできなかったことや、やってこなかったことを子供に託したいという気持ちを抑えきれなくなることがよくあるのです。

競技での子供の様子が引き金となって、親には以前の記憶や感情がよみがえってくることもあります。そうした状況のなか、観客席でわめいたりケンカ腰になったりする親もいれば、その場から離れてひとりで脇から観戦する親もいます。応援に加わって子供のために全力を尽くす親もいます。心配で観ていられなくて、競技と一切関わろうとしない親もよくいます。日々抱えているプレッシャーや問題にこんな状況まで加わってくると、親は子供のスポーツに対してとかく冷静ではいられなくなります。

■「質問攻めの反省会」は絶対NG

子供との良くないやり取りの例として挙げられるのが、試合の帰り道の車中で質問攻めにしたり、とがめたりしてしまうケースです。

「あのコーチ、どうしてもっと試合に出してくれないのかしら? 何か言ってなかった? まったく、何を考えてるのかしら」
「なんで反則なんか取られたんだ? 審判に歯向かうようなことでも言ったのか?」
「どうしてもっとシュートを打たない? もっと積極的にいかないと」
「バテバテだったな。だから早く寝ろって言ったじゃないか」
「勝とうという気がないの? もっと本気で頑張らないと、1軍入りできないでしょ」
「いつになったらわかるんだ? 何度も言ってるだろ。ああいう場面こそ、もっと踏ん張らなきゃ」
「どうしたんだ? 今日はお前らしくなかったぞ」

こうした「試合後の質問攻めの反省会」は、子供のやる気を削ぐもので、スポーツから得られる喜びも奪い去ってしまいます。他のことでは冷静な親でも、このように競技のことで熱くなると、子供を援護したり、奮い立たせようとしたり、褒めてやったりしようとするあまり、行き過ぎてしまうことはよくあるのです。

中には、公然と不満を訴える親もいます。アメリカのある都市部の日刊タブロイド紙に、「観客を校内から締め出しに」という見出しが躍りました。この不幸な事件では、高校のあるアイスホッケーの試合をめぐって保護者と選手とファンとの間で大乱闘が起こったのです。後日、高校のアスレチック・ディレクターの判断で、その再試合は無観客で行われることになりました。

■「勝てた?」より「楽しかった?」

リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)
リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)

親であれば、若い選手たちの模範となるよう心がけなくてはいけません。時には、まずは先走らず、呼吸を整えて、スポーツを通じて本当は子供にどんな経験をしてほしいのか、改めて考えてみることです。「勝てた?」。そんな問いかけも、親としての存在感を示す、次のような声がけに置き換えることができます。

「楽しかった?」
「プレーはどうだった?」
「何か新しいことはつかめた?」
「全力は出せた?」
「チームプレーはできた?」

こうした声がけを意識することは、人格を育てるという意味で言葉以上の効果を発揮するのです。

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リチャード・D・ギンズバーグ ハーバード・メディカルスクール助教授
マサチューセッツ総合病院(MGH)の臨床心理士。スポーツ臨床心理士として幅広い年代の診療に当たるかたわら、全米各地で、ユースから大学までさまざまなスポーツプログラムに向けて講演・相談活動を行う。過去には、ハーバード大学の男子ラクロス、女子サッカー、男女水球、女子アイスホッケー、U16とU17のアメリカ女子サッカー代表、アメリカ女子プロサッカーのボストン・ブレイカーズのスポーツカウンセリングも担当している。

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(ハーバード・メディカルスクール助教授 リチャード・D・ギンズバーグ)

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