高校ではバスケはやりたくない…成績優秀だった娘の突然の訴えに、バスケ選手だった母親が出した答え
プレジデントオンライン / 2023年7月8日 10時15分
※本稿は、リチャード・D・ギンズバーグ、ステファン・A・デュラント、エイミー・バルツェル(著)、来住道子(訳)『スポーツペアレンティング 競技に励む子のために知っておくべきこと』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。
■バスケ選手の母親のもとで育った2人の娘
同じ家族でも、親によく似た子どももいれば、全く似ても似つかない子どももいます。親は自分に似た子どもに目をかけ、似ていない子どもにはかまってやらず、疎外感を与えてしまうこともあります。
親には子どもを傷つけたり、分け隔てて愛情を注いだりするつもりがなくても、他のきょうだいのほうがかわいがられていると誤解してしまう子どももいます。
15歳の少女、ホリー・バーンスタインの場合がそうです。2歳年下の妹のティナは、母親とよく似てスポーツ万能。ホリーもずっとそこそこの活躍を見せてきましたが、スポーツの才能ではホリーはとてもかないません。
数週間前からずっと、母親とホリーの関係はうまくいっていません。2人でたびたび言い争うようになり、バスケットボールのことになると特にそうです。
母親はホリーがユースから中学校までずっと続けてきたバスケットボールをやめると言い出したことを心配しています。そのうえ成績まで落ちてきていて、それは学業優秀なホリーには考えられないことでした。
母親はホリーとの関係を修復したいと思っていますが、当人の気持ちに気づいてやることができません。
■長女に母親ほどのバスケの才能はなかった
ホリーは、スポーツ選手として自分には母親や妹ほどの才能がないのだと悟ってしまったのです。そう気づいたことで疎外感を覚え、自分は価値のない存在なのだと思うようになっています。
ホリーは、母親のような優れた選手になろうとずっと頑張ってきましたが、その目標に手が届いたことはありません。
母親は、高校時代に全米代表入りして大学でもスター選手として活躍し、誰もが憧れる存在でした。その娘であるホリーは、母親からはもちろん、ほとんどのチームメイトからも、同じようにすごい選手になると期待されていました。
ところが、だんだん、ごくふつうの選手にすぎないことが明らかになってきます。練習の前後にもトレーニングを重ねていましたが、あまり上達は見られませんでした。
うまくなれない自分に失望し、ホリーは母親の期待に応えるのは無理なのだと思うようになります。
■母親からの容赦ない檄が長女を襲う
母親は、ホリーが時間をかけて成長していくことに望みを託し、何とか上達させようとたびたび厳しく接します。
自分が高校時代、バスケットボール選手としてとても充実した貴重な経験をしてきたことが記憶に強く刻まれているだけに、ホリーに対する期待も大きくなり、必要以上に追い込んでしまっています。
それがかえって災いして2人の間にはひずみが生じていきます。練習中、母親は容赦なく怒鳴りつけます。「何やってんの、ホリー。もっと足を動かして」。
ホリーは母親から檄を飛ばされるのは嫌ではなかったものの、のびのびとプレーすることができませんでした。しょっちゅうつまずいたり、バランスを崩したり、下手をすれば、ボールを受けたときにトラベリングを犯してしまうこともありました。
ホリーはミスをするたびに、人目ばかり気にするようになりました。
■「母親は妹の活躍ぶりばかりに目を向けているのでは…」
そのうち妹のティナが同じチームでプレーするようになり、たちまちスター選手として活躍し始めます。練習や試合のことで、ティナと母親は、一緒に過ごす時間が増えていきました。それに伴って、ホリーはひとりで過ごすことが多くなりました。しかも夕食では、もっぱらティナの上達ぶりやそのすばらしいプレーの話題ばかりが持ち上がります。
「ティナの出したあのパス、ちゃんと見せたかったわ。ティナの歳を知らなかったら、高校生がやってるプレーだって、きっと勘違いしてたもの」
ホリーは気持ちを腐らせず、妹の活躍ぶりを喜んでやりたいと思いつつも、自分の存在は母親の目に入っていないのではないかと不安になっていきます。それから数カ月のうちにホリーの学校の成績が落ちて、両親は問題が起きていることに気づきます。
ホリーの母親は、どうすればいいのでしょう。ホリーにもう一度バスケットボールを頑張ってみるように勧めて、親子の共通点を増やしたほうがいいのでしょうか。ホリーに嫌な思いをさせないように、ティナが見事なプレーを見せてもあまり騒ぎ立てないようにするべきなのでしょうか。
■親は子供に分け隔てなく愛情を注がねばならない
才能あふれる者や実力の劣る者など、さまざまな選手を受け持つコーチは、似たような問題に直面します。そんな選手たちが一致団結して、1つのチームとしてうまく機能していくようにまとめ上げなくてはなりません。
これは子育てにも当てはまる話で、子どもの能力に差がある場合はなおさらです。
このような問題を解決するには、親は子供に対して分け隔てなく愛情を示すように努力しなくてはなりません。
ホリーのケースでは、ティナがバスケットボールに興味を持ち、熱心に打ち込んでいることを母親が喜ぶのは無理もないことです。その喜びを抑え込む必要はありません。ティナは天性の才能に恵まれていますが、選手として成長していくには、母親の励ましやサポートが必要です。
しかし、母親の支えを必要としているのは、ホリーも同じです。
青年期の女子が、大人へと成長していくなかで自分らしさを意識できるようになるには、特に母親の助けが必要なのです。そのサポートの一環として欠かせないのが、本人の得意なものを見つけることです。それがきっかけで母娘どちらも喜びを味わえるようになるかもしれません。
■ほかのスポーツを勧めてみる
ホリーの場合、他のスポーツをやってみるのもいいでしょう。そうすれば、ホリーにとって母親は同じ競技に精通した厳しいコーチではなくなり、自分を応援してくれる存在となります。
自分は愛されているという意識を持つことができれば、ホリーも高校の学校生活やスポーツや勉強でつらいことがあっても、乗り越えていくための元気が湧いてくるでしょう。
いちばん上の子供は通常、親から人一倍目をかけられ、大きなプレッシャーを向けられるものです。ケガをするのではないかとか、勉強でもスポーツでも目立たない存在になるのではないかと、親は過剰に心配してしまうのです。
■親と子供は別の人間
また、ホリーの母親自身が、バスケットボール選手として優秀であることにばかりこだわってきたことを認めることも必要です。それができることで、どれほどティナをひいきしてホリーをないがしろにしてきたのか、もっと敏感に感じ取れるようになるでしょう。
とはいえ、当然のことながら、こうしたステップを踏んでいくのはきわめて困難です。
親にとってとりわけ大変なのは、子供は自分とは別の人間で、備えている特徴も才能も全く違うのだということを忘れないようにすることです。それができれば、子供が自分らしさを大切にすることに喜びを感じられるようになるでしょう。
■親の失敗を見て子供は成長していく
それでも有り難いことに、子育てには失敗の余地があります。イギリスの有名な精神分析家のドナルド・ウィニコットが述べているところによると、「共感の失敗」という、親が意図しない失敗から子供は成長できるのです。
親の欠点や失敗するところを見て、子供は親の力を借りなくても問題を解決できるようになっていきます。自分の能力を頼りにするようになり、そこから自立心が芽生えます。
たとえば、青年期の子供は、自分のパフォーマンスにいろいろと口を出してくる父親が、実はあれこれコーチしていけるほどの専門知識がないことに気づくということがあります。これは父子にとって残念なことでしょうが、大切なのは選手本人が大人に向けて成長していくことです。
父親からのサポートが続くとしても、息子は別のコーチの指導を受けて前進していこうとします。
ホリーの母親も、自分の欠点や失敗をホリーに見せることから心がけていけば良いのです。
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マサチューセッツ総合病院(MGH)の臨床心理士。スポーツ臨床心理士として幅広い年代の診療に当たるかたわら、全米各地で、ユースから大学までさまざまなスポーツプログラムに向けて講演・相談活動を行う。過去には、ハーバード大学の男子ラクロス、女子サッカー、男女水球、女子アイスホッケー、U16とU17のアメリカ女子サッカー代表、アメリカ女子プロサッカーのボストン・ブレイカーズのスポーツカウンセリングも担当している。
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(ハーバード・メディカルスクール助教授 リチャード・D・ギンズバーグ)
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