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著名人や大富豪でも「生きていて虚しい」と感じるのはなぜか…現代人が囚われやすい「夢」や「理想」の怖さ

プレジデントオンライン / 2023年7月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KS BioGeo

私たちの人生にはどんな意味があるのか。ストレス・マネジメント専門家の舟木彩乃さんは「人生に意味を求めると、どれだけ恵まれた人でも、生きることが虚しくなる。心理学者のヴィクトール・E・フランクルが言うように『人生はあなたになにを期待しているか』という問いを立てるといい」という――。

※本稿は、舟木彩乃『「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■自分より稼ぐ友人の話を聞くと…

フランクル心理学の重要なポイントの一つは、「人間は人生から問いかけられている存在」だということです。人生こそが私たちに問いかけている……と言われても、ピンとこない方が多いかもしれません。具体的な悩みを参考に、どういうことなのか考えていきましょう。

――Eさん(男性30代前半)のケース
比較的裕福な家庭で育ち、勉強もスポーツも恵まれた環境の中で取り組んできました。留学経験もあり、語学力を活かして有名企業に就職し現在に至っています。年収は、同世代と比べて高く、職場でも評価されていると思います。結婚を前提にお付き合いしている女性もいて、自分の人生になにか特別な不満があるわけではありません。

しかし、起業をして自分より稼いでいる友人の話、拠点を海外に移しSNSでプール付きの自宅を公開しているような人たちを見ると、心がザワザワしてきます。意味がないとわかりつつも、つい彼らと自分を比べてしまうのです。

一般的に見れば私の人生は勝ち組の部類に入ると思いますが、最近なぜか人生そのものが虚しくなり、自分はこのままでいいのだろうかと苦悶(くもん)しています。

Eさんは、自分の人生に大きな不満があるわけではないにもかかわらず、他人と自分を比べ始め、自分の人生を虚しく思うようになったようです。

■「意味への欲求不満」に陥りがちな現代人

人は誰でも、生きがいのある人生(生活)を送りたいという欲求を持ち、この欲求を満たそうと日々闘っています。しかし、フランクル氏は、私たち現代人の多くは、意味への欲求不満に陥っていると言っています(諸富祥彦『フランクル心理学入門 どんな時も人生には意味がある』角川ソフィア文庫、96〜98頁)。

“意味への欲求不満”とはどういうことでしょうか。フランクル心理学には“意味への意志”という言葉が出てきます。意味への意志をフランクルの著書から意訳すれば、“生きる意味”を追求する欲求です。この欲求が満たされない限り、私たちは人間として満たされない、ということです(V.E.フランクル『それでも人生にイエスと言う』春秋社、183頁 ※訳者山田邦男氏による解説)。

エスカレーター
写真=iStock.com/Sergi Nunez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergi Nunez

「大きな不満があるわけでもないのに人生が虚しい」「他人と比べて複雑な思いになる自分がいる」「あらゆる面で成功したい」――カウンセラーの私のもとには、Eさんに似た相談が多く寄せられます。フランクル心理学の視点から考えると、このような悩みは、自分を中心に人生を描いている限り消えることはなさそうです。

■自分の理想や夢に囚われて…

良い仕事に就いて、年収が上がって、人から尊敬されて……、たとえそれらが叶ったとしても、その状態に慣れてしまうと当初の高揚感や充足感がなくなります。そうすると、他人と比べたり、さらに上を目指さないと気が済まなくなったりします。周りから見れば、収入や仕事、家庭などに恵まれている人であっても、人生に虚しさを感じ、意味への欲求不満に苦しんでいるのはそのためです。

そう言われると、フランクル心理学においては、理想や夢を持つことは良くないのか、理想がモチベーションになったり、夢が生きがいになったりすることもあるのではないか、という疑問を持つ人も多いでしょう。

しかし、自分の理想や夢にこだわる人は、その理想や夢に近づけば充足感を感じ「人生に意味がある」と思える一方で、理想や夢から離れていく状態にあれば「こんな人生に意味はあるのか」と嘆くことになってしまいます。

■私たちは常に人生から問いかけられている

そうなるのは、自分の夢や理想を叶えてほしい、そのための環境や運を与えてほしいと“自分を中心に人生に対して期待している”からだといえます。

フランクル心理学は、人は“人生の意味”を問う存在ではなく、“人は人生から問われ、その問いに答える存在である”としています。このように発想を転換すると、私たちは常に人生から問いかけられていることに気づくようになります。

黒い背景に赤いリンゴを差し出す手
写真=iStock.com/ardasavasciogullari
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ardasavasciogullari

人生から問われるのは、人生を左右するような大きな出来事が起こったときばかりではありません。日常で些細(ささい)なことに出会ったとき、たとえば、通勤電車で体調が良くない人を見かけたとき、同僚がその場にいない社員の悪口で盛り上がっているとき、人は人生から「あなたはどうしますか?」と問いかけられているのです。

■誰もが「自分にしかできない仕事」を持っている

“人生の意味”について、フランクル氏はどう言っているのでしょうか。フランクル氏はチェスを例に説明しています。

人生の意味は、人によって、日によって、時間によってすら異なるからです。ですから重要なのは、一般的な人生の意味ではなく、ある特定の瞬間における、ある個人の人生の具体的な意味なのです。

一般論としてこの質問をすることは、チェスの世界選手権王者に対して「チャンピオン、この世で一番いいチェスの手を教えてくださいますか?」と質問するようなものです。その試合における駒の位置と対戦相手の個性に左右されない、「一番いい手」など存在しませんし、そもそも「いい手」というものだって存在しません。

同じことが人間の実存にも当てはまります。抽象的な人生の意味を問うことは重要ではないのです。人生においては、誰もが自分にしかできない仕事、その人に成就されることを待っている具体的な使命を持っています。それは他の人が代わりに果たすことはできませんし、その人の人生でふたたびくりかえされることもありません。したがってそれぞれの人間にとって、いまここにある意味ある課題は、この課題を実現するために与えられた可能性と同様、かけがえのない唯一のものなのです。(ヴィクトール・フランクル『ロゴセラピーのエッセンス』新教出版社、33〜34頁)

■その時その場の「具体的な問い」に答えていく

自ら人生に求めることをやめ、人生からなにを問われているかを考え、それに答えようとするとき、人は新たな“生きる意味”を発見します。人生からの問いは、そのときその場における具体的な問いです。この問いに答えていくことこそが、人生だということができるでしょう。

ポイント
◎“人生の意味”とは、ある特定の瞬間における具体的な意味
◎誰しもが自分にしかできない仕事、具体的な使命を持っている
◎人生からなにを問われているかを考え、答えようとするとき、人は新たな“生きる意味”を発見する

■自分自身の人生に責任をもつ

フランクル氏は、生きることに疲れて「人生に意味がない」と言う人へのカウンセリングで、「人生はあなたになにを期待しているか」という問いをするよう促しています。

舟木彩乃『「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社)
舟木彩乃『「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社)

あなたを待っている人や、やり残している仕事はないか。そのために今できることはなにか。私たちは、たとえ日常的な出来事であっても、それを人生からの問いかけとして自身に問い、答えることができます。私は、この作業のくり返しによって「意味への意志」を見つけることが可能になるのではないかと考えています。

たとえば、通勤電車であなたの前に、体調の悪そうな人が立っていたら、どのような行動をとりますか? では、職場でハラスメントの現場を目の当たりにしたときは?

これらの出来事は、「あなたは、この出来事に対してどのような態度をとりますか?」という人生からの問いかけです。どのように答えるかは自分次第、問いかけに気づかないふりをして無視することもできます。また、このような問いかけに気づかない場合もあるでしょう。

ただ、人生からの問いかけに対して「誠実に答えない」という選択をくり返してしまうと、自分にとっての大切ななにか(人生観かもしれない)が失われ、意味への欲求不満に陥るように思えます。

『それでも人生にイエスと言う』の中でフランクル氏自身は、“「生きるとは、問われていること、答えること、自分自身の人生に責任をもつことである」と言いうるであろう”としています。解説者の山田邦男氏は、そのフランクル氏の言葉について“そして、そのつどこの使命を遂行することがまさに「意味への意志」を充たすことに他ならないのである”と解説しています。

■人生からの問いかけに気がつく「習慣」づくり

では、どうしたら人生からの問いかけに気づき、正しく回答することができるでしょうか。それは、自分の心が刺激を受けるような日常の出来事を敏感に察知し、

1.人生からどのような“問い”があるかを聞き逃さない
2.その問いに対してどのような行動をなんのために選択するか
3.その対応をしたときの感想や気づいた点(必ず一つは自分への褒め言葉を入れてください)

について意識することです。これらが習慣になるまでは、スマホのメモ機能や日記帳などに書きためていくのも良い方法です。その中で、“今日も誰かの役に立てた”という感覚を持てたなら、有意味感の向上にも繫がります。

反芻(はんすう)やメモの仕方
出来事:数名で雑談していたら、自分が慕っている先輩の悪口が始まり、「あなたもそう思うでしょう?」と同調を求められる雰囲気になった。
人生からの問い:あなたは、先輩の悪口に同調するよう求められていますね。どのような対応をしましたか?
あなたの回答:「うーん、私はよくわからないので……」と、その会話を避けた。
その回答を選んだ理由(なんのために):一緒になって悪口を言いたくなかったけど、真っ向から反対すると角が立つと思った。
自身の対応についての点数(人生からの問いかけに対し10点中何点で答えられた?):6点(10点満点)
気づき:自分は先輩に対して悪い感情はないので、そうは思わないとはっきり伝えたかったが、それはできなかった。しかし、同調圧力に流されず少なくとも悪口に参加しなくて済んだ。

以上のような内容をその場でメモに留める場合は、出来事と人生への回答、点数のみ入力し、時間のあるときに気づきなどを加筆していってもいいでしょう。このようにメモをすることで人生からの問いかけを常に意識するようになり、どのような行動で「意味への意志」を満たしていけるのか、を感覚的に身につけていくことができます。

ポイント
◎日常的な出来事の中に「人生からの問いかけ」がある
◎人生からの問いに対し、どんな行動をなんのために選択するのか、そのときの感想や気づいたことをメモや日記帳に書きためる

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舟木 彩乃(ふなき・あやの)
ストレスマネジメント専門家
筑波大学大学院博士課程修了。博士。国会議員秘書や企業人事部、病院勤務(精神科・心療内科)などを経て、現在、株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなどを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁のメンタルヘルス対策や県庁の研修にも携わる。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)、『「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社)など。

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(ストレスマネジメント専門家 舟木 彩乃)

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