なぜ周りに大勢の人がいても「さみしい」と感じるのか…哲学者が考える「孤独」の本当の意味
プレジデントオンライン / 2023年7月7日 15時15分
※本稿は、岸見一郎『数えないで生きる』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■一人暮らしが必ず孤独を感じるわけではない
三木清は、孤独そのものと孤独の条件とを区別して、次のようにいっている。
また、三木は次のようにもいっている。
一人でいるからといって、独居しているからといって、誰もが必ずいつでも孤独を感じるわけではない。一人でいることは、誰にとっても孤独を恐れる条件ではないのである。
■哲学者「孤独は山になく街にある」
それどころか、三木はむしろ大勢の人間の「間」にこそ孤独はあるといっている。
「孤独は山になく街にある」という時の「山」というのは一人でいる状態、「街」というのは人と人との間で生きている状態のことを指している。
大勢の人間の中で孤独を感じることなどないと思う人もいるかもしれないが、「孤独は山になく街にある」という三木の言葉に共感できる人も多いのではないだろうか。
なぜ孤独は大勢の人の間にあるのか。次のことを考えなければならない。
まず、もしも人がこの世界にただ一人で生きているのであれば、孤独を感じることもないということである。他者が存在し、その他者と結びついていることが人の基本的なあり方なので、人との結びつきから外れると孤独を感じるのである。
■街に出ると家の中のような注目は得られない
次に、他者と結びついていることが人の基本的なあり方だと書いたが、どのように人と結びついているかが、人が孤独を感じるか、感じないかに関係してくるということである。
常は皆の注目の中心にいたい人がいる。学校に行かなかったり、引きこもっていたりしていると、親を始めとするまわりの大人から早く学校に行けとか働けというようなことをいわれる。そんなことをうるさくいわれたら嬉しくはないだろうが、そういわれている限り、家庭という共同体においてその中心にいることができる。
ところが、外に出るとどうなるか。学校や会社に行くことは当然のことなので、誰もそのことをほめたりしない。病気で弱っている時は心配してもらえるが、回復すると注目されなくなるのと同じである。
街の中に出ていくと、自分のことを知っている人は誰もいないので、自分がたくさんの人の中の一人でしかないことを知ることになる。外では家の中にいる時とは違って、格別の注目を得ることはできない。その時、孤独を感じるのである。
■一人で寛げるのに、孤独感に襲われるのはなぜか
そのような人は、一人で部屋の中にいる時も孤独だが、大勢の中にいるといっそう孤独を感じるので、一人でいることを選ぶ。三木が「ひとは孤独を逃れるために独居しさえするのである」というのはこういう意味である。しかし、そのような人が大勢の人の中での孤独を逃れ一人でいれば孤独ではないかといえばそうではないだろう。
それでは、どうすれば孤独を感じないですむのか。一人でいる時、いつも必ず孤独であるわけではないことに気づかなければならない。一人でいると寛げる時があるはずである。しかし、一人でいると寛げる人が孤独感に襲われる。一人でいる時間に寛げることと、孤独感に襲われることとの違いはどこから生じるか考えてみなければならない。
一人でいることも、大勢の人の間にいることも、「外的な条件」でしかない。孤独を感じるかどうかは何かの条件によるのではない。一人であっても、他者と一緒であっても、孤独を感じる人もあればそうでない人もいる。人が置かれている状況がこうであれば必ず孤独を感じるのではないということである。
■孤独から逃れようとして、かえって孤独になる
自分が孤独であると感じるか否かは、外的条件に関係なく、他者との結びつきをどう捉えるかによる。孤独感から逃れたいがためにいつも誰かと一緒にいなければならないと思う人は、たしかに他者とのつながりを求めてはいるのだが、他者を孤独から逃れるために必要な人だと見ているので、自分の期待を満たしてくれない友人に満足できなくなる。
![一人でブランコに乗る女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/1/1200wm/img_71cee491bd201480df37727e148a06fa88696.jpg)
自分の必要のために友人を利用しようとするような人のまわりには誰もいなくなる。孤独から逃れようとして、かえって孤独になるのである。
他方、孤独を感じないために誰かと一緒にいる必要などないと思って、一人でいることを何とも思わない人は、孤独を感じることはない。
■孤独死を恐れる人が本当に恐れているもの
孤独を感じるのは生きている時だけではない。死ぬ時に誰にも看取られることなく一人寂しく死んでいきたくない、孤独死は怖いと思う人がいる。そのような人は、死そのものを恐れているのではなく、一人で死ぬという死の条件を恐れているのである。
たとえ死ぬ時に一人ではなく家族に看取られて死ぬという幸運に恵まれたとしても、人は皆一人で死ななければならない。その意味で死は絶対の孤独である。
石橋秀野に次のような俳句がある。
石橋は肺を患って38歳で亡くなった。この時、娘は6歳だった。娘は母親が担送車(ストレッチャー)で救急車まで運ばれていくのを泣きながら追いすがった。娘の泣き声は蝉時雨の声にかき消されて聞こえなくなった。秀野が句帳に青鉛筆で走り書きしたこの句を最後に句帳は「永遠の空白」になった(山本安美子『石橋秀野の一〇〇句を読む』)。
■残された人の悲しみは、死後も長時間続く
作家のキム・ヨンスは句中の「蝉時雨」に「死の気配」を読む。
「蝉時雨を思い浮かべた時、彼女にはもう死ぬだろうという予感があったであろう。子どもの泣き叫ぶ声までも飲み込んでしまうようなその蝉の声が消えれば彼女はこの世を去ることになるはずだった。一人だけで生きていく世であれば、運命が無理に今、世を去れといっても惜しくはないだろう。
しかし、私たちには皆残される人がいるではないか。残された人の記憶の中でそれが反復される限り、悲しみは長く持続するだろう。『担送車に追ひつけず』という文章はそのように長い間持続する悲しみの一つの姿である。時間はそのように持続する」(『청춘의 문장들』)
秀野の娘である山本安美子はいう。
■「絶対の孤独」である死をどう捉えるか
![岸見一郎『数えないで生きる』(扶桑社新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/9/1200wm/img_69d2e28f8259ed05aefd91cef46eed4495826.jpg)
心筋梗塞で倒れ救急車で病院に搬送された時、私は一人で死ぬというのは何と寂しいことなのかと思ったことをよく覚えている。
死の場合も人とのつながりをどう捉えるかによって孤独を感じずにすむ。たしかに一人で死ぬしかないが、自分の家族や親しい友人が亡くなった時、その人たちのことをすぐに忘れたりはしないだろう。そうであれば自分が死んでも思い出してくれる人はいるだろう。
別れは悲しい。生きている限り、死者に追いつくことはできないからである。しかし、そのような人とのつながりを信じられる人であれば、死の孤独は軽減するに違いない。
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哲学者
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。ミリオンセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(以上、古賀史健氏との共著)をはじめ、『困った時のアドラー心理学』『人生を変える勇気』『アドラーをじっくり読む』など著書多数。
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(哲学者 岸見 一郎)
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