ウジウジと悩むのは最悪…自律神経の名医が「人間関係に疲れたら、とにかく早寝早起き」と諭すワケ
プレジデントオンライン / 2023年7月10日 13時15分
※本稿は、小林弘幸『自律神経が10割』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■疲れの正体は「血流」
「最近、疲れがなかなか取れなくて……」
「体に痛みやだるさがあってつらい」
いま、心身の疲れを訴える人が増えています。ところが、病院に行っても、はっきり病気だと診断されることは多くありません。病気というほどではないけれど、慢性的な不調に悩まされている――。そんな人がとても増えているのです。
医学的な観点では、疲れというのは、基本的に血流障害が原因といえます。しつこい疲れに悩まされるのは、「血流」と「血液の質」の両方が悪くなっているからです。
血流が悪くなるのは、加齢とともに自律神経の働きが低下していくため。交感神経と副交感神経からなる自律神経は、血流や発汗、内臓機能などをコントロールする大事な存在です。
自律神経の働きが低下することで血流が滞り、それが自律神経の乱れを引き起こし、さらに血流が悪くなる……そうして負のスパイラルに陥ってしまうのです。
一方、血液の質は腸内環境と密接に関わっており、腸内環境もまた、加齢とともに環境を整える腸内の善玉菌が減少し、悪玉菌が増加することで悪化していきます。その結果、血液の質も悪くなっていきます。
そんなダブルの悪影響によって、しつこい疲れがなかなか取れないというわけです。いってみれば「血流疲労」。
では、血流と血液の質を改善するにはどうすればいいのか? 結論は実はとてもシンプルです。
体に働きかけて、「自律神経」と「腸内環境」を整えるのです。
それにより血流と血液の質は改善し、結果としてあなたの免疫力は大幅に高まります。
■体全体の免疫細胞の約7割が腸に集中している
腸内環境がよくなれば自律神経が安定し、腸内環境が悪くなれば自律神経もダメになる。それほど、このふたつは密接に連動しています。
とくに、腸内環境は副交感神経の働きに大きく関与しています。交感神経が優位になりがちな現代人が自律神経のバランスを取るには、食事から腸内環境を整えることで、副交感神経の働きを高めるのがもっとも近道です。
ただし、副交感神経ばかりを高めていても、腸内環境が悪化して便秘になってしまいます。肥満の人の多くは、交感神経、副交感神経ともに働きが低くなっています。あくまでも、自律神経はバランスが大事なのです。
近年の研究では、体全体の免疫細胞の約7割が、腸に集中していることがあきらかになりました。つまり、腸は栄養素を取り入れて毒素を排出するだけでなく、免疫をコントロールする人体最大の器官でもあるのです。
腸壁の内側にある免疫細胞は、腸内はもちろん、血流に乗って体内のいたるところで有害なものから体を防御します。
腸が整えば、便秘や下痢はもとより、風邪やインフルエンザなどにもかかりにくくなり、有害物質の発生を抑えられて、がんになる可能性も低くなります。
もちろん、肌がきれいになるなど、体のなかの美しさが外にも現れます。
腸内環境をよくするだけで、あなたの人生は本当に変わるのです。
■ストレスの蓄積による「心の疲れ」
そしてもうひとつ、わたしたちの体を疲弊させる大きな原因があります。ストレスによる心の疲れです。
ストレスの原因は「人間関係が9割、環境の影響が1割」ともいわれます。わたしたちは、ふだん自分のことを中心に考えて生きているようでいて、多くの場合、他人やまわりのことに気を取られ、気にし過ぎて生きています。
案外、自分自身を見失っていることが多いのです。
加えて、2019年末に発生した新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るい、いまだその余波が続いています。ふだんの人間関係で心が疲れていたところに、さらに環境からの強いストレスがのしかかったことで、多くの人がこれまで経験したことのないほどの疲れと、強い不安を抱えてしまったことでしょう。
自分でコントロールできないほどの大きな不安にとらわれると、体の免疫機能が落ちてしまい、疲れが一気にあふれ出てきます。そして、時間を経るごとにストレスが積み重なって、メンタルを狂わせてしまうのです。
![漫然とスマホを見ている女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/1200wm/img_e17eea9166cb86c9f72c4cc395361ac0492333.jpg)
■自分の「やるべきこと」をやろう
自分ではどうしようもない災難に襲われたとき、わたしたちはどのようにして自分の心身を守ればいいのでしょうか?
わたしは、いまこそ、「自分のやるべきことをやる」という基本に立ち返るべきだと伝えています。
たとえば、新型コロナウイルス感染症でいうならば、まずきちんと手洗いやうがいをする。
そして、食事で十分な栄養を摂り、しっかり睡眠を取る。
人が密集するところには極力行かないようにして、熱や咳、倦怠(けんたい)感や悪寒があれば会社に行ったり遊びに出かけたりしないで安静にする。
そんな「あたりまえ」のことを多くの人が守れないのなら、どんな対策をしても社会はなかなか回復しないのです。
医学的観点からいえば、ウイルスの感染拡大を抑えるために一時的に都市を封鎖し、人の流れを止めることが効果的であることはいうまでもありません(実際にそのような政策を行った国々もありました)。
一方で、経済的・社会的な影響を考えると、会社や学校などを簡単に止めるべきではありません。そんなジレンマのなかでわたしたちは重大な判断をし、これからも少しずつ、前へ進んでいかなければなりません。
だからこそ、わたしたち一人ひとりが健全な生活習慣と、「あたりまえ」のことを守る倫理観を持つ必要があります。
その意味では、今回の出来事とそれに対するわたしたちの行動は、一人ひとりの倫理観を根底から問うものだったともいえるでしょう。
■いまは生き方を見つめ直す時期
わたしたち一人ひとりが「やるべきこと」をしっかりやり、倫理観を持って行動すれば、社会全体が大きな混乱に陥るのは避けられるはずです。
そのために、いまわたしたちは、巷にあふれる不正確な情報に煽られることなく、時間をかけて、自分の考え方や生き方を見つめ直す時期にきているのではないでしょうか。
それこそ、家のなかや身のまわりの整理をしたり、仕事や生活、将来について考えたりするのもいいでしょう。
少しだけ増えた自由な時間に、家でゆっくりと自分を見つめ直してみる。すると、やがて違う考えや景色が見えてくるはずです。
わたしたちは、今回の出来事を「禍を転じて福となす」とし、一人ひとりが力強く立ち直らなければなりません。
たとえ健康に問題がなかったとしても、現実に経済的な打撃を受けた人は多いでしょう。長年やってきた店を畳んだり、突然職を失ったり、仕事が減ってしまったりした人もたくさんいると思います。
つらいことですが、それだけを考えていたら心が疲れ果てて、自分をダメにしてしまいます。
いつか暗闇を抜けて、前に向かって再び歩きだすときはやってきます。そのときのために、心の免疫力を保つ、それがいまもっとも大切なことです。
自分でコントロールできないものに振り回されて、自分を疲弊させてしまうことほど、最悪なことはありません。
自分のせいではないのに、それによって自分が乱されたら、こんなに悔しいことはありません。ウイルスをはじめとする外的要因に、自分の人生や暮らしや心を好きにさせてはいけません。
心の免疫力を高めて、自分をしっかりと持っておく。そして、次のステップへ進みましょう。
これは人間関係のストレスをはじめ、すべての心の疲れに通じています。
■心と体と環境のクリーニングをしよう
わたしたちは、いまこそ自分が「やるべきこと」をやり、ふつうの生活に戻していく必要があります。
なにをいちばん大切にしなければならないのか――。
それは、やはり自分を見失わないことに尽きます。
不安に煽られてはいけません。不安にかられると、なにより将来に対しての見通しが立たなくなってしまいます。
自分を見失わないためには、自分がどんなことに希望を持ち、人生でなにをやって生きていきたいのかを、もう一度自分で見つめ直すことをおすすめします。ぜひいまのあなたの生活習慣から変えていってください。
人生には思いどおりにならないことがありますが、生活習慣は自分の意志で変えられます。早起きをし、3食をきちんと食べ、食事は腹八分目に。継続的に運動をして、夜は湯船に浸かって疲れを癒やす。そして、早めに寝る。
いますぐにでもできるはず。
自分でできることからはじめたら、次は周囲の環境を整えていきましょう。部屋を整理し、長年使っていないものを処分する。心も体も環境も、すべてをクリーニングしてみてはいかがでしょうか?
![小林弘幸『自律神経が10割』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/8/1200wm/img_78bac5d2d36ebcace7e9bcacf794d0b4169665.jpg)
その過程で、あなたの心と体は変わっていくことでしょう。それまでとは違う自分がいることに気づくはずです。新しい自分になることで、また新しい発見や出会いがきっとあるはずです。
不安があるなかで、自分を励まし続けて生きる。
いちばんよくないのは、押し寄せてくる波に押しつぶされることです。そうではなく、理不尽な波であっても、いかにうまく乗るか、流れをどうやって変えるのか。
いましかできないことを、しっかりやりましょう。
わたしたち一人ひとりの行動に、この社会の行く末も、未来の希望もかかっています。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)
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