すぐにググる人は絶対に出世できない…伝説の経営コンサルが「検索するな」と口を酸っぱくする理由
プレジデントオンライン / 2023年7月13日 9時15分
※本稿は、内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■検索して出てくる情報は差別化につながらない
私の情報術における基本スタンスをひと言で述べれば「情報は整理するな、覚えるな」ということになる。インプットにいくら時間をかけたところで、労力に見合ったアウトプットが出せない時代だ。
さらに「検索するな」もここに加えたい。検索して出てくるような情報は、誰もが手にできる情報であり、差別化にはつながらない。「情報は整理するな、覚えるな、検索するな」。これが、私の情報に対する基本スタンスだ。
理想は、インプットにはなるべく時間をかけず、成果を出すこと。いわば、インプットに10の労力をかけ、1の成果を出すのではなく、1のインプットで10の成果を出してしまおうという、虫のいい情報術こそが、私の提唱するものだ。
そして、そのために必要なのが、「アウトプットから始める」情報整理・活用術なのだが、では「アウトプットから始めるインプット」とは、どのようなものなのか。
■情報収集は目的を明確にしたうえで行うべき
ここで必要となるのは、情報に接する前に、自分の「スタイル」を明確にするということだ。
つまり「何を目的として」「どんな立場(ポジション)で」「どんな役割を期待されて」情報を生かそうとしているのかを明確にしたうえで、情報に接する。それにより情報収集のスピードは速くなり、差別化もしやすくなる。
まず意識すべきは「情報活用の目的」である。情報活用、つまりどんなアウトプットが必要なのかを明確にしたうえで、情報に接するということだ。
あなたが通信社の記者でもない限り、「情報を集めることそのものが仕事だ」ということはないはずだ。なのに、「なんのために情報を求めているのか」ということは、意外と忘れられがちである。
目的意識を持つと情報収集のスピードも精度も大いに高まる。アンテナを立てることで、必要な情報が飛び込んでくるようになるからだ。
■「意思決定」のための情報収集はスピード重視
「目的」といっても、そのアウトプットのスタイルによって大きく三つに分かれる。「意思決定の助けとなる情報」「アイデアの元になる情報」、そして「コミュニケーションの手段としての情報」だ。
それぞれ、必要となる情報の内容も違えば、重視すべきポイントも違う。ここを間違えると、不要な情報を集めてかえって意思決定が遅れてしまったり、無駄な情報収集に多大な時間をかけたりしかねない。
順に説明していこう。まず「意思決定の助けとなる情報」とは、その名のとおり「何かを決断するための情報」だ。「この事業に進出すべきか否か」といった大規模なものから、「今日の昼食はどこで食べるか」までレベルは様々だが、重要なのはスピードだ。
![会議をするビジネスパーソン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/a/1200wm/img_6aa91e5ab60b34b4503a4cebdbad005c159363.jpg)
情報の精度が高いに越したことはないが、あまり時間をかけすぎると、せっかくのチャンスを逃してしまったり、昼食の時間がなくなってしまったりする。
では、どのような情報を集めればいいのか。ここでご紹介したいのが、「情報とはマイナスのエントロピーである」という言葉だ。
■「エントロピーを減少させる情報か」を考える
これは以前、情報理論の専門家から聞いた話である。
エントロピーというのは、もともと熱力学の用語で、簡単に説明すれば物質やエネルギーの乱雑度合いや偏り具合を表す。状態が無秩序で混乱していたり、不確実性が高いことをエントロピーが高いといい、逆に状態が整然としていたり、確実な状態であることをエントロピーが低いという。
これを情報理論にあてはめ、エントロピーを「事象の不確かさ」と定義すると、エントロピーが減少すればするほど、事象の確実性は高まるということになる。つまり、エントロピーを減少させる方向に働く情報こそが、物事の確実性を高める、優れた情報ということになる。そういう意味で、「マイナスのエントロピー」と定義しているわけである。
情報の中には、それを加えることでエントロピーが減少するものもあれば、むしろエントロピーが増大してしまうような余計な情報もある。
膨大な情報の中から、何が「エントロピーを減少させる情報か」を考えることが、意思決定のための情報収集の助けとなるのだ。
■選択の幅を広げる情報は、意思決定に不要
ある商品の売上アップの施策がA、B、Cの三つ上がっていたとする。
ここで「A、B、Cそれぞれの施策を打ったときに想定される売上アップ率」「それぞれの施策にかかるコスト」「実行時のリスク」といった情報があれば、「Aは売上アップ効果があまり期待できないから外そう」「Bはリスクが高くなるからやめておこう」などという意思決定に役立てることができる。つまり、これらの情報は、「マイナスのエントロピー」である。
一方、「A・B・Cに加えてDという選択肢もあるのではないか」とか、「Eを検討したほうがよい」という情報が入ってくると、選択の幅が広がってしまう。つまり、エントロピーを高くしてしまう。これは意思決定においては「不要な情報」ということになる。
■「ちゃぶ台返し」をするのはダメ上司
もちろん、実はA・B・Cでは不十分で、新たな選択肢を検討しなくてはいけない場合もある。だが、意思決定の場というのは、ここまで十分に検討してきた最終段階である。ここでいきなり別案を出すのは、それまでの検討が不十分だったということを自ら認めるようなものである。
だが、現実には検討の最終段階において、「やっぱりこの方向もありではないか」などと言い出すリーダーは多いものだ。いわゆる「ちゃぶ台返し」であり、現場は大混乱する。
あるいは、部下から上がってきたレポートに対し、「うん。これはこれでよくわかったけど、ここが本当かどうかもっと詳しく調べてくれ」とか、「これについては情報が何も書いていないが、どうなってるんだ?」といった指示をすることは、一見正しいように見えて、実は意思決定を遅らせる余計な情報になりかねない。
あなたがリーダーの立場にいるとしたら、知らず知らずのうちにこうした指示をしていないか、注意していただきたい。
■調べれば調べるほど悪循環に陥る
![内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1200wm/img_a1256d06d75d5411cceed22ca2d6e24366023.jpg)
だが、これは何もダメ上司だけの話ではない。何かを決めなくてはならないのに、なかなか決断ができずつい先延ばしに。そのうち、「あの数値はどうだろう」「あの人はどう言っているだろう」などと別の情報が欲しくなり、それを調べれば調べるほど判断ができなくなる……という悪循環に陥っている人もまた、多いはずだ。これはまさに「エントロピー」がどんどん増加してしまっている状態だ。
あらゆる情報を集めないと気が済まない、いわゆる「網羅思考」のもう一つの問題点がまさにこれである。情報が多ければ多いほどエントロピーが増加し、決断ができなくなってしまうのだ。昔の人は「下手の考え休むに似たり」と言ったが、言い得て妙である。
意思決定に必要な情報はあくまで「マイナスのエントロピー」と捉え、何をやめるのか、何を捨てるのかといった視点で情報を集める努力をしてみれば、違った景色が見えてくるはずだ。
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早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業後、日本航空入社。在職中に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。2006年、早稲田大学教授に就任。早稲田大学ビジネススクールでは競争戦略やリーダーシップを教えるかたわら、エグゼクティブプログラムに力を入れる。著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)、『意思決定入門』(日経BP)など多数。
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(早稲田大学 名誉教授 内田 和成)
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