近づかないと読めないほどマス目の字が小さい…バカ売れしたZ世代向け「すごろく」の驚きの仕掛け
プレジデントオンライン / 2023年7月8日 15時15分
※本稿は、今瀧健登『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■商品とひも付く「エモシチュエーション」を考える
ここから、具体的な商品にひも付くエモシチュエーションを考えます。このときも、1人で発想するのではなくプロジェクトチームで話し合います。
その上で、注意しておきたい点があります。
自分がマーケティングする商品やサービスが、異性や別の年齢層向けだったりする場合もあるでしょう。あるいは、「Z世代向けの発信だから」と、自分とは関係のないものだと考えてしまう。それは過ちです。
共感を生むためには、売るものが自分自身に結び付くことが大事です。「自分が欲しいと思うものでなければ、人には売れない」というのは、どんなビジネスにも共通する鉄則です。
自分の存在しないマーケティングをしようと思うと、とても難しくなってしまいます。何を基準に「いい」「悪い」と考えればいいのかがわかりません。
もちろん、例えば中年男性が化粧品のマーケティングをするのであれば、直接エモを感じることは難しい。それでも、その世界に自分自身がいることが大事です。
そのためには、商品のターゲット層を通して、商品を自分に結び付けます。
身の回りに化粧品を使う人はいるはずです。自分の子供、妹、親戚、会社の後輩、同期の子供でもいい。そうした人たちにあげたくなる商品はどんなものなのか、という視点で考えます。この場合、買うのは自分ですから、自分自身をターゲットにすることができます。
逆もしかりです。若い人が年配向けの商品についてのエモシチュエーションを考えるのであれば、身の回りの人を介して考えるようにしましょう。
![【図表】ターゲットを通して商品を自分に結び付ける](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/1200wm/img_d739278ce8f872cb6460e5c560e9deda270555.jpg)
■みんなですごろくを覗き込むシチュエーションはエモい
より多くの人に共感してもらうためには、多くの発信があったほうが有利です。1つの商品やサービスについて、5つ以上のエモシチュエーションを考えます。
商品にひも付いたエモシチュエーションの考え方は大きく2つです。商品を起点にエモシチュエーションを考えるか、別の発想から考えたエモシチュエーションを商品にひも付けるか、です。
まずは前者について考えます。理想としては、その商品の機能的な価値からエモを考える方法です。
例えば、ポリフェノール配合の商品の機能的な価値として、「美肌」と捉えたとします。そこから発想していきます。
・朝、肌の調子がよかったから家族に自慢した
・会社に行ったら同僚に「肌綺麗だね」と褒められた
・先輩に「コスメ、何使ってるの?」と聞かれた
本書の第2章でお話ししたエモの条件、「経験」「ハッピー」「コミュニケーション」が内包していることを意識しながら考えましょう。
次に、その商品を消費すること自体がエモいパターンもあります。
僕たちが企画し、Z世代を中心にヒットした「ウェイウェイらんど!」という商品があります。お酒とすごろくがセットになった商品で、乾杯マスやゲームモードなど、お酒を楽しみながら遊ぶことができます。
これは、商品を使って遊ぶこと自体で、会話が生まれるように設計しています。
企画段階では、みんなですごろくをしているとき、どんな状況がエモいかを考えました。
思い付いたのは、それぞれのマスに止まったとき、「何が書いてあるの?」とみんなで覗き込む、頭がぶつかりそうな距離感です。そのため、この商品ではマスの中の文字を敢えて少し小さくしています。
このように、その商品を使う状況を想定し、そこにちょっとハッピーなコミュニケーションをプラスする考え方です。
■「あったあった。懐かしいね」と共感されるか
商品そのものからは、エモを発想しづらい場合もあります。
例えばペンについて、「ペンからはエモシチュエーションを思い付かないな」「ペンは1人で使うものだし、コミュニケーションを考えづらいな」となったときに、まったく違うものとひも付けられないかを考えます。
まずはターゲットから聞いたエモシチュエーションの中に、商品とひも付けられるものがないかを考えましょう。例えばワインで考えてみます。
「ワインは好きだけど普段特にこだわることはなくて、コンビニで買ったりファミレスで飲んだりしている」というターゲットがいたとします。そんな人から「自分の生まれた年のワインをもらったとき嬉しかった」というエモシチュエーションが出たとします。
これをペンにひも付けてみると、「1997年生まれのためのペン」という発想が出てきます。実際に共感を呼ぶかどうかは後で考えます。どんどん数を出していきましょう。
次に、ターゲットから聞いた「アートを見ている時間」というエモシチュエーションとペンをひも付けられないかと考えたとします。直接ひも付けるのが難しければ、「絵を描くときのエモって何があるだろう?」などと発想を広げます。
そうして例えば、「中学校の美術の時間で自分の左手を書いたな」と思い出したとします。チームのみんなでそのことを話してみます。
・「手ってよく見ると皺がたくさんあるって思ったな」
・「手相って右手と左手で違うんだよね」
・「爪を書くのって難しいんだよね」
そこにコミュニケーションの要素が加わった発想が出てくれば、エモシチュエーションになり得ます。
・「意外に手の大きい奴がいて、大きさ比べしたな」
・「人差し指と薬指どっちが長いかで性格診断しなかった?」
それにみんなが「あったあった。懐かしいね」と共感するのであれば、「中学生から70歳まで使えるペン」という発想も出てきます。
中学生の頃に左手を描いたペンを、70歳になっても使っている。そうした状況を設定することで、「アート×ペン」のエモシチュエーションを生み出すことができます。
これがコーヒーとペン、アートとペンをどうにかひも付けようと考えてしまうと、なかなか発想が出てきません。たくさんのエモシチュエーションから広げて考えてみましょう。
■ピンポイントに、その瞬間を思い出してもらうように質問する
ここまでの発想法はターゲットから引き出したエモを参考に、シチュエーションを考えるものでした。加えて、ターゲットに直接商品やサービスを提示して探るパターンもあります。
このときもエモの条件である「経験」「ハッピー」「コミュニケーション」を踏まえて考えます。例えば先ほどと同様にペンのマーケティングを考えているとして、ターゲットに「筆箱の中のどのペンがお気に入り?」と聞きます。
「このボールペンかな」
「へー、いつ買ったの?」
「いや、これは昔上司にもらったの」
「そうなんだ、いまの上司?」
「昔の部署の上司。3年前くらいにもらったかな」
「なんでプレゼントしてくれたの?」
「初めて契約取れたときに。みんなにくれたんだけどね」
「そうかー。その人との会話で覚えてることある?」
これだけでも「上司との思い出×ペン」の発想が生まれます。
あるいは、ターゲットが選んだのが修学旅行で買ったペンかもしれません。すると「ここでしか買えないペン」という訴求方法も見えてきます。
このとき、ふわっと「ペンに関する思い出は?」と聞いてしまうと、ある程度、みんな答えを持っています。ピンポイントに、その瞬間を思い出してもらうように質問します。
そうして思い出すシチュエーションは、ハッピーなもののほうが多いでしょう。それだけで、エモの条件を満たしているわけです。
![【図表】商品とひも付くエモシチュエーションを考える3つのパターン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/1200wm/img_4bcd4cb0955bdcc96db29d64e71ea7b7497423.jpg)
■受験、恋愛…多くの人が経験するシチュエーションから考える
共感を最も生みやすいのは、「限られた共通経験」です。例えば「パリに行ったことがある」という共通経験があるとしたら、「シャルル・ド・ゴール国際空港に着いたときのわくわく感」にとても共感します。
ただ、それではより多くの人の共感を呼ぶものにはなりづらい。エモシチュエーションを考えるとき、前提となるシチュエーションはみんなが経験したことがあるところから考えたほうが発想しやすいと言えます。
多くの人に共通する領域として、最もわかりやすいのが「恋愛」です。読者のみなさんも、イメージしやすいのではないでしょうか。
それに、「学校」や「受験」もエモが生まれやすい領域です。社会人になってからはそれぞれバラバラの生活をしていて、共感できる部分がどんどん少なくなっていきますが、中学校まではみんなが経験しています。
あるいは、「家族」です。一概には言えませんが、親、祖父母、きょうだいなどとの関係性は共通項の多い部分です。
それから、ライフイベントもあります。入学式、卒業式、体育祭、文化祭。年齢層が上がってくると成人式や結婚式、同窓会です。「初めての一人暮らし」といったものもあります。
音楽も共通する部分が多い領域です。昔聞いていた曲などはほかの人も共感しやすいでしょう。それに音楽は感情にダイレクトに影響するので、エモい可能性が高いと言えます。好きなアーティストの歌詞から発想してみるのもいいでしょう。
■「あるある」をいかに見つけられるか
![今瀧健登『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』(クロスメディア・パブリッシング)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/f/1200wm/img_9ff11b5f59bf88a49303fd9ff383c08b232631.jpg)
もっと日常的なことで言えば、「子供の頃に行った○○」です。僕の場合、子供の頃親に連れられてIKEAに行っても面白くありませんでした。それが大人になってから行ったら、とても楽しい空間でした。
「このソファーいいな」「スリッパも売ってる」「え、食器まで売ってるの? 必要なもの全部揃うじゃん」。そうして「昔来たときには気付かなかった」「あのときは面倒だったな」と思い出すことが、エモに繋がっていきます。
簡単に言えば、エモシチュエーションは「あるある」です、みんなが経験する領域を大枠に考えて、それに商品をひも付けるやり方が発想しやすいでしょう。
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僕と私と株式会社CEO
一般社団法人Z世代代表、Z世代の企画屋。1997年生まれ、大阪府出身。横浜国立大学教育人間科学部在学中に起業。花屋のコンサルティングやグラフィックデザインを担うほか、花贈りブランド『HANARIDA』をリリース。2020年、大学卒業後に教育コンサルティング会社に就職。同年に「僕と私と株式会社」を設立し、Z世代向けのマーケティング・企画UXを専門に事業を展開する。メンズも通えるネイルサロン『KANGOL NAIL』、食べられるお茶『咲茶』などを企画。プロデュースしたマッチングアプリ「タップル」の公式TikTokアカウントでは、開設1年でフォロワー約35万人、総再生回数は2億回を突破している(2023年3月末現在)。また、「サウナ採用」などのユニークな働き方も提案。
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(僕と私と株式会社CEO 今瀧 健登)
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