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「たられば」ばかりで議論が進まない田代ダム問題…リニア妨害の川勝知事の「エンドレス蒸し返し作戦」

プレジデントオンライン / 2023年7月7日 7時15分

6月27日の会見で「田代ダム案」の実現可能性を問題にした川勝知事(静岡県庁) - 筆者撮影

リニア中央新幹線の工事を巡り、静岡県が協議開始を認めた「田代ダム案」の雲行きが怪しくなってきた。ジャーナリストの小林一哉さんは「川勝平太知事が『たられば』の懸念ばかりを持ち出して議論が一向に進まない。このままではリニア開通など永遠に実現しない」という――。

■川勝知事の「妨害宣言」と「二枚舌」

静岡県のリニア議論の最大の焦点である水環境問題の解決策としてJR東海が提示し、川勝平太知事がようやく協議開始を認めた田代ダム案に暗雲が垂れ込めている。

JR東海は6月22日、静岡、山梨県境付近のリニアトンネル工事中の全量戻しの解決策・田代ダム案の協議を、東京電力リニューアブルパワー(東電RP)と開始したことを発表した。

ところが、23日には川勝平太知事が協議開始に当たって妨害を示唆するコメントを出した。続いて、27日の定例会見で、「田代ダム案の実現可能性にいくつかの論点がある」などと述べ、今後も妨害していく姿勢まで明らかにした。

さらに29日開催の静岡県議会で川勝知事は、沿線都府県の加盟する建設促進期成同盟会で田代ダム案を巡りリニア建設推進の発言をしたにもかかわらず、それを否定する相変わらずの“二枚舌”を使って、リニア妨害を宣言したのだ。

6月27日公開のプレジデントオンライン「ついにリニア妨害は論理破綻…県庁職員も頭を抱える川勝知事の『デタラメ会見』の中身」で、田代ダム案がまとまれば、リニア静岡工区の着工へ大きく前進すると伝えた。

ところが、川勝知事は、田代ダム案を妨害し続けることを明らかにした。このままでは、同案を静岡県が正式に認めるまでに長い時間が掛かる。つまり、水環境問題の全面解決へはこれまで通り険しい道のりとなる。

川勝知事のリニア妨害をこのままにしておいていいはずがないが、打つ手なしの状態だ。

本稿では、今回の田代ダム案の協議開始に対する静岡県の想定外のリアクションとともに、同案を通して、リニア妨害に固執する川勝知事の意図を伝える。

■リニア工事中の「流出水」を担保する田代ダム案

田代ダム案が登場した理由、すなわち川勝知事の求める「全量戻し」とは何かを説明する。

JR東海は、リニア工事に伴う環境影響評価準備書で「静岡工区のリニアトンネル工事で大井川上流部の流量が毎秒2トン減少する」と予測した。

当初、毎秒2トン減少に対して、1.3トンを回復させ、残りの0.7トンは必要に応じて戻す対策をJR東海は表明した。

これに対して、「全量戻せ」との川勝知事の激しい反発が続き、2018年10月、JR東海は「原則として工事中、工事後の湧水全量を戻す」ことを公表した。この発表で、「全量戻し」に象徴される静岡のリニア問題は解決したとみてよかった。

ところが、川勝知事は「全量戻し」の“ゴールポスト”をつくり変えてしまう。当時、県リニア専門部会で議論の最中だった静岡、山梨県境付近の別の工事によって県外流出する湧水の全量まで静岡県の求める「全量戻し」に含まれるとしてしまったのだ。

断層帯が続く県境付近で、JR東海は作業員の命の安全を踏まえ、上り勾配の山梨県側から掘削すると説明。約10カ月間の工事中に、全く対策を取らなければ、最大500万トンの湧水が静岡県側から山梨県側へ流出すると推計した。

■別の工事までもが「全量戻し」の対象に

「全量戻し」ということばが独り歩きし、それがJR東海との約束だとする川勝知事に押し切られるかたちで、国の有識者会議は2021年12月の中間報告に「JR東海は全量戻しを表明したことを踏まえ、県外流出量を大井川に戻す方策について、今後、関係者の納得が得られるように具体的な対策などを協議すべき」と明記してしまった。国交省鉄道局の決定的なミスだった。

大井川からの田代ダム取水口(静岡市)
筆者撮影
大井川からの田代ダム取水口(静岡市) - 筆者撮影

つまり、JR東海は、大井川下流域の水環境への影響とは無関係だが、あまりに面倒な「全量戻し」を迫られることになったのだ。

JR東海は2022年4月、県境付近から山梨県へ流出する最大500万トンの湧水の全量戻し解決策・田代ダム案を東電RPの内諾を得て提案した。田代ダムの水は東電RPが所有する山梨県の発電所で使用されているためだ。

毎秒4.99トンの田代ダムの水利権を持つ東電RPが取水を抑制し、工事の一定期間に限って、毎秒約0.2トンを大井川にそのまま放流するものである。

ただ東電RPは、田代ダム案が工事後の水利権と無関係であることを県と流域の関係自治体に了解してもらう前提条件をJR東海に託した。

「反リニア」に徹する川勝知事が、JR東海の田代ダム案の発表以来、一貫して同案が水利権と関係があるなどと繰り返して、同案を妨害してきたことは、6月27日公開のプレジデントオンラインで詳報した。

川勝知事の“水利権関係発言”こそが、東電RPにとって協議を開始する最大のネックとなっていた。

■すでに議論が出尽くした部会に議論を戻そうとする川勝知事

田代ダム案と水利権との関係をあらゆる場所で発言し、「反リニア」に徹する川勝知事の姿勢に危機感を抱いた流域の市町長らは「田代ダム案の協議を進めてもらいたい」姿勢を一致して示した。

島田市など流域市町長が、国が積極的に関与するよう要望、県の田代ダム案を進めない対応に不満をあらわにした。

流域関係市町の圧力を受けて、静岡県は6月14日、「田代ダム案が東電RPの水利権に影響を与えない、静岡県を含めた大井川流域市町は同案を根拠に水利権の主張をしない」などとする通知をJR東海に送った。

これで、田代ダム案について具体的な協議開始の環境が整った。

JR東海は22日、田代ダム案の協議開始を発表。これ対して、川勝知事は23日、コメントを出した。

「JR東海に対して、東電RPと協議を開始するよう繰り返し求めてきた」とした上で、「両社の協議が整い次第、県の地質構造・水資源専門部会(県リニア専門部会)で対話を進めていく」としたのだ。

■議論すべきは流域市町長らが参加する別の協議会のはず

水利権を持ち出して東電RPの協力を撤回させようとしながら、表面的に協議開始だけを求めていた“裏事情”を一般の県民は全く承知していない。その上、意味のない県リニア専門部会との対話を求めているのだ。

田代ダム案を議論した県リニア専門部会(静岡県庁)
筆者撮影
田代ダム案を議論した県リニア専門部会(静岡県庁) - 筆者撮影

これまで県リニア専門部会で、田代ダム案についてあらゆる疑問、意見が静岡県側から出され、JR東海はほぼすべてに回答してきた。東電RPの河川流量実測値から県外流出量と同量を大井川に放流することを詳しく明らかにした。

委員から「渇水期に水を戻せるのか詳細な記録を示せ」という重箱の隅をつつくような意見にも対応したほか、東電RPの資料に欠測があることまで問題にしたため、そのすべての資料を県専門部会に示している。つまり、県専門部会での対話はすでに終えているのだ。

国の有識者会議が指摘したように、田代ダム案に納得できるのかどうかは、県を含めた流域市町長ら関係者が参加する「大井川利水関係協議会」の場で行うべきである。

それを分かっているのに、川勝知事は田代ダム案がまとまったところで、“御用学者”で構成する県リニア専門部会に諮るというのだ。これには、何らかの意図があるとしか思えない。

■「たられば」の懸念ばかりを持ち出しては議論を遅滞させる

筆者がそう考えていると、27日の定例会見で、日経新聞記者が「県リニア専門部会で対応を進めるというコメントが不明確だ」と指摘した。川勝知事は「取水抑制できる最大限以上に、もし水が出た場合はどうするのか、実現可能性がいま問われている」などと不思議な回答をした。

「実現可能性」とは一体、何か?

川勝知事はこれまで県議会などで、JR東海の「最大500万トン」という県外流出量以上の水が出た場合を想定する発言をしてきた。

県リニア専門部会委員が水収支の計算となる前提条件を変えた場合、県外流出量の「500万トン」が「5000万トン」にもなる針小棒大とも言える仮定の話を持ち出し、川勝知事はそれをうのみにした発言を繰り返した。

つまり、県専門部会で「たられば」の仮定の議論を行い、それで「実現可能性」を問題にしようとしているのだ。

さらに「渇水期にも取水抑制ができるのか等々、いくつかの論点がある」などすでに議論されてきた問題まで持ち出した。その上で、川勝知事は「専門部会でいくつかの論点が出る。その論点に即して実現ができるのか、実現が難しいとなるのか」と疑問を投げ掛けた。どう考えても、これまでの議論を蒸し返すだけであり、あまりにもムダである。

事業者のJR東海は、静岡県が懸念を持ち出せば、その懸念を解消するための回答を用意しなければならない。川勝知事は屋上屋を架してまで田代ダム案を妨害していくつもりなのだ。

■水質や生態系など別の懸念まで持ち出す始末

29日の静岡県議会で、大石健司県議(自民)が「5月31日の建設促進期成同盟会で、知事は、リニアに一貫して賛成している、リニア大推進論者と表明した上で、田代ダムの取水抑制と発生土問題が合理的に解決すれば、(リニア問題には)何の支障もなくなる」との知事発言を確認した。

県議会でも田代ダム案の実現性を問題にした(静岡県議会本会議場)
筆者撮影
県議会でも田代ダム案の実現性を問題にした(静岡県議会本会議場) - 筆者撮影

ところが、川勝知事は「期成同盟会での合理的に解決すれば何の支障もないとの発言は、2つの大きな課題である田代ダム取水抑制の実現性と発生土処理の適切性などが合理的に解決すれば、支障はなくなるということだ」などとここでも「田代ダム案の実現性」を問題にした。

さらに「水質や生態系の影響などこれまでのJR東海の説明はまだ不十分であり、解決には至っていない」など別の障害まで持ち出している。

川勝知事は田代ダム案さえ今後も妨害していく姿勢をはっきりと示している。同案と水利権との関係は主張できなくなったが、今後もさまざまな手を使って同案つぶしに躍起になるのは間違いない。

2020年当時、川勝知事はリニア問題によって「国論を巻き起こす」と息巻いた。現在もその考えは同じなのだろう。リニアが日本国にとって必要なのかどうかを議論すべきだと言うのだ。

日本国の未来を担うリニア建設の実現を本当に目指すのならば、政府は、川勝知事の“攻撃”を受けて立つべきだ。川勝知事を止めなければ、だらだらと時間ばかりが過ぎていくことになる。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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