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プーチンが民衆に引きずり下ろされる未来が見える…プリゴジンが「2度目のロシア革命」を予言した背景

プレジデントオンライン / 2023年7月19日 8時15分

ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏=2023年6月24日に関連会社コンコルドが通信アプリに投稿した動画より - 写真=AFP/Telegram channel of Concord group/時事通信フォト

■このままではロシア革命同様の事態に直面する

プーチン大統領の側近が、また一人いなくなった。ロシアの傭兵集団トップのエフゲニー・プリゴジン氏は武装蜂起し、モスクワの200キロ手前まで進んだものの、突如進軍を停止。わずか1日で幕引きとなった。

なぜ性急な行動をとったのか。そして、プーチン政権をどのように見ていたのか。本稿では欧米主要紙を基に、彼の意図を読み解きたい。

プリゴジン氏はこの数カ月、政権幹部を厳しく批判しており、プーチン氏に失脚の時機が近づいているとSNSで警告していた。特に海外メディアが注目したのが「第2のロシア革命」発言だった。プーチン氏への敬意は維持していると断りを入れながら、絶大な権力を誇ったロシア皇帝が民衆によって引きずり下ろされた歴史的革命になぞらえ、警告した。

ロシアのエリート層が戦争に本気で注力しない限り、第1次世界大戦をロシアが途中離脱する原因ともなったロシア革命同様の事態に直面する――。ロシアはウクライナの戦争に敗れるおそれさえあるとの見解を示していた。

■数十万人が蜂起し、再び革命が起きる

武装蜂起の直前、欧米の主要メディアは、プリゴジン氏の「第2のロシア革命」発言に大きく反応した。

ニコライ2世
ニコライ2世(写真=Р. Голике и А. Вильборг/PD-RusEmpire/Wikimedia Commons)

ワシントン・ポスト紙は、『プリゴジン氏、ウクライナ戦争は裏目に出たと発言 ロシア革命を警告』という見出しで、ロシア地域担当記者Mary Ilyushina氏の署名記事を配信した。

同紙によると、プリゴジン氏は「孤立した裕福なエリート層が、より直接的にロシア政府に関与しない限り、モスクワの残忍な戦争はロシアを1917年の革命と同様の混乱に陥らせる可能性がある」と警告。ウクライナの非武装化に失敗したプーチン氏の戦争は裏目に出ており、「ロシアを失う状況すらあり得る状況にある」と語った。

米CNNは、「侵略による損害が続けばロシア国民は革命を起こす可能性がある」という見出しで報じた。同局はプリゴジン氏の次の発言に着目した。

「(ロシアの損害が続けば)1917年の時のように、革命という名の結末を迎える可能性がある」
「まず兵士たちが立ち上がり、その後、彼らの愛する人たちが立ち上がるだろう。殺害された人々の親戚が数百人、すでに何万人もいると考えるのは間違いである」
「そしておそらく数十万人がいるでしょう。それを避けることはできません」

■無傷のロシア・エリートに憤慨している

プリゴジン氏の「革命発言」は、ウクライナ侵攻による悪影響を免れているエリート層への不満を反映している。

プーチン氏や軍部トップが率いる戦争により、ロシア国内では動員への恐怖が広がっている一方、オリガルヒ(新興財閥)たちは国外へ退避し戦争と無縁の生活を送っていることへの反発と見られる。

米CBSニュースは「ワグナー・グループのボス『プーチンの肉屋』、ロシアはウクライナ戦争に負けて「革命」に直面する危険があると語る」と題する記事で「革命発言」に注目。戦争の直接の被害者である兵士らから順に蜂起が始まるとのプリゴジン氏の見方を紹介している。

2010年9月20日、ウラジーミル・プーチン首相が、学校に調理済み給食を供給する新工場「コンコード」を視察
2010年9月20日、ウラジーミル・プーチン首相が、学校に調理済み給食を供給する新工場「コンコード」を視察(写真=Government of the Russian Federation/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

「エリートの子らは……公の場で太って気ままな生活を送ることを許されている」
「他の人の子らは棺の中でズタズタにされて戻ってくるのに」

プリゴジン氏が、国の最高幹部や政財界のエリートたちを批判するのはこれが初めてではないが、同記事では「プリゴジン氏は彼らを無能とみなしており、外国財産を所有し、子供たちを海外に送り出したことを反逆罪で告発したことさえあるが、インタビューでは彼の発言の厳しさが際立った」と指摘している。

ロシアの市民たちが「投石器」を携えてエリートの自宅や別荘を襲撃するおそれがある――。プリゴジン氏は「彼らが数百人だとは思わないように」「いまや犠牲者の家族は数万人に及び、(反旗を翻す人々は)数十万人ともなるだろう」と語っている。

■戦争長期化に苦しむ国民、革命前夜との共通点

ロシア革命とは、20世紀初頭、専制君主制を敷いていたロシア帝国の崩壊を招いた革命運動だ。第1次世界大戦に参戦した皇帝・ニコライ2世は「汎スラブ主義」(スラブ系民族の連帯・統一を目指す思想・運動)を押し出してロシア軍の総動員を指示。ところが予想に反して戦争は4年以上続くことになった。

敗戦が続いたロシアの国民生活は次第に大きく制限されるようになり、貧困にあえぐ民衆は皇帝への不満を蓄積させた。戦争に人員と資材を投入した結果、農作物の生産から交通に至るまで、ロシア帝国は広範な機能不全に陥った。

1917年3月、食糧事情の改善を訴えるストライキが勃発。これを契機に、戦争反対の声はロシアに大きくこだますることになる。臨時政府の勧告を受け入れる形でニコライ2世は退位を受諾。のちに三月革命と呼ばれたこの運動により帝政は終焉(しゅうえん)した。同年、レーニンが社会主義国家の樹立を目指した十一月革命と合わせ、ロシア革命と呼ばれる。

この三月革命は、ウクライナ侵攻後の現在のロシアの国内事情と重なる点が多い。専制的な政治指導者が民族主義を謳った戦争をけしかけるが、予想を超えて長期化。それに苦しむ民衆の不満が蓄積している構図は、現在と驚くほど似通っている。

画像=プリゴジン氏のテレグラムより
画像=プリゴジン氏のテレグラムより

■「北朝鮮モード」で総力戦体制を求める

画像=プリゴジン氏のテレグラムより
画像=プリゴジン氏のテレグラムより

さらに、プリゴジン氏が訴えようとしたのは、「総力戦体制への移行」と「ウクライナを過小評価しないこと」だった。

ニューヨーク・タイムス紙は、「ワグナー・グループは、ロシアが総力戦体制に移行しなければ大惨事になると予測」と題する記事で、動画の内容を考察している。

同記事は、プリゴジン氏の以下の発言に注目する。

「私たちは北朝鮮のような環境の中で数年間生活する必要がある。そのために、新しい道路やインフラ施設の建設をやめ、戦争のためだけに働く必要がある」

ロシア革命の再発を阻止するためには、ロシアの「エリート」たちが一層戦争に本腰を入れ、戒厳令を敷いた「北朝鮮モードを実行」しなければならないと説く。さもなくばウクライナ戦争でロシアが敗北を喫するおそれもあると訴える。

■「ウクライナは世界最強の軍隊」と絶賛

プリゴジン氏は、約5万人の囚人を兵士として雇用したものの、うち約20%がすでに戦闘で死亡したことを明らかにし、ウクライナの戦力を過小評価しないようにとも警告している。米CBSは以下の発言に注目した。

「高度に組織化され、よく訓練されており、彼らの情報は最高レベルである。私は今日のウクライナが、世界最強の軍隊の一つであると信じている」
「われわれはキーウに接近し、恐怖のあまり失禁して退却した。次に(南部の)ヘルソンに向かい、そしてまた漏らしながら逃げ出した。われわれにできることは何もないように思われる」

この戦争はこれからどうなるのだろうか。彼の発言を見ていくと、悲観的な未来を予想しているようだ。プリゴジン氏は、欧米のウクライナ戦争への関心と支援が低下し、中国がロシアとウクライナの交渉を仲介する楽観論を否定する。むしろ西側の支援は今後さらに増大し、ウクライナは複数の地点で反攻作戦を成功させると見る。

「彼らは2014年の(ロシアによるクリミア併合前の)国境線を復活させようとするだろう」
「(西側によるクリミア奪還は)簡単に起こりうる。いまいましいことにわれわれは、ロシア(の領土)を失うおそれのある状態にあり、それが最大の問題だ」

夜のモスクワ、聖バジル大聖堂と赤の広場
写真=iStock.com/Alferova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alferova

■国民を毎日2時間、タダ働きさせる案が浮上

ロシア国民の鬱憤(うっぷん)がいずれ革命につながるというシナリオは、現実的なのだろうか。英テレグラフ紙は、極めて妥当性のある推論だと捉えたようだ。

同紙はロシア国内の戦争推進派のあいだで、「この戦争でロシア軍は、腐敗したエリートたちに裏切られた」とのシナリオが形成されていると指摘する。侵攻以前からロシア軍上層部では腐敗が進み、軍の予算を常態的に横領してきた。ウクライナの戦地で戦車が燃料切れを起こしたり、数十年前の装備品や数年前の配給食が配られたりというお粗末な事態は、軍上層部の腐敗が招いた結果だという。

こうした事情を念頭にテレグラフは、仮にウクライナの今後の反攻作戦でロシアが壊滅的な打撃を受けた場合、「こうした(腐敗に裏切られたと感じている)人々が反政権の即席の同盟を結成する事態が、容易に想像される。それは、非常に強力なものとなろう」との指摘だ。

ロシア国民の不満はさらに高まることになりそうだ。

米インサイダーがイギリス国防省による情報として報じたところによると、ロシアのスポークスパーソンは市民に対し、戦時対応として1日2時間の追加労働を無償で求める考えを明らかにした。

ウクライナ戦争での資金を調達するため、ロシアの国営メディアや企業が旗振り役となり、終業後の無償の労働あるいは週6日勤務を求めていく計画があるという。

ロシアの実質的な国営メディアであるRT(ロシア・トゥデイ)のマルガリータ・シモニャン編集長はすでに、国民は通常業務のあと、毎日2時間を軍需工場で過ごすべきだとの私見を示している。

■「2度目のロシア革命」の可能性は今も残されている

ワグネルも、プリゴジン氏自身もプーチン政権が生み出した存在だ。逆を言えば、プーチン氏の支持がなければ存在できない弱さがある。

その意味で「革命発言」は、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長(ウクライナ侵攻の総司令官)ら敗戦続きのロシア軍幹部への“口撃”であることは明らかだろう。彼らは「獅子身中の虫」であり、政権を揺るがす存在であると強調する狙いがある。

同時にプーチン氏に警告するかたちをとり、支持を調達する思惑も透けて見える。プリゴジン氏がSNSで過激な発言(主にロシア軍幹部批判)を繰り返し、国民からの人気集めに腐心するのも、プーチン氏に振り向いてもらうための方策に過ぎない。

戦争で最も被害を受けるのは国民だ。領土を奪われ身の危険を感じているウクライナの国民はもちろんのこと、侵略を仕掛けた側のロシアの国民さえ、豊かな生活から遠のいている。ウクライナ侵略でロシア軍は敗戦が続き、その負担は国民生活に重くのしかかっている。

プリゴジン氏による武装蜂起は1日で幕引きとなったが、国民に無償労働が課され、不満が爆発すれば「2度目のロシア革命」は現実のものとなるかもしれない。プーチン氏とロシア軍幹部の足元は今も危うい状況にある。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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