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汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい…「闇バイト」に応募する若者が増え続けている根本原因

プレジデントオンライン / 2023年7月10日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tippapatt

オレオレ詐欺や還付金詐欺などの特殊詐欺で検挙される少年が増えている。龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員の廣末登さんは「彼らの多くは、闇バイトの危険性を理解せず犯罪行為に加担していると考えられる。現状の対策のままでは、若者の逮捕者数は増えるばかりだろう」という――。

※本稿は、廣末登『闇バイト 凶悪化する若者のリアル』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。

■闇バイトで逮捕される若者が増え続けているワケ

オレオレ詐欺や還付金詐欺など特殊詐欺の検挙人員をみると、平成27年(2015年)の2506人以降、令和4年(2022年)の2469人まで、毎年2000人を超えている。

(図表1)「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」警察庁HPより

「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」警察庁HPより
出所=「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」警察庁HPより

警察庁の調べによれば、令和4年に特殊詐欺などの犯罪に従事した少年(18歳以下)の検挙人員は、477人で、前年比より44人増えていた。この割合は全体の総検挙人員の19.3%だった。また、少年の検挙人員の73.2%が『受け子』(349人)であり、受け子で検挙された5人に1人が少年だったという。〈令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)〉より

少年が特殊詐欺に巻き込まれるのは、スマホで簡単にアクセス可能な「闇バイト」の存在が大きいといえる。本人は、一度きりの仕事で金銭的な困窮や急場をしのぎたいだけと考えているかもしれないが、実際は、闇バイト応募時に顔写真や身分証明書の写真を送るように犯罪組織から要求されるため、一度関与したら抜けられないシステムになっている。

■「現金手渡しの仕事がいい」と話す若者

現行法の下では、18歳以上は「特定少年」に分類されるから、かつてのように試験観察など無く、成人処分となり刑罰を科される傾向にある。観察官は「(18歳以上の子は)逆送優先になっている(注)」と、少年法改正後の特殊詐欺の厳罰化傾向を話す。

注:家庭裁判所が、調査の結果、保護処分「保護観察、少年院送致」ではなく、懲役刑、罰金刑などの刑罰を科すことが相当と判断した場合には、事件を検察官に送致すること。逆送された少年を検察官が起訴した場合には刑事裁判となる。刑事裁判の結果、有罪判決となれば、成人同様に刑罰が科される。

この傾向は、2018年、筆者が法務省・福岡県更生保護就労支援事業所長に着任した頃から感じていた。

少年院に就労支援の面談に行き、仮退院後にどのような仕事に就きたいかと尋ねたところ、「現金手渡しの職場がいいです」という回答を複数の少年から得た。

怪訝に思った筆者が「昨今、現金手渡しの仕事というと、建設現場の仕事位しかないが、なぜ、手渡しじゃないとだめなのか」と尋ねたところ、「おれ、OS(オレオレ詐欺)だったんで、口座作れないんですよ」という。

■特殊詐欺に参加したらどうなるか

後日、新聞記者を通じて、特殊詐欺の実行犯は少年でも口座がつくれないのか、確認してもらった。

数行の取材を終えた記者からは「少年でも特殊詐欺に加担して逮捕されたら、銀行口座開設はどこも厳しい」と伝えられた。(余談だが、罪を犯した若者の社会復帰を難しくしているのには、こういった厳しい社会制裁にもあると筆者は感じている)

さらに、成人の場合は、逮捕時に新聞などに名前が載るため、デジタルタトゥーとしてネット上に名前が残るため、就職や結婚など、その後の人生に重大な支障を来す恐れが否めない。

このように、特殊詐欺などの犯罪に加担すると、社会的に厳しい対応が為される。闇バイトの勧誘時に「捕まっても少年だから軽く済む」などという者がいるが、それは嘘であるということを、心にとめておいてもらいたい。

■それでも闇バイトが減らないワケ

新聞やネットニュースには、これでもかというほど闇バイトで逮捕された者の記事が掲載される。それなのになぜ闇バイト応募者が減らないのか――と、疑問を持つ読者の方も多いのではないだろうか。

廣末登『闇バイト 凶悪化する若者のリアル』(祥伝社新書)
廣末登『闇バイト 凶悪化する若者のリアル』(祥伝社新書)

筆者もこの点には疑問を持った。そこで、筆者が担当する大学の講義(1年生から4年生93名受講登録)の最初の授業で、学生たちに以下の質問してみた。

「この中で新聞読む人はいますか」「1日1回、ネットニュースに目を通す人はいますか」

結果は、前者が0人、後者が1名であった。限定的な調査であるが、大学生でもこの程度であるから、「若者がニュースを見ていないのではないか」という点に思い至った。

そうであれば、いくらマスコミが闇バイトの危険性を喧伝しても、彼らに伝わらないことに納得がいく。

■どんな人物が闇バイトに応募するのか

大都市圏の現役保護観察官に闇バイトに加担する若者の特徴について尋ねたところ、「児童養護施設などを出て行き場がない子や、ヒマしている子ですね。彼らは世間を知らないから騙されやすい。実際に使い捨ての『出し子』とかが多いです。内容も分からず、闇バイトに安易に行ってしまう。行動が非常に幼稚な気がします」と嘆息する。

さらに「学童期に苦しかった、しんどい体験を持っている子が、18歳以上になって事件を起こすケースが見られる」という。こうした子は、未成年の段階で事件を起こしていてもおかしくない少年だという。

悲しい少年は一人で座っています。
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■「汗水流して働くよりは、楽して稼ぎたい」

令和3年1月1日から同月29日にかけて、法務省法務総合研究所が犯罪者、非行少年行った調査(犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する研究)によると、「『汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい』の項目について『そう思う』に該当する者の構成比は、対象者全体では43.3%であったが、若年層において構成比が高い傾向が見られ、20歳代の者(50.3%)が最も高かった」とある。

全対象者 就労に対する意識(年齢層別)
出所=法務省法務総合研究所(犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する研究)

もちろん、過去にも犯罪に手を染める若者はいた。ただ、現代社会では、YouTubeやインスタ、TikTokなどで、キラキラした場面を切り取ってネット公開し、「お金こそが正義」「ラクして稼ぐ奴が賢い」と煽る風潮がないだろうか。こうした現実は、闇バイトを煽る結果になっているのかもしれない。

「オレオレ詐欺」をはじめとする特殊詐欺が犯罪であるという認識が、メディア等を通して広まってもなお従事者が減らない点は、憂慮すべき状況といえる。早急に特殊詐欺に加わる者の背景を分析し、今とは異なる対策を講ずる必要がある。

■わが子を犯罪者にしないためにできる4つのこと

闇バイトに巻き込まれないためにはどうすればいいか。その対策を、元法務省保護観察官で、現在は、西南学院大学人間科学部で教鞭を執る中村秀郷准教授(専門:司法福祉、精神保健福祉)に聞いてみた。

(大人が子どもに注意すると言っても)年配の人でSNSを使いこなしている人は少ないですし、最近のトレンドの「闇バイト」について説明できる人はなおさら少ないですよね。

なので、大人も若者が使いこなしているSNSの機能を理解し、闇バイトの基本的知識を知り、助言できるレベルにはなって欲しいところです。

何が大事かと言われても一般的なことになりますが――

(1)SNS上の高額バイトは犯罪の可能性が高い。

(2)免許証、健康保険証、家族の名前など個人情報が分かるものをDMで送ってはいけない。送るように言われたら闇バイトを疑うべき(後で脅される)。

(3)ものを運ぶだけ、人に渡すだけ、人から受け取るだけ、といった仕事内容も怪しいが、徐々に犯罪色が濃くなる場合があるものは闇バイト。

(4)「絶対捕まらない、これは犯罪行為にならない、弁護士に確認している」等、犯罪にならないことを強調しているものは闇バイトと疑うべき。

若者(できれば中学生から)を中心に積極的に周知・啓発し、逮捕リスク、被害者から損害賠償請求されるリスク(末端の出し子・受け子に対して高額な損害賠償請求判決が出ている等)があるなど、ハイリスク・ローリターンであることを理解させること。

そして、大人も闇バイトの最近のトレンドに詳しくなること、アンテナを張ってブラッシュアップしていくこと等が大事かと思います。

これらはわれわれから見たら常識的なことかもしれませんが、こういうことを話してくれる人が身近にいない若者はけっこういます。誰か注意する人が身近にいれば、闇バイトに巻き込まれる危険も減り、かつ巻き込まれたけど抜けたい人が、的確な判断を出来るようになると思います。

■楽して稼げることはない

来月から夏休みがはじまる時期、大人も若者も、闇バイトの基本的知識を身につけ、騙されないように気を付けてもらいたいものだ。

楽して金を稼げるなどということは、この世の中には絶対にない。闇バイト関連犯罪は、その被害者の財物だけではなく、加害者一味に加わってワンチャンゲットして楽に金儲けをしようという「浅はかな考えの若者」の人生をも奪う犯罪集団であることを肝に銘じておいて欲しい。

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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護――暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。

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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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