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ディズニー入園料1万円で驚いてはいけない…本場アメリカで進む「お金のない人は排除」という残酷な実態

プレジデントオンライン / 2023年7月22日 12時15分

出典=東京ディズニーリゾートのニュースリリースより

■スマホで予約しないとアイスも買えない

東京ディズニーランド・ディズニーシーの入園券「1デーパスポート」の最高価格が10月1日以降、9400円から1万900円(いずれも大人料金、税込み)に引き上げられることになった。1万円を超えるのは初めてで、土日や年末年始などの繁忙期に適用される。

12~17歳の料金は最高価格が7800円から9000円に引き上げられる。4~11歳の小人料金は4700~5600円のまま据え置きとなる。

こうした「高価格化」路線は、日本に限った話ではない。本場アメリカのディズニーリゾートではすでに値上げが行われており、来園者の不満が表面化している。

入場料が約10%引き上げられ、少ない待ち時間で乗れる優先レーンは有料化。スマホで予約しないとアイスも買えない複雑なシステムが不興を買っているようだ。

■4人家族なら1日で15万円が吹っ飛ぶ

米CNNは、米カリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランド・リゾートの料金が「年間インフレ率より高い値上げ率だった」と指摘している。

同リゾートは、ディズニーランドおよびカリフォルニア・アドベンチャーの2つのパークを中核とし、ショッピング施設のダウンタウン・ディズニーやホテルなどが揃う。東京ディズニーリゾートとよく似た構成だ。

例えば夫婦・子供2人(3~9歳)の家族が繁忙期に有料オプションを付けて2つのパークを楽しんだ場合、合計額は1日で1086ドル(約15万3980円)に達する(米ディズニーランド・リゾートの公式ウェブページより)。

駐車場を利用し、2つのパークを行き来できる「パークホッパー」オプションを付け、人気アトラクションの待ち時間を短縮できるサービス「Genie+」(ジーニープラス)を購入した場合の値段だ。宿泊代や食事代、お土産代は含まれていない。

●スタンダード・テーマパーク・チケット……1人179ドル(83~179ドルの変動価格)
●パークホッパー……1人65ドル
●ディズニー・ジーニープラス・サービス……1人25ドル
●スタンダード・ワンデー・パーキング・バウチャー……30ドル
米ディズニーランド・リゾートの公式ウェブページより。大人2人・子供2人で、パークホッパー、ディズニー・ジーニープラス・サービス、駐車場代を含めた合計額。
米ディズニーランド・リゾートの公式ウェブページより。大人2人・子供2人で、パークホッパー、ディズニー・ジーニープラス・サービス、駐車場代を含めた合計額。

チケットは昨年10月に10%ほど値上げされた。繁忙期は1つのパークに入場するだけでも、179ドル(約2万5380円)の支出となる。平日は入場料が104ドル(約1万4550円)となるケースが多いが、適用日は少なくなってきているようだ。チケット代だけでも日本の2~3倍程度の支出となっている。

■「私たち中流家庭は切り捨てられた」

もう一つの不満の原因は、無料のファストパスの廃止だ。代わりに2021年10月から有償サービス「Genie+」が導入され、購入者だけがライトニング・レーン(LL)と呼ばれる優先列に並んでアトラクションの待ち時間を短縮できるようになった。実質的に「ファストパスの有料化」だ。

当初、フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールドでは1人15ドル(約2130円)、カリフォルニア州のディズニーランド・リゾートでは1人20ドル(約2840円)だったが、翌年10月から混雑状況に応じて15~22ドル(約2130~3120円)に引き上げられた。

テーマパーク・ジャーナリストのカーライル・ワイゼル氏はCNNに対し、Genie+やライトニング・レーンは「以前ならば無料だったものにさらにお金を払うシステム」だと批判している。評論家のトッド・マーテンス氏は、ロサンゼルス・タイムズ紙に寄稿し、「今日、こうした『持つ者』と『持たざる者』という意識が、誰もが不快な気分になるカースト制度を作り始めている」と指摘している。

値上げを受け、ディズニーランド・リゾートの訪問予定を1日短縮せざるを得なかったというアメリカの女性は、CNNに対し、「彼らは本質的に、中流以下の家庭を排除しているのです。より高級な市場を取り込みたいのです」と述べ、今回の値上げで年間パスポートを手放したことを明かしている。

■「有料版ファストパス」を買ったのに並ばされた…

アトラクションに並ぶ列をさばくキャストメンバー(パーク係員)も、心を痛めているようだ。

ディズニーパークの情報を伝える米インサイド・ザ・マジックは、「Genie+」を購入したのに45分も待たされる場面や、逆にスタンバイ列(追加料金を支払っていない人が並ぶ一般列)が長すぎるなどにより双方から苦情が絶えず、「キャストメンバーたちも辟易する」ほどの事態になっていると報じている。

米CW系列ロサンゼルス局のKTLAはディズニーランド・リゾートと、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(WDW)の待ち時間を記録するウェブサイト「WDW Stats」のデータを取り上げている。2022年の平均待ち時間は、無償のファストパスが存在した2019年と比較して20%延びたという。

ロサンゼルス・タイムズ紙に寄稿したマーテンス氏は、「ディズニーランドに入園することは、無料プレイのモバイルゲームをインストールするのと似たようなものになってしまった」と例える。「なんとかやっていくことはできるが、いずれ『コインがなくなりました』との通知が届く」

フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドのエントランス
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

■無料のファストパスでも十分なメリットがあった

ファストパスは無償で配布してもパーク側にメリットをもたらす制度設計となっており、有償化の必然性は薄い。無料配布でもパーク運営上の利点を生む理由は3つある。

1点目に、ファストパスを利用したゲストは、より多くのお金をパークに落とすことにつながる。ゲストが1時間も2時間も待ち列に並んだ場合、いくら喉が渇こうとお腹が減ろうと、飲み物や食べ物を買うことはできない。列から解放されることでゲストはパーク内を散策し、喜んでレストランやショップに立ち寄る。

2点目として、アトラクションを増やすことなく、パーク全体の平均の待ち時間を低減することができる。閑散期には、アトラクションの中には待ち時間が最短の5分表示(ホーンテッド・マンションでは不吉な数字に由来して13分表示)となることがある。実際は待ち時間がなく、空席のままライドを送っている場合が多い。

ファストバスを確保した来場者は、空き時間を利用して空いているアトラクションに向かうことができる。これによりパーク全体としてアトラクションの運営効果が高まる。ファストパスを発券した際、無料でおまけのパスが付いてくることがあったが、これも空いているアトラクションへの誘導を意図したものだ。

最後に、人気の高いファストパス対象アトラクション自体にも、ピーク時間帯を分散する効果が生まれる。ファストパスの券面に指定された時間通りにゲストが戻ってくるためだ。

ファストパスは、来場者の行動をコントロールすることを企図したものであり、料金を取らずとも運営側にメリットを生むシステムだ。「ファストパスの有料化」は、来場者がメリットを感じられない仕組みと言えるだろう。

■スマホに依存した予約至上主義

スマホに依存した過度な予約至上主義もまた、来園者の大きなストレスになっている。

コロナ禍以降は、システムが特に複雑化した。日本でも一時期、アプリをインストールして「スタンバイパス」を取得しなければ、一般列に並ぶことさえできない状況となっていた。現在でも一部のショーとグリーティング(キャラクターとのふれあい)を対象に、「エントリー受付」と呼ばれる抽選制度が導入されている。

こうした事情はアメリカでも同じだ。値上げにより滞在予定を短縮したという前出のアメリカ人女性は、CNNに対し、「ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)を訪れたのが旅行の中でも最もストレスの多い一日だった」と語る。ライトニング・レーンの利用時間を加味した行動計画を綿密に立て、予約や抽選をひたすら繰り返さなければパークを最大限楽しむことができないからだ。

パーク情報を報じる米インサイド・ザ・マジックは、これが来園者の体験を蝕んでいると分析している。記事は「バケーションはいまや神話に過ぎず、早朝(からの行動)、携帯の充電切れ、長蛇の列など、安らぎとはほぼ正反対のことが当たり前のようになっている」と指摘する。

■事前に申し込まないとアイスすら買えない

何もかもを計画し有料で購入する制度は、パークを自由に楽しむゆとりを奪った。ロサンゼルス・タイムズ紙は、なかでも「自発性の終焉(しゅうえん)」が最大の苦痛になっていると指摘している。

同紙記者は、予約が重視されていなかったコロナ禍前までは、「私は歯を食いしばってクレジットカードを握りしめ、息子たちと私のチケットを3枚購入したものだ」と振り返る。この時もチケットは高かったが、「しかし、微笑みながら1日の作戦を立てるとき、そこにはいつも小さな興奮があった」という。

だが、以前ならば仲間たちと興奮を共有していたところ、今ではわかりにくいアプリを共有しているだけになったと記者はいう。事前にアプリをダウンロードし、使い方を予習しない限り、「終わりのない行列とフラストレーションに満ちた長い1日になることを覚悟しておこう」と述べている。

長い行列
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

予約が必要なのは乗り物だけではない。同紙記者は暑い昼下がりを乗り切ろうと、「魅惑のチキルーム」近くのアイスクリームのワゴンに足を運んだ。並んだ挙げ句、アプリの予約がないとアイスを買えないと告げられ、肩を落としたようだ。

指示通りに予約してから30分後には無事買えたというが、「戻ってきた時には火を噴くハワイの女神・ペレのような気分になっており、すでに高まっていたイライラが増していた」と不快感を露わにする。

■事前準備に30時間以上費やす人も…

「Genie+」導入以前に実施されていた「ファストパス+」の制度では、混乱がピークに達していたようだ。ディズニー情報サイトのミッキー・ビジットによると、ゲストは来園の30日前から、ホテル宿泊者は60日前から、優先利用したいアトラクションと時間をネット上で指定できた。だが、予約開始時間きっかりに激しい争奪戦が繰り広げられ、むしろストレスの原因となっていた。

ホテル宿泊者であれば全宿泊日程分の予約枠が一斉に解放されるため、競争の少ない最終宿泊日分から順に遡って予約するなど、リゾート体験とはほど遠い入り組んだテクニックもネットで指南されていたほどだ。

「Genie+」の導入で予約は来園当日限りとなったが、事前準備は欠かせない。ディズニーファンであり、パークへの旅行をビジネスとして提供しているアリソン・マーツマン氏は、ロサンゼルス・タイムズ紙に対し、「ディズニーランドはもはや、ふらっと行ける場所ではなくなりました」と語る。

アプリの使い方をマスターし、旅行代理店への相談など入念な用意を重ね、事前準備に30時間以上を費やす人が多くなっている、と彼女は述べている。

■日本のパークも事情は同じ

日本でも2022年5月に無料のファストパスが休止となった代わりに、パレード、ショー、アトラクションの体験時間や入場時刻を指定して予約できる有料サービス「プレミアアクセス」(1500~2500円)が導入された。

プレミアアクセスも予約は当日限りとなる。ただしその分、当日午前中に販売枠の激しい争奪戦が発生する。せっかく非日常の世界が広がるパークに入園したのに、売り切れに肝を冷やしながら、入念に設計されたパークの見事な景色ではなく、スマホとにらめっこすることになる。

また、Genie+やプレミアアクセスは本来、遠方から訪れるゲストほど利用したい制度だ。たまにしか来られない場所だからこそ、追加料金を払ってでも1日に多くのアトラクションを体験したいと思うだろうが、不慣れな人に不利に働く。頻繁に変更されるシステムに戸惑いながら、優先パスの存在に気付いたころには、すでに完売になっていることも多いだろう。

■米ディズニーのCEOは“行き過ぎ”を反省し始めた

園内をどう回るか、どの順番でアトラクションを楽しむか――。家族や友人と計画を立てるのも楽しみの一つになる。しかし現実は、コロコロ変わる制度、事前に計画しないと行き詰まる複雑なシステム、追加料金を支払わないとスムーズに楽しめない有料パスなど、ストレスを感じる「落とし穴」があちこちにひそんでいる。

アメリカでは、過剰な営利を追求する現行システムに反省の声も上がっている。ロサンゼルス・タイムズ紙は、米ディズニーのCEOに昨年11月に復職したボブ・アイガー氏の発言を報じている。

「ディズニーは手の届きやすいブランドでなければならないと、常に考えてきました。そして、利益を伸ばすことに情熱を傾けるあまり、私たちは一部価格設定について、少し野心的になりすぎていたかもしれません」

米ディズニーは今年9月、体験型高級ホテル「Star Wars: Galactic Starcruiser」(いわゆるスター・ウォーズホテル)を閉鎖する。2人1泊約4809ドル(約68万円)からという料金設定が話題になったが、1年半で幕引きとなった。SFゲートは、ディズニーの「魔法の喪失」を招いたとの批判があったと振り返る。

人々の手の届くテーマパークであるべきだと信じるアイガー氏の復職により、米パークは安心して楽しめるもとの場所にゆっくりと戻ってゆくのかもしれない。

■入園者数より「1人当たり利益」を重視する方針に

一方、日本のパークでは高価格路線が今後も進んでいくことが予想される。

コロナ禍では、開園以来ほぼ一貫して延びてきた入場者数が前年を割り込んだものの、1人当たり支出額は増加した。運営母体のオリエンタルランドが公表しているIR資料によると、1人当たり合計支出額(チケット・物販・飲食)は、2019年まで1万1000円台で、ほぼ横ばいの状態が続いていた。入場者数を制限した2020年から増加し、1万5000円台まで伸びている。

【図表2】ゲスト1人当たり売上高の推移
オリエンタルランドIR資料より

オリエンタルランドは、入場者数の追求から目標を切り替え、来場者1人当たりの利益を伸ばす方針を示している。日経新聞は昨年6月、オリエンタルランドの椎葉亮太郎執行役員の発言を伝えている。コロナ禍で入園者を抑制したところ、アトラクションを効率よく回れたとのポジティブな反応が来園者から寄せられるようになり、「運営方針を転換する大きなきっかけになった」という。

今後も、入園者数をコロナ前の8割程度に抑えながら、1人当たりの利益を高めることで収益を確保する方針のようだ。ランドではすでに今年4月、新たに昼のパレード「ディズニー・ハーモニー・イン・カラー」に有料席が設定。シーでは昨年スタートした夜のハーバーショー「ビリーヴ!~シー・オブ・ドリームス~」で一部鑑賞エリアが有料化されている。

東京ディズニーランドで行われたプレスプレビューで、新パレード「ハーモニー・イン・カラー」に見入る来場者たち=2023年4月10日
写真=EPA/時事通信フォト
東京ディズニーランドで行われたプレスプレビューで、新パレード「ハーモニー・イン・カラー」に見入る来場者たち=2023年4月10日 - 写真=EPA/時事通信フォト

■アメリカよりもマシだが気軽に行ける場所ではなくなった

2019年、1デーパスポート(大人料金)は7500円だった。朝から入園すれば、少なくとも2枚(うまくいけば3~4枚以上)のファストパスを無料で取得できた。

つまり以前の入園料には、少なくとも2回分のプレミアアクセスの価値(3000~5000円相当)が含まれていたことになる。差額が実質的な入園料だ。こう考えると、ファストパスの廃止は相当大きな値上げだと言えるだろう。

現在は、7900~9400円を支払い、かつ、プレミアアクセスを購入しない通常の来場者は、以前よりも長い待ち時間を強いられる恐れがある。パークにおける来場者の体験価値が向上しているというが、本当にそうだろうか。

高付加価値戦略により、予算に余裕のある人々であれば、確かにパークでの時間をより有意義に過ごせるようになることだろう。一方、学生や一般的な収入の家族連れなどにとっては、気軽に訪れにくい場所になる恐れもはらんでいる。

日本のパークはアメリカと比較してかなり割安だとされてきたが、比較対象となってきたそのアメリカでは、ついにディズニー幹部から高額チケットへの反省が聞かれるようになった。パークが人々に愛される場所であり続けることができるのか。アメリカの動向とならび、日本の行く先が注目される。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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