目玉が木の枝に引っかかり、こちらを見ていた…韓国軍の訓練中に起きた「新兵いじめと小銃乱射事件」の凄惨
プレジデントオンライン / 2023年7月14日 14時15分
■「自衛隊の小銃発射事件」現実の軍隊では珍しいことではない
6月14日、岐阜市にある自衛隊の射撃場で、自衛官候補生の男が小銃を発射した事件は、日本中に大きな衝撃を与えた。
2名死亡、1名が負傷という悲惨な事件であったが、70年近い自衛隊の歴史の中でも、異例の不祥事ではないだろうか。
スタンリー・キューブリック監督による映画『フルメタル・ジャケット』では、軍事訓練中の若者が精神に異常をきたし、自殺をはかる場面が描かれる。今回の自衛隊の事件で、この映画を想起した方も多いだろう。
ただ、こうした事件は、現実の軍隊でも珍しいことではないのかもしれない。
お隣の韓国は、現在でも徴兵制を施行しているが、こうした事件がたびたび起きているとも言われている。
■高円寺のバー店主が語った「韓国軍での壮絶体験」
東京・高円寺に「写真BAR白&黒」というお店がある。店主であるチュ・チュンヨン氏は、1980年代に2年6カ月間、兵役に応召した。
筆者はかつて、チュ氏も含めた複数の徴兵経験者からの聞き取りを元に、『韓国徴兵、オレの912日』(講談社版は絶版、現在はimpress QuickBooksで電子書籍化)という本をまとめたことがある。
チュ氏によれば、「韓国では入隊時に、自殺した訓練兵の写真を見せるなどの啓発も行われるが、自殺未遂や脱兵等の不祥事がたびたび報道される。自分が軍人だった間にも、今でも忘れられない衝撃的な事件があった」と話す。
チュ氏が言う「衝撃的な事件」は、今回の自衛隊射殺事件とあまりにも酷似していた。
■韓国軍でいじめを受けていた「Iくん」
その事件は、チュ氏が韓国軍を除隊する4カ月ほど前に起こった。
その事件は、チュ氏が韓国軍を除隊する4カ月ほど前に起こった、2年6カ月にもおよぶチュ氏の軍隊生活の中でも、もっとも強烈、もっとも凄惨な事件であった。
軍の守秘義務があるので、チュ氏がこの話を口外することはなかった。
しかし、「除隊して長い年月が経ったから、もう話してもいい頃だろう」と、チュ氏は筆者に語ってくれたのである。
チュ氏の軍隊時代、Iくんという後輩がいた。Iくんはもともとおとなしい、口数の少ない男だった。どちらかというと暗い性格で、話しかけてもボソボソと答えるタイプだったという。
そのせいか、Iくんは軍隊でいじめの対象になってしまう。
彼が先輩の上兵ふたりと同期一人の3人組にいじめられるようになったのは、事件の3カ月くらい前だったという。
Iくんがそいつらにテガリパゴ(両足と頭頂部で三点倒立する、韓国軍での定番のシゴキ)をさせられている姿をよく見かけるようになった。
![倒立](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/0/1200wm/img_e0da2778bf4e2d2bb88dcad7391d41b5407809.jpg)
■「いじめは軍隊の伝統だ」という思いもあった
しかしチュ氏からすると、Iくんとその3人組はとなりの内務班(軍隊生活を共にする班)だったので、キョユク(教育)に口をはさむわけにはいかなかった。
いじめていた3人は、いかにもチャラチャラした感じの「口だけのやつ」という印象だった。その頃チュ氏はすでに兵長で、軍隊の上下関係においては、彼らなど虫けらみたいなものだったが、Iくんにとっては逆らうことのできない絶対的な先輩だった。
「チュ兵長……オレ、いじめられるんです」と、Iくんが相談してきたことがあった。なぜチュ氏に相談してきたのかは、いまとなってはよく覚えていない。となりの内務班だったことと、部署が近くて話す機会が多かったからだろうとチュ氏は言う。
「オマエは軍人なんだから、耐えないとダメだろ」
チュ氏はそう言って励ました。チュ氏も新兵の頃はありとあらゆるヨルチャリョ(体罰)を経験した。いじめは軍隊の伝統だ。それに耐えられなければ一人前の軍人ではない、そういう思いもあった。
■「このままだと、なにか問題起こしてしまいそうで…」
しかしIくんは暗い表情で続けた。
「オレ、もういやなんです。このままだと、なにか問題起こしてしまいそうで…」
チュ氏は言った。
「オマエ、バカなことを考えるんじゃないぞ」
この時チュ氏は、Iくんが自殺するか、あるいは脱兵するかもしれないと思ったという。
軍隊での自殺や脱兵はたまにある話だ。手榴弾を防弾チョッキの中に押し込んで自爆した新兵の話や、彼女に逃げられ、銃と実弾を持って脱兵し、銃撃戦の末、射殺された事件なども起こっている。
■目玉が木の枝に引っかかり、こちらを見ていた…
別の人物によれば、軍隊の先輩から、次のような壮絶な話を聞かされたという。
その先輩はキムサ(憲兵)として、北朝鮮との間のDMZ(非武装地帯)付近の部隊に配属されていたが、その先輩が兵長の頃、ある新兵が自殺した。
先輩はその日は非番だったので寝ていたが、自殺があったとなると陸軍本部から偉い将官が大勢やって来るので、ゲートの警備兵としてかり出された。
その時、先輩に対して「自殺した新兵の目玉が見つからないので捜せ」という命令が来た。口にM-16の銃口をくわえて足で引き金を引いたので、顔の半分が吹っ飛んだらしい。
先輩は気持ち悪かったので、新兵に命じて付近を捜索させた。すると少しして、野原に分け入った新兵が「ギャーッ」と悲鳴を上げた。
自殺した新兵の目玉が木の枝に引っかかり、こちらを見ていたという。
「目玉というのは意外にでかいもんだぞ」
先輩はそういって、まじまじと彼の顔を見たのだという。
![目](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/1200wm/img_97ea784d6870efacb9a5774b9cbf3854403221.jpg)
■自殺するか、脱兵するのではないか
Iくんは普通ではないくらいの、思い詰めた表情をしていた。彼には親しい友達もおらず、不満が徐々に蓄積されているようだった。
もしかしたらIくんは、自殺するか、脱兵するのではないか。
チュ氏の頭を、そんな考えがよぎった。
![ライフルの実弾](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/1200wm/img_b465c3796e92020209a67b0baea3137f401140.jpg)
どこの軍隊でもそうだが、実弾は厳しく管理されているので、簡単に入手することはできない。しかし別の方法で自殺することはできる。
しかしIくんは、チュ氏の想像をはるかに超えた悲劇を起こすことになる。
■自殺するつもりではないかと内心不安に思った
それから2週間後、射撃訓練が実施されることになった。
その日、チュ氏らは8時30分にソウル北部の射撃場に移動した。
全部で90名の軍人が、6つの小隊にわかれ、トッキティギ(ウサギ跳び)などをしながら順番を待っていた。
Iくんはいつもよりさらに暗い、思い詰めた表情をしていた。チュ氏はIくんの表情を見て、やはり自殺するつもりではないかと、内心不安に思ったという。
しかし、チュ氏にはどうすることもできなかった。チュ氏はとなりの内務班であり、とやかく言う立場にはなかった。結局、チュ氏はIくんに声をかけなかった。
■人間の感情を忘れたような不気味な顔
射撃訓練が始まった。
射撃のコツは呼吸と、引き金を引く際の指の動きにあるという。息を止め、ゆっくり、自分でもわからないくらいにゆっくり引き金を引く。銃をブレないようにするのがポイントなのだ。
チュ氏の次の次の隊にIくんがいた。
チュ氏は射撃訓練を済ませたあと、射撃場の外に移動して同期の連中と談笑していた。Iくんの隊の順番が来た。チュ氏は何気なく、Iくんの隊の方を見た。
その時のIくんの表情を、チュ氏は忘れられないという。
人間の感情を忘れたような不気味な顔で、その背後には、ドス黒い怒りの炎が燃え上がっていた。なにかに取り憑かれたようなIくんの表情は、精神が崩壊した狂人のようだった、とチュ氏は語る。
![陸上自衛隊の射撃訓練(2023年5月19日、宮城県利府町の利府射撃場)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/1200wm/img_995724fb8972de1dfa27e8144595566e406413.jpg)
■「テメエらを殺す!」
「オプトゥリョ、チョン!(伏せ撃ち姿勢)」
教官の声と同時に、Iくんは地面に伏せ、姿が見えなくなった。チュ氏は再び同期と談笑をはじめた。
「準備ができた者から射撃! 実施!」
教官の声が聞こえた。続けて射撃音が轟くはず。そう思って、チュ氏は再び、射撃場の方に目をやった。
すると伏せ撃ち姿勢でいたはずのIくんが、なぜか立ち上がっていた。
――なにをやっているんだ、あいつは?
その場にいる誰もがそう思った。次の瞬間、Iくんが銃を構えた。
「テメエらを殺す!」
■3人目の身体は倒れたままビクビクと動いていた…
Iくんは怒鳴ると、例の3人組にむけて銃を発射した。
「ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!」
その場は阿鼻(あび)叫喚と化した。チュ氏はアタマを抱え、その場に伏せた。周りの連中も一斉にその場に伏せた。トッキティギをしていた連中は一斉に逃げ出した。
2、3メートルの至近距離で撃たれた3人はその場に崩れ落ちた。計5発の銃弾が発射され、そのうちの1発は1人目を貫通し、2人目も貫通し、3人目の体内でようやく止まった。前ふたりは即死だった。3人目の身体は倒れたままビクビクと動いていたが、彼の運命ももはや時間の問題だった。
あたりには血と肉片が飛び散り、死体から流れ出した血の海が、どす黒く広がった。
■「後悔はしていません」
Iくんは撃ち終えた銃を脇に置き、がっくりとひざまずいた。そして肩を落としたまま動かなかった。
銃を置いたのを確認すると、教官が飛び出してきてIくんを取り押さえた。
「とうとうやっちまったか」
連行されるIくんを目で追いながら、チュ氏はそう思ったという。
おそらくIくんは射撃訓練を待っていた。そしてやつらを射殺する機会を狙っていたに違いない。
![チュ チュンヨン、中山茂大『韓国徴兵、オレの912日』(impress QuickBooks)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_df6a374e9dadd4afca4e27ae6da511dc388318.jpg)
その後の事情聴取で、Iくんは、
「後悔はしていません」
ときっぱり言ったという。
その後、彼が死刑になったのか、それとも服役したのかは、わからない。
射殺された3名は「訓練中の事故死」ということで処理されたという噂を後で聞いたが、これも事実かどうかは、わからないという。
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ノンフィクション作家・人力社代表
明治初期から戦中戦後にかけて、約70年間の地方紙を通読、市町村史・郷土史・各地の民話なども参照し、ヒグマ事件を抽出・データベース化している。主な著書に『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』(講談社)など。
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(ノンフィクション作家・人力社代表 中山 茂大)
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