収入1日100円の人が銀行から無担保で"巨額融資"され返済完了できた理由…収入を1年で5倍にした銀行の教え
プレジデントオンライン / 2023年7月11日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2023夏号』の一部を再編集したものです。
■夢のきっかけ ユヌス先生とグラミン銀行
はじめに皆さんに、1枚の写真をお見せします。東京郊外の団地の写真です。この建物の301号室。私はそこで育ちました。
父はシステムエンジニアとして働くサラリーマン。母はいわゆる専業主婦。兄弟は私の下に弟が1人。裕福ではありませんでしたが、かといって貧しいというほどでもない。当時の日本のあちこちで見かける、普通の典型的な4人家族でした。
私は、小さいときから微細藻類のユーグレナが大好きだった、というわけではありません。ごく普通の男の子でした。ただ、海外に行ったことがなく、だから「大学に入学したら、どこでもいいから海外に行く」という思いは強く持っていました。ちょうど皆さんと同じくらいのときの私の夢です。無事大学に入学し、1年生の夏、初めて訪れた国が、バングラデシュです。
バングラデシュ、どんな国か皆さん知っていますか?
インドの東隣。日本の4割程度しかない国土に、日本の人口より多い1億6000万人以上が暮らしている人口大国です。
そして何より、当時は世界で最も貧しい国の一つでした。農業に携わる人は7000万人で、1日働いても収入はわずか100円ほど。年収が4万円に届きません。
■収入1日100円の人が無担保で“巨額融資”され完済
このバングラデシュを皆さんが訪ねることはまずないと思います。観光地もビジネスの案件もほとんどないからです。そんなバングラデシュに私が行ったのは、グラミン銀行を自分の目で見たかったからです。
グラミンとは、現地の言葉で「農家」のこと。グラミン銀行は、農家のための銀行なんです。グラミン銀行は二つ、偉大な仕事をしていました。
一つは、教育を受けられなかったために自分の名前すら満足に読み書きできない人々に対して、たった1枚の契約書だけで、無担保で彼らの年収に近い金額の3万円を融資していたことです。
もう一つは、お金を貸して終わりではなく、お金の使い方を指導したこと。たとえば3万円を融資したら「帰りに必ずヤギを買って帰りなさい」と指導します。農作業の合間にヤギの世話をし、乳を搾れば、市場で売れます。
それまで1日の収入が100円だった人が、3万円を借りてヤギを買い、その乳を市場で売ることで、1日の収入が500円、つまり5倍になったそうです。年収も5倍。1年後にはみんな、約束通り、借りた3万円を返しにきます。グラミン銀行はそのお金を、また別の人に融資することができます。
グラミン銀行が最初の年にお金を貸すことができたのは、たった42人、27$だったそうです。それが今では930万人に4.4兆円を融資しています。世界中の900万人以上もの人を、グラミン銀行は救ってきた。
![『プレジデントFamily2023夏号』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/1200wm/img_e505aa87b31d31999a57c034d2e56b22351824.jpg)
「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の素晴らしい奇跡が、この最貧国で実現していることに私は驚きました。設立者のムハマド・ユヌス博士とグラミン銀行は、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。
グラミン銀行を設立したとき、ユヌス先生はみんなに笑われたそうです。たった3万円を貸して、いったいいくら儲かるんだ。しかも、貧しい農家に貸すなんて、きっとそのお金は返ってこないに違いない、と。
でも、ユヌス先生はまったく違う未来を描き、その実現のために取り組んでいたんです。そして、多くの人を救いました。
私は感動しました。日本に帰ったら私も、こういう仕事をしようと心に決めたのです。
■ユーグレナとの出合い、そして、一生の仕事に!
バングラデシュで私が驚いたことがもう一つあります。
実際に訪れてみるまで私は、バングラデシュはとても貧しいから、人々はみんな、ひもじい思いをしているんだろうなと思っていました。
ところが、実際はまったく違っていました。バングラデシュの人々は、毎日、大盛りのカレーをたらふく食べているのです。日本人が食べる米の量は1人年間約50kgですが、彼らは180kg以上も食べています。
ただし、そのカレーには、具が何も入っていませんでした。塩と香辛料だけでつくった、いわば「素のカレー」です。電気が通っていないので冷蔵庫がなく、肉、魚、野菜などの具を入れられないのです。
そのせいでバングラデシュの人々は、極度の栄養不足に陥っていました。たとえば暗くなると極端に視力が落ち、夜にケガをする人がたくさんいます。これはビタミンAが欠乏しているからです。子供たちの成長も悪く、病気にもなりやすい。
実はこういったことは、バングラデシュに限らず多くの貧しい国々で共通して見られる現象です。彼らにとっての困難は「ひもじさ」ではなく、「栄養不足」なのです。
![本郷中学校・高等学校の社会部生](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/9/1200wm/img_49b889e0ec85564d2f344db522b2e7c1430490.jpg)
そのことを知った私は日本に帰ると、どうしたら貧しい人々の栄養問題を解消できるのかを調べ、いろいろな人に聞いて回りました。そこで出合ったのが、微細藻類のユーグレナです。私が大学3年、20歳のときです。
ユーグレナ。動物と植物の両方の性質をもった植物プランクトンで、ワカメなどと同じ藻の一種です。当時の私の知識はその程度でしたが、「動物と植物、つまり肉と野菜か」とひらめいて、「ユーグレナの研究を一生することになるな」と思ったことを覚えています。
ユーグレナについて教えてくれる教科書はほとんどなかったのですが、私が一冊だけ見つけたのが、北岡正三郎先生が書かれた本です。ユーグレナは植物の栄養素と動物の栄養素の両方、人間に必要とされる59種類もの栄養素をもっている理想の食料源――北岡先生はその本の前半で思い切り盛り上げています。
ところが、最後にガラリと変わります。「こんな素晴らしいユーグレナですが、その大量培養の仕方は、誰にもわかっていません」と終わるのです。(以下、後編へ続く)
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ユーグレナ代表取締役社長
1980年生まれ。駒場東邦中高卒業。東京大学文科三類に進学後、農学部に転部。卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に就職。2003年、銀行を退行。05年、株式会社ユーグレナを設立。同年12月、世界初の食用ユーグレナの屋外大量培養に成功。12年、東京証券取引所マザーズ上場、14年、同一部上場(現プライム市場)。同年、ユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子供たちに配布する「ユーグレナGENKIプログラム」を開始。21 年、第5 回ジャパンSDGsアワードにて「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』など。
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(ユーグレナ代表取締役社長 出雲 充 構成=金子聡一)
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