3泊4日のサイパン旅行を全額負担したのに…61歳ライターが30代女性から成田で交際終了を伝えられたワケ
プレジデントオンライン / 2023年7月20日 18時15分
※本稿は、石神賢介『婚活中毒』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■30年婚活をしているのに、なぜ結婚できないのか
30年近くさんざん婚活をやってきた。女性と出会えていないわけではない。婚活のツールも年々充実している。婚活アプリや結婚相談所を利用して成婚している男女はいくらでもいる。なのに、成婚できない。原因は明らかに自分自身にある。
理由として思い当たることがいくつかある。まず、自我が育ち切ってしまった。約60年生きてきて、自分はこうありたい、自分はこうでなくてはならない、というものが増え過ぎた。
自我がやわらかい20代ならば、さまざまなことが受け入れられた。同世代の女性と交際して食事して、映画を観て、音楽を聴いて、セックスをして、2人で志向や嗜好(しこう)を育てていくことができた。
ところが年齢を重ねると、それが難しい。年齢相応の体験をしてきたので、好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。はっきりとしている。自分が思う自分は、ほんとうの自分なのか。正しい自分なのか。それはわからない。でも、こうあらねばならないと思い込んでしまっている。
すると、恋愛も含めて人間関係のストライクゾーンがとても狭まってしまう。その狭いストライクゾーンからはずれたものは受け入れられない。偏屈になっているのだ。中高年の男が出会う女性は、たいがいは中高年だ。相手も自我が育ち切っている。
女性のほうがまだ柔軟性があると思うが、それでもやっかいな男と時間を共有するほど彼女たちはひまではない。おおらかでもない。社会性のある女性同士で上手にコミュニケーションをとり、気楽に楽しむようになる。
■交際女性が異物になってしまう
中高年同士の恋愛は難しい。恋愛関係になり、外で会っているうちはまだいい。時間が限定されるからだ。1日くらい相手に合わせられる。歩み寄れる。しかし、相手が家に来るようになるといけない。
筆者はフリーランスで仕事をしている。自宅にいる時間は、睡眠、食事、入浴のほかは、ほぼ原稿を書いている。別のことをしていても、脳のどこかでいつも必ず原稿のことを考えている。生活は自分流だ。
自宅は3LDK。仕事部屋、資料部屋、寝室……。すべてのスペースを自分のために使っている。トイレも浴室もドアを開けたまま使う。誰もいないから、閉める必要がない。夏は裸族。全裸で生活している。誰にもとがめられない。そんなわがまま放題の生活が長すぎた。1人の生活に慣れ過ぎた。
そこに異質なものが長時間滞在すると苦しくなる。でき上がってしまった1人の生活を壊されるのが怖い。交際している女性の来訪はうれしい。楽しい。
ところが相手が泊まっていくと、2日目はつらくなってくる。原稿を書きたい。でも、彼女がいる。仕事をするのは気が咎める。早く帰らないかなあ、と思う。でも、口には出せない。やがて彼女は「帰ってくれないかなあ」という表情を察知する。もめる。別れる。そんな恋愛をくり返してきた。
■鬼の形相で彼女がキレたワケ
婚活アプリで出会った30代後半の金融系の企業の秘書課の女性との交際中、2人で3泊4日のサイパン旅行に出かけた。
読書の習慣がある筆者は読みかけの小説を1冊持参した。おもしろくて、中断することができなかったのだ。定例の雑誌の仕事があるのでパソコンも持参した。南の島に滞在中も本を読み、メールをチェックして、日本にいる仕事関係の相手とやり取りをする。
朝はプールで1000メートル泳いだ。運動は必須だ。仕事のひとつだと思っている。フリーランスなので健康を損なうと仕事を失う。人生が終わる。しかし、彼女はもっと遊びたい。毎日違う水着を着て、毎日一緒にマリンスポーツをしたい。でも、1人で楽しんでもらった。
帰国のとき、サイパンの空港ラウンジで彼女がキレた。
「私、あなたがこんなに自分勝手な人だと思わなかった!」
がまんが限界に達していたのだろう。こちらにも言い分はあった。仕事をすることもプールで泳ぐことも事前に伝えた。彼女は了解していた。費用はもちろんこちらが全額負担している。
「仕事することも、泳ぐことも、行く前に言ったでしょ」一応反論してみる。
「ほんとうに仕事するとは思わなかった!」鬼の形相だ。
ラウンジのチャモロ人のスタッフがなだめに来た。「ケンカシチャ、ダメ。ケンカシチャ、ダメヨ」という病彼女とはそのまま会話をすることなく搭乗し、機内でもしゃべらず、成田で別れた。
■婚活中毒になるパターン
帰国後に関係修復に努めなかったのは、婚活で出会ったから、ということもあった気がする。婚活は、その性質上、交際までの経緯がない。いきなり出会って付き合う。友人関係や仕事を通して徐々に好意を抱いていく“助走期”がない分、執着もないのだろう。
今の時代の婚活システムはよくできているので、またすぐに新しい相手と会える。目の前の相手にすがらなくてもいい。面倒くさい人とは別れよう、と思ってしまう。
しかし現実的には、面倒くさくない相手などいない。誰もが自分を生きているからだ。どんなにおとなしそうに見える人でも、その人の人生の主人公はその人自身だ。自分が一番。最終的に自分と家族以外の誰かを優先させることはない。
だから、相手から関係を修復してくることもない。さっさと別れ、こちらもあちらも婚活を再開する。新しい相手を探す。このサイクルをくり返して“婚活中毒”が2人完成する。
サイパンで別れた秘書の彼女はすぐに婚活アプリを再開し、婚活パーティー会場でも再会した。おたがいかつて交際していたことなどなかったかのように笑顔で会話をして、それぞれ別の相手とマッチングして帰路についた。
■アプリの解約と再登録をくり返す
婚活アプリにはずっと継続している登録者がたくさんいる。解約と再登録をくり返している人もたくさんいる。婚活パーティーに参加すると、同じ男女に何度も出会う。あちらもこちらを見て、同じように思っているだろう。
自分を含め、このような人たちは皆、婚活中毒。婚活から抜け出せなくなっている。もっと自分にふさわしい相手がいるはず――と、男女とも思ってあきらめきれずに活動を続けている。
![石神賢介『婚活中毒』(星海社新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/1200wm/img_26b010259ad87eb8c21a35e3f5a853b0165121.jpg)
「理想が高いからうまくいかないんじゃないですか?」そんなふうに言われたことがある。そのときは堂々と否定した。しかし、長く婚活を続けてきて、指摘された通りだということがようやくわかった。
“理想が高い”というのは、言い換えると、高望みだ。自分に見合う相手をスルーして、手の届かない相手ばかりを追いかけているということだろう。
受験でいえば、偏差値が40なのに偏差値70の学校を受け続けている。100回試験を受けても合格しない。1年勉強して出直すしかない。現実的には、受験ならば自分の偏差値が40だと知っているので、70の学校は受けない。受験料の無駄遣いだとわかっているからだ。婚活でやっかいなのは、自分の偏差値が40だと思っていないところにある。だから、70の相手に行ってしまう。
■付き合う→別れる→付き合うの無限ループ
アラカンでバツイチで不安定な職種でデカ顔なので“婚活偏差値”が低いとは思っている。でも、もしかしたら「思っている」と思い込んでいたのかもしれない。実際にはわかっていないのではないか。どこかに自分を高く見積もっている自分がいるのではないか。
たとえば、仕事だ。仕事に関しては、日々努力をしている。いい仕事をするためには時間を惜しまない。エネルギーも惜しまない。健康を維持するためにジムにも通うし、食事にも気をつけるようになった。そういう自分を意識的にしても無意識にしても評価して、恋愛偏差値に加点しているのではないか。
だから、ハイクラスの女性にも臆することなく、アプローチしてしまう。そして、フラれる。ときどき交際にいたっても、相手の弱点に目が行ってしまい関係を終わらせてしまう。
そして、もっともっとと、新しい相手を求めて婚活をくり返す。これも、婚活中毒者になるひとつの要因だと思う。
![愛のメッセージを送信する男](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/1200wm/img_4872546062cfa18d189b85690af108bb410147.jpg)
■アラカンの私が思い知ったこと
仕事をどんなに頑張ろうが、婚活偏差値は下降していく。年齢が増していくからだ。ジジイ化が進行した分は、努力で補わなくてはならない。しかし、体力が落ちていくので、やがて補いきれなくなる。
婚活に限らず、恋愛は“等価値取引”だ。同等な相手と結ばれる。だから、美男と美女が付き合う。見た目がアンバランスなカップルもときどき見かけるが、どちらかがなにか内に秘めた魅力を持っているのだろう。あるいは、ものすごく努力をしているのかもしれない。
容姿をはじめとする自分の弱点をたとえば仕事の成果などで補い、婚活偏差値を上げたい。でも、アラカンには難しい。
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ライター
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。著書に『婚活したらすごかった』、『57歳で婚活したらすごかった』(共に新潮新書)、『婚活中毒』(星海社新書)など。
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(ライター 石神 賢介)
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