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企業参入は相次いだが、人は集まらずにガラガラ…そんな「メタバース空間の土地」は将来値上がりするのか

プレジデントオンライン / 2023年7月11日 13時15分

出典=『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』

メタバースでの「土地売買」がはじまっている。今後どれだけ広がっていくのか。Web3リサーチャーのコムギさんは「現状はアクティブユーザーが少ないため、土地の価値は高くない。ただし、将来、より多くの人たちが、より多くの時間をメタバースで過ごすようになれば、値上がりする可能性もある」という――。

※本稿は、『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■メタバースとweb3が重なり合う3つの点

「メタバース」はweb3の文脈でも語られることが非常に多いのですが、メタバース=web3ではありません。

web3はブロックチェーン技術を前提としている一方、「メタバース」は「仮想空間」および「仮想空間で構築されたプロジェクト」とまったく異なる概念を指す言葉です。

皆さんもご存じの通り、ゴーグルをつけて仮想空間で会話するアプリや対戦するゲームなど、web3以前からたくさんのバーチャルリアリティ(VR)プロジェクトが存在します。

とはいえ、GameFiプロジェクトやNFTプロジェクトなどweb3のプロジェクトには、「メタバースをつくる」と宣言しているものが少なくありません。すでにプロダクトとしてリリースされているプロジェクトもあり、今後も「web3×メタバース」を実装するプロジェクトが増えていくことは確かでしょう。メタバース=web3とはいえないまでも、両者は重なる部分が多く、親和性はかなり高いといえるのです。

メタバースとweb3が重なり合っているのは、主に次の3点です。

①NFTとの相性
②DAOやトークノミクスとの相性
③アイデンティティとの相性

言葉の意味も含めて、1つずつ説明していきます。

■親和性①NFTとの相性

メタバースは仮想空間、リアルではないデジタルの世界ですから、そこでの「所有」は必然的にデジタルなものになります。しかし今までは、メタバース上のデジタルアイテムに資産価値をつけることは基本的にできませんでした。

たとえば、メタバースゲーム内で獲得したデジタルアイテムは、あくまでも、そのゲームの中だけで通用する「疑似的な所有物」であり、経済的な価値はありません。もちろん市場で売買することはできませんし、仮にそのゲームが「サービス終了」になったら、一緒に消えてしまうものです。

一方、NFTは、デジタルアートなど「代替不可能な価値」をトークン化したもので、市場で売買できる「デジタルな資産」です。したがって、NFTならばメタバースで「経済的な価値」を持つことができる。決して比喩的な意味ではなく、「デジタルな空間で、デジタルな資産を持てるようになる」ということです。

■親和性②DAOやトークノミクスとの相性

まずDAO(分散型自律組織)とは、ある目的や理念を掲げたプロジェクトのもと、誰もが参加できるweb3コミュニティです。そこではメンバーひとりひとりが自分にできるタスクを担い、報酬としてブロックチェーンベースで発行された「トークン」を受け取りながらプロジェクトを運営しています。また、トークノミクスとは、DAOのようにトークンが行き交う経済圏を指します。

なぜ、これらとメタバースの相性がいいのかというと、トークンという「デジタルな資産」は、デジタルな世界で生まれ、そして流通し続けたほうがいい、むしろそのほうが自然ともいえるからです。そこにリアルの世界のものが混在すると、「オラクル問題」というデータの信用問題や、「情報の非対称性」という不公平・不均衡が生じかねません。デジタルな世界だけで経済活動が完結していたほうが、DAOやトークノミクスにとっては都合がいいわけです。

■親和性③アイデンティティとの相性

メタバースは「デジタルな空間」です。「自分」という存在は紛れもなくリアルな世界のものですが、メタバースの中では「デジタルな存在」として活動することになります。そうなると、「デジタルな存在としての自分」を表象するものが必要になります。

では、メタバースの中では、何をもって「自分」としたらいいのでしょう。

たとえばメタバースゲームで使う「アバター」は、はたして本当に「自分」といえるのでしょうか。①で述べた「ゲームで獲得したものは疑似的な所有物」と同様のロジックで、アバターも「疑似的な所有物」に過ぎません。つまり本当の意味で、自身を表象しているとはいえないのです。

リアル・ネット・メタバース
出典=『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』

しかしweb3のテクノロジー、たとえば「アイデンティティNFT」「SBT」といった「代替不可能・譲渡不可能なトークン」をもってすれば、より自身の存在にひもづいたアバターとしてメタバースで活動することができます。

NFTアートには、前述の通り自分のアイコンとして使える「プロフィールピクチャー(PFP)」というジャンルがあります。その高い人気ぶりにも、すでに「デジタル空間で自己を表現したい」「デジタルなアイデンティティを確立したい」というユーザーの欲求が見てとれます。

PFPは、Twitterなどで使える「顔」のアイコンに過ぎませんが、メタバースのアバターは「身体」も伴うため、着飾ることができるなど、一層アイデンティティとの相性はいいといえるのです。要は、web3では「もの(経済的な価値)」も「経済活動」も「コミュニティ(DAO)」「自分のアイデンティティ」も、フィジカルからデジタルへと変化しており、ゆえに、web3は「デジタルな世界=メタバース」との相性がいい。その解像度を少し高くして説明すると、前述した①~③のようになるということです。

■リアルな不動産に対してNFTを発行する

不動産NFTとは、リアルな不動産をNFT化したものである。賃貸用の住宅を購入する、別荘をシェアする、NFTを買ってホテルの建設資金を提供するなどさまざまなプロジェクトがあるが、法的にはまだ難しい部分がある。

「不動産NFT」は、リアルな不動産をNFTにひもづけたものです。あらかじめ取り決めたことを自動実行する「スマートコントラクト」による不動産取引の自動化、安全化が見込まれるほか、不動産の販売主が、一次流通のみならず二次流通からも利益を得られることにも期待が寄せられています。

NFT
出典=『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』

「リアルな不動産に対してNFTを発行する」という共通点のもと、すでにさまざまな不動産NFTのプロジェクトがあります。

たとえば「プロピー(Propy)」は、NFT化した不動産を売買するプラットフォームです。不動産を売る人、買う人、取引を代行する人などが、自分のウォレットをコネクトして不動産取引を行えるようになっています。プロピーの開発会社は、不動産など高額で持ち運び不能なものは、もともと所有権がデジタル化されてきたので、NFTとの親和性が高いと話しています。

■家賃収入をNFTで受け取ることはまだできない

「ノットアホテル(NOT A HOTEL)」は、別荘のメンバーシップ(利用券)をNFT化し、販売するプロジェクトです。また「アンゴ(ANGO)」は、リアルな物件にひもづけたデジタル不動産のNFT(ANGO NFT)を買うと、「メタバース」に建てた「家」として保有できるというもの。NFTにひもづいているリアル物件に、NFTの所有者自身が宿泊することも可能です。

その他、NFTを発行してホテル建設の資金調達を行い、建設後は、そのNFTをホテルの宿泊券として使える、といったプロジェクトの構想もあります。

ただし「不動産NFT」は、法的に難しいところもあります。NFTを持っていることで「シェアしている別荘を使える」「建設の資金提供をしたホテルに泊まれる」といった利用権を得るのは問題ありません。

しかし家賃収入などのインカムゲイン、つまりフィアットエコノミーでいう「株式配当」に当たる収益をNFTで受け取ることはできません。クリプトエコノミーについては、いまだに、そのあたりの法整備が追いついていないのです。

ただ、法律は社会の変化の後追いでつくられる傾向が強いものですし、すでに不動産NFTを実現するスキームは存在しています。今後普及することも見越して、本書ではいったん法的なところは保留とし、不動産NFTのコンセプトを紹介しておきます。

■「メタバースの土地」に価値はあるか

NFTメタバースに熱い視線を注ぎ、早くも投資をしている企業もありますが、結論からいえば、長続きするかは疑問です。

comugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)
comugi『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)

なぜなら、まず、MetaやフォートナイトなどVRやゲームに巨額の資金を投じている既存のプレイヤーと競合するから。そして何より「メタバースの土地」に価値をつけるという発想が、まだそれほど有効ではないと考えられるからです。

そもそも土地の価値とは何でしょう? なぜ同じ面積でも、値段が高い土地と低い土地に分かれるのでしょうか?

それはリアルな土地は有限であり、さらに土地の価値は「土地そのもの」ではなく、「土地に付随する条件」で決まるからです。たとえば、寂しかった駅前にショッピングモールが建つと、周囲の宅地の価格が上がる。高級ブランドが集まる土地は、ビルのテナント料が高い。東京の表参道や銀座がいい例です。つまり魅力のある土地には人が集まり、そして人が多く行き交う土地ほど価値が高くなるのです。

メタバースの不動産
出典=『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』

■評価額は高いがアクティブユーザーが少ない

では、メタバースの土地はどうでしょう。インターネット空間は無限です。その無限の空間を切り取ったものに、はたして価値はあるのか。その点で慎重になる人が多いのか、実際、NFTメタバースは、企業の大型投資により評価額は高い割に、アクティブユーザーが非常に少ないのです。

リアルな土地でいえば、人気スポットも、かっこいい建築物も何もなく閑散とした街に、ただ空の宅地だけがあるようなもの。となると、ますます価値に疑問符がついてしまいます。ただでさえ無限なインターネット上の「単なるスペース」に価値がある、というのはロジックとして成立しづらいといえるのです。

もちろん、今後、それこそ銀座や表参道のように、有名人が多く集まるとか、かっこいいデジタル建築物がたくさんあるとか、高級ブランドショップ的な人気アプリが搭載されているとか、そういった魅力的なメタバースが誕生したら、そのメタバースに住みたい、土地を買いたいという人が増えて、「地価」が上がる可能性はあります。

■多くの人が過ごすようになって初めて価値が出る

すでにWeb2のソーシャルVRアプリ「VRチャット」には、人がたむろしている飲み屋街のような横町が形成されています。web3でも、そういうメタバースができたら、また「土地の価値」に関する議論も変わってくるでしょう。

ただし、そうなるには、まず、より多くの人たちが、より多くの時間をメタバースで過ごすようになる必要があります。

加えて、メタバースに建築物があり、なおかつ、そこにユーザーにとっての使用価値が付帯されていること、そのメタバースの「未来の価値」をユーザーが信じられることなど、いくつもの条件をクリアしなくてはいけない。

メタバースの土地に本当の意味で「価値」がつくのは、まだまだ先になると考えられるのではないでしょうか。

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comugi(こむぎ)
Emoote共同創業者
シンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者。ビジネス書の編集者、グローバルWebメディア日本版の編集長を経て、現職。ベンチャーキャピタルのリサーチャーとして、Web3をはじめとしたデジタルテクノロジーの最前線を追う。新旧のデジタルテクノロジーに精通し、全体像を直感的に把握できるシンプルな図解と、平易な言葉による「誰にでもわかりやすい解説」に定評がある。Twitterなどを通じて、デジタルテクノロジーに関する最新情報を発信中。

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(Emoote共同創業者 comugi)

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