「スマホを1日3時間以上使う子は偏差値50に届かない」脳科学研究者が教えるスマホ時間短縮の奥の手
プレジデントオンライン / 2023年7月16日 13時15分
■「スマホを3時間以上使用していると偏差値50未満」の衝撃
私たち東北大学加齢医学研究所では、子どもの「スマホの使用時間」と「学力テストの成績」の因果関係を解析するため、仙台市の小学生および中学生を対象に、2010年度から毎年、大規模調査を行ってきました。
調査を通じて、「スマホをたくさん使っている子は明らかに学力が低い」という衝撃的な結果が出ました。スマホの使用時間が1時間未満、1~2時間、2~3時間と増えていくにつれ、偏差値はどんどん低くなっていき、3時間以上使用している子どもたちでは、偏差値50を超える勉強時間と睡眠時間の組み合わせがひとつもなかったのです。
※「研究者が思わずゾッとした『子どものスマホ使用時間と偏差値の関係』小中学生7万人調査でわかった衝撃の事実」
この結果からは、スマホを1日3時間以上使用していると、どれだけ勉強時間や睡眠時間を確保していても、成績が平均未満に沈んでしまうということがわかります。
ただ、もともと学力の低かった子が、スマホをたくさん使っていたのではないかとも考えられたため、その可能性を排除するために、さらに複数年度にわたってデータを集める追跡調査を行ったところ、図表1のような調査結果が出ました(2015年度における仙台市の小学校6年生および中学校1年生を対象)。
![【図表1】スマホ等の使用時間の変化と学力の関係](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/4/1200wm/img_f4d6f4771059ca4991d27cf44867217b397856.jpg)
■使用時間を減らせばスマホ依存は軽くなり成績が上がる
スマホを「使用しない」「1時間未満」の子は、「1時間以上に増加」すると成績が下がる一方、「1時間以上」使っていた子が「1時間未満に減少」したり、「使用しなくなった」りすると、成績は上昇に転じていたのです。
つまり現時点でスマホ沼に浸かっている子も、使用時間をなんとか減らすことができれば、学力をプラスにもっていくことができる。非常に希望のある結果が出ました。
ただ、ひとつ落とし穴があります。実際に、この調査で使用時間を自力で減らせた子は、全体の1割程度しかいなかったということです。
ですから、1時間未満に減らすためには、いかに周りの大人の手助けが必要かということです。
■実際問題、スマホタイムを1日1時間未満にするのは難しい
親御さんが説得して、わが子のスマホの使用時間を1時間未満に減らすことは、相当難しいでしょう。子どもの反発は必至です。
実際に、私が宮城県白石市のある小学校をモデル校として、スマホの使用時間を減らす取り組みを行ったときのこと。まず子どもたち自身にスマホやゲームの使用時間のルールを決める会議をしてもらいましたが、私が事前の講演で「1時間未満がいいんだよ」と伝えたにもかかわらず、子どもたちに1時間未満はつらいようで結局、2時間未満となりました。
しかし2時間未満でも、たった半年間で「ルールを守れる子の割合が増える」「スマホの依存傾向が減る」という結果が出たのは注目すべき点でした。
ここで重要なことは、子ども自身がルールを決めて、それを守るということです。家庭でも子どもと会議をし、親子でスマホの使用時間のルールを決めましょう。もちろん1時間未満が望ましいですが、今すぐ1時間未満にしなくてはいけないわけではありません。たとえば今4時間なら、翌月は3時間、翌々月は2時間、と無理のない範囲で減らしていき、1年後には1時間未満になっている、それでもいいと思います。
![ベッドの上でスマホを見ている子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/f/1200wm/img_9f1e528fff72bcf34cad8b9fc05ed4ce399432.jpg)
■1日1時間でも夜寝る前のスマホは絶対にNG
また子どもだけでなく、大人もインターネットづけでスマホやパソコンのスクリーンばかり見て、子どもの目を見て話す機会が少ないのも考えものです。親自身もスマホの使用時間を減らして、子どもと話す機会を増やしましょう。
親が子どもにスマホのリスクについて、かみくだいて説明したり、脱オンラインをしたけれど、こういうところが難しかったといった体験談を話したりしてあげてください。子どもに対して、ただスマホをやめろと叱ったり、取り上げたりして、親子関係がぎくしゃくしてしまっては、あまり意味がありません。
あくまでもゴールは、子ども自身が気づき、自己管理できるようになること。親子の関係性や愛着形成を大切にしながら、子どもが親との約束をまず守るという信頼関係をコツコツ積み重ねていくことが、根本的な解決になります。
スマホの使用時間を減らすには、使う時間帯を決めるのはもちろん、通知チェックを1日1回にするなど回数を制限するのも有効です。
ただし使う時間帯に関しては、夜はNGです。スマホが発するブルーライトが睡眠を阻害するため、少なくとも寝る1時間前まではやめるべきで、ベッドに持ち込むのは言語道断です。寝るときはリビングで預かるなど、親がしっかりコントロールしたほうがよいでしょう。
■夏休みこそデジタルデトックスをして生活習慣を変える
特に夏休みは、こうした生活習慣をととのえるチャンスです。まず起きる時間と寝る時間は固定し、起きている時間に何をするか決めて、そのなかでスマホやゲームは1時間と決めて、それを守る。それだけでも夏休み明けは、子どもの生まれ変わった姿が見られると思います。
また、スマホを持たせずに、祖父母の家などに遊びに行かせるのもいいでしょう。いわゆる「デジタルデトックス」です。ふだんはスマホ漬けでも、1週間ぐらい使わなければ、スマホがなくても遊べることに、子ども自身が気づくと思います。
![田んぼを歩く少年](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/1200wm/img_6277c02a98acc0a749c39e058ec8fc29396725.jpg)
■「GIGAスクール構想」で学校でもタブレットを使う時代
2019年12月に文部科学省が「GIGAスクール構想」を発表、コロナ禍を経て、学校現場でも一人1台端末が当たり前になりつつあります。
しかし私たちの実験結果では「スマホやタブレットで言葉を調べたときは、脳が働いておらず記憶に残らない」ということがわかっています。
※「『知らない言葉をスマホで調べてはいけない』平成生まれの脳科学者が小中学生1人1端末時代に訴えたいこと」
紙の辞書で調べたときは、調べ始めから脳の前頭前野が活動しているのに対して、スマホやタブレットで調べた場合、ほとんど脳が働いていないのです。日常生活においても、ちょっと気になったことをスマホで調べたけれど、次の日には覚えていなかったという経験のある人も多いのではないでしょうか。
以前、ある小学校で、このテーマで講演したときに、最後に児童から「覚えられなかった分は、紙に何度も書いて覚えればいいですか」という質問がきました。
スマホやタブレットで調べたものが記憶に残らないなら、記憶に残すためには、どうしたらいいか。まさに、その子が考えたように紙に書いて覚える、友だちに説明する、きょうだいに教える、そういう形でアウトプットすれば、脳を働かせて記憶を定着させることができます。
■学校でICT機器を使う国ほど学力が低いという不都合な真実
また教材がスマホやタブレットになっても、辞書だけは紙の辞書にする、などうまく組み合わせれば効率を得ながら、記憶に残すことができます。これからは、そういう流れになっていくでしょうね。
すでに世界の調査では、ICT機器を使った学習に取り組んでいる国ほど、学力が低いという結果が出ています。コロナ禍で休校せざるを得ない場面では、オンラインがあって助かったのも事実ですが、この5月に新型コロナウイルス感染症が5類に変わり、授業が対面に戻り、今まさに学校現場でも取捨選択が求められているときです。
![学校でコンピュータを使うことを学ぶ小学生](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/1200wm/img_06084afaac9a7005b4e2543e9dafda3e396518.jpg)
■成績を上げたければ紙と鉛筆のアナログ勉強に逆行せよ
先生たちも何でもかんでもコロナ禍のやり方を残すのではなく、ここは良かった、ここはダメだったということを、子どもの姿を見ながら選びとってほしいですね。
子どもの情報活用能力を高めようというのがGIGAスクール構想の目指すところですから、やはり場面に応じて、先生たち自身で、それが必要かどうか見極めて使ってもらいたいと思います。
![榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/b/1200wm/img_8b1dbcda33c70572788399b22fa796d5346348.jpg)
もちろん子どもたちも、自分で選びとる度胸をもってほしいです。先生や学校からタブレットでこれをやれと言われたけれど、紙でやらないと覚えられない、効果は出ないぞ、と気づき始めている子もいるのではないでしょうか。
周りがみんなスマホを使っている中、自分だけが使わなければ、平均以上の成績になれる。そのことをすでに感じとっている子も少なくないでしょう。
極端に言えば、中学受験や高校受験を控えているとき、スマホやタブレットでの勉強を止めて、紙の辞書を使ったりノートに書いて学習したりすれば、ライバルに差をつけられる。また、タブレット学習を中心にしていて成績が伸び悩んでいるときにも、デジタルからアナログへの移行は、試してみる価値があると思います。
■スマホのリスクが正確に認識されていない現状には危機感
しかし、多くの子どもたちがスマホのリスクを正確に認識しないままに依存度を高めてしまっている。そんな現状に、私は研究者としてかなりの危機感を持っています。いかに子どもたちの脳を守るか。まず基本的に、子どもは自分でスマホを買えるわけではないので、与える大人に責任があります。親や教師が科学的に見たスマホのリスクに関する情報をもってもらいたい。その上で子どもにスマホを持たせるのであれば、野放しにはせず、愛情をもって接しながら使い方を話し合ってもらいたいと思います。
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東北大学加齢医学研究所助教
1989年千葉県生まれ。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行なっている。共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)がある。
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(東北大学加齢医学研究所助教 榊 浩平 取材・構成=池田純子)
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