「来週のプレゼンが不安…」ぐるぐる考えすぎて眠れない人を安眠に導く"別の考え事"
プレジデントオンライン / 2023年7月17日 8時15分
■「マインドワンダリング」は自然な反応
夜、布団に入ってからなかなか寝付けないという人の中には、寝る前にいろいろなことを考えすぎてしまって眠れなくなるというタイプの人もたくさんいます。「あの時、ああしておけばよかった」「どうしてあんなことを言ってしまったんだろう」など、過去を振り返って反省したり後悔したりすることもあれば、「今日引き受けた仕事は、この先大丈夫だろうか」「来週のプレゼンはうまくやれるだろうか」と、未来について考えて不安になったりすることもあるでしょう。
こうした、過去を振り返ったり未来を不安に感じたりと、頭の中でぐるぐる考えてしまう「マインドワンダリング」は、自然な反応ですし、考えること自体は悪いことではありません。ただ、そこで「考えていても仕方がない」「何とかなるだろう」と思えれば、そのうち眠りにつけますが、止まらなくなると睡眠を妨げてしまいます。
■眠れないのは人間の防衛本能
私たちは1日のうち、落ち着いて自分の内面に目を向ける時間というのはほとんどありません。日中、職場にいる時はもちろん、通勤途中に道を歩いている時も、視点が外に向いていますし、意識が外に向かざるを得ません。脳はかなり活性化させられています。
家に帰ってからも、家事や子どもの世話などがあれば、意識が自分の外に向いている状況は続きます。布団に入って初めて、自分の内面に目を向けられる状態になります。脳が「デフォルト・モード・ネットワーク」になるのです。デフォルト・モード・ネットワークとは、車で言うところの、エンジンはかかっているけれど、走行はしていない「アイドリング状態」。ぼんやりとして、安静な状態です。そして、過去を振り返って反省したり、未来に起こりうることを考えてしまうのです。
デフォルト・モード・ネットワークになると、日中にあった出来事が整理されるといったメリットがありますが、反省や後悔が止まらなくなったり、不安が大きくなったりすると、眠れなくなってしまいます。人間は、恐怖や不安といったネガティブな感情を抱えていると、眠れないようにできているからです。
現代は、寝ている間に猛獣に襲われたりすることはありませんが、眠っている時は非常に無防備なので、大昔であれば、ともすれば死に直結してしまいます。ですから、不安が残っている状態だと、「寝てはいけない。不安を解決してからでないと、このまま眠ると危ない」という防衛本能が働くのです。
■眠れない悪循環を断ち切るには
これが1日や2日ならともかく、何日も続くのは良くありません。眠れないと体の疲れがとれませんし、免疫力も下がります。眠れない間は不安や恐怖と戦っているわけですから、それだけ交感神経が刺激される時間が長くなり、心臓や血管に負担がかかり動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高まります。
また、睡眠不足だと昼間もイライラすることが増え、思考力や集中力が落ちて、仕事のパフォーマンスも下がってしまいます。それによって自分に自信が持てなくなり、ちょっとしたことで落ち込んだり、ストレスを感じやすくなったりしてまた眠れなくなる……という悪循環に陥ってしまいます。
布団に入って脳がデフォルト・モード・ネットワークの状態になったときの感情の振れ幅を抑えることができれば、こうした悪循環を断ち切ることができ、自然に入眠できるようになるはずです。
■感情の「振れ幅」を抑えるマインドワンダリング対策
そのためにはどうしたらいいのでしょうか。方法は大きく3つあります。
考え方を再構築する
まずは、ものごとの捉え方、考え方を変えることです。ただ何も、すべてをポジティブに考えましょうということではありません。
「今抱えている仕事がうまく進められるだろうか」「明日の打ち合わせで失敗しないだろうか」など、未来について考えて不安になる場合は、「多少失敗しても、いくらでも挽回できる」「うまくいかなくても、逆に自分の得手不得手が見えてくるからプラスになることもありそうだ」「1回くらい失敗した方が、学びが得られていいんじゃないか」など、捉え方を再構築するようにします。
過去を振り返って失敗を気に病んでしまう場合も同様です。「以前、同じような失敗をほかの人もしていたけれど、周りはそんなに気にしていなかったな」「今回の失敗から学びがあったから、次はもっとこんな風にできそうだ」など、自分を客観的に見てみるようにします。
ジャーナリング
こうした、捉え方の再構築をするときにも役立つのが「ジャーナリング」です。
不安、悔しい、恥ずかしい、頭にくる、などのネガティブな気持ちも含めて、今の気持ちをひたすら書き出すものです。自分の失敗だけでなく、「あの上司ムカつく」「明日のプレゼンが不安」などのネガティブな気持ちも、すべて文字にして外に出してしまうのです。
書き出すためには、心の中のモヤモヤを言語化する必要があるので、自分の気持ちを整理することができます。そして、書き出してみると「私は今、こんなことを考えているのか」「こんな風に感じているんだな」ということをあらためて認識し、自分の状況や考えを客観的に見ることができます。「捉え方の再構築」をするのにも役立ちます。
![ノートに書く人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/1200wm/img_779ffe19b72f3bb7373e4849e943c234396746.jpg)
■ジャーナリングで気持ちを切り替える
最初は、例えば「3分」など時間を決めて、その間に今の気持ちを書けるだけ書きます。3分が長く感じるようなら、1分でもかまいません。ネガティブな感情を外に出すことに慣れていないうちは、「誰かに見られたらどうしよう」「こんなネガティブなことを言葉にしてもいいのだろうか」と、不安に感じるかもしれません。真面目な人ほど、「こんな気持ちを持ってはいけないのではないか」と思ってしまうでしょう。しかし、慣れてくると、どんどん書けるようになり、自分の感情を素直に受け止められるようになってきます。
さらに、文字にして「見える化」すると、「これは言っていてもどうしようもないことだな」と、あきらめがつきやすくなります。たとえば「明日のプレゼンが不安」と文字にしてみると、「今考えても仕方ないな」「明日仕事に行ってからしっかり準備するしかないな」と、客観的な対策が見えてきます。やってしまった失敗についても「起きてしまったことは仕方がない」「考えていてもどうしようもない」と、あきらめがつきやすくなります。
1日の終わりにジャーナリングを行うと、すっきりして良い睡眠につながるという調査報告もあります。ジャーナリングが習慣化されると、それが1日の区切りになり、モヤモヤ考えていることも、「これでおしまい」「今日はこれで終わり」「さあ、すっきりしたところでゆっくり眠ろう」と気持ちを切り替えるきっかけになるのです。
■自分のことを考えないようにするには
自分の内側から気持ちをそらす
頭の中でぐるぐると考え続けてしまう、マインドワンダリングにはまりがちな人は、自分自身の内側に目が向きすぎる傾向があるので、そこから抜け出すためにあえて外に目を向けるようにします。
たとえば、明日の不安で頭がいっぱいになってきたら、「友達のAさんの誕生日には何をプレゼントしようかな」「Bさんに感謝の手紙を書くならこんな感じかな」と、自分の外側の“あたたかいこと”を考えてみたりします。
音楽やラジオを聞いたり、読書をしたりするのもいいでしょう。「いかに自分のことを考えないか」が大切なので、気持ちをそらすことができるものであれば何でもOKです。ただ、大好きな音楽だと、余計に自分の考えにふけってしまうかもしれませんし、本も、あまりおもしろいものだと逆に眠れなくなるかもしれません。程よく気持ちをそらすことができ、ハマり過ぎないものを見つけてみてください。ずっと積読したままだった、読んでいるうちにうとうとするような「つまらない本」もいいでしょう。
■眠れないときは布団から出る
私たちの体は基本的に、夜になると眠りを誘うホルモンが分泌されるので、生活リズムが整っていれば、自然に眠くなります。
入浴は、就寝1時間前には終えるようにしましょう。シャワー浴ではなく、湯船に漬かります。入浴で体温を上げると、その後1時間程度かかってゆっくり下がっていきます。すると自然と睡魔がやってくるので、そのタイミングで布団に入ると、スムーズに眠ることができます。
スマホを見るのは、寝る1時間前までにします。スマホから得られる情報は、視覚的にも内容的にも刺激が強いものが多く、特にニュースは内容がネガティブでもポジティブでも感情が動きやすいので、避けた方がいいでしょう。
もし布団に入って30分たってもまったく眠れる気配がなければ、思い切って布団から出ましょう。布団に入ったままで「なかなか眠れない」と悩んでいると、「布団の中は眠れないかもしれない場所」と脳が記憶してしまい、翌日以降も「今日は眠れるかな……」と布団に入ってから不安になってしまいます。
布団から出てからジャーナリングをしたり、友達への感謝の手紙を書いたり、つまらない本を読んだりして、眠くなったところで布団に入ってそのまま眠りに入るとよいでしょう。
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産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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