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日本の父親は「イクメン=育児も家事もできる高収入の男性」を押し付けられている…子育てが苦しい根本原因

プレジデントオンライン / 2023年7月21日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは平野翔大著『ポストイクメンの男性育児』(中公新書ラクレ)――。

■イントロダクション

「イクメン」という言葉が普及して久しい。男性の育児参加は肯定的に捉えられ、2022年4月から施行された改正育児・介護休業法では、男性の育休取得推進や育休取得率の公表が企業に義務付けられるようになった。

社会の意識や法制度的には、「男性育児」の土壌は育ってきているように見える。

本書では、「男性育児」が推進されているものの、そこには「支援」の観点が不足し、男性の育児参加が実際には厳しい状況であることを問題視。真に男性の育児参加を浸透させるためには、これまでの労働環境や女性中心の支援体制を見直し、社会全体に育児負担を分散させる意識が必要であるとして、そうした社会システムを「父親3.0」と名づけ説明している。

また同時に、男性が育児をしやすい社会制度・労働環境を整えることは、企業の多様性拡大につながるとしている。

著者は産業医、産婦人科医として大企業の健康経営戦略からベンチャー企業の産業保健体制立ち上げまで幅広く行うと同時に、Daddy Support協会代表理事として「男性の育児支援」の実装活動も行っている。

1.父親の「悲鳴」、母親の「ホンネ」
2.男性の育休をめぐる「歪んだ社会」
3.父親を苦しめる「三重苦」
4.「男性育児時代」に、社会や企業が目指すもの
5.苦しみ、追い込まれる前にできる、父親の心得
終 気づいてほしい、自分を守る術

■父親も母親も育児と仕事を両立する

筆者が代表理事を務める「Daddy Support協会」では、父親の時代推移を「父親1.0、2.0、3.0」と3つに分けて整理し、「これからの男性育児の一つの形」として「父親3.0」を提唱している。

「父親1.0」はまさに「昭和型企業戦士」が該当する。高度経済成長に伴って成立した「男性は仕事、女性は育児」「結婚/出産したら女性は退職」という文化における父親像である。「父親2.0」は「イクメン」が該当する。少子化や女性の社会進出に伴い、男性の育児参画の必要性が叫ばれる中で出てきた「男性の育児は素晴らしい」とする文化における父親像である。共働き率が上昇する2000年代から出現し、2010年の「イクメン」ブームで脚光を浴びた。

この「父親1.0」「父親2.0」を受け、現代の「父親の育児が一般化」する流れで重要になるのが「父親3.0」だと考えている。「父親3.0」は共働きを基本として、「誰もが(父親も母親も)育児と仕事を両立する」というスタイルだ。夫婦の環境によっては、外的支援を得て育児の負担を減らしたり、逆に一定の期間は集中的に育児に関与したりするなど、まさに「多様な育児」が可能になる。

■共働き夫婦が「夫婦2人だけで育児」は困難だ

なぜここで敢えて、「父親3.0」と定義するか、そこには2つの理由がある。1つは「イクメン」の悪しき変化に対するアンチテーゼである。「育児を楽しむ男性=イクメン」であったはずが、いつしか過度の期待を抱え「育児も家事もでき、高収入の男性」を指すようになった結果、否定的な認識が増えてしまった。

赤ちゃんを抱く男性
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

もう1つは「分散型」ということへの意識だ。家業を中心とした高度経済成長期以前の育児体制は「共同体育児」が当たり前であり、むしろ母親は育児の主体ですらなかった。その後、育児は一度母親に集中し、ワンオペ育児の困難や少子化を受けて、次は父親を育児戦力とすることで、両親に集中させようとしている。しかしこれこそが危険な流れなのである。

「父母が両方とも家業を中心にやっている」というかつての体制は、当然父母以外の育児戦力(祖父母や使用人)がいたから成立していた。しかし今の時代、地域共同体は激減し、多くの夫婦が孤立して育児を担っている。現代で「共働き夫婦」が「夫婦2人だけで育児」というのも困難な話であろう。だからこそ、社会システムとして「共同体の再現」が必要であり、父母は積極的に外の支援を利用する必要がある。その意味で「分散型育児」として、「父親3.0」と定義した。

つまり「父親3.0」とは、「(特別ではなく)当たり前に育児をする父親世代」という意味と、「分散型育児」=「共同体育児を社会で担う」という意味を含んでいる。この「父親3.0」を実現するために重要なのは「教育」と「支援」だ。男性に育児を、女性に社会進出を、というのであれば、相応の支援や制度が必要なのである。

■男性は「サブ扱い」の子育て支援体制

妊娠すると、女性は妊娠届を持って役所に行く。これにより「母子手帳」を受け取る。母子手帳には「妊婦健診チケット」がついており、数週間に1回、妊婦は産科に通い、産婦人科医や助産師の診察を受ける。時には助産師や栄養士・心理士などとしっかり時間をとって、相談したり栄養指導や教育を受けたりする機会もある。また妊娠期間中には「母親教室」で出産の基本や授乳・沐浴(もくよく)、おむつ替えなどを助産師から学ぶ。出産後の入院期間にも助産師から授乳や沐浴について実技指導を受けることができる。

実は日本のこのシステムは、世界的にもかなり手厚い。小児科医・保健師なども含め、専門職が「女性が母親になる過程」を支える仕組みができているのである。さて、男性はどうだろうか。確かに母子手帳の中身を読むことはできる。妊婦健診に同伴して話を聞くこともできる。しかし、すべて「サブ扱い」なのだ。産婦人科医や助産師はあくまで「女性の身体・妊娠・出産」の専門家だ。父親はメインのケアの対象ではない。

■「両親教室」では一番大事なことが学べない

唯一父親にも向けて提供されているのが「両親教室」だろう。しかし、その大多数は「両親への教室」であり、「父親教室」として父親に特化した教育が実施されている例は非常に少ない。その結果、「両親教室」の実態は、「母親向けの教室に、父親も参加できる」というものになっている。

内容についてはもっと大きな課題がある。母親教室は「妊婦が40週にわたるフォローを専門家から受けている」という前提で成り立っている。「集中的に知識や技能を学ぶ場所」として位置づけられており、教室単体で成り立っているものではない。一方、いきなり両親教室に参加した父親は、妊娠の仕組みや基本などについては教えられないまま、「抱っこのしかた」「沐浴のしかた」「おむつ替えのしかた」を教えられ、最後に「妊婦体験」をする。

赤ちゃんのおむつ替え
写真=iStock.com/FotoDuets
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FotoDuets

これらの手技は育児全体のほんの一部の「切り取り」であり、一番知るべきである「育児の大変さ」を学ぶことはできていない。結果として、母親の育児の大変さを理解できないで母親を追い込んでしまったり、逆に甘い見積もりで父親自身が育児に参加し、キャパオーバーになって追い込まれたりしているのだ。

■ある中規模のIT企業で起きたこと

実はこれまで、出産や育児について企業が負わされてきた責任はあまり大きなものではなかった。女性の労働市場への進出が進むにあたっても、出産・育児については「休む」ことが中心であった。だが「休んで育児or働く」ではなく、「両立」が求められているのが昨今の変化であり、企業が期待されている役割は非常に大きい。

ある中規模のIT企業では、業種柄男性が8割と多く、女性はバックオフィス部門やデザイン部門での仕事が中心となっていた。特にエンジニアの長時間労働が常態化していたが、平均年齢は30代前半と若く、育児休業の取得も女性のみであり、男性で仕事と育児の両立の問題は「生じていない」とのことであった。社長は特に男女比率に課題を感じており、女性の健康経営や育児支援にも興味を示していたが、知識も経験もない中、「何をやったらいいか分からない」状況であった。

そのような中、他の経営者から以前に他社でダイバーシティ施策にもかかわったことがある女性の紹介を受け、中途採用で人事部門に入ってもらうこととした。(*しばらく働いてもらった後)社長は思い切った決断をする。人事の一担当者でしかないこの女性に、「ダイバーシティの実行責任者」の肩書を与えた。

■日本企業が「多様性を持った成長」を続ける最後の機会

裁量権を得た彼女は社員向けに実態調査を行い、「育休を取ろうか悩んでいたが言い出せなかった」といった男性社員の声や、「育児をしながらの働き方に適していない勤怠制度」を理由にやめていった女性社員がいたという声を集め、経営会議などで現状の分析とともに訴えた。「リアルな声」「データ」を集め、見える化したことで、社内での問題意識は明らかに変化し、その後全体を挙げて様々な施策が進んでいき、初の男性育休取得、女性社員率の上昇が進んだ。

平野翔大著『ポストイクメンの男性育児』(中公新書ラクレ)
平野翔大著『ポストイクメンの男性育児』(中公新書ラクレ)

このような施策を打てば、当然長時間労働も問題に上がる。会社規模が拡大する中で適切な業務分担ができず、エンジニアや営業部門が、本来やるべきでない業務を抱えていたこともこの経過で判明した。結果として長時間労働も大きく改善され始め、長時間労働削減による人件費の減少と経営の多角化により、収益は大きく改善した。

男性育休は「これまで女性が担ってきたものを、男性が自分事として考える」という数少ない機会とも言える。しかし、このような「多様性」を受け入れ、それぞれが働けるシステムを構築していくことは、結果として他の困りごとを抱えている人も救うことになる。男性育休は、日本の企業が「多様性を持った成長」を継続できる、最後の機会なのかもしれない、筆者はそのように感じている。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

日本の男性は「育児・家事」に割いている時間の割合が、諸外国に比べて小さいわけではないことが本書で示されている。つまり大方の印象とは違い、「悪条件の中、よく育児に関わっている」のだ。ただ仕事関連時間が長すぎるため、家事・育児の絶対量が削られているのだという。その点、リモートワークが普及し通勤時間が抑えられるようになったのは、男性の育児参加に良い影響を与えていると考えられる。育児だけでなく、介護や看病など「仕事以外」と仕事の両立を目指す人にとって、昨今の働き方の柔軟性・多様性が追い風になっていることは、間違いないだろう。

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