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毎月目標を達成し、成績も常にトップの営業マンが「孫子の兵法」では最悪の生き方である理由

プレジデントオンライン / 2023年7月21日 8時15分

ビジネスは戦いだ。毎月目標を達成し、成績も常にトップであろうとすれば、ライバルを押しのけ、無理な営業活動もするだろう。だが、孫子兵法家の長尾一洋氏は「その生き方は最悪。もっと楽な方法で大きな成果をあげる道がある」と説く。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします――。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミー の連載『クライアント、ライバル、家庭…最高の戦略書「孫子の兵法」が伝授 自分の要求を通しまくる技術20』の第1話を再編集したものです。

■将来あなたのライバルになるのは、どっち?

いきなりですが、問題です。

同期入社の中で、見るからに優秀そうでクールな感じのA君といつもフレンドリーで人の良さそうなB君では、将来どちらがあなたのライバルとして邪魔な存在になると思いますか?

普通に考えれば、優秀そうでクールな感じのA君がライバルとしては手強そうだし、冷たい印象から嫌なヤツではないかと考えるのではないでしょうか。いや、人は見た目で判断できない。人の良さそうなB君は世渡り上手で、上司のウケも良く、いいヤツだけど社内の出世競争では邪魔になるかもしれないと考える人もいるでしょう。

そもそも、いきなり問題ですと始まって、クールやフレンドリーといった言葉で説明されても人間を評価することはできない。こんな問題自体がナンセンスだと冷ややかに受け止めた人もいるでしょう。

そうですね。筆者の言葉に素直に従って「A君かな、B君かな」と考えた人は、あまりに人を信じすぎて無防備なのかもしれません。しかし、問題そのものを否定して、筆者がどういう意図でこの質問をしているのか、狙いは何かと考えようとしないのは、せっかくのチャンスを活かすことのできない人かもしれません。

さて、この講座は、今からおよそ2500年前、中国春秋時代に著された兵法書「孫子」の知恵を学び、現代のビジネスに活かすことで「自分の要求を通しまくる」ためのものです。

兵法とは戦争のための指南書ですから、相手の言うことを鵜呑みにしてもダメだし、人を信じなければ命がけの戦いをすることもさせることもできないという前提で学んでいきましょう。知識を学ぶのでも、古典としての「孫子」を覚えるのでもありません。勝つため、負けないための思考の訓練です。安易に正解を求めないように。講座は全部で20講ありますから、徐々に孫子流の思考が自分のものになり、自分なりの正解が導けるようになるはずです。さぁ、孫子の兵法を題材に、思考の真剣勝負を始めましょう。

■戦いに勝って喜んでいるようではまだまだ甘い

100回戦って、100回とも勝利する百戦百勝の常勝軍団がいたら、それが最強で、それ以上の軍はいないだろうと思いませんか。ビジネスで言えば、毎月毎月、目標過達で、年間成績もずっとトップの営業パーソンのような存在です。結果だけを見れば、100戦100勝がいいに決まっているわけですが、孫子の兵法ではそうは考えません。

孫子は、「百戦百勝は、善の善なる者に非(あらざ)るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」(謀攻篇)と言っています。

百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策であるというのです。なぜでしょうか。

戦えば、たとえ勝ったとしても自軍にも少なからず損害が出ます。それを百回も繰り返せば、勝ち続けていたとしても徐々に兵士が傷つき、疲弊もするでしょうし、戦費も馬鹿になりません。もし、その隙をついて第三国が攻めてきたらどうでしょう。さすがの常勝軍団もどこかの時点で大敗を喫するかもしれません。

それよりも、実際には戦わず、武威を示すだけで敵国が降伏してきたら、自軍にも毀損はなく、敵軍にも毀損がない状態で、却って兵力は増すことになります。そうすると益々強くなり、それによってまた別の国を降伏させて属国にすることもできるかもしれません。これが「戦わずして勝つ」です。現代で言えば抑止力と言い換えることができるでしょう。

■敵の謀略、策謀を読んで無力化すること

「そんなことができるのか?」と疑問に思う人もいるでしょうが、孫子はその方法も教えてくれています。「上兵は謀(ぼう)を伐(う)つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。」(謀攻篇)と言うのです。

最上の戦い方は、敵の謀略、策謀を読んで無力化することであり、その次は、敵の同盟や友好関係を断ち切って孤立させることであると。それができなかったら仕方なく戦闘に踏み切るわけですが、最悪なのは敵が守りを固めている城をわざわざ攻めに行くようなことだというわけです。そんな戦いをしてしまえばたとえ勝ったとしても自軍にも大きな損害があるのは間違いありません。

現代のビジネスでも、毎月目標を達成し、成績も常にトップであろうとすれば、ライバルに負けまいと無理もするでしょうし、売り込むために値引きやタダ働きなど過剰なサービスをしかねません。無理な売り込みで客からクレームでもつけられたりしたら最悪です。

それよりも、目先の戦い(売り込み)を避け、ライバルの動きに惑わされず、販売ルートの開拓や他社と提携して販売チャネルを広げるなど、少し時間はかかっても謀(はかりごと)を巡らせて、3年後にダントツの販売実績を上げたとしたらどうでしょう。朝から晩まで走り回って無理な売り込みをするようなことをせずとも、安定的に成果を生み出す仕組みをつくるほうが良いと思いませんか。

毎月の業績は悪いよりも良いに越したことはないし、ライバルにも負けたくないですが、そんなことに一喜一憂せず、戦わずに勝つほうが余程大きな成果を上げることができるのです。

■上司の目もごまかして自分の謀略を遂行せよ

「3年後にダントツの販売実績を上げるとは限らない。それまで上司に説明もできない」と思った人もいるでしょう。戦わないと言っても、一切仕事をせずにサボるわけではありません。当然上司は毎月の業績を要求してくるでしょう。「戦わずして勝つので、それまで待っててください」なんて言ったら怒られてしまいます。謀(はかりごと)ですからこちらの手の内を正直に話す必要はないのです。

孫子は、こう教えてくれています。「兵とは詭道(きどう)なり。故に、能なるも之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。近くとも之に遠きを示し、遠くとも之に近きを示し、利して之を誘い、乱して之を取り、実にして之に備え、強にして之を避け、怒にして之を撓(みだ)し、卑にして之を驕(おご)らせ、佚(いつ)にしてこれを労し、親にして之を離す。其の無備を攻め、其の不意に出づ。」(計篇)

ちょっと長いですが、現代語に訳すとこうなります。「戦争とは、相手を欺く行為である。したがって、戦闘能力があってもないように見せかけ、ある作戦を用いようとしているときには、その作戦を取らないように見せかける。近くにいるときには、遠くにいるように見せかけ、遠く離れているときは、すでに近くに来ているように見せることが必要だ。相手が利を求めているときには、それを見せて罠にかけて誘い出し、混乱に乗じて相手を撃つべきである。敵の兵力が充実しているときには、それを防備し、敵が強大であれば、衝突を避ける。敵が怒っているときには、これを挑発してさらにかき乱し、へりくだって低姿勢を示すことで、敵を慢心させる。敵がゆっくりと安楽にしていれば、疲労困憊させるように仕向け、団結していれば、分裂させる。敵が防御していない不備を衝き、予想していない不意を衝くのだ。」

「兵とは詭道なり」という部分だけを切り取って、孫子の兵法は勝つためには相手を騙すようなこともする卑怯な兵法だと毛嫌いする人もいる一節です。ちゃんと読めばわかるように、これは戦争における駆け引きです。命がけの戦争で、正面切って正直に戦うなんておとぎ話のようなことがあるわけないのです。

自分の意図や戦略を遂行するためには、相手にその意図を見破られないようにしつつ事を進めなければなりません。敵もまたこちらの謀(はかりごと)を潰そうとしてくるわけですからね。

したがって、上司から「君はライバルのA君に比べて業績が悪いのだから、もっと頑張れ」などと叱咤されたら、「そうですね。もっと頑張ります!」くらいのことを言っておいて、腹の中で「3年後を見てろよ」と言い放ちつつ、着実に手を打っていけば良いのです。本音や本心を安易に見せてはダメなのです。そう考えると冒頭の問題で、A君やB君を見極めるのも、表面的な部分だけでなく、それぞれの考えや意図を読みとらないといけないし、もしかすると彼らも孫子の兵法を勉強していて、「兵とは詭道なり」であなたを欺こうとしているかもしれないのです。

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長尾 一洋(ながお・かずひろ)
NIコンサルティング代表
1965年、広島市生まれ。1991年、NIコンサルティングを設立。『孫子』の講座やセミナー講師を多数務める。『必勝の営業術55のポイント』(中央経済社)、『小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法 経営戦略』(明日香出版社)、『まんがで身につく孫子の兵法』(あさ出版)、『営業の見える化』(KADOKAWA)など著書多数。

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(NIコンサルティング代表 長尾 一洋 図版作成=大橋昭一)

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