人生は修行である…ブッダが「1人や2人や3人」ではなく、「4人以上のグループ」での修行を弟子に勧めた理由
プレジデントオンライン / 2023年7月23日 10時15分
■職場の「いじめ」「嫌がらせ」相談は年8万件
「人」という字は、親しき人同士が寄り添っている姿をかたどった象形文字です。
「人間」という言葉は、人が人の間でしか生きられない存在であることを端的にあらわしています。
これらの文字や言葉が示す通り、私たち人間は一人では生きられません。家庭でも職場でも、皆が互いに思いやり、支え合って生きていくことが理想です。
けれども現実は、なかなか理想通りにはいきません。
2020年6月1日、改正労働施策総合推進法が施行されました。通称パワハラ防止法と呼ばれるこの法律は、職場におけるパワーハラスメントの防止措置を義務付けたものです。
その背景には、厚生労働省に寄せられる、いじめや嫌がらせの相談件数が年々増加の一途をたどっていたことがあるようです。
厚生労働省の総合労働相談コーナーに寄せられる件数は年間130万件。そのうち「いじめ」や「嫌がらせ」の相談件数は、8万件にものぼると言います。
■部下から上司に対する「逆パワハラ」もある
職場は、寝ている時間を除けば、自宅よりも長い時間を過ごす場所です。
その職場にいる時間が、いじめや嫌がらせに怯える時間だとしたら、たまったものではありません。
特にまだ仕事に慣れない新入社員が、入社してすぐにパワハラ上司の下で働かなければならなくなったとしたら、働くこと事態がトラウマになってしまうことでしょう。
しかしながら、「パワハラ」は上司から部下に対して行われる嫌がらせとは限りません。中には「逆パワハラ」と呼ばれる、部下から上司に対してのパワハラもあるのです。
■正当な指示を出したのに謝罪や賠償騒ぎに
今や「パワハラ防止法」を盾に、上司の話や存在を故意に無視する。正当な業務指示をパワハラと訴え、執拗(しつよう)に説明を求め、指示に従わない。さらに謝罪や賠償を要求する。適切に指導をした上司の異動(配置転換)を管理職に要求する。
……といったケースも珍しくありません。
私はYouTubeで、「大愚和尚の一問一答」というお悩み相談番組を配信しているのですが、最近は、部下からの相談のみならず、中小企業の経営者や、中間管理職の方々からの相談も増えてきました。
「部下が言うことを聞いてくれない」
「パワハラを気にして強く言えない」
「少し強く注意するとすぐに辞めてしまう」
仕事にパッションのある上司ほど、新入社員とのギャップにイライラします。
責任感のある上司ほど、部下の態度にストレスを抱えてしまうのです。
■イライラの原因は他人ではなく、自分にある
なぜ私たちは、こんなにも他人に対してイライラしてしまうのでしょうか。
なぜ私たちは、こんなにも人間関係のストレスを抱えて仕事をしなければならないのでしょうか。
今から約2600年前のインドに、これらの問いに対する明快な答えを示した人がいました。それがブッダです。
ブッダは、イライラの原因は他人ではなく、自分にあると説きました。
イライラは自分の「心」で起こるからです。
相手が誰であれ、イライラが生じる場所はいつも、自分の心の中。
きっかけが何であれ、イライラが生じる場所はいつも、自分の心の中。
他人がイライラさせているのではなく、自分がイライラしているのです。
だからブッダは、他人ではなく「自分を観察せよ」と説いたのです。
仏教には、三学と呼ばれる修行があります。
三学とは、修行の目的(悟り)を達成するために欠かせない3つの必須科目なのですが、これは現代の会社組織、社会人の間にあっても、目的を達成するためにとても役立つ要素なので、ここに紹介しておきます。
■組織の人間関係には「戒」と「律」が必要
①戒学
戒学(かいがく)とは、戒律を学んで守り保つ努力のこと。
ブッダは弟子たちに、サンガと呼ばれる4人以上のグループを作って修行するように推奨しました。
サンガが4人以上である理由は、1人だと自分のエゴに気づかず、怠けたり諦めたりしやすいから。2人だと仲違いしやすいから。3人だと2対1に分かれて、対立が起きやすいから。
修行僧といっても、それぞれが育った環境も、信条も、思考も、感情も、生活習慣も違います。心が成長していない者たちが集まれば、やはり人間関係のトラブルが起きるものです。
どうしても根性論だけではトラブルが起きやすい。そこで考えだされたのが、戒律です。
戒とは個人のルール。律とは集団のルールです。
例えば戒には、殺さない、盗まない、嘘や偽りを言わない、他人の過ちを責め続けないなどといったものがあります。
例えば律には、定期的に行われる反省会や大切な決定が行われる集まりには、必ず出席しなければならないといったものがあります。
複数人が集まって活動するためには、それぞれの違いを理解した上で、戒律を守り保つ努力が必要だというのです。
■部下のためにハッキリ、サッパリ、堂々と行動
特に律は、教団が円滑に運営され、その目的を達成するためによく吟味された法律ですから、個人のわがままは許されません。律によっては、それを破れば追放といった厳しい定めもあります。
職場でも同じです。仕事に必要な知識、やり方、社会人としての立ち居振る舞いは、部下の成長を願うならば必須です。
ダメなことはダメ。やらなければならないことは、やらなければならない。
組織で働く以上、当然のことです。
部下の成長を願うならば、「パワハラ」と評されることに怯えて、陰でイライラ悶々(もんもん)とするのではなく、早い段階でハッキリ、サッパリ、堂々と伝える。
修行僧とて、一人で山の中に籠もって瞑想(めいそう)をしていても心は成長しません。戒律を守りながらも人の間で揉まれることによって自らの煩悩を目の当たりにし、それを超克していくことで、心技体が成長するのですから。
■イライラしている自らの心身に集中すると…
②定学
定学(じょうがく)とは、瞑想のこと。
精神を集中して心を散乱させない努力のことです。
精神を集中し、心を定める修行が必要な理由は、心がそれだけ乱れやすいからです。
では、「心」とは一体何か。
私たちの身体には、眼、耳、鼻、舌、身といった五感が備わっています。これら五感は、生命が外からの危険を避け、快楽を得て生きるために必要な感覚器官です。
この五感から入力された刺激や情報をもとに、私たちの内側で作られる情動が「心」です。
「心」が私たちの言葉や身体の行為を左右し、私たちの言動が、生活や仕事の結果を左右します。
だから部下の言動にイライラしたら、その言動に意識を囚われるのではなく、自らの心身に集中し、観察するのです。
イライラする心と体。ただそこに起きる動乱を観察するのです。
すると次第に、あなたの中に落ち着きが広がってくるのを感じられると思います。
自らの心身を集中、観察すること。冷静な観察眼を育てること。それが定学です。
■「智慧」を育てると、心が安定する
③慧学
慧学(えがく)とは、煩悩を離れて、ものごとを客観的に観察する努力のこと。
私たちの心はさまざまな記憶を蓄積しています。20歳まで生きれば、20歳までの記憶があります。50歳まで生きれば、50歳までの記憶があります。
さまざまな体験を通して心身に蓄積されてきた記憶は、人によってみんな違います。その記憶が、正解も生むし、偏見や失敗も生むのです。
五感から入力される刺激や情報を、好き嫌いや思い込み、欲や怒りを付加して妄想加工すると、心が動乱します。
五感から入力される刺激や情報を、正しく、ありのままに観察できれば、心が安定します。
■客観的に冷静に観察することが大切
もちろん、私たちはどこまでいっても、全知全能の神ではありませんから、自分の思い込みを完全に離れることはできません。
けれども「心」の不完全さを知って、自己と仕事と職場の人間関係を、冷静に観察する努力が大切です。
仕事の目的は何か。
自分の果たすべき役割は何か。
部下の性格や能力、可能性はどうしたら引き出せるのか。
と、問い続けることが大切です。
ありのままに、客観的に観察する。
同じ人間でも、アメリカ人と中国人とインド人は違います。
同じ生き物でも、ヤギと豚と犬は違います。
同じ職場に勤める同士でも、上司と同期と部下は違います。
上司も部下も、自分自身も完璧ではありません。
「感情」に振り回されないよう、「理性」を育てていく。
「心」を理解して、「智慧」を育ててゆく。
すぐに上手くはいかないけれど、正しい努力を積み重ねれば、きっと人生はもっとラクに生きられるようになることでしょう。
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佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)。最新刊は『自分という壁』(アスコム)。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)
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