重要な仕事をなかなか始められない…そんな「先延ばし人間」にお勧めする"科学的なトイレの活用法"
プレジデントオンライン / 2023年7月20日 15時15分
※本稿は、竹内康二『めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■「もっと時間がある日にやろう」と先延ばし
あなたが、重要な仕事を任されたときのことを、想像してみてください。
期限はまだまだ先なので、あなたは余裕をかましています。少しずつ作業を進めれば、いい仕事ができそうだと悠長に思っています。
あなたは、雑事を終わらせておけば、この重要な仕事により集中できるだろうと考えました。どうでもいい雑事に取り掛かり、なかなか重要な仕事に手をつけません。
時折、手をつけようとしますが、どうにも気分が乗らず、時間ばかりが過ぎていきます。そうこうしているうちに、期限が近づいてきました。
いよいよあなたは、本腰を入れて仕事に取り掛かろうとします。しかし、気が進みません。作業に弾みがつきません。
どうにかこうにか集中力を奮い起こして仕事を始めても、些細なことで気が散り、全然はかどりません。
もっと時間がたっぷりある日にやろうと考えて、今日は仕事をやめました。他の仕事をしなくていい日に、一気に進めようと計画します。
■期限ギリギリまで取り掛かれないのはなぜ?
しかし、その日の朝がきましたが気が進みません。そうじをして気持ちを切り替えようとしますが、終わるとお腹が減って集中できそうにないことに気がつきます。
そこで、ご飯を食べてから一気に仕事を片づけようと計画しますが、気が進みません。
こんな、先延ばしのパターンを繰り返してしまう人は驚くほど多いのです。
そもそも自分で希望して就職した会社の仕事なので、やりたくないわけではないはずです。それなのに、なぜか手が進まない。
これまでの努力が評価されて、重要な仕事を任されたこともわかっているし、その期待に応えたい気持ちがあるにもかかわらず、先延ばしする日々……。
やりたいのにやれない自分――。
「どうせやらなければならない」とわかっていても、ギリギリまで取り掛かれない自分――。
どうしてこうなるのでしょうか?
■応用行動分析学で「すぐやる方法」を考える
そんな、思い通りにならない自分を、「心理学」の力、具体的には「行動科学」の力、もっと具体的には「応用行動分析学」の力を使って変えるのが、本書の目的です。
応用行動分析学に基づいて、「行動を起こすため、または、行動をやめるための対策を考える」ということです。
私たちは、社会生活で様々な問題に苦悩し、対処しています。問題の多くは「自分の行動が、思い通りにならない」ことに起因しているのではないでしょうか。
多くの人が「すぐに取り掛かれない」「先延ばししてしまう」ことで、多くの問題を抱えてしまっています。
私たちは、「行動についての科学的な知識を深め、思い通りに動けない自分に対処する技術」を身につける必要があります。
行動分析学に基づいたスキルがあれば、ずいぶん生きやすくなります。
■「行動の始発」に悩んでいる人が圧倒的に多い
作業を始めることができればそれなりに行動できるけど、始めることが難しいという人はきっとたくさんいるでしょう。
これは、行動の始発に関する問題です。
「作業を始めることはできるけど、集中が続かずにすぐにやめてしまう」という問題を持つ人もいますが、行動の始発で悩んでいる人のほうが圧倒的に多いのです。
作業が始発できなければ、何も進捗(しんちょく)しないわけです。
・重要な仕事があるのに始められない
・期限が迫っている試験があるのに勉強に取りかかれない
・ジョギングをすると決めたのに、いざやろうとするとできない
・美しい体をつくりたいのに、筋トレが習慣化しない
始発できるけど途中でやめてしまうことよりも、始発できない問題のほうが悩みが深いのは明らかです。
集中時間が短いとしても、何度も繰り返し始発できれば作業は進みます。「集中できない問題」の解決も、始発の頻度を増やすことで解決が可能です。
■最初のハードルさえ越えれば、スムーズに進む
応用行動分析学には、行動連鎖という概念があります。日常における行動というのは、小さな行動がドミノ倒しのように連続的に生じることで成立しているという考え方です。
たとえば、「アメをなめる」行動を考えてみましょう。
「たくさんのアメが入っている袋を開ける」→「袋からアメをひとつ取り出す」→「アメを個別に包んでいる包装を開ける」→「中のアメを取り出す」→「アメを口の中に入れる」→「舌を使ってアメを口の中で転がす」という一連の行動が滞りなく連鎖することによって、ようやくアメの味を楽しむことができます。
私たちが日常の中で行なう行動の多くが、行動連鎖によって成り立ちます。行動連鎖は、最初の行動が始まらなければその後の行動が生じないことになります。
逆に言えば、最初の行動さえ起こせれば、その後の行動連鎖は流れのままに生じてくれます。
肝心なのは、行動の始発です。
■打率が低くても、打席に多く立つ選手が強い
行動の始発が問題なら、その行動を細分化して行動連鎖の最初の行動を標的とするのが一番の手です。
たとえば、パソコンを使った作業の場合は、パソコンを立ち上げることが最初の行動、つまり標的行動です。ノートパソコンを使うのであれば、ノートパソコンをカバンから取り出して開くことが標的行動になります。
つまり、いつも先延ばししている作業がある場合、その作業をやるかどうかはともかく、パソコンを立ち上げることを標的にして、「立ち上げることができれば良しとして問題ない!」と私は言いたいのです。
パソコンを立ち上げても、作業しないなら意味がないと思われるかもしれません。
しかし、パソコンを立ち上げたうちの3回に1回でも作業に取り掛かれたなら十分な成果です。
3回のうち2回は作業をしないわけですが、野球では打率3割のバッターはとても優秀とされます。先延ばしの多い人なら、4回に1回の割合で作業できたらすごいことです。
打率が低くても、打席に立つ回数を増やせば安打の数は増えます。パソコンを開く回数を上げれば、作業に取り組む時間も長くなります。単純な話です。
■「作業など完了させなくてもいい!」でいい
「行動を始発したからには、最後まで行動を完了させなければならない」という完璧主義な発想をしてしまうと、時間に余裕があって体調が良いときくらいしか行動を始発できなくなってしまいます。
途中までしか行動できないことに嫌悪を感じるため、行動の阻止が生じるからです。中途半端な作業になることが弱化子となり、その弱化子が出現することを阻止するために、行動を始発しない(随伴性)ということになります。
そのため、行動を完了できる状況で作業をしたいと思うわけですが、時間に余裕があって体調が良いときなど、そう簡単に訪れるわけではありません。
今は余裕がないとか、体調が万全ではない、という理由を見つけては、先延ばしをしてしまうのです。
「時間に余裕がなくても、可能な範囲で少しでも作業ができれば良い」
「体調が悪くても、少しぐらいならできる作業があるかもしれない」
そういった思考を持って、最後まで作業を完了できないとしても、行動を始発させるのが先延ばしを防ぐテクニックです。
つまり、行動の完了を標的行動にするのではなく、行動の始発を標的行動にするということです。
■「トイレのスキマ時間」を使わない手はない
行動の始発を標的とした場合、生活の中で行動を始発できるタイミングをいろいろと探してみることをおすすめします。
行動の成果や時間ではなく、始発を標的にすることで、行動するタイミングを創出することが可能になります。
日常生活のスキマ時間を活用できれば、行動を始発する頻度を上げることができるのです。
たとえば、よく知られた方法としてトイレを活用する方法があります。トイレの壁に覚えたい英単語や歴史年表などを貼っておいて、トイレを使用している間に記憶するようなことです。
昔からの伝統的な方法ではありますが、大変効果的です。誰もが毎日利用する家のトイレは1日5分の滞在だとしても、月に約150分滞在しています。
この時間を活用しないのはもったいない。しかも、トイレは個室で、他の人が入ってくることもありません。つまり、とても集中しやすい環境です。
■トイレの中でも作業できるよう工夫する
この方法の最大の長所は、行動の始発を意識して準備する必要がないことです。
トイレに座ってしまえば、自動的に行動に必要な準備ができているため、あとは文字を読めばいいだけです。
興に乗ることができれば、5分と言わず10分や20分滞在しても大家族でなければそれほど問題にはならないでしょう。
トイレでできるような作業しかできないのが難点ではありますが、工夫すれば様々な作業が可能だと思います。
心理的な抵抗感もあるでしょうが、そこは慣れです。作業の重要性が高いのなら、チャレンジする価値はあります。
■待ち合わせより早く着いて、スキマ時間をつくる
また、人と会う約束があるとき、待ち合わせ場所に約束の時間より30分以上早く行くようにして相手が来るまでの時間に仕事をするのもいい方法です。
待ち合わせることが多い仕事の人は特に有効でしょう。カフェやベンチや自動車の中など……。持ち運べるパソコンやスマホなどで行なえる仕事に限定されますが、こうしたスキマの時間は集中しやすくて仕事がはかどります。
意識的に待ち合わせには早めに到着するようにすることで、行動の始発が増えるのです。遅刻も減るし、一石二鳥です。暇つぶしにSNSを眺めるよりはずっといいでしょう。
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明星大学心理学部心理学科 教授
博士(心身障害学)。公認心理師、臨床心理士。専門は応用行動分析学。1977年生まれ。筑波大学博士課程修了後、明星大学専任講師、准教授を経て現職。学校や企業において、一般的な対応では改善が難しい行動上の問題に対して、応用行動分析学に基づいた方法で解決を試みている。「すべての行動には意味がある」という観点から、一般的に「なぜ、そんなことをするのかわからない」と言われる行動を分析することを目指している。著書に、『発達支援のヒント36の目標と171の手立て』(共生社会研究センター)、『自閉症児と絵カードでコミュニケーション PECSとAAC』(二瓶社/共訳)、『めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法』(ワニブックス)などがある。
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(明星大学心理学部心理学科 教授 竹内 康二)
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