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ほかの国なら「ピッ」で空港から出られるのに…「外国人向け切符」に大行列を強いる日本の残念なIT事情

プレジデントオンライン / 2023年7月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

コロナ禍を経て、一時は激減していた訪日外国人客が戻ってきている。観光戦略アドバイザーの村山慶輔さんは「残念ながらインバウンドの受け入れ体制は不十分な部分が多い。このままでは、観光業が国の基幹産業になるのは難しい。日本はたくさんの魅力に溢れているのに、もったいない状況だ」という――。

■コロナ以前と何も変わっていない日本の観光業

2023年5月に公表された日本政府観光局の「訪日外客統計」によれば、アメリカ、シンガポール、ベトナム、中東など、すでにコロナ禍前の訪日数を上回っている国・エリアがある。

「インバウンド完全復活!」「観光業のV字回復!」といきたいところだが、残念ながらそうは問屋が卸さないかもしれない。

コロナ禍の2020年11月に私が書いた『観光再生』でも触れた通り、日本は“新しい観光”に生まれ変わるべきであったが、なかなかそうはならなかったからだ。良くも悪くも、ほとんど現状維持のまま、時間だけが過ぎた。問題の根本の1つは、アップデートが観光の現場で起きていないことにある。

そこで現場で起きている改善すべき課題を紹介したうえで、“真の観光再生”に向けた私なりの提言をお伝えしたい。

■旅行の満足度を決めるのは空港

私はこれまでインバウンド戦略アドバイザーとして海外を含めた全国津々浦々をまわってきた。その中で感じているのは、その土地の第一印象は玄関口である空港が大きく左右すること。

一般に“プライマシー効果”とも呼ばれるが、最初に与えられた影響は、その後の印象にも影響を与えていくことが知られている。飛行機を利用して日本という土地に降り立った外国人に関していえば、空港から初日の宿泊施設到着までの体験が、訪日旅行全体の満足度に影響を及ぼすといっても過言ではない。

ドーハのハマド国際空港やシンガポールのチャンギ国際空港のように、空港を豪華絢爛(けんらん)にすべきだと言いたいわけではない。すべからく旅行者は、これから訪れようとしている土地に対して「期待値」というものを持っている。空港ではその期待値を裏切らないようにしなければならない。

■閉店中の店ばかりだった成田空港

5月から6月にかけて、私は海外出張のため成田空港を数回利用した。成田空港を利用するのは久々で、コロナ禍の真っ只中には閑古鳥が鳴いていたと聞いていたので、訪日旅行者の賑わいはどんな様子だろうかと胸を高鳴らせながら日本の玄関口となる国際空港に足を踏み入れた。

しかし、訪日旅行者に対して期待値通り、あるいはそれを上回るような体験を提供できているだろうかと疑問に感じざるを得なかった。

「モノ消費よりもコト消費」ということが言われて久しいが、実情として〈モノ消費=ショッピング〉は訪日旅行者にとって人気のある消費行動である。その期待値は高い。しかし、成田空港のショッピング事情はコロナ禍後の需要復活に出遅れている。

人材不足に喘いでいるのは重々承知している。航空需要もまだ完全に回復したわけでもない。その状況下で店舗運営のために雇用を新規に確保するのは厳しいのかもしれないが、国際空港であり、日本の入り口である成田空港が画像1のような現状では寂しすぎる。

営業時間内なのにシャッターを下ろしている店
筆者撮影
営業時間内なのにシャッターを下ろしている店 - 筆者撮影

これらはいわゆる出入国前の一般エリアの店舗であるが、保安検査場などを通過した先の搭乗エリアの免税店についても同様の状況であった。

電光掲示板のフライト情報も確認したが、台湾、オーストラリア、ハワイ、フィリピン、ドバイ、ドーハなどへの便も残っていた(5月末の18時頃)。

■努力不足は否めない

厳しい言い方かもしれないが、人材不足でお店がオープンできないのであれば、その店舗の努力が足りていない面もある。時給1200円で人が集まらないのであれば、時給1500円や1800円などにして人を集め、その分、収益が高まるような商品ラインナップの差別化や陳列の工夫、オペレーションにおける省人化などを図るべきであっただろう。

象徴的だったのは、中部国際空港セントレアにあった「ぐい呑み」の商品だ。国際線の搭乗エリアにある免税店にもかかわらず、日本語での説明しかなかった。

売る気があるのかわからない「ぐい呑み」
筆者撮影
売る気があるのかわからない「ぐい呑み」 - 筆者撮影

「5300円(ぐい呑 金箔(きんぱく))」と書かれた商品を本気で売るならば、多言語表記にとどまらず、手にとって肌触りから使い心地までを体験してもらう必要があるが、ビニールでしっかりと梱包(こんぽう)されてしまっている。これでは売る気がないと思われても仕方がない。

これはあくまでほんの一例である。同様の状況が日本のさまざまなところで見受けられている。

■電車の切符を買うのに大行列

こうしたやや寂しい空港の“残念感”を助長しているのが、二次交通とも呼ばれる電車の使い勝手の悪さである。

想像してみてほしい。ときに14時間(*) にも及ぶ長いフライトを経て到着したあなたは、スイスイと進む日本人と再入国者専用レーンを横目に出入国管理の長い列を待ち、受け取った大きな預け荷物を携えて成田空港駅へ向かう。すると、大行列が待ち受けているのである。

*ロシア上空が飛べない現在、欧州からの直行便は軒並み飛行時間が長くなっている。たとえばロンドン⇒成田は、かつて平均11時間40分だったが、現在は平均14時間15分である。

空港の出入国管理に並ぶ人々
筆者撮影
「ジャパン・レール・パス」の購入のために並ぶ外国人旅行客 - 筆者撮影

行列のうち多くの人が「ジャパン・レール・パス」と呼ばれる主に外国人旅行者向けの周遊チケットの受け取りを目的としていると予想される。便利なはずのチケットのために、何十分、ときに何時間と並ばされるのである。

先ほど「期待値」のことを書いた。

外国人旅行者の目線からすると、日本は技術大国であり、当然ながらこうしたチケットも技術を通じてシームレスになっていることを期待している。

しかし、実際にはアナログでの確認作業等が不可欠で(もちろんそれだけが原因ではないが)、長い行列が生まれている。これは疲れた体に非常に堪える。日本の第一印象が悪化しかねない状況だ。

■本当に日本は技術大国なのか

こうした事態は何も成田空港に限った話ではない。たとえば中部国際空港セントレアにある名鉄線中部国際空港駅では、2つある(実際には3つだが、1つは閉じていた)有人窓口のうち、1つは現金決済のみであった。空港と名古屋市内を結ぶ重要な駅であるにもかかわらずである。

他方で、たとえばイタリアの北部の都市・ボローニャでは、マルコーニ・エクスプレスと呼ばれる空港モノレールが走っているが、チケットを窓口で買う必要がない。クレジットカードをかざすだけで乗ることができるのである。

ボローニャ空港から市内へ向かう電車の改札。窓口で切符を買う必要はない
筆者撮影
ボローニャ空港から市内へ向かう電車の改札。窓口で切符を買う必要はない - 筆者撮影

外国人旅行者は、空港に着いてホテルに到着するまではスーツケースなどの大きな荷物を抱えている。財布から取り出したクレジットカードで「ピッ」とするだけで市内までアクセスできるのは、非常にありがたい限り。

実は、こうしたキャッシュレスかつチケットレスの動きは日本でも増えている。代表的なのが「Visaのタッチ決済」を活用したもので、2020年7月から茨城交通が一部のバス路線で導入したのを皮切りに、2021年には南海電鉄が実証実験を行うなど、導入する公共交通機関は拡大している。

もちろん処理速度の面などから、既存の交通系ICカードのほうがよいという意見もある。しかし、真の観光立国を目指すのであれば、外国人旅行者の二次交通にまつわるストレスは極力減らす方向で改善を進めていきたいところ。

「チケットオフィスに行列ができる」というのは技術大国という評価を得ている日本にとって百害あって一利なしだからだ。

■大事なことは日本語で書いてある

「Foreign Friendly Taxi(フォーリンフレンドリータクシー)」をご存じだろうか。外国人専用のタクシーで、2016年、京都駅に全国初となる「専用のりば」ができた。

Foreign Friendly Taxiは外国人観光客だけでなく、車椅子や小さな子供連れなども利用できる
Foreign Friendly Taxiは外国人観光客だけでなく、車椅子や小さな子供連れなども利用できる(筆者撮影)

一見、外国人にフレンドリーなサービスなのかと思える。しかし、よく見てみると外国人旅行者が不便そうにしている。何が起きているかというと、台数が少ないのだ。

複数の荷物を抱えた外国人旅行者が待っているものの、一向にタクシーがやってくる気配はなかった。一方で、日本人向けの乗り場をみると、タクシーがたくさん並んでいる状況であった。

つまり、その名前から「フレンドリーで使いやすいだろう」と考えて外国人旅行者が並んでみるものの、実際には使い勝手が悪いのである。

日本語で書かれた貼り紙
日本語で書かれた貼り紙(筆者撮影)

もちろん混雑具合は季節や時間帯によっても異なってくるが、こうした状況下では外国人旅行者に対して「一般タクシーのりば」を使うよう促すようなオペレーションをしたほうがいいのでは? と感じ、よくよく見てみると、「お急ぎの方は一般タクシーのご利用もご検討ください」という但し書きが貼られていた。

そもそもフレンドリータクシーの目的は、その名の通り「おもてなししよう」というものであるはずだ。しかし、この貼り紙からは、そのような思いを感じることはできなかった。

私は日本人、外国人と区別せずに対応するのがベストではないかと考える。区別することによって、一般タクシー側の“われ関せず”が助長される可能性があるからだ。

■システムのアップデートができない

いまや外国人旅行者はほとんど全員がスマホを持っている。彼らはグーグルマップなどのアプリを使って、「ここに行ってほしい」と指差しをするのが普通だ。そこでは言語の壁はあまりない。

もちろんタイ語やハングル、アラビア語など、どんな読み方をするのか予想もできない言語で表示されているケースもあるため、言語の壁がスマホによって一概になくなるとは言い切れないのかもしれない。しかし、会話をする必要なく行き先がわかる配車アプリも広まりつつあるなか、言語の壁を言い訳にできない状況は確実に広がっている。

こうした良かれと思って作ったシステムが、時と場合によってマイナスの作用を及ぼすことは少なくない。

大事なことはシステムを作っておしまいにするのではなく、運用の段階に入ってからも本当にそれが最適なのかを検証し続けたり、状況に応じてオペレーションを変えられるよう「柔軟性」をもたせることだ。

ちなみに、この「Foreign Friendly Taxi」というシステムは2016年に始まり、アンケート調査を経て2017年から本格運行に移行したというが、アンケート調査の内容を見ると「良かったところ」や「役立ったところ」に関する項目が目立っていた。もう少し課題を抽出し、改善につなげようというものであってもよかったのではないかと感じる。

■やりっぱなしはやめよう

私が最も言いたいことは、「やりっぱなしはやめよう」ということだ。たとえばフランス・パリでは、2018年頃から電動キックボードが急速に普及したが、コロナ禍を経て段階的に規制がかけられた。2023年4月の住民投票の結果を受けて、2023年8月末をもって廃止される予定だという。

つまり、「やってみること」と「見直すこと」をしっかりと怠らずに行い続けたわけだ。私は別に電動キックボードの是非を主張したり、問いたいわけではない。こうしたプロセスこそアップデートの真骨頂であり、日本が足りていない部分ではないかと感じるのである。

■オーバーツーリズムの処方箋

『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)
村山慶輔『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)

2023年に入って、世界中から日本を目掛けてやってきてくる流れが生まれてきている。円安も追い風になっていることだろう。しかし、せっかく日本に来てくれても、満足してもらえなかったら、次の訪問(リピート)は見込めない。これは由々しき事態だ。

訪日初心者ほど、ゴールデンルートと呼ばれる東京、箱根や富士山、名古屋、京都、大阪を選ぶ傾向がある。

ゴールデンルートばかりに集まるような状況が加速すれば、必ず局所的にオーバーツーリズムが発生し、それによって住民と観光との間で軋轢や摩擦が増長していく。

満足度を担保することによってリピーターを獲得し、それによって生じるゴールデンルート以外への誘客は、オーバーツーリズムの最も効果的な処方箋であり、持続可能な形で観光を基幹産業として成り立たせるために不可欠であるといえよう。

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村山 慶輔(むらやま・けいすけ)
やまとごころ代表取締役
兵庫県神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。2000年にアクセンチュア入社。2006年に同社を退社。2007年より国内最大級の観光総合情報サイト「やまとごころ.jp」を運営。「インバウンドツーリズムを通じて日本を元気にする」をミッションに、内閣府観光戦略実行推進有識者会議メンバー、観光庁最先端観光コンテンツインキュベーター事業委員をはじめ、国や地域の観光政策に携わる。 11月16日に『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)を出版した。

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(やまとごころ代表取締役 村山 慶輔)

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