1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

日本は移民をどんどん受け入れるべきなのか…「同化しない移民」が引き起こしたフランス移民暴動の教訓

プレジデントオンライン / 2023年7月20日 8時15分

2023年7月1日、パリでデモ隊と衝突する治安部隊(フランス・パリ) - 写真=EPA/時事通信フォト

6月下旬、パリ郊外でアルジェリア移民二世の少年が警官に射殺されたことをきっかけに、フランス国内で移民系を中心とする暴動が起き、3000人以上の逮捕者が出た。評論家の八幡和郎さんは「日本も人口減少を穴埋めするために移民を必要としている。ただ、必要な人材を選別すべきで、特定の国から過度に受け入れるべきでない」という――。

■パリ祭の主役は「人口世界一」の印モディ首相

「フランス暴動拡大で『内戦』状態」などと慌て者のメディアが報じていたのは7月初めのことだが、7月14日のパリは快晴の空のもと、例年と変わることなくフランス革命記念日の軍事パレードが行われた。

万が一に備えて、花火の一般への販売が禁止されたり、深夜の公共交通が削減されたりしたが、大部分の行事が予定通り行われた。

シャンゼリゼでのパレードには、インドのモディ首相が主賓として招かれ、約300人のインド軍の兵士たちが先頭を行進した。インドが人口世界一になる見通しとなった今年、モディ首相が米国議会で演説し、次いでフランス革命記念日の主賓になったことは、自由世界がインドを中国より優先すべき世界の大国と認めたことを象徴するものだ。

■フランス移民暴動が突き付けた「宿題」

これは、安倍元首相が提唱した「インド・太平洋構想」と、さらにそれをヨーロッパまで含めた価値観同盟の仲間としようという構想の具現化であった。私は世界のどの出来事や称賛より、安倍レガシーの成功であり、最高の供養となったと思う。

インドへの武器輸出でもフランスは24%を占め、ロシアに肉迫している。今回のパレードでは、インド空軍のラファール戦闘機(フランス製)もシャンゼリゼの上空を飛んだし、潜水艦の売却契約も結ばれた。

さて、「内戦状態」とか「マクロン大統領退陣の可能性」、「来年のパリ五輪の開催が危ぶまれる」といった記事も日本では見受けたが、そんなことはあり得ない。ただ、今回の郊外地区における移民暴動は、これまでと異質なものがあり、フランス社会に重大な宿題を突き付けたことは間違いない。

■きっかけはアルジェリア移民二世の少年の死

パリ中心部から電車で20分ほどにあるナンテールは、1968年に起きたフランスの大規模な学生運動「五月革命」のきっかけとなった町である。パリ大学ナンテール分校で始まった民主化運動が、世界的な学園紛争へと発展していった。

この町で6月27日の朝、交通取り締まりに従わなかったアルジェリア移民二世の少年(17歳)が警官に射殺された。

この経緯をスマホで撮影していた人がSNSに動画を投稿したことで、警察の説明と違って緊急性はなく至近距離から少年を撃ったことが分かり、若い移民系を中心とする大暴動がフランス全土に広がった。

車や建物に火を付けるだけでなく、武器を使ったり、ある町では市長の自宅に重量車が突っ込んで家族が負傷したりする騒動が3日間ほど続いたため、これまでの抗議行動とは質が違うのではないか、と危惧されたのだ。

■都心のスラム化防止により、移民が郊外に集中

ただし、危機的だったのは「郊外地区」だけだった。なぜ郊外かというと、1960年代あたりから欧米の都市の都心部がスラム化したが、フランスでは建築規制を強化して低所得者を排除した結果、移民の多くは郊外に住んでいるからだ。この「分断」への反発が大規模な暴動につながったと言える。

もちろん、シャンゼリゼの高級ブティックが略奪に遭ったり、来年のパリ五輪に向けて建設中の施設に放火されたりしたが、非常事態の宣言もなく、夜間の公共機関が止まった程度だった。

テレビも、当初は厳しく警察を批判したが、すぐに暴徒批判に切り替わったし、パリ市内では、ほとんど平穏無事だったようだ。私のパリ在住の友人は、海外における大げさな報道を見て心配して帰国したビジネスマンの夫に聞いて、初めてこの暴動事件を知ったという。

イギリスやアメリカのマスコミは、いつもフランスなどヨーロッパ大陸の危機を針小棒大に報道する。EU統合はうまくいかないと言い続けたが、ユーロは約25年間、びくともしないし、逆にブレグジット(英国EU離脱)は大失敗で経済がガタガタになっている。

■暴動は民主主義に欠かせないという革命の伝統

フランスにおいて、暴動やストライキなど物理的な行動を意思表示の手段として重視するのは、フランス革命前からの伝統だ。ストライキやデモの意義は世界的に認められており、日本でも中世から農民一揆があったし、戦後には安保闘争や学園紛争、交通ストライキも盛んだったが、今ではすっかり牙を抜かれている。

日本では保守派を中心に、フランス革命を誹謗(ひぼう)する言論が大手を振っているが、近代の民主主義がフランス革命を契機として誕生したことは世界のコンセンサスで、それを否定するのは、いわゆる歴史修正主義だ。

1989年のフランス革命200年祭のとき、先進国首脳会議G7がパリで開催され、革命の偉業を称えた。日本でも幕末には、幕府も薩長土肥もフランス革命やナポレオンの達成した近代国家を実現させようという意識で共通していた。

フランス国旗を掲げた女性
写真=iStock.com/Cloud-Mine-Amsterdam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cloud-Mine-Amsterdam

■体制派が反体制派を実力行使で止めるのも伝統

中曽根康弘元首相は、ミッテラン大統領に頼んで革命記念日に参列した。2018年には安倍晋三首相(当時)が主賓として招かれていたが、国内の水害で出席を取りやめ、自衛隊がパレードの先頭を日の丸や旭日旗を掲げて行進した。安倍首相のインド太平洋地区での「民主主義・人権・市場機構を基調とする価値観同盟」を具現化するものだった。

最近、安倍元首相を信奉しながらフランス革命を誹謗する人がいるが、それこそLGBT法案に賛成するよりよほどひどい安倍元首相への裏切り行為だ。

ただし、フランスは反体制派が実力行使に出るだけでなく、体制派も同様である。五月革命を終焉(しゅうえん)させたのは、ドゴール大統領の呼びかけに呼応してシャンゼリゼを埋め尽くしたアンドレ・マルロー文化相らの「ドゴール支持」のデモだった。

また、強い行政権限と抵抗権はワンセットで、今回の暴動もフランス全土で警察や憲兵隊が大量動員されて暴動を抑え込んだ。国家と個人の緊張関係の存在が、肯定的に捉えられているのである。

マクロン大統領が2017年に就任した翌年には、「黄色いベスト運動」があったが、新型コロナ対策の成功で2022年に再選された。今年1月には、年金制度改革への反対運動があった。今回の暴動は、それらの運動と比較してどういう位置づけになるのだろうか。

■アルジェリアとフランスの関係は日韓関係に似ている

年金制度改革は、不可避だった。フランスは医療政策が成功して平均寿命も日本ほどでないが延びており、年金受給年齢を62歳から64歳に遅らせるのは当然だ。フランス人は早く退職して年金生活に入るのが夢なので反発が強かっただけだから、大統領の不手際とはいえない。

黄色いベスト運動は、車両向けの燃料税の引き上げなど環境対策の強化に地方の住民などが反対した。米国でのプアホワイトと移民の対立が左右の深刻な分断を招いているのと似た問題だった。指導者がいない自発的な運動というのも厄介だった。

これらに比べると、今回の騒動は、北アフリカなどからの移民二世や三世(多くがイスラム教徒)の不満が爆発したが、フランス社会の根幹を成す人々でないから、深刻さは相対的に小さかったといえる。

過去には、フランスの植民地だった北アフリカのマグレブ3国(アルジェリア・モロッコ・チュニジア)を、本土の一部にしようとする流れもあった。そうした歴史を踏まえると、アルジェリアとフランスの関係は単純な宗主国と植民地の関係でなく、英国にとってのアイルランドとか、日本にとっての韓国や台湾に似た存在だ。

地中海流域地図
写真=iStock.com/PeterHermesFurian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeterHermesFurian

■アルジェリア系が同化できなかった理由

アルジェリア系には、1954~62年の独立戦争でフランス側についた人の子孫とか、白人でもアルジェリアに何世代も土着していた人もいる。人々の容貌もそれほど違わない。たとえばフランスを代表する美人女優のイザベル・アジャーニの父親もアルジェリア人だ。

フランスでは、学歴があれば人種を問わず、政治家でも高級官僚でも実業家でもなんでもなれる。しかし、アルジェリア系は独自のコミュニティを形成していたり、子だくさんだったり、イスラム教徒であったりすることが同化を妨げ、教育でも劣る。

フランスはライシテ(非宗教性)の国だから、公共の場での宗教的な行為や服装が厳しく排除されており、学校ではスカーフを被れないことなどが、イスラムの厳しい戒律から女性を守ることにつながっている。

また2015年、ムハンマドを風刺した週刊新聞「シャルリー・エブド」がイスラム過激派テロリストに襲撃された事件が大規模なデモ活動に発展したように、宗教批判や風刺の自由は強く擁護されている。

テロ対策では、過激派を排除するために、フランス国籍があっても入国を認めないとか、国籍を剝奪するとか、かなり乱暴な対策も取っており、決して無防備とは言えない。

■難民の受け入れのハードルを下げてはいけない

フランス社会にとって移民は必要なものである。伝統的にアパートのコンシェルジュ(管理人)はポルトガル人、炭坑夫は第一次世界大戦での戦死者の穴を埋めるためにウクライナ人が多かった。フランス人でなり手が少ない職業を埋めている。

そのため、政府は移民がフランス社会に同化するよう色々と手を尽くしているのだが、うまくいっていないことは今回の暴動からも明らかだ。彼らの経済状況を改善することは容易でない。

当然、移民間の競争もある。EUの拡大は東欧からの白人労働者の供給を増加させたし、ウクライナ戦争で多くのウクライナ女性が避難してきて大歓迎されている。戦争が終わったらウクライナ男性が追っかけて流入することが予想されている。

私は、ヨーロッパは難民に甘すぎたと思う。冷戦時代、東欧から難民を受け入れたことは、ソ連・東欧の若い労働力を失わせることになり、体制崩壊に手を貸した。

しかし、現代のように経済的困窮者とか、政治的弾圧を受けているというだけで中東やアフリカから受け入れては、本国で体制変革を求めて戦う人材、経済維持のための人材が不足して、本国はいつまでたっても遅れたままになる。しかも受け入れ国の治安悪化や経済的負担も顕在化している。

レバノンなどフランスに逃げ出しすぎて、本国には有能な人材がいなくなった(カルロス・ゴーンは日本から逃げ帰ってきたが)。

移民・難民への甘さがいかにヨーロッパのアキレス腱(けん)になったのかは、『民族と国家の5000年史 文明の盛衰と戦略的思考がわかる』(扶桑社)で論じている。

■日本は移民をどうやって受け入れるべきか

日本も少子化対策だけでは人口減を穴埋めできないから、移民や外国人労働者を必要としている。その際は、必要な人材を選別的に受け入れるべきだし、特定の国民による治外法権的な地域が生じないようにすべきだ。特定の国から過度に受け入れるべきでもない。

イスラム教の後進性に甘くなるべきでもない。リベラル系の人はLGBTを過激なほど擁護するが、LGBTに厳し過ぎるイスラムへの批判は生ぬるい。多様性の尊重と言うが、実態は、移民が政治勢力としてリベラル・左派系支持であることが多いから甘いだけだ。

今回のフランスの暴動は沈静化しつつあるが、注目すべきは極右といわれるマリーヌ・ルペンへの支持が伸びていることだ。2027年大統領選に向けてエドゥアール・フィリップ元首相と互角の戦いを展開しているという(フランス大統領は連続2期までと制限があり、マクロン大統領は出馬できない)。

フランスでもドイツでも、極右政党を連立相手として排除しているので、極右政党に投票している約2割もの国民が政治から排除され、政治が国民の平均的意向より左寄りになることが常態化している。

日本では、保守派の安倍元首相が中道派と妥協しながら政治をするというマジックで極右の牙を抜いていた。フランスやドイツなどはこうした「安倍流」を参考にしながら、中道右派政党が移民問題などで保守的主張に耳を傾けることが、極右を抑え込むために必要なのでないか。

----------

八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

----------

(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください