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増税地獄で支持率はどんどん下がっているのに…自民党内の「岸田おろし」が盛り上がらない根本原因

プレジデントオンライン / 2023年7月19日 19時15分

リトアニア・ビリニュスで行われたG7ウクライナ共同支援宣言での岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領=2023年7月12日 - 写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト

岸田内閣の支持率が下がり続けている。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「マイナンバーカード問題、増税、長男の不祥事と続いているが、自民党内から『岸田おろし』が起きる気配はない。低支持率の岸田政権が延命できているのには、3つの背景がある」という――。

■マイナンバー問題で内閣支持率は急降下

岸田内閣の支持率が続落している。朝日新聞の世論調査(7月15~16日)では前月から5ポイント下落して37%、不支持率は4ポイント上がり50%に達した。

共同通信の世論調査(14~16日)でも支持率は6.5ポイント減の34.3%、不支持率は7ポイント増の48.6%。キーウ訪問や広島サミットで急上昇した内閣支持率は、閣僚辞任ドミノが発生した昨年11~12月の低水準へ急降下した。

6月の国会会期末に吹き荒れた解散風は一気にやみ、早期解散論はすっかり萎んだ。岸田首相は8~9月に日米韓首脳会談(米国)、ASEAN首脳会議(インドネシア)、G20首脳会議(インド)、国連総会(米国)と続く「岸田外交」で支持率を回復し、合間をぬって内閣改造・自民党役員人事を断行して体制を立て直す考えだが、いったん離れた民心を取り戻して支持率を再浮上させるのは容易ではなかろう。

マスコミはマイナンバーカードをめぐるトラブル続出や首相長男の不祥事による秘書官更迭、異次元の少子化対策に伴う負担増への不満を支持率急落の要因にあげているが、最大の要因は、首相が自ら解散風を煽り、政治決戦へのエネルギーを極限まで高めながら、あっけなく解散を見送ったことにあると私はみている。

■それでも「岸田おろし」が起こらない3つの理由

政界もマスコミ界も世論も拍子抜けし、しだいに「伝家の宝刀」と呼ばれる解散権を弄んだ首相への不信感を募らせ、ついには「この首相には解散を断行する覚悟はない」と舐め始めたのだ。

6月解散を見送った時点では「9月解散論」がまことしやかに語られていたが、今では年内解散どころか、来年秋の自民党総裁選前の解散も難しいのではないかという見方が強まっている。6月解散におののいた与野党の緊迫感は今は昔、永田町は弛緩(しかん)し切った夏を迎えた。

自民党内で「岸田降ろし」の狼煙が上がる気配もない。内閣支持率は続落し、党内基盤も強くないのに、岸田政権がダラダラと続く奇妙な膠着(こうちゃく)状態に突入してしまったのだ。

これはいったいなぜだろう。以下、3つの理由を解説したうえ、岸田政権の行方を展望してみたい。

■まとまりきれない「安倍元首相なき安倍派」

一つ目の理由は、自民党内に有力なポスト岸田が見当たらないことだ。

岸田政権の主流派は、麻生太郎副総裁が率いる第2派閥・麻生派(55人)、茂木敏充幹事長が率いる第3派閥・茂木派(54人)、そして岸田首相が率いる第4派閥・岸田派(46人)である。非主流派は二階俊博元幹事長が率いる第5派閥・二階派(41人)と菅義偉前首相が束ねる無派閥グループだ。そして中間に位置するのが、最大派閥・安倍派(100人)である。

二階氏や菅氏が安倍派と組めば党内の過半数に達し、岸田政権は一転して窮地に追い込まれる。安倍派を分断して「反岸田」で結束させないことが政権維持の基本戦略といっていい。

安倍派は安倍晋三元首相の一周忌(7月8日)を経ても後継会長が決まらず、岸田首相の思惑通り、内部抗争を抱えたままだ。萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長のいわゆる「5人衆」が譲らず、リーダー不在の集団指導体制の様相をみせている。さらに一世代上の下村博文会長代理が「5人衆」を批判するなど混迷を深めている。

政界引退後も影響力を残してきた安倍派重鎮の森喜朗元首相は萩生田氏を後継会長に推しているが、安倍派の半数以上は森氏の政界引退後に政界入りしており、森氏の鶴の一声で決まる気配はない。当面は「会長は萩生田氏、総裁候補は西村氏」とする案や「萩生田・世耕共同代表」とする案が飛び交うが、決定打に欠ける。

東京にある自由民主党の本部
東京にある自由民主党の本部(写真=Joe Jones/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■岸田首相を脅かす「茂木幹事長」

会長レースのトップを走る萩生田氏は8~9月の人事で幹事長職を射止め、一気に安倍派会長に就く戦略を描く。

茂木氏が岸田首相の後見人である麻生氏の後押しで幹事長に就任したのを契機に派閥会長の座をつかんだように、岸田首相に早大の先輩として助言を重ねてきた森氏の威光を背景に幹事長に昇格した勢いで安倍派会長にのしあがろうという算段だ。

だが、萩生田氏の思惑通りに事は進まないだろう。岸田政権の基本戦略は安倍派分断であり、わざわざ萩生田氏の会長就任を後押して安倍派の結束に手を貸すメリットはない。萩生田、西村、世耕のライバル3氏を留任させ、来年秋の総裁選まで張り合わせておくのが最適解だ。

安倍派が内紛状態のなかで、岸田首相を脅かす一番手は茂木幹事長である。

茂木氏は昨年11月に内閣支持率が急落した後、ポスト岸田への意欲を隠さなくなった。5月には訪米して「次期首相」としての存在をアピール。7月にはウクライナ支援の拠点であるポーランドに加え、来年のAPEC議長国ペルーやG20議長国ブラジルを訪問し、茂木政権誕生への布石を露骨に打った。内政でも官邸に十分根回しすることなく児童手当の所得制限撤廃を打ち上げるなど独自色を強め、岸田首相との亀裂は深まるばかりだ。

■茂木政権への道は平坦ではない

茂木氏の強気の根拠は、岸田政権の生みの親である麻生氏が「茂木推し」を崩していないことだ。政界引退後も茂木派に影響力を残しつつ茂木氏を毛嫌いしてきた青木幹雄元官房長官が6月に他界したことも、茂木氏の強気を後押ししている。

茂木敏充幹事長
茂木敏充幹事長(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

しかし本人が思うほど茂木政権への道は平坦ではない。岸田―麻生―茂木の主流派体制を突き崩すため、非主流派の二階氏や菅氏に加え、安倍派内でも幹事長就任に意欲を燃やす萩生田氏を筆頭に、幹事長交代を求める声が高まっているからだ。

公明党は麻生氏や茂木氏と折り合いが悪く、二階氏や菅氏と気脈を通じて「茂木更迭」を画策している。東京の選挙区調整に端を発する自公対立は、岸田首相に対して「茂木更迭」を迫る側面が強い。都連会長を務める萩生田氏が公明党に歩み寄りをみせないのは、自公対立の責任を茂木氏に負わせることを公明党と示し合わせた「共作共演」の可能性が高いと私はみている。次期首相は次の衆院選の「顔」となるのに、衆院選を共闘する公明党に露骨に嫌われているのは、茂木氏の「政権獲り」の致命傷になりうるだろう。

岸田首相としても茂木氏を留任させれば、青木氏が他界した後の茂木派を完全掌握して政治基盤が強まり、いよいよ岸田首相を脅かす存在となってしまう。ここで勢いをそぐには、幹事長から外すのが良い。その代わりに茂木派の次世代ホープの小渕優子元経産相を要職に抜擢すれば、世代交代の歯車が回り、茂木氏の求心力は大きく失われるだろう。

■「次の首相」の常連、河野太郎の失速

自民党内には「来年秋の総裁選に向け茂木氏の動きを封じ込めるには幹事長職にとどめておくのが得策」との声もあるが、私の見解は逆だ。

茂木氏はエリート臭が強く、個人の魅力で党内支持を獲得するタイプではない。要職を歴任することで首相候補にのしあがったのだ。ポストを奪えば、無役の立場で反撃を仕掛ける胆力があるとは到底思えない。安倍政権で幹事長職を外された石破茂氏が瞬く間に影響力を失っていったのと同じ道をたどるのではないか。

茂木氏に続くポスト岸田の有力候補は、世論調査で「次の首相」のトップを走ってきた河野太郎デジタル担当相(麻生派)だ。世代交代を恐れる麻生氏と折り合いが悪く、前回総裁選では同じ神奈川選出の菅氏に担がれたものの、麻生氏が推す岸田首相に完敗した。

それでも世論調査の人気を保っていたが、ここにきてマイナンバーカードをめぐるトラブル続出で批判が殺到し、8~9月の人事で交代論が飛び交う。ただでさえ党内基盤が弱いのに、国民人気が陰り、ポストまで失えば、ポスト岸田レースからの脱落は免れない。

安倍氏を唯一の後ろ盾としていた高市早苗経済安保担当相は安倍氏急逝ですっかり存在感を失った。岸田派ナンバー2の林芳正外相は有力候補だが、第4派閥に過ぎない岸田派から2代続けて首相を輩出することは現実的ではない。麻生氏はすでに82歳で「選挙の顔」にはなり得ず、菅氏も74歳で健康不安説がくすぶる。

茂木氏さえ潰せば、ポスト岸田の有力候補は見当たらない。内閣支持率が続落しても「岸田降ろし」の狼煙が上がらない最大の要因はここにある。

■野党同士の激しいいがみ合い

二つ目の理由は、野党がバラバラであることだ。

立憲民主党の政党支持率が日本維新の会に追い抜かれる状況が定着し、野党の主役は維新に移った。維新の馬場伸幸代表は「立憲をぶっ潰す」と公言し、打倒自民よりも打倒立憲を優先して次の衆院選で野党第1党の座を奪うことを目標に掲げている。立憲との選挙協力は断固拒否し、立憲を上回る候補者を擁立する方針だ。

立憲は通常国会で維新と共闘して選挙協力につなげる戦略を描いたものの、あえなく頓挫し、維新と罵り合う事態に陥った。維新に接近するために断ち切った共産党やれいわ新選組との選挙協力を再構築するのも容易ではない。

泉健太代表は維新や共産との選挙協力を完全否定したものの、小沢一郎氏らの反対意見に突き上げられて前言を翻し、地域事情に応じた候補者調整に取り組む方針に転じたが、自公与党に対抗して野党候補を一本化させることはほぼ絶望的な状況だ。

ただでさえ支持率が低迷しているなか、自公与党が候補者を一人に絞り込んでくるのに、野党候補が乱立したら、たった一議席を争う小選挙区で勝ち目はない。どんなに内閣支持率が低迷しても、いつ解散総選挙を断行しても、野党がバラバラでは自公与党が政権を失うことはあり得ない。

■維新が大勝しても“自公政権”には全く影響がない

万が一、維新が大躍進して自公与党が過半数割れに追い込まれる事態が発生しても、維新との競争に敗れ弱体化した立憲の残党を連立政権に引き込んで「反維新」を大義名分とした自公立連立政権を築けば良い。

民主党政権で消費税増税を主導した野田佳彦元首相や安住淳元財務相、枝野幸男元官房長官ら立憲重鎮は、財務省と密接な関係のある岸田派と極めて近く「維新より自民がマシ」という立場だ。

内閣支持率と政党支持率を足して50%を切ると政権は持たない――永田町では青木氏がかつて唱えた「青木の法則」が信じられている。これに照らすと岸田政権は危険水域に近づいているが、「青木の法則」は民主党が政権交代を掲げて勢いづいていた時代に生まれたものだ。

野党バラバラの政治状況では内閣支持率や自民党支持率がどんなに落ち込んでも、それに代わる選択肢はなく、政権は持ち堪えてしまう。いつ解散総選挙に突入しても政権交代が実現することはないというリアルな現実が、政界から緊張感を奪い、岸田政権を延命させているといっていい。

■日本人に嫌われても、バイデンには愛されている

最後の理由は、岸田政権がバイデン米政権の強い支持を得ていることだ。

岸田首相は昨年末、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費を大幅に増額する安保3文書を閣議決定し、「端的にいえば、戦闘機やミサイルを購入するということだ」と語気を強めた。その後、専守防衛を逸脱すると指摘される巡航ミサイル・トマホーク400基を米国から2000億円で一括購入し、米タイム誌に「真の軍事大国を目指している」と持ち上げられた。

防衛費増額に加え、ウクライナ復興への1兆円にのぼる支援表明も、中国に対抗するための日韓関係改善も、岸田外交の実像はバイデン政権の言いなりであることは疑いない。6月にはバイデン大統領が日本の防衛費増額について「広島を含め3回、日本の指導者と会い、彼を説得した」と口を滑らせた。

日本政府の申し入れで慌てて訂正した後も「日本の軍事予算は戦後ずっと増額されてこなかったが、我々を助けるために大幅に増額された」と公言し、岸田首相を「手下」としか思っていないことをうかがわせた。

2023年5月21日、G7広島サミットに出席した岸田首相
2023年5月21日、G7広島サミットに出席した岸田首相(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■結局、バイデン頼み…

岸田首相は7月、NATO首脳会議が開かれたリトアニアを訪問した際も、欧州首脳たちの面前でバイデン氏から「この男がウクライナのために立ち上がると思った人は欧米にはほとんどいなかった」とベタ褒めされ、満面笑みを浮かべた。バイデン政権の支持を受けている限り、自民党内の「岸田降ろし」を封じて政権を延命できると踏んでいるのだろう。

裏を返せば、岸田政権の「バイデン頼み」はアキレス腱(けん)ともいえる。バイデン氏は来年11月の大統領選への出馬を表明しているが、再選を果たして任期を終える時には86歳になる。最近、聴衆の面前で何度も転んだり、言葉が詰まったり、固有名詞を間違えたり、高齢不安をさらけ出す出来事が続出し、民主党内からも「バイデンでは勝てない」との声が上がり始めた。

トランプ氏が返り咲いても、民主党の他の政権が誕生しても、「ウクライナ支援疲れ」から米国の外交政策は大転換して岸田政権はハシゴを外される恐れがある。

来年は自民党総裁選と米大統領選がある日米同時政局の年だ。岸田首相が国内に敵なしだとしても、バイデン再選の黄信号が灯れば、日本政界にも波及して、岸田首相にも勇退を求める声が高まるだろう。

■「人事より選挙」の安倍、「選挙より人事」の岸田

安倍政権は「麻生副総理―菅官房長官」の骨格人事を動かさない一方、先手必勝で早期解散を繰り返し、憲政史上最長の政権になった。「人事より選挙」を優先した政権だったといっていい。岸田政権は対照的に解散権を封印し、ライバルを蹴落とす人事を断行して総裁再選を目論んでいるように見える。

永田町では昔から「解散は政権の力を強め、人事は弱める」と言われてきた。解散総選挙で勝ち上がった多くの議員たちは首相に感謝するが、人事で処遇されなかった大勢の議員たちは首相を恨むからだ。

はたして岸田首相の政権延命策は成功するのか。8~9月の内閣改造・党役員人事の成否が第一関門であり、それを乗り越えたとしてもバイデン政権と一蓮托生(いちれんたくしょう)の運命が待っているというのが、現時点での私の見立てである。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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