4年に1度の退職金4060万円も返納すべき…リニア妨害の川勝知事が「440万円未返納問題」で取るべき責任
プレジデントオンライン / 2023年7月20日 7時15分
■スレスレで不信任決議案の可決を回避
「大山鳴動して鼠一匹」のたとえ通りの結果だった。
いわゆる「コシヒカリ発言」に端を発した川勝平太知事の給与、ボーナス未返上問題で、静岡県議会(定数68)は7月13日未明、知事の不信任決議案の投票を行った。可決には4分の3(51票)以上の賛成が必要だったが、1票届かず、同案は否決された。
川勝知事はいったん帰宅した後、同日午前11時頃、報道陣を前に「県民に深くおわびする」とした上で、「職務に専念する決意は変わらない」とこれまで通りに知事職を続ける考えを示した。
12日の県議会最終日は空転を繰り返し、13日未明まで延期され、締め切りに間に合わない新聞各紙は1日遅れで大騒動の様子を伝えた。
報道では、1票差まで追い詰められ、緊迫した様子を大きく伝えたが、実際はどこ吹く風のたとえ通り、川勝知事は全く気に掛ける様子もなかった。未明まで待機させられた県職員らの超過勤務手当を増やしただけである。
静岡県議会の大騒ぎは川勝知事に何らの痛痒を与えることもなく、知事の詭弁に翻弄されただけで終わった。これが、今回の「川勝劇場」の結末である。
■不信任決議案はパフォーマンスでしかなかった
給与等未返納問題で川勝知事の県議会説明が相変わらず嘘とごまかしに終始した結果、一部の強硬な議員が知事への反発を強め、政局にまで発展した。そのために役員会、議員総会で意見が割れ、もめにもめて深夜まで及んだ。
ただ実際には、もし、不信任決議案が可決されて、川勝知事が失職を選択したとしたら、いちばん困ったのは同案を提出した自民党県議団である。知事辞職を求めたのに、自民党県議団には有力な知事候補者のあてがなかったからだ。
失職した川勝知事が再び立候補し、2021年6月の知事選同様に圧勝したら、自民党県議団執行部の全員が辞職すべき事態に追い込まれた可能性のほうが高い。
自民党県議団にとって、不信任決議案の提出は知事への怒りを表すパフォーマンスでしかなかった。知事与党(18人)への切り崩し工作も通り一遍であり、知事辞職を求めること自体、本気には見えなかった。結果が見えていたのだ。
これまでのリニア問題の取材を踏まえ、今回の問題のように川勝知事に非があることを明らかにして徹底的に追及したとしても、知事へ何らのダメージを与えることさえできないことがわかった。
■自民党県議団とのバトルは9月県議会へ…
ただ、今回の場合は事情が大きく違うかもしれない。9月下旬に始まる9月県議会に火種を残したままだからだ。
川勝知事は給与1カ月分と期末手当(ボーナス)の計約440万円の返上のための条例案を提出すると表明した。知事自身が何度も述べたように、担当職員によって条例案提出に向けて、これから自民党県議団らと水面下の根回しや調整が始まる。
県議会最大会派の自民党県議団は今回のような泥縄式の不信任決議案の提案ではなく、ちゃんと準備した上で川勝知事と対峙できるのだ。
今回の給与等未返上問題の不信任決議で、自民党県議団は川勝知事の虚偽説明などを明らかにしたが、一般にはあまりにもわかりにくい。「県民に深くおわびする」という知事発言は、自身の非をわびるのではなく、県議会が深夜にまで及んだことを指すのだろう。だから、多くの県民はこれまで通り、知事への支持を変えていない。それだけ川勝知事は詭弁を弄することに長けている。
本稿では、問題の本質をわかりやすく伝えるとともに、この問題にどのように対応すべきかを提案したい。
■「コシヒカリ発言」直後に不信任決議案提出を模索していた
1年半以上前の2021年11月24日の静岡県議会臨時会で、いわゆる「コシヒカリ発言」を巡り、法的拘束力のない辞職勧告決議案が賛成多数で可決された。
辞職勧告直後の報道陣の取材に、川勝知事は「任期を全うする」とした上で、「自らにペナルティを科すため、12月の給与と期末手当(ボーナス)を全額返上する」と明言した。これが給与等未返上問題の始まりだった。
10月の参院補選での「コシヒカリ発言」への批判を受けて、川勝知事は11月9日の臨時会見で、「発言が切り取られ、誤解を生んだことで御殿場市民らを傷つけた」などと「誤解を生んだ責任」を認めただけで、発言の撤回、謝罪等をしなかった。
これに、自民と公明の県議団などは強く反発、9日に連名で抗議文を提出するとともに、不信任決議案提出の準備を進めた。
9日の抗議文提出から11月24日の臨時会まで約2週間もあり、不信任決議案の提出を想定できていた。つまり、時間的な余裕が十分にあった。結局、多数派工作が見通せず、臨時会前日の23日に辞職勧告決議案に切り替えた。
■川勝知事が公選法を知らなかったはずがない
川勝知事は1期目任期満了の2013年6月、初当選の公約通り退職手当約4090万円を全額返上している。
公職選挙法の規定で政治家の知事は選挙区内での寄付行為ができないため、前年9月県議会で知事自らが退職金不支給の条例案を提出し、可決されていた。
この経験から、コシヒカリ発言で2021年11月24日に「給与等の全額返上」を表明した際にも、県議会で条例案を可決する必要があることを川勝知事は承知していた。
ところが、「給与等の全額返上」を明言したのにもかかわらず、12月県議会に条例案は提出されなかった。これはあまりにもおかしいことになる。
12月2日の会見で、NHK記者が「全額返上と言ったが、条例案が県議会に提出されていない」と疑問を呈した。
川勝知事は「この件について(事務方で)調整してもらっている」と回答した。
記者は「調整も何も、その気であれば、定例会初日に提出できた」と問い詰めた。
これに対して川勝知事は「調整がなかなか厳しいという報告を受けた」と逃げたから、記者は「自民党がどう考えるかどうかは別にして、条例案を出すことはできるのではないか」とさらに突っ込んだ。
つまり、実際に給与等の返上ができるかどうかは別にして、自らがペナルティとした「給与等の全額返上」の条例案を提出しないのはおかしい、と厳しく追及したのだ。
この追及に対して、川勝知事は「ともあれ、議会で決めていただくことだ。それなりの調整はルールであり、その調整に(事務方が)汗をかいてもらっている」と他人事のような回答でごまかして、逃げてしまった。
■「返上したかったができなかった」というストーリーを作り上げた
県議会多数派の自民党県議団は「そもそも辞職勧告を決議したのに、給与、ボーナス返上で済まされる問題ではない」と、たとえ条例案が出されても反対するつもりだったが、まるで条例案の「提出」さえも自民党の承認を必要とするような言い方をしたのである。
どんな状況であれ、知事が条例案を提出することを誰も妨げられない。だから、自らペナルティとした給与等の全額返納を他人事にしたことはあまりにもおかしいのだ。
川勝知事は12月県議会閉会後の定例記者会見で、返上されなかった給与等について「それなりの調整の手続きが慣例上できあがっている。そこで条例案が出せなかったという事実だけが残った。今はどうするのか決めていない」など、ここでも調整がうまくいかなかった、と無責任な発言で逃げた。
「県議会が条例案提案を拒否したから、給与等の全額返上ができなかった」というもっともらしいストーリーをつくってしまった。
■「慈善団体への寄付」で議会も県民も納得したはず
もし、選挙区内での寄付を禁じる公職選挙法に触れるのであれば、今回の問題の発端となったコシヒカリなど米の品質検定やアドバイスなどを行う財団法人日本穀物検定協会(東京)へでも寄付すれば何の問題もない。日本国内の団体が問題ならば、貧しい国の子供たちへ米などの学校給食プログラムを展開するWFP(国連食糧計画)へ寄付することもできた。
筆者は、「常時公人」「危機決然」など折に触れてお題目のように「知事心得5カ条」を唱える川勝知事だから、公選法に触れない寄付をしているとばかり思い込んでいた。
そのような寄付を公表することはないが、今回のように問題が発覚した場合、公選法の規定に触れるため、どこかの慈善団体に全額寄付したと言えば、県議会だけでなく県民も納得しただろう。知事の言う自らのペナルティは、単に「おカネ」だけの問題である。そのくらいのことはすべきだった。
■二転三転する川勝知事の発言
翌年1月4日の年頭の会見で、記者から自民党との「対決姿勢」を踏まえ、どのような関係を築くのか問われた川勝知事は「自らのペナルティ」に一切触れることなく、その後約1年半にわたり、給与等の全額返上問題があったことさえ無視してしまった。つまり、忘れてしまったのだろう。
そして、当初から疑問を抱いていたNHK記者が7月3日にこの問題を蒸し返した。
NHKの取材に対して、川勝知事は「熟慮した結果、発言に対するけじめは知事として職責を果たすことだと思い至った」などコメントした。驚くことに、給与等の返上はしないことを明らかにしたのだ。
5日の県議会総務委員会で、秘書課長が、このコメントとほぼ同じ発言をした。
ところが、11日の定例会見で、静岡新聞記者から「首尾一貫して返上したいという気持ちはずっと持っていたのか」と問われると、川勝知事は「そういうことです」と回答した上で、「条例案が通らなければ何のためか、それは格好つけているだけになりかねないので」などと釈明した。
つまり、6日前の発言を翻して、今度は給与等返上の条例案を提出する意向を示したのだ。これでは、発言に節操がないと批判されても仕方ない。
川勝知事は今回の県議会で「辞職勧告決議は給与返上を求めるものではないとの意見を踏まえ、返納のための条例案提出を見送った。(5日の)県議会総務委員会で“言行不一致”などの指摘があり、県議会で給与返上の条例案を審議してもらえる環境が整った」などとして、9月県議会に条例案提出を表明した。
総務委員会では、NHKのコメント同様に、秘書課長が「常に県民のために尽くすと発言したことで、(給与等未返上の)けじめをつけた、と(知事から)聞いている」と述べた。それで、自民党県議が「自らが科したペナルティを自らが許すということがあるのか、言行不一致で県民の信頼はありえない」と指摘した。
この“言行不一致”の指摘で、「条例案提出の環境が整った」(川勝知事)ことにはならない。それこそ、川勝知事お得意の詭弁でしかない。約1年半前と同じで、「給与等返上の環境」は整ったわけではない。
■「おカネ」の問題は「おカネ」で解決すべき
今回は、言うなれば「おカネ」の話になってしまった。だとしたら、「おカネ」の話は「おカネ」で解決するしかない。
「約440万円」という「おカネ」は庶民には高額だが、川勝知事にとっては大した金額ではないのだろう。1期目は公約に従って、退職手当約4090万円を全額返上した。2期目、3期目は公約していないとして、約4060万円を任期後にそれぞれ受け取った。この辺りも批判を受ける材料だろうが、川勝知事お得意の詭弁でごまかしたのだろう。
自民党県議団は、知事のペナルティが「おカネ」の問題であるならば、4期目の退職手当約4060万円の返上を求めるべきである。川勝知事が勝手にペナルティを決めること自体がおかしいのだ。もともと自民党県議団は、給与、ボーナス全額の約440万円返上で済まないと言っていた。「環境が整った」と言うのは川勝知事だけで、自民党県議団の姿勢はいまも変わっていないはずだ。
川勝知事は給与等返納の条例案提出に当たって、水面下での調整手続きがルールだとも主張している。
となれば、自民党県議団は粛々と退職手当約4060万円の返上を求めればいい。それを飲まなければ、もっともらしいことを言うだけで、川勝知事は「コシヒカリ発言」を本当は反省していないと一般県民でも理解できるはずだ。
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ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)
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