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陸上女子の報道写真に「ペロペロしたい」という不適切コメント…PV稼ぎの記事が選手を傷つけ消耗させる

プレジデントオンライン / 2023年7月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pict Rider

スマホやカメラでアスリートの性的な部位や下着のラインなどを狙う観客。最近は大会主催者側の努力もあり、こうした盗撮は減りつつある。だが、スポーツライターの酒井政人さんは「報道機関も掲載時に、“キワドイ画像”を避け、読者を極力刺激しないような写真を選ぶべきだ」という――。

■お尻や下着のラインを…「娘に陸上やらせたくない」

多くのメディアが女子アスリートの“盗撮問題”を取り上げるようになった。最近もスマホやカメラで性的な部位や下着のラインなどを狙う悪質な観客に対する非難の記事が話題を呼んだ。

「『女子の親としてマジで陸上やらせたくねえ』過剰な露出ユニフォームが物議 アスリート盗撮の餌食に」(週刊女性PRIME、6月25日公開)

「『お尻や下着のラインを…』悪質化するアスリートの盗撮行為 『ファン疑いたくない』バレーボール元日本代表、石井優希さんが経験を語る」(西スポWEB OTTO、7月13日公開)

長年、陸上競技を中心とした取材活動をしてきた筆者もこの件に関しては、これまでにも繰り返し注意を喚起してきた。女子アスリートのユニフォーム問題は何がポイントなのか。本稿では、陸上競技を中心に改めて冷静に考えてみたい。

陸上競技といえばランシャツ&ランパン(女子はブルマタイプもいた)が基本だったが、1988年のソウル五輪がターニングポイントとなった。

この時、スプリント3冠を達成したフローレンス・ジョイナー(米国)は顔と長い爪にカラフルなメイクをほどこし、肌露出の多いハイレグ型のパンツで疾走した。その後、女子選手のユニフォームが変貌していく。セパレート型のユニフォームが増えて、「より速く」「より強く」「より美しく」という女性アスリートが目立つようになったのだ。

■セパレート型ユニフォーム、女子選手はお腹を気にする

国内でもトップ選手がセパレート型ユニフォームを着るようになると、高校生にも波及していく。2003年のインターハイでセパレート型ユニフォームを着た女子選手が大活躍。数年足らずで全国大会に出場する高校生チームはセパレート型ユニフォームが中心になったのだ。

筆者は2003年のインターハイでセパレート型を着た選手に着心地を取材した。「動きやすいし、お腹に力が入る感じがするんです」という答えが返ってきた。

女子選手がセパレート型のユニフォームを着用する最大の理由は、ジョイナーのような華やかさよりむしろ「動きやすさ」にあったのだ。

トラックレース中の女子選手たち
写真=iStock.com/FreezingRain
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FreezingRain

そして、もうひとつの大きな理由は「ファッション性」だ。世界のトップ女子選手はセパレート型がスタンダード。国内のトップ選手、名門大学、強豪高校もセパレート型が多い。そうやってユニフォームのデザイン変化に適応してきたのだ。

ただ、お腹を出すスタイルを気にする女子選手は現在も少なくない。「シーズンまでにユニフォームをカッコよく着こなせるように身体を仕上げたい」と考えている選手も多い。また下着の透けやハミ出しを防ぐためにユニフォームと同系色のスポーツタイプのアンダーウエアを着用するなど身だしなみにはかなり気をつけている。

彼女たちは基本、自分の意思でセパレート型のユニフォームを着用している。勘違いしている人もいるようだが、誰かの指示・命令ではない。日本陸連規則はユニフォームのかたちを自由にしているのだ。

リレー種目においても、「デザイン、配色が同一であれば衣服の形状は選手ごとに異なっても良い」としており、各選手がユニフォームのタイプを選択できる。ランシャツ&ランパンでもいいし、セパレートタイプ、ワンピースタイプでもOK。肌の露出が気になる場合はロングタイツでも構わないのだ。

世界選手権などの日本代表ユニフォームも同じで、契約メーカーはさまざまなタイプのウエアを準備。選手たちは自分の好きな組み合わせで出場している。必ず露出の多いセパレート型ユニフォームを着用しなければならないわけではないのだ。

■問題視されるべきは盗撮する側

アスリートたちは自分の意思でユニフォームのかたちを選び、観衆の前に立っているが、だからといって、彼女たちの“一部分”をフォーカスしてよいわけではない。

近年、アスリートの「盗撮」が問題視されているが、その原因はスポーツ観戦好きな観客を装った撮影する側にある。SNS全盛時代、スマホやカメラによる性的な視点での写真・動画の悪用が多様化。なかには競技写真に卑猥な言葉を加えて、アスリート本人に送りつける者までいる。

盗撮はもちろん、アスリートの写真・動画を使用した性的目的のSNS投稿やWEB掲載はアスリートを傷つける行為であり、スポーツ界全体としてもこれらを「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント」と位置付け、対策を練っている。

アスリートたちが晴れ舞台(大会)で競技に集中できるように、盗撮の注意アナウンスを流すだけでなく、スタッフが会場周辺を巡回し、疑わしき場合は撮影した画像を確認することもある。大会によっては、カメラ撮影できる席を指定して管理しており、アスリートの盗撮は以前よりは減少している印象だ。

盗撮問題が大きく取り上げられるようになり、周囲の目も抑止力につながっているだろうが、残念ながらなくなることはないだろう。なぜなら、報道機関がこの盗撮を助長しているケースもあるからだ。

■一般客はダメで、プロはOKでいいのか?

大会主催者側の努力もあり、一般客によるアスリートへの盗撮は減っている。では、プロはどうなのか。

陸上大会の場合、報道は「ペン」「カメラ」「EMG」(電子的ニュース取材)に分かれている。ペンはミックスゾーン(取材エリア)で選手たちに直接話を聞くことができるが、競技場内には入ることができない。一方、カメラとEMGは立ち入り禁止ゾーンがあるとはいえ、競技場内に入り、選手たちを近い距離で撮影できる。

スタートを切る選手たち
写真=iStock.com/technotr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/technotr

競技中の写真や、喜びの一瞬を切り取った画像は、選手のパフォーマンス、大会の盛り上がりを伝える意味で必要不可欠だ。しかし、その写真が少し不適切に見えてしまうケースもある。

スポーツメディアなら当たり前でも、陸上競技を知らない人には女子選手のセパレート型ユニフォームが“セクシー”に見えてしまうことがあるからだ。

■“キワドイ画像”をYahoo!ニュースに掲載していいのか

国内最大級のポータルサイトであるYahoo!JAPAN(以下、ヤフー)には約650媒体から1日あたり約7000本もの記事が配信されている(2021年11月17日時点)。そして記事が閲覧された数などに基づいた金額が配信料として媒体各社に支払われている。

各メディアサイトが作成した記事や写真などがヤフーに配信される。記事は写真1枚と記事タイトルが羅列されるため、各社はインパクトのある写真とタイトルで、その後に続く記事を読んでもらってアクセス数につなげたいと考えている。なかには“キワドイ画像”をあえて使用しているメディアもある。

写真がセパレート型のユニフォームを着用した女子アスリートの場合、世間が注目するほどの結果・成績ではないのにコメント数が多いときがある。そこには、たいていの場合は不適切な言葉が並んでいる。

例えば、リレーメンバー4人が並んだ写真が掲載されると、「一番右に1票」「ペロペロしたい」などというコメントがつく。本人や家族が読んだら、どんな気持ちになるのか。

前述したように、セパレート型のユニフォームは陸上競技関係者や熱心なファンにとっては目新しいものではない。アスリートにとっては制服であり、戦闘服だからだ。それは、競泳や体操、ビーチバレーといった競技の選手にとっても同じだ。

スタートの練習をする女子アスリート
写真=iStock.com/Juan_Algar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juan_Algar

競技会場内では極めて「普通」でも、その聖域から一歩出ると別の意味が発生する。陸上競技をよく知らない人には、「ビキニ水着のような露出の多いウエア」に見えてしまうこともあるはずだ。

選手たちは大観衆の前でも競技に最もフィットするウエアを着用しているが、同じウエアで別の場所、たとえば渋谷のスクランブル交差点では、「恥ずかしい」という気持ちになるだろう。

年齢や性別を問わず、鍛えられたアスリートのボディは美しい。だが、各メディアは、数千万人の閲覧者がいるヤフーに配信されることになる自社サイト掲載の写真の選択にもっと気を配るべきだろう。アスリートが意図しないかたちで、競技に関係のないコメントを投げつけられ、傷つくような機会を減らす配慮をしてほしい。

盗撮は迷惑防止条例で犯罪として処罰する可能性があるだけでなく、本人の名誉を傷つける書き込みは犯罪(名誉毀損(きそん)罪)として処罰される可能性もある。匿名であっても、法的手続により投稿者が特定されれば損害賠償請求の対象にもなりうる。また18歳未満の画像は児童ポルノ法(児童の性的な部位が強調されているものであり、かつ性欲を興奮させ又は刺激するもの)に抵触する可能性もある。

大人たちの歪んだエゴや欲望のために、未来ある若きアスリートたちのメンタルを“消耗”させてはならない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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