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不当解雇で計4700万円を勝ち取った男が教える「退職を勧められたときに、絶対にやってはいけないこと」

プレジデントオンライン / 2023年7月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■肩たたきには必ず“予兆”がある

解雇を強行する企業とクビを宣告される社員の特徴は、上下関係の厳しい体育会系の部活動に酷似している。先輩の言うことは絶対。One For Allかつ、先人が築いてきた伝統を守る……。私は2社から不当解雇された経験から、退職を促される前には必ず、「注意指導」という名の最終通告の機会があることを学んだ。

例えば、私が人生初のクビを宣告されたブラック企業。ここでは解雇指定日の約4カ月前に代表取締役から「営業成績が悪いのに退勤時間が早い。上司から何度も注意されているのに改善されない。なぜ、なぜ、と問題を深堀りしろ」と詰められたことがあった。

帰るのが早いといっても月100時間近くのサービス残業をこなし、手取りはたったの16万円。しかし、残業代や残業時間という概念がない社風(あるいは業界風土)で働いている人間からすると、あくまで真剣な注意指導だったようだ。

そこで言われた通りに「なぜなぜ分析」を試みたが、最終的には「始末書を提出するまで帰宅させない」と言い渡された。渋々と始末書を提出したのは25時過ぎ。もちろん終電はなかった。なお、この日から2カ月が過ぎた頃から退職勧奨がスタートしている。代表曰く「汚名返上のチャンスを与えていた」そうだ。

始末書
筆者提供

■こちらは単なる「話し合い」だと思っていたが…

2回目のクビを宣告された企業でも、退職勧奨前に一度だけ「話し合い」の場が30分ほど設けられた。

あえて「話し合い」と表現したのは、私自身は「転勤先の職場は慣れたか等、気さくな雰囲気の軽い雑談」といった認識でしかなかったのだが、会社側は私が不当解雇の取り消しを求めて訴えると、裁判で「注意指導を行った」と主張してきた。

ここで大切なのは、会社としてはあくまで「注意指導の場を設けている」と認識しているということ。もし、あなたが会議室など人目につかないところへ呼び出されて上司や役員との「話し合い」が行われたら黄色信号。退職を促されるカウントダウンが始まったと考えるべきだろう。

このような注意指導が行われる背景にはおそらく複数の要因がある。問題社員の更生を期待している。あるいは純粋な先輩心から善意でやっている……。しかし性格の悪い私は、「注意指導をした事実を残したいから」という企業側のしたたかな裏事情があると腹黒く推測している。

■「中身」は二の次で、「事実」さえあればいい

解雇が法的に有効だと認められるハードルは非常に高い。それでも何とかしてハードルを飛び越えたい時に必要になるのが、注意指導の事実と実績だ。

何度も注意指導を行い、更生の機会を与えていたにもかかわらず、いっこうに問題行為が改善されなかった。よって退職勧奨を行ったが聞き入れてくれなかったため、断腸の思いで解雇した――。従業員が抵抗した際は、このようなストーリーが会社側には求められる(※始末書、減給、降格、配置転換、自宅待機なども加えたい)。

もちろん注意指導自体が不適切だったり、パワハラに該当したりするケースは十分に考えられる。この点は出る所へ出た際に争点になりがちだが、それはそれ。注意指導の「中身」は二の次で、注意指導したという「事実」を企業側は求めているのではないか。労働者側は性善説ではなく性悪説で、企業側の言い分に耳を傾けるのが得策だろう。

■社長に直談判すると、自宅待機の指示が…

それでは実際に注意指導を受けた場合、そこから巻き返して退職勧奨を免れることはできるのだろうか。これは残念ながら、ほとんど望み薄だと思ったほうがいい。

私は負けず嫌いの性格だ。最初に訴えた会社では在職中、社長に対し「この会社のやっていることは違法です。未払いの残業代を支払ってください」と直談判したことがある。

この時はすでに5回以上の退職勧奨を受けており、仕事はもちろん、会社の鍵や携帯などの備品はすべて没収。文字通り失うモノは何もない状態だったので、窮鼠猫を噛むで会社に盾突いた。結果、次の出勤日から自宅待機指示があり、そこから約2週間後に解雇通知書を渡された。

筆者提供

転職した2社目でも、総務部長から「勤務時間外も電話対応するように。できないのならお辞めいただくことになるかもしれない」と退職勧奨を受けた際、「それって違法労働しろってことですか? 労働基準監督署に相談しますよ」と言い返した。結果、翌日から自宅待機指示。5日後に解雇通知書を渡されている。

この2つの事例の共通点は、「違法労働を指摘したとたんに自宅待機指示を出され、最終的にクビを宣告される」という流れだ。会社側からすると「こいつは問題社員だ」という結論はすでに出ているわけで、私が何を反論しようが(むしろ反論すればするほど)火に油を注ぐ形になったのだろう。このままではまずいという会社の焦りもあったのかもしれない。

■議論したいのではなく、すでに答えは出ている

心理学用語で「一貫性の法則」という言葉がある。わかりやすくイメージするなら、使用者側は問題社員と議論したいわけではないのだ。

この社員のいったい何が問題なのか。どうやったらその問題は解決されるのか。会社としての「答え」はすでに出ていて、その「答え」を労働者側へご丁寧に伝えようとしているにもかかわらず、糠(ぬか)に釘状態。素直に従わずに反骨心を持つのであれば退職勧奨、あるいはクビも致し方なしという展開になるのではないか。

上司からすると部下からの反論は「生意気」に映る。みんな遅くまで働いているのに一人だけ早く退勤する。みんな勤務時間外も電話対応しているのに、一人だけ対応しない……。

実際、退職勧奨してくる総務部長に言われたのだが、「自分たちのやってきた努力をバカにされた気持ちになった」そうだ。上司が積み重ねてきた努力を否定する言動は、極論、その上司の存在そのものを否定することにつながる。アイデンティティを否定され、生き方を否定されれば、そりゃあ出る杭(くい)は打ちたくなるだろうし、最悪の場合、杭ごと引き抜いてポイ捨てしようと考えてもなんら不思議ではない。

私の経験を教訓として伝えるなら、注意指導と思われる場に呼び出されたときはくれぐれも「私は間違っていない。あなたが間違っている」といった態度を全面的に出さないよう意識し、可能ならば全力で弱者を演じるべきだろう。そして、相手が油断している隙に録音などの証拠を集め、有事の際に備えよう。

コワーキングスペースで一息つくビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■「優秀社員」だった私の評価が急降下したワケ

今となっては誰も信じてくれないが、私はクビになった2つの会社で「優秀な社員」という評価を一時的だが得ていた。営業成績不良で解雇されたブラック企業では、営業活動に従事する前に行われた民間の資格試験に一発合格した(社員約15人が参加したが、私の成績は2位だった)。

勤務態度不良で解雇された企業では、3人で回していた業務を1人で回せるよう業務を効率化。賞与の査定表には「標準より能力が優れている。今後、後輩が入ってきた際は、自分の知識や考え方を伝承してほしい。自分のコピーを作るつもりでお願いしたい」といったコメントを営業所長から頂いている。

ところがどっこい。期待が大きいと、そのぶん失望したときのギャップも大きくなる。なぜなら心の振れ幅の「差」が大きくなるからだ。

恋愛などで誰しも経験があるだろう。もしかして自分に気があるのかなと期待していたからこそ、ダメだった時の反動は大きい。会社も同じだ。誰からも期待されていない「働かないオジサン」は不思議と職場になじんでいるが、若手社員の勤務態度が腐り始めると「これは一大事だ」と問題がクローズアップされる。この違いは期待あるいは信用の有無に左右されている。

■ギアを1つ2つ下げた時が危険

とくに、仕事に前のめり気味の頑張り屋さんは要注意。入社したばかりの頃は「就職ハイ」と呼ばれる心理状態に陥りやすい。良い成績を残し、誰よりも早く出世してやる。こういった素晴らしい精神を持つ若手社員は、十中八九、理想と現実の狭間で苦しむことになる。

どんなに頑張って結果を出したところで給与は急激には増えない。休みも増えない。それなのに仕事量と責任だけは増えていく……。これ、一生懸命働くよりも手を抜いたほうが自分にとって得なんじゃないか? このように思い始め、ギアを1つ2つ下げた時が危険なのだ。前述した通り、期待からの失望は心理的負荷が大きい。このタイミングで自主退職を選ぶ人も多いだろうし、私のように会社に目をつけられる運の悪い人も多いのではないか。

なお、世間では「怒られているうちが華」といった企業側を正当化する価値観が根強いが、そんな人間が花咲かせているのを見たことがない。私が知る限り、若手社員は退職するまでずっとグチグチ&ネチネチ言われ続ける。働かないオジサンは社内で認められても、働かないワカモノの存在は認められない。嘆かわしいことだが、これが現実だ。

■「勧奨」と「強要」の違いは何か

企業から労働者へ「退職したらどうですか」と提案すること自体は何の問題もない。ただし、退職強要は違法行為として扱われる。違いは「脅し」の要素があるかどうか。

机を叩きながら退職を迫る、懲戒解雇をチラつかせる、長時間拘束して退職を迫る、ストーカーのように連日にわたって退職を迫る……など、「脅し」の要素が多ければ多いほど、退職勧奨ではなく退職強要と認定される危険性が高まる。会社を守る側の視点に立つと、解雇はリスクが高いため自主退職を促すことが合理的な判断だが、くれぐれも肩叩きはソフトにがコツだ。

逆に、会社を攻める側の視点に立つと「守り勝つ」のが弱者の戦い方として有効である。あくまで退職勧奨とは「退職したらどうですか」という企業側の提案。それ以上でも以下でもない。その提案を労働者が断った以上、しつこく退職を迫る行為は「脅し」と見なされる。よって退職勧奨では「どんなに退職を迫られても粘り強く在職の意志を示し続ける」ことがポイントになる。

■感情に任せて退職届を出してはいけない

もちろん労働者からすると、退職勧奨は気持ちの良いイベントでは決してない。だが、感情的になって退職届を提出するなどの自暴自棄な行為は控えてほしい。なぜなら退職届は労働紛争や裁判で「会社の切り札」として悪用される危険性があるからだ。

大人の喧嘩は論より証拠。本稿の冒頭で私が提出させられた始末書も、もちろん裁判では「会社のお守り」として嫌というほど利用された。

自分で言うのもあれだが、これを書いた私の考え方や言動にこそ、退職を促される人材の特徴がてんこ盛りに詰まっている。雇用を失いたくない方は、ぜひ私という存在を反面教師として参考にしてほしい。

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佐藤 大輝(さとう・だいき)
ブラック企業元社員
23歳の時、不当解雇されたブラック企業を訴え、20カ月間争った後、和解金700万円を獲得。29歳の時、不当解雇されたグレー企業を訴え、24カ月間争った後、和解金4000万円を獲得。神戸市在住の現在32歳。趣味は読書、バドミントン、海外渡航。これまでにバッグ一つで世界25カ国を旅した。ビジネス書と小説、どちらもベストセラー書籍を出版するのが夢。

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(ブラック企業元社員 佐藤 大輝)

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