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「日本産の魚はトリチウム汚染されている」の大合唱…韓国野党の「悪質な反日デマ」に岸田首相がやるべきこと

プレジデントオンライン / 2023年7月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TebNad

■IAEAが「無視できるほどの量」と明言

7月7日、IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長が都内の記者会見で、福島第1原発の処理水の海洋放出について、処理水に含まれるトリチウムは「基準値を下回っており、無視できるほどの量」で、「希釈して海中に分散されるので国境を越えた影響はほとんどない」などとして、公式のお墨付きを与えた。

処理水とは、発電所にある放射性物質に汚染された水を、ALPS(多核種除去設備)という工場のような施設で浄化し、放射性物質を規制基準以下まで取り除いた水のことだ。東電ではこの処理水をさらに海水で希釈して海に流す予定だ。

ALPS処理水には、しかし、唯一トリチウムという放射性物質だけは残る。これは水素の放射性同位体なので水から取り除くことは非常に困難で、だから、トリチウムは水道水や雨水、海水、食べ物、人間の体内にも常に存在している。また、原発の運転で生成されるため、どこの原発の排水にも必ず含まれている。

■そこは「大きな工事現場」に変わっていた

ただ、放射線のエネルギーは極めて低く、細胞を突き抜けることもできないから外部被曝もないし、また、水銀などのように体内に蓄積されることもない。要するに、異常に多く摂取しない限り、トリチウムが環境や人体に影響を与えることは考えられない。そして、トリチウムを異常に多く摂取するということは、通常は起こり得ない。

福島第1原発の事故後、一番手に負えなかったのは、汚染水だった。山側から海に流れる地下水や雨水などが、発電所の敷地を通るあいだに残留している放射性物質と混ざりあうため、その水を外部に漏らさないように集めては、原発の敷地内に並べたタンクに溜めていた。

2023年6月29日の時点で、そのタンクはすでに1000基以上、水の量は133万7927万m3に達してしまっている(そのうちの約3割は、すでにALPS処理が終わっている処理水。参考)。いくら何でも、これを永久に増やしていくわけにはいかない。

今年の5月19日、7年ぶりに福島第1原発を見学した。7年前はまだ、働いている人々の表情に悲壮感が漂っており、現場ではすれ違う人たちが大きな声で挨拶を投げかけあい、“皆で頑張っている感”があったのをはっきりと記憶している。しかし、今回はその緊張感がすっかり消えて、サクサクと稼働している大きな工事現場となっていた。

■世界基準の7分の1の濃度で放出する

私たちの装備も前回は重装備で、建屋の近くではバスから一歩も出られなかったが、今回は、ヘルメットや専用の靴、防御ベストなどは着用したが、外にも出られ、廃虚となっている建屋の前で記念写真まで撮れた。ただ、肝心の廃炉の完成までには、まだまだ時間がかかる。びっしりと並ぶ巨大なタンク群は、やはり見ているだけで心が重くなった。

その中で大きな進歩といえるのが、冒頭に記した通り、ようやく処理水の海洋放出が始まることだ。国の安全基準では、放出する水に含まれてもよいトリチウムの濃度は1リットルあたり6万ベクレル。飲料水の世界基準は1リットルあたり1万ベクレルだ[WHO(世界保健機関)の規定]。

そして、東電が今回、海洋放出する際の濃度は、この飲料水基準のさらに7分の1の、1リットルあたり1500ベクレル。事故以前の東電の管理値も超えていない。それを、岸から1kmのところまで延ばしたパイプで、チョロチョロと少量ずつ放出していく。

■処理水と同じトリチウム濃度でヒラメを養殖

東電の放出口から出てくる処理水と同じトリチウム濃度の水を毎日2リットル飲み続けても、被曝量は1年あたりで1ミリシーベルトだという。ちなみに量子科学技術研究開発機構によれば、X線CTスキャンによる被曝量は、1回で5~30ミリシーベルトだ(ベクレルというのは、放射能の量を表す単位で、シーベルトは被曝線量を表す単位。同じ放射性物質でも、受ける人が遠くにいれば被曝線量のシーベルトは小さくなる)。

今回の見学で興味深かったのは、敷地内でヒラメを養殖していたこと。放出する処理水と同じトリチウム濃度の海水と、その他の海水で育てて、比較観察をしている。水槽に餌を投げ入れると、トリチウムの海水のヒラメたちが勢いよく飛び跳ねた。「こっちのほうが元気じゃないですか」と見学者が笑ったが、これはもちろん単なる偶然。今のところ、どのヒラメの生育にも差はない。

飼育の様子は、24時間ライブで見られ、飼育日誌も公開されているので、興味がおありの方はそちらをご覧いただきたいが、かいつまんで言えば、ヒラメを連れてきてトリチウムを含んだ海水に入れると、24時間以内にヒラメの体内と体外の水のトリチウム濃度が同じになる。

しかし、濃度はそれ以上にはならない。そして、そのヒラメを元の海水に戻すと、トリチウムの濃度はやはり24時間以内に、また周りと同じレベルに戻る。もっとも、これらは新しい知見ではなく、過去に明らかになっていたことを確認したに過ぎないという。つまり、トリチウム汚染された危険な(?)魚があちこちに出没することはあり得ない。

■中国は「海は日本の下水道ではない」と猛批判

ところが、事実とは違ったことばかり主張しているのが韓国と中国だ。前述のように、どこの原発でも、動かせば必ずトリチウムは出るので、原発国である韓国も中国もそれを、しかも実際には、日本より高い濃度で川や海に流しているのだが、しかし、この2国を相手にそんなことを言っても埒があかない。中国は自分たちのことはすっかり棚に上げ、「海は日本の下水道ではない」というスローガンで、東電を強硬に非難している。

「福島汚染水の海洋投棄に反対する」と書かれたプラカードを掲げる韓国の主要野党「共に民主党」の議員ら
写真=AFP/時事通信フォト
日本の福島原発処理水放出計画に反対する集会で、「福島汚染水の海洋投棄に反対する」と書かれたプラカードを掲げる韓国の主要野党「共に民主党」の議員ら=2023年7月7日、韓国・ソウル - 写真=AFP/時事通信フォト

また韓国も同様で、例えば日本海沿いの月城原発は、年間140兆ベクレルのトリチウムを、1982年の稼働開始以来ずっと海と大気中に放出してきたという。それに比べて福島第1が放出しようとしているのは、年間22兆ベクレル以下なので、比較にもならない。しかし韓国の一部の勢力がヒステリックに、危険だから放出をやめろと主張し続けている。

最近、ソウル市は、日本産と思われるすべての水産物や加工食品に対し、放射能検査を行った。在韓国コンサルタントの豊璋氏によるマネー現代(5月5日)の記事によると、ソウル市から結果の発表がなかったので氏が問い合わせたところ、すべてシロだったため発表を止めていたらしい。

しかも、それでも飽き足らず、一部の韓国メディアが、「日本の外務省幹部がIAEAに100万ユーロの政治献金をした」などという偽情報まで流し、外務省が事実無根だと否定するという一幕もあった。

■IAEA事務局長が空港から出られない騒動も…

さて、その韓国からは、私が福島を見学した後の5月23、24日、専門家ら21人の視察団が第1原発を訪れ、ALPSの稼働状況などを確認したという。ただ、彼らはその後、「予定していたものはすべて見たが、設備の機能や役割についての分析、追加の確認が必要」として、安全性の評価については口を噤(つぐ)んでいた。おそらく、IAEAによる安全検証の報告を待っていたのだろう。

一方、日本との関係を重視する尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権はIAEAの評価を尊重という方針だった。だから、今回こそ一件落着するかと思いきや、どっこい、そうはいかなかった。野党側は常軌を逸した反日キャンペーンの手を緩めない。

とばっちりはIAEAにも及び、今月7日夜、野党「共に民主党」の招きでソウルに飛んだグロッシ事務局長は、「グロッシ、ゴーホーム」と叫ぶデモ隊に行く手を阻まれ、空港から出るだけで2時間もかかったという。その後の同党の執行部との会談でも、グロッシ氏への執拗(しつよう)な抗議が続いたと、朝鮮日報の日本語版が批判的に報じている。IAEAは曲がりなりにも国連の国際機関だから、完全にスキャンダルのレベルである。

■風評被害は食品と関係ないところにも

なお、中国と韓国以外でもう一国、処理水の海洋放出にイチャモンをつけていた国があった。「意外にも」というか、「やはり」というか、ドイツである。

現ドイツの環境省は緑の党が仕切っているが、4月15日、ドイツがエネルギー危機にもかかわらず原発をすべて止めたちょうどその日、日本で開かれていたG7の環境閣僚会議に出席していたレムケ環境相は、東電の処理水放出を批判した。

氏は、その後、福島第1を視察したが、そこでも「処理水の放出は歓迎できない」とのこと。緑の党の政治家は科学を無視する傾向が強い。蛇足ながら、原発を止めたドイツは、現在それを再エネではなく、石炭と褐炭で置き換えているため、ポーランドと並ぶEU最大のCO2排出国となっている。

話を福島に戻す。福島県南相馬市の北泉海岸は、原発事故以前はサーファーに大人気だった。最近ではサーファーも戻ってきており、9月には「Kitaizumi Surf Festival 2023」も開催される。そこで、今年こそ同フェスティバルを国際大会にしようと地元が張り切っていたというが、サーフィンの国際プロ競技団体の公認が得られなかった。原因は処理水の海水放出だという。偏(ひとえ)に中国、韓国、朝日新聞などが立ててくれている風評のおかげだ。

■いつまで「引き続き丁寧に説明」を繰り返すのか

福島の漁業関係者も海洋放出には批判的だが、主な理由はやはり風評被害だ。福島第1原発の立地地区であった大熊町では、昔は原発からの温排水を利用してカレイやヒラメの養殖をしていたという。こうすると年間を通じて海水が適温に保てるため、稚魚の成長が早いらしい。

2004年の原子力産業新聞第2218号には、高級カレイ「ホシガレイ」の養殖に成功したというニュースがある。彼らは本当は処理水が危険でないことを知っているはずだ。

風評の撲滅は、地方議員が票を失うのが怖くてできないならば、首相以下、中央の担当の大臣が首をかけてもやるべきだと思うが、よりによって与党の公明党の議員が、「放水は海水浴シーズンを避けたほうが良い」と、風評を焚きつける始末。誰かに頼まれたのだろうか。

岸田首相も、「引き続き丁寧に説明」はいい加減にして、そろそろキリをつける時期がきているのではないか。首相自らが毅然(きぜん)と、「日本は安全性を確認しながら、海洋放出を行います」と言えば済むことだ。「貴国の原発排水も安全確認をしてください」と付け加えるのもいいかもしれない。いずれにせよ、非科学的な言いがかりが永遠に続くはずはない。

廃炉への道は長い。皆、コツコツと頑張っている。今、首相の一言で、大きく一歩前進できることを心から望む。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。

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(作家 川口 マーン 惠美)

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