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「乳首が落ちても走る」優勝賞金"世界選手権0円、27時間テレビ1000万円"酷暑で100km走らせる鬼のそろばん勘定

プレジデントオンライン / 2023年7月22日 11時15分

画像=『FNS72時間テレビ』HPより

フジ系列「FNS27時間テレビ」の目玉企画100kmマラソンの優勝賞金は1000万円。この額はM-1優勝、パリ五輪マラソン代表選考レースや東京マラソン優勝に匹敵する。スポーツライターの酒井政人さんは「プロのランナーが出場する100km世界選手権で優勝しても賞金は0円。今回、猛暑の中を走るのはタレントやお笑い芸人が中心のようだが、札束で頬を叩くようなこの企画は視聴者から顰蹙を買うのではないか」という――。

■「死ぬ気で挑みます。乳首が落ちても走ります!」

フジテレビの超大型特番「FNS27時間テレビ」が7月22、23日に放映される。2016年以来4年ぶりの復活で「生放送」中心の構成になるという。司会は、千鳥(大悟、ノブ)、かまいたち(山内健司、濱家隆一)などが務め、最大の目玉企画は「100kmサバイバルマラソン」だ。日本テレビ系列の「24時間テレビ」を意識しているのかもしれないが、どんな内容なのか。

フジテレビHPによれば、約20人のランナーが100kmマラソンに挑戦。「100kmの道のりを、必要以上に休憩時間を取らずに走る。ランナーは目の前を一定のペースで走る先導車を追いかける形で走るが、その車から引き離されてしまった者は、そこで脱落。そして最後の数kmは、ペースメーカーの先導車を外して、自らのペースでゴールを目指す」というものだ。優勝者には賞金1000万円が贈られる。

すでにタレント・井上咲楽、YouTuber・コムドットのやまと、ゆうた、タレント・ハリー杉山、フジテレビアナウンサー・山本賢太の参加が発表されおり、他15人の参加者は「アスリートから人気芸人まで豪華有名人が挑戦予定」(同上)としている。

今年の東京マラソンで自己ベストの3時間03分14秒をマークし、ランニング技術に詳しいハリー杉山が、「僕としてはただ、走るのが好きなだけなんですけどね。その上、今回は優勝したら賞金がいただけるということも聞いたので、頑張りたいと思います。……えっ、優勝賞金1000万円なんですか!? いやいやいやいや、おかしいですって! ウソでしょ! マジですか? いやこれはもう、死ぬ気で挑みますよ。乳首が落ちても走ります!」とコメントしている通り、想像以上の高額賞金が動くことになる。

■優勝賞金「M-1」は1000万円、「R-1」は500万円

猛暑の中、お祭り好きなテレビ局の小粋な企画といえるか、それとも顰蹙を買うだけの単なるバカ騒ぎなのか。いずれにしろ賞金1000万円には違和感を覚える人が多いだろう。はたしてそれほどの価値があるのだろうか。

近年、テレビ視聴率がジリジリと下がり続けている。スマホの時代、視聴者が求めているものも細分化しており、仕方ない面もあるだろう。それでもテレビの発信力は強く、一夜にして人生が変わることもある。そのひとつが、芸人の賞レースである。

昨年末の「M-1グランプリ」は過去最高の6017組がエントリー。優勝したお笑いコンビ・ウエストランドは、その後テレビに出続けている。優勝賞金は1000万円なので、ひとりあたり500万円だ。

今回、「100kmサバイバルマラソン」を行うフジテレビも芸人賞レースを実施している。ピン芸コンクール「R-1グランプリ」と、結成16年以上の漫才師を対象にした新たなお笑い賞レース「THE SECOND~漫才トーナメント~」だ。賞金はR-1が500万円、THE SECONDが1000万円(と高級スーツの仕立て券)。

プロの芸人が人生をかけて“真剣勝負”する賞レースと、真夏のスペシャル特番でオファーされ走りのプロではない著名人が挑む100kmサバイバルレース。ジャンルが異なるので単純な比較は難しいが、賞金が同じ1000万円というのは腑に落ちないという視聴者もいるに違いない。

では、走るプロが100km走るとどれだけの報酬が得られるのか。

日当たりの良い海岸トレイルでマラソンのためのトレーニングを実行しているフィットネス女性
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

昨年ドイツで行われたIAU100km世界選手権。ここで日本人の岡山春紀(コモディイイダ)が見事優勝した。日本代表ということでジャパンのユニフォームなどは支給される。

■プロが出る「100km世界選手権」の優勝賞金は0円

しかし、現地までの渡航費などは、基本、自費でまかなわないといけない(※日本陸連から数万円の補助はある)。さらに出場料はなく、順位に関係なく賞金もない。世界一になったとしても懐が潤うことがないどころか、完全な赤字になる。

なお岡山の優勝タイムは6時間12分10秒。岡山は同じ実業団チームに所属する他の選手と同じように給与をもらって選手生活をしている。世界から集まってくるウルトラランナーはメーカーと契約を結んでいるプロランナーもいれば、趣味の一環という者もいる。

ウルトラマラソンを登山で例えれば、世界大会への参加はエベレスト登頂に似ているのかもしれない。お金のためではなく、「自分の目標を達成したい」というシンプルな動機が、大きなモチベーションになっている。

一方で国内ではウルトラマラソン(フルマラソンより長い距離を走るロードレース)の人気は高まっている。例年6月下旬に開催される北海道のサロマ湖100kmウルトラマラソンは、コロナ禍前、100kmの部(定員3550人)が募集開始40分ほどで締め切られたほどだ。

『サロマ湖100kmウルトラマラソン』HPより
画像=『サロマ湖100kmウルトラマラソン』HPより

テレビ局はマラソンを罰ゲーム的に扱うことがあるが、2万円ほどの参加費を支払い、自費で北海道まで行き、100kmレースに出場したいと思っているランナーは少なくないのだ。

今年のサロマ湖100kmウルトラマラソンは山口純平(エルドレッソ)が6時間06分08秒で優勝。公認されている世界記録を上回った(※世界最高記録は6時間05分35秒。世界記録としては承認前となっている)。

なお山口は42.195kmを2時間31分40秒、中間点を3時間0分13秒で通過。後半は少しペースが落ちたものの、キロ3分40秒ほどで100kmを走り続けた計算になる。

100kmレースの報酬でいうと、シューズブランドのHOKAが5月に行われた「第11回柴又100K~東京⇔埼玉⇔茨城の道~」というレースで『HOKA 100km世界記録チャレンジ』(※大会で世界記録を達成したランナーには、賞金100万円を授与するとともに、HOKAのシューズとアパレルを1年間提供し、競技の継続的なサポートを行うというもの)を実施。達成者はでなかったが、100kmマラソンで100万円以上を稼ぐには、世界記録以上の“価値”が必要になるといえるだろう。

賞金1000万円となると、どれだけの“パフォーマンス”を見せるべきなのか。

■MGCの賞金は1000万円

国内の「走る」ことで得られる賞金でいえば、今年3月に行われた東京マラソンの優勝賞金が1100万円だ。しかし、日本人の優勝は非常に難しい状況で、日本歴代3位の2時間5分51秒をマークした山下一貴(三菱重工)の7位が最高。その賞金は40万円だった。

日本人ランナーが獲得できる賞金でいえば、今年10月に開催されるパリ五輪代表選考レースであるマラソングラウンドチャンピオンシップ(MGC)が最高になるだろう。1位1000万円、2位500万円、3位250万円だ。しかし、選手の目はそこではない。「2位以内」で即内定となるパリ五輪代表を目指して走ることになる。

今夏開催されるブダペスト世界選手権も賞金がある。個人種目は1位7万ドル(約994万円)、2位3.5万ドル(約497万円)、3位2.2万ドル(約312万円)。世界新記録なら10万ドル(約1420万円)が授与される。プラスして日本陸連の報奨金があり、金300万円、銀200万円、銅100万円だ。

そう考えると「100kmサバイバルマラソン」の賞金1000万円はとにかく破格だが、テレビ局としてはこれで視聴率が稼げるならコスパのいい投資ぐらいに思っているのかもしれない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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