改善したのは「結婚できた女性」の環境だけ…政府はなぜ「未婚女性」の問題を無視し続けるのか
プレジデントオンライン / 2023年7月28日 15時15分
■総合職女性は長い間、制限を受けてきた
社会はまことに勝手なものです。
世代人口が多くて、男性だけで仕事を賄えた昭和期には、女性たちは「働かない」ことを要請されました。同時に、産業界・教育界は足並みをそろえて、女性が「お嫁さん」になるよう水をももらさぬ体制が確立されていきます。
ところが、不況により企業経営に暗雲が漂い、事務職採用を閉じると、短大卒→一般職という道が閉ざされ、女性は4大に進学し、総合職として働くようになりました。。こうして2000年台初頭に、女性総合職のボリュームゾーンが生まれます。この「フロンティア」女性たちは、何の準備もないままに、男社会の荒波に放り込まれたといっても相違ないでしょう。
ずいぶん長い間、雑な扱いや、逆に「過剰な配慮での過保護」、内勤職への職域の限定などを受け、男性並みの働き方ができるようになるまでには、時間がかかりました。
働き方だけでなく、待遇や環境も男性用に作られており、女性は結婚か出産で辞めるのが会社の常識でもあったため、子育て女性が働くのは至難の業となります。急仕立てで短時間復職制度などを設けたものの、その煽りで仕事が増える周囲の女性などから反発を受け、本当に生きづらい時代を過ごしました。
■大きく改善したのは2010年代半ばから
そうした無理に無理を重ねた状態が、2010年代の半ばから、急変していくことになります。総合職女性がマイナーな存在でなくなるにつれて、会社の中で確固たる市民権を得、同時に会社は彼女らなしに業績を上げられなくなっていくからです。
たまりにたまった澱が、堰を切って流れ出すかのように、近年、さまざまな「女性活躍」の流れが生まれています。それは、先進国に比べればまだまだの水準ではあるのですが、着実に前進しているのも事実です。
ただ、企業はようやく変わり始め、家庭内でも平等化が騒がれ出した時流の変化の中で、独身女性は蚊帳の外に置かれ続けました。
そのことが、少子化の決定的な要因になっていきます。
■既婚者が産まなくなったのか、結婚しない人が増えたのか
少子化はどのように生じているのでしょうか。
日本では、合計特殊出生率という指標が重用されています。この数値は、当該年に15~49歳の女性が何人の子どもを出産したか、各年齢の平均値を出し、それを足し合わせて算出しています(詳細は後述)。過去から現在まで振り返ってみても、15~49歳での出産が圧倒的多数なので、この推計法は実際の出生状況と相違は少ないでしょう。
ちなみに、後ほど登場する「生涯未婚率」も50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合を示しています。結婚・出産については、50歳という区切りが、日本の公的統計では重要視されているのがわかりますね。
合計特殊出生率の算出法を少し詳しく示しておきます。これは、年齢ごとに一人の女性がどれくらいの子どもを産んだか、の平均値を足し上げたものと言えるでしょう。わかりやすく書くなら、15歳女性の平均出産数が0.01人、16歳女性は0.03人……49歳女性の平均出産数は0.04人、とこうして足していったものです。
少子化の考察にはこの指標が多用されてきました。でも、このデータではわからないことがあります。それは、データに未婚者も既婚者も含まれることに由来します。
そのため、「未婚者が多くて数字が下がっているのか、既婚者の出産が減っているのか」さらにいえば、「初婚年齢が上がっているからなのか」がわかりません。
この点を明らかにするために、岩澤美穂氏の「少子化をもたらした未婚化および夫婦の変化」(高橋重郷・大淵寛編著『人口減少と少子化対策』原書房, pp.49-72.2015)を基に、少子化の詳細状況を説明することにします。
■欧米は出産≠結婚、日本は出産=結婚
日本の場合、未婚者の出産はほとんどありません。他の先進国では、未婚で子どもを産むケースが少なくなく、また、代理母や養子などで子どもを授かる事例も多々あります。この点が、まず、日本の問題でもあり、こうした社会的不自由さを取り除くことが、一つの対策として議論されるべきでしょう。この話は、最終章の「解決策」でまた再度、触れることにいたします。
とまれ、未婚≒子どもが持てない、という日本型社会においては、生涯未婚率の上昇が、そのまま少子化の高進につながることになります。1980年代に5%程度だったそれが、現在20%にまで上がってきたのだから、出生数が減少するのもむべなるかな、でしょう。
そう。少子化の第一因は「未婚化」にあるといえそうです。
そのことを表す資料を、簡単なものから見ていきましょう。
まず、既婚者の出産数はそれほど減っていないということを、完結出生数から示してみます。完結出生数とは、結婚後15~19年たった女性の平均出産数なのですが、第2次ベビーブームに当たる1972年はその数字が2.2であり、2015年では1.94です。確かに減ってはいますが、その減少率は12%弱でしかありません。同時期の合計特殊出生率は、32%強(1972年2.14→2015年1.45)も減少しているのと比べると、「結婚した女性」の出生数の減少はかなり小幅だということがわかるでしょう。
■晩婚が出産に及ぼした影響を探る
完結出生数は小幅な減少でしたが、その理由も「結婚後の妊活」が問題なのではなく、そもそも結婚が遅かった、即ち晩婚化が主因となっています。
以下、「晩婚化」が出産数にどのような影響を与えたか、調べる方法となります。少々難しい説明となりますが、お付き合いください。
出生動向調査を見ると、初婚年齢別に、女性が何歳の時点で子どもを産んだか、が記されています。このデータを集計分析すると、結婚後の女性の、年齢別出産数がおおよそ推計できます(離婚・死別があるのでこの分を減じて補正を加え、データを精緻化)。
ここからは、推計手法がわかるように、図表2を併せて見ながら読み進めてください。
同図表では、1974年を基準年とし、この時点の年齢別出産数データをまず作っています。それが、2.05となり、グラフ中には黄色の水平直線として描かれています。
次に、1974年の「結婚後の年齢別出産数」(以下「出産行動」と表記)を全く変えず、初婚率のみを、他の年のデータに入れ替えてみます。そうすると「1974年の出産行動」のままで、初婚年齢だけが変化した場合、どのような(既婚者の)出生数になっていたか、が示されることになります。それが、点線で示した折れ線です。
それとは別に、今度は、各年度のリアルデータを作って実線(+ドット)の折れ線とします。これは、既婚者の合計特殊出生率(≒前述の完結出産数)に極めて近い数字となるでしょう。
■浮かび上がる少子化の本当の原因
図表2をよく見てください。一目瞭然ですね。
もし、出生行動が1974年のままだったとしても、昨今のように初婚年齢が上がっていた(=晩婚化)ら、点線の部分まで出生率は下がっていたということです。これはとても大きな低下ですね。
一方、その点線と実線の差は、出産行動の変化による影響を示しています。1974年と現在を比べても、低下幅は小さく、しかも、出生率が史上最低となり少子化が声高に叫ばれるようになった2005年以降は、各種啓蒙(けいもう)も進んだために、その差はぐんぐん縮んでいます。
ここまでをまとめれば以下のようになります。
少子化は、結婚しない女性が増えたこと、そして、結婚が遅れたことがその主因だ。
■対策の主軸にすべきは、既婚者ではない
とすると、現在の「異次元少子化対策」で主軸となっている既婚カップルの出産奨励は(もちろん重要ではありますが)、力不足と言わざるを得ないでしょう。
再度書きます。
今でも、既婚女性は、1974年とそんなに変わらない程度に、子どもを産んでいます。その彼女らに、もっと子どもを産めというのは、即ち、子沢山だった1974年の夫婦よりも、出産指向をさらに高めるということに他なりません。確かに、晩婚化が進む現在、30代後半以降の女性の出産数を「過去より増やす」施策は大切でしょうが、それは対策としては、「従」にしかなりえないでしょう。
対策の主軸はあくまで「結婚促進・早期化」。そして、婚外子・養子縁組・代理母・精子/卵子提供などを通した「未婚・同性婚の父・母」増加策でしょう。ただ、後者にはいまだ、日本社会は後ろ向きであり、議論も進んでいない状況です。
ということで現状の少子化対策としては、結婚促進・早婚化が早晩また大きなテーマとなりそうです。それは、2010年前後の婚活・妊活ブームが思い起こされ(本連載でも言及)、結果、結婚できない女性が肩身の狭い思いをすることになりそうで、胸が痛むところです。
早婚を奨励する前に、まず、なぜ、晩婚化・未婚化が進んだのか、そこに立ち返っておくことが重要でしょう。
■生涯未婚率上昇は、出生率の低下から遅れて生じる
本題に入る前に、晩婚化・未婚化と出生数の影響を今一度、振り返っておきます。
最初に、生涯未婚率ですが、これは50歳時点での未婚率を示すと既に書きました。
女性の生涯未婚率は1990年代まで、長らく4~5%程度で低位安定していました。当時は、男性の生涯未婚率が女性よりも低かったことから、女性は離婚後に再婚する人が多く、そのため、一人の女性に対し、複数の男性が結婚機会を有していた、と考えられます。それが昨今では男性の生涯未婚率が女性より圧倒的に高まっています。
過去とは逆に、再婚・再再婚する男性が多く、その結果、複数の女性に結婚機会が生まれていることが見て取れます(勝ち組男性は複数回結婚できるが、その分、結婚にあぶれる男性が増えるという図式)。
話が横道にそれましたが、低位安定していた女性の生涯未婚率が、2000年ごろから急上昇していくことになり、現在は20%近くまでになっています。
前述した通り、この数字は50歳時点での未婚率なので、彼女らが出産適齢期だった30代の頃、つまり、生涯未婚率よりも15年ほど時を先んじて、出生率は下がることになります。ということで生涯未婚率と特殊出生率のグラフを並べてみると(図表3)、見事に15年のタイムラグが見て取れ、1985年以降の出生率低下が、2000年以降の生涯未婚率の上昇と連関しているのがよくわかるでしょう。
■晩婚化は完結出産数の先行指標となる
次に、晩婚化について見ていきます。
晩婚化が進めば、出生率の調査対象の上限年齢となる49歳までの残余期間が短くなるため、出生率は低下していくことになります。同様に、完結出産数(結婚後15~19年たった時点の出産数)も、タイムラグを経て、下がることになります。それを示したのが、図表4です。図表中央で、二つのグラフは見事に交差するのが見て取れるでしょう。初婚年齢の上昇が完結出産数を下げたことに他なりません。
■変わりつつあるのは「結婚できた」女性だけ
昭和期に水も漏らさぬ体制で作り上げた「お嫁さん輩出」構造は、産業・教育両面で、完膚なきまでに破壊されてきた様が見て取れたと思います。
その結果、遅ればせながら、家庭での「昭和」も徐々に退潮し始めました。それは、行動だけでなく、心の部分にまで及んできています。ようやくこれで、女性たちも生きやすくなり始めました。
ならば、少子化も止まるはず……なのに、一向にその兆しは見られません。それはなぜでしょうか?
まず一つ、考えてほしいことがあるのです。
実は、「結婚した女性」たちは、1974年も今も、大差ないくらいに出産をしているという事実を書きましたね。平成期には働きながら「無理に無理を押して」燃え尽きるように出産をしていた女性たちも、令和の昨今では、子育て支援によりだいぶ両立が楽になって来た。それは上で見た通りです。
ただし、こうした「好転する環境」というのは、すべて「結婚した女性」たちを取り巻く条件でしかありません。
未婚女性たちにとっては、まだまだ、難題が山積みです。だからこそ、未婚・晩婚は進んでいく。その様子については、引き続き次回も見ていくことにいたします。
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雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。
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(雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生)
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