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国家公務員の夏のボーナスが大幅増額…庶民の生活苦を無視して、大増税に突き進む岸田首相の残念さ

プレジデントオンライン / 2023年7月22日 12時15分

自民党本部を歩く岸田文雄首相=2023年7月19日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■国家公務員のボーナスが大幅に増額

国家公務員の夏のボーナスが大幅に増額された。これまで民間との格差を是正するために支給月数の削減などが進められてきたが、今年は一気に積み増され3年ぶりの増額となった。その率何と9%増。民間もボーナスは増えているとはいえ、伸び率は4%未満にとどまっている。財政支出を拡大させる岸田文雄内閣の大盤振る舞いで公的セクターの賃上げが進むが、本当にこれが「呼び水」となって景気回復につながるのか。

6月末までに支給された期末・勤勉手当は、管理職を除く国家公務員の平均で63万7300円と3年ぶりに増加した。昨年夏のボーナスと比較すると、9.0%、5万2500円のアップだった。

一方、日本経済新聞が7月18日にまとめた夏のボーナス調査最終集計(6月30日時点)によると、全産業の平均支給額は2.60%増の89万4285円だった。2年連続で過去最高を更新した。

また、経団連がまとめた「2023年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況(加重平均)」では、大手企業の夏のボーナス支給額の平均は95万6027円で、昨年度よりも3.91%増え、過去3番目に高い水準となった。

■国の財政赤字は一向に収まる気配がない

単純に金額を比較すると公務員が少ないように見えるが、公務員の場合、管理職を対象から除外しており、単純な金額比較はできない。増加額で見ると、大企業でも3.91%、中堅企業も含めると2.60%で、公務員にははるかに及ばない。

岸田内閣は「物価上昇率を上回る構造的賃上げ」を掲げてきた。ところが物価の上昇が本格化しており、賃上げが物価上昇に追いつかない状況が続いている。5月の消費者物価指数は生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数で4.3%の上昇となった。大企業のボーナスですら、物価上昇で実質的には目減りしていると見ることができる。

そんな中で、公務員ボーナスは9.0%増という高い伸びを示した。国の財政に余裕があるのなら、公務員の給与増は喜ばしいことだが、財政赤字は一向に収まる気配がない。公務員の仕事は原則として「利益」を生み出さないから、ボーナスを増やしたからといって歳入が増えるわけではない。そうは言っても民間並みの給与水準を維持する必要があるということで、「民間並み」を前提にボーナスも支給されている。ちなみに地方公務員のボーナスも国家公務員に連動して支給額が決まるケースが多いため、ほとんどの自治体で3年ぶりのボーナスアップとなった。

■「公務員の給与を増やせば、景気回復になる」という思考

「民間であろうと公務員であろうと、収入が増えれば消費に結びつくので、景気にはプラスに働く」という意見もある。地方自治体にいくと、県庁や市役所が最大の組織になっていて、その職員の消費が町の景気を支えているという声も聞く。ならば、公務員の給与をどんどん増やせば、景気回復につながり、ひいては民間の所得増にもつながるのだろうか。

どうやら、岸田内閣の考えている好循環には、そうした思考が含まれている。というのも岸田首相は繰り返し「公的セクターの賃上げ」に言及しているからだ。

今年1月23日の国会での施政方針演説ではこう述べている。

「政府は、経済成長のための投資と改革に、全力を挙げます。公的セクターや、政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます」

その後、公務員の給与を引き上げるつもりか、という批判もあってか、「公的セクター」の例としてさかんに介護職員の待遇改善が語られているが、施政方針演説では明らかに公務員の給与を改善し、入札参加企業が利益をあげられるように調達金額などを増やしていくことを明確に述べている。そうした政府の姿勢が公務員のボーナスにも表れたと考えるべきだろう。

階段状に積み上げられているコインを見つめるミニチュアのサラリーマン
写真=iStock.com/Andres Victorero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andres Victorero

■8月上旬には「人事院勧告」が待っている

まもなく「人事院勧告」の季節がやってくる。人事院が国家公務員の給与改定について政府に「勧告」し、政府はそれに従って年末の臨時国会で給与法を改正する。その勧告が8月上旬に出されるのだ。

基本は民間給与水準を基準に、増減率を決めることになっているが、比較対象は大企業だ。また、政権の公務員給与に対する姿勢も影響を与えてきた。施政方針演説から給与の増額を訴え、公的セクターの賃上げにまで首相が言及している中で、「公務員寄り」と見られている人事院にとって追い風であることは間違いない。おそらく、物価上昇率を上回る大幅な賃上げを勧告することになるのではないか。

6月16日に岸田内閣が閣議決定した「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針 2023)」のサブタイトルは「未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現」だ。賃上げを最大の課題として取り上げているわけだ。

その中でも、公的セクターについて触れている。「公的セクターの賃上げを進めるに当たり、2022年10月からの処遇改善の効果が現場職員に広く行き渡るようになっているかどうかの検証を行い、経営情報の見える化を進める」と書かれていて、具体的な内容は判然としないが、「公的セクターの賃上げ」を進めることが「所与」となっている。

■最低賃金を全国加重平均で1000円にすると「宣言」

さらに、賃上げに関して具体的な数値をあげて書かれている部分がある。最低賃金の扱いだ。「昨年は過去最高の引上げ額となったが、今年は全国加重平均1000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」と書かれている。

昨年、2022年秋から実施された最低賃金の引き上げ率は全国加重平均で3.33%。骨太の方針が言うように、表面上は「過去最高」であることは間違いない。実は安倍晋三内閣も3%の賃上げを声高に要望し、財界首脳などにベースアップを働きかけるなどしてきた。2016年には3.13%、17年3.04%、18年3.07%、19年3.09%と、新型コロナウイルス蔓延前までは3%を達成していた。当時はまだデフレで、ほとんど物価が上昇していなかったので、実質的な最低賃金の引き上げが達成できていた。昨年の3.33%は実際には見かけ倒しで、物価上昇率を差し引いた実質では安倍内閣時に及ばない。

買い物かごを持って買い物中の女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

それもあってか、今年は早々と、最低賃金を全国加重平均で1000円にすると半ば「宣言」しているわけだ。これは国や地方の審議会で決める建前だが、政府の意向がこれまでも強く反映されてきた。ちなみに、全国加重平均の最低賃金は現在961円。これを1000円に引き上げるとすると単純計算で伸び率は4.06%に達する。

■公務員の人件費を増やすことは、国民の負担を増やすこと

物価上昇が4%を超えてきた中で、それを上回る賃上げを主導するには、今年の最低賃金は4%以上の引き上げになるということだろう。

この「相場感」が8月の人事院勧告でも働くはずだ。おそらく「2000年以降、最高の賃上げ率を勧告」といった見出しが躍るのだろう。

だが、本当に公務員から賃上げをすることで賃上げの「好循環」が始まるのだろうか。国の財政が赤字の中で、人件費を増やそうと思えば、いずれどこかで増税する他ない。そうでなくても防衛費の大幅増額などで財源としての増税が検討されている。また、こども子育て支援策を拡充するために、「第2の税」とも言える社会保険料率の引き上げなども検討されている。

つまり、賃上げの原資である歳入を増やすには国民の負担を増やす他ないのだ。当面は国債などの借金で賄えるにしても、どこかの時点で国民負担が増えれば、それは景気の足を引っ張ることになる。公務員給与の増額→財政赤字の拡大→増税→民間の利益縮小→消費の減退→景気悪化という好循環ならぬ「悪循環」に陥ることになりかねない。

■大盤振る舞いのツケは国民に回ってくる

いやいや、税収も増えているのだから大丈夫だ、という主張もあるだろう。確かに2022年度の一般会計の税収は70兆円を超え、過去最高になった。だが、これは物価上昇による消費税の増加や、円安による企業収益の見た目の増加などの要因も大きい。決して景気が良くなって税収が増えているわけではないのだ。

さらに、大盤振る舞いを続けて財政赤字が膨らめば、円の信用力が落ち、実効レートの円安がさらに進むことになりかねない。そうなれば、円建ての物価はさらに上昇することになり、いくら賃上げを達成してみたところで、実質的な賃金は一向に上がらないということになる。

本来は公的セクターの効率化や縮小を考えなければならない事態に直面しているにもかかわらず、岸田内閣が大盤振る舞いを続ければ、いずれそのツケは国民に回ってくることになりかねない。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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