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「脳卒中や心筋梗塞のリスクを低下させる」世界の長寿地域で食べられている"最強の健康食材"の名前

プレジデントオンライン / 2023年7月29日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SherSor

健康長寿のためには、なにを食べればいいのか。京都大学名誉教授の家森幸男さんは「大豆がいい。世界の長寿地域では、共通して大豆を上手に食べる習慣がある。大豆に含まれるイソフラボンには、脳卒中や心筋梗塞のリスクを低下させる効果が期待できる」という――。(第2回)

※本稿は、家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)の一部を抜粋、再編集したものです。

■中国の長寿地域と短命地域

長寿・短命地域の調査を1985年に始めた時、私たちが注目した地域のひとつに中国がありました。ご存じの通り、中国は広大な領土を持ち、地域によって食文化が大きく異なります。中国の様々な地域の、食と健康の関係を調べてみたいと思い、食文化の大きく違う5つの地域の健診計画をたてました。

都市部の北京、農村部の石家荘(河北省)、東部の都市・上海、「食は広州にあり」と言われる広州(広東省)、高地のラサ(チベット自治区)の5か所です。それぞれの地区で24時間尿から食べている栄養を探り、血圧や血液の検査をして、食と健康の関係を調べましたが、非常に対照的だったのが「広州」と「ラサ」でした。

広州は、食塩摂取量が1日平均で5グラム未満と、世界でも最低レベルで、高血圧の方もほとんどいませんでした。これは「食は広州にあり」と言われるだけあって、新鮮な食材に恵まれ、保存食をほとんど食べないという食文化が理由だと思われます。一方、ラサは、海抜3700メートルという高地で、野菜や果物はほとんど採れません。そして日常的に塩茶やバター茶を飲み、保存食である塩漬けのヤクの肉を食べます。

24時間尿から1日平均16グラムもの塩分を摂っていると分かり、これは世界最高レベルでした。「塩」と「脂」の過剰摂取が短命食の特徴なのですが、まさにそういった食生活で、しかも、塩の害を打ち消すカリウムを含む野菜や果物はほとんどなく、長寿のキモである魚介類も、先祖を水葬してきたので決して食べないというのです。

■突然死の原因を探るべく「鳥葬」を調査

実際に血圧を測ると、4割の人が高血圧で、200ミリを超える超高血圧が多い。しかも突然死が多く、中国の中でも短命地域であることが分かりました。しかし、突然死はチベットでは「行いがよいので仏さまの元に招かれた」と祝福され、鷲に食べてもらって天に帰る鳥葬に付されることが多いとのことでした。

私たちは、突然死の原因が、食塩過剰摂取による「脳卒中」なのか、脂肪過剰摂取による「心臓死」なのかを判別するために、ご遺体の血管を観察したいと思い、実際の「鳥葬」の様子を見学させていただく機会を得ました。

早朝に、大きな石の鳥葬台にご遺体が載せられ、僧侶の祈祷が始まると、多くの鷲が舞い降りてきました。それとともに、遺体の解体が始まります。私たち健診チームは最敬礼しながら、ご遺体に近づいて、大動脈などの血管の状態を観察しようとしました。すると、その時、周囲から私たちに向けて石つぶてが次々と飛んできて、健診チームの一人に当たったのです。危険を察した私たちは、バラバラに岩陰に隠れ、その間に、鷲たちがご遺体をついばみ天に持ち帰っていきました。

せめて大動脈に動脈硬化があるか確認できればよかったのですが、結局死因は特定できず、私たちはジープで駆け付けた人民解放軍によってなんとかその場から救出されました。

■知られざる長寿地域で食べられていたもの

このように、様々な事件に遭遇しつつも私たちは中国五都市での健診を終えたのですが、その後、中国側から、「実は、長寿で有名な地域があるのでそこの調査もしてほしい」と依頼され、追加でその地域の調査に行くことになりました。その知られざる「長寿地域」が貴州省の省都、貴陽でした。

貴州省は中国の南西部、雲貴高原に位置し、プイ族とかミャオ族といった少数民族が全省人口の3分の1を占める地域です。当時、中国では最貧省に近いにもかかわらず、なぜか長寿者が多いのでその理由を調べてほしいとのことで、1987年と1997年に調査に行きました。飛行機の上から大地を見ると、高地にお椀で土を盛ったような丸い山がポコポコとあり、山肌は白い色をしています。石灰の多いカルスト地形なので、稲作には不向きと思われ、おそらく主食はお米ではないだろうと推測しました。

中国貴州省の曇りの日に西江銭湖ミャオ族の村をドローンで撮影
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wirestock

現地で聞くと、主食は、大豆とトウモロコシとのこと。この2つを同じ土地に混栽していました。これは非常に理にかなった農法です。大豆は、根粒バクテリアが大気中の窒素をアンモニアに変換(窒素固定)し、植物の生育に欠かせない窒素肥料を自分で作りだします。大豆はトウモロコシより収穫時期が早いのでまず大豆を収穫し、その茎や葉を土に戻し、それがトウモロコシの肥料にもなるというわけです。

■食塩摂取量が少なく大豆を豊富に摂取していた

現地のマーケットに行ってみると、たくさんの野菜と一緒に色とりどりの大豆が並んでいました。そして、屋台では、生の豆腐、焼き豆腐、厚揚げなど、さまざまな豆腐製品が売られています。

一番感心したのは、「干豆腐」という、硬めの豆腐を圧縮、脱水させ、干して作られたものです。それを薄切りにしたり、麺のように細切りにしたりして、豆乳などで茹で、唐辛子を入れたピリ辛の味付けで、うどんのように食べるのです。納豆も売っていました。納豆の発祥の地は日本だという話を以前聞いたこともあったので、これには大変驚きました。

しかも、この地では、藁(わら)に包まなくても、蒸した大豆に干した布をかけておくだけで納豆ができるというのです。おそらく、空気中に納豆菌がたくさんいるのでしょう。納豆の本当の発祥地はこのあたりなのではないかと思いました。健診の結果は、中国では広州に次いで食塩摂取量が少なく、1日平均9.2グラム。血圧も平均112ミリと低めでした。

さらに、女性は通常、更年期を迎えると女性ホルモンの作用が少なくなり高血圧になりやすいのですが、貴陽では血圧の上昇があまり認められませんでした。この健診結果から、私たちは、大豆に多く含まれる物質「イソフラボン」に、その秘密があるのではないかと推測したのです。イソフラボンは、大豆の茎になる「胚軸」の部分に多く含まれ、女性ホルモンの「エストロゲン」の構造と非常に似ている物質です。

■ラット研究で見えてきたイソフラボンの健康効果

そこで私たちは、まず、100%脳卒中を起こす遺伝子を持った「脳卒中ラット」に、イソフラボンを餌に入れて食べさせる実験を計画しました。ところが、当時、純粋なイソフラボンは1グラムが約100万円もする高価なもので、とても使用できるものではありません。

医療研究の科学者の検証実験用マウスを閉じ込めたガラスの檻。彼女は光の研究室で働いています。
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

困っていたらたまたま、ある会社が大豆食品を作る時に、胚軸の部分が白くてカビのように見える上に味も苦みがあるので、わざわざ胚軸を外して使っていると聞きつけ、その胚軸をいただき、ラットの餌に混ぜ込みました。「脳卒中ラット」も、卵巣のあるメスは、通常、オスに比べて緩やかに血圧が上がり、ゆっくり脳卒中が起こります。

ところが、卵巣を取って女性ホルモンをなくした「更年期ラット」は、オスと同様に血圧が上がりやすく、脳卒中も起こりやすくなります。食べる量も増えて肥満になりやすく、毛づやもなくなります。そこで、卵巣を取った「更年期ラット」に、大豆の胚軸を混ぜ込んだ餌を与えてみると、肥満傾向が解消され、血圧も上がりにくく脳卒中も起こりにくくなり、さらに毛づやまで美しくなりました。

女性ホルモンと似た効果を持つイソフラボンが、長寿の鍵を握っている可能性が出てきたのです。

■心筋梗塞のリスクを低下させる働きがある

そこで今度は、人間のデータで分析してみました。私たちが、これまで世界中で調べてきたデータを見ると、「男女不平等」な病気に「心筋梗塞」があります。心筋梗塞は心臓の血管が動脈硬化で詰まって起きる病気ですが、調査地域の中で最も心筋梗塞死亡率が低い日本でも一番高いスコットランドでも、常に女性の心筋梗塞は男性の3~4割程度しか起こりません。

非常に性差の大きい病気なのです。そのひとつの原因が、動脈硬化を予防する女性ホルモンにあると考えられ、これが女性の平均寿命が男性より長い理由のひとつともいえます。そこで、世界の調査地域での「心筋梗塞の死亡率」と、女性ホルモン様物質である「大豆イソフラボン」の摂取量との関係を調べてみたところ、見事なデータが出ました。

日本や中国など、大豆イソフラボンを多く摂っている国は心筋梗塞死が少なく、摂取が少ない国は心筋梗塞死が多いのです。なぜ、イソフラボンの摂取が多いと、心筋梗塞が少ないのでしょうか。まず、イソフラボンは、血中で女性ホルモン様の働きをし、血管を裏打ちしている内皮細胞の遺伝子に働きかけて一酸化窒素(NO)を作ります。これにより、血管が拡張し、血液もサラサラになって血栓ができにくくなります。

■シソの抗酸化作用力でさらに効果的に

家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)
家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)

ただし、一酸化窒素は非常に不安定なので、体内で活性酸素(ほかの物質を酸化させる力が非常に強い酸素)に出合うと効果が失われてしまいます。ですから、活性酸素を抑える抗酸化栄養素(緑黄色野菜の色素や、ビタミンA、E、Cなど)とイソフラボンを一緒に摂ると最強の働きをしてくれます。

たとえば、貴州省の豆腐料理には「シソ」が添えられているものがあります。シソなどの香味野菜は抗酸化力が非常に高いので、イソフラボン+抗酸化栄養素という黄金ルールにのっとっているわけです。また、イソフラボンには、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)を減らす作用もあります。

肝臓の細胞には、LDLのレセプター(受容体)がついていて、これがLDLを取り込むのですが、イソフラボンはこのレセプターを増やし、細胞内への取り込み量を増やすので、血中のLDL値が下がるのです。1999年に、アメリカの食品医薬品局(FDA)も、1日25グラムの大豆たんぱくの摂取が心筋梗塞などのリスクを下げると認めました。そのおかげで、私たちは、世界で大豆を食べていただく介入研究が実施できるようになりました。

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家森 幸男(やもり・ゆきお)
京都大学名誉教授
1937年生まれ。京都出身。67年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。病理学専攻。米国国立医学研究所客員研究員、京都大学医学部助教授、島根医科大学教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。NPO法人世界健康フロンティア研究会理事長。上原賞・岡本賞・日本高血圧学会特別功労賞受賞、瑞宝中綬章受章。科学技術庁長官賞、日本脳卒中学会賞、米国心臓学会高血圧賞、日本循環器学会賞、ベルツ賞、杉田玄白賞、紫綬褒章受賞。著書に著書に『世界一長寿な都市はどこにある?』(岩波書店)、『ついに突きとめた究極の長寿食』(洋泉社)、『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)、『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)、共著に『健康長寿の食べ方 早死にする食べ方』(海竜社)など多数。

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(京都大学名誉教授 家森 幸男)

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