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知識を「蓄えられる人」と「すぐ忘れる人」は眠り方が違う…睡眠研究者が教える「どんどん知識が増える眠り方」

プレジデントオンライン / 2023年7月27日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

知識を「蓄えられる人」と「すぐ忘れる人」はどこが違うのか。『熟睡者』(サンマーク出版)を書いた睡眠研究者のクリスティアン・ベネディクトさんは「8時間以上の睡眠時間を確保することが重要だ。質のよい睡眠を確保することはすなわち、知識と成功のための前提条件を整えることだ」という――。

※本稿は、クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル『熟睡者』(サンマーク出版)の第5章「眠って『賢者』になる 眠ったほうが知識が残る」の一部を再編集したものです。

■勉強ができる人とできない人は、何が違う?

過去:試験前日は夜遅くまで勉強し、朝7時になんとかベッドから這い出した。一日中あくびが止まらず、試験では前の夜に覚えたはずの内容をまったく思い出せなかった。大学からの帰り道では、あまりの眠さに危うく事故に遭いそうになった。帰宅後は、スマホを片手に何時間もソファの上で過ごした。
現在:夜は早めにベッドに入り、朝は爽快な気分で目覚める。試験では、前日に学んだことを事細かに思い出せる。大学からの帰り道には、フィットネスクラブに立ち寄る。帰宅後も数時間かけ、予定されているレポート発表の準備を怠らない。

今や、夜を徹して知識を詰め込んでも何の役にも立たないことがわかっている。効率的かつ迅速に学びたいなら、逆に眠ったほうがいい。睡眠は記憶の形成に最も効果的なツールだ。

私たちが衝動的な行動をとったり、何かにつけて物事を先延ばししないように自制心を保てるのも睡眠のおかげである。質のよい睡眠を確保することはすなわち、知識と成功のための前提条件を整えることなのだ。

■睡眠中に脳に「空きスペース」ができる

覚醒時、脳はフル回転している。学校で、職場で、料理をしているときでもそうだ。友人と会っている間、子どもと遊んでいる時間、請求書の支払いをすませるとき、あらゆる活動で脳は全力を出すことを求められている。

そのため、脳は多くのエネルギーを必要とする。なにしろ、日中に収集したありとあらゆる情報のために、脳内に新たなシナプス(神経細胞の接合)が生み出されるのだ。1日が終わる頃には、脳は疲れきっている。翌日のために欠かせないパワーを蓄えるには、夜に休息をとらなければならない。

脳は夜の間、次の日に必要となる空き容量を十分に確保するために、新たに形成された神経細胞の接合の大部分を除去していく。脳内のこの清掃プロセスは「シナプスのダウンスケーリング」と呼ばれている。

何日も繰り返し練習した英単語など、脳が重要とみなす接合だけが削除されずに残る。これらのつながりを、脳は記憶に深く固定していく。その一方で、トレーニングのあとにランニングシューズを置いた場所や、子どもの遠足費用がいくらかといった、生存のために重要とはいえない大半の情報は再び消されることになる。

■なぜ「香り」は昔の記憶を呼び起こすのか

次のような経験をしたことはないだろうか。

街中を散歩しながら、あれこれとめどなく思いをめぐらせていると、見知らぬ誰かとすれ違い、知っている気がする香りに包まれる。柑橘系の香水だ。不意に何年も前へ時が逆戻りして、同じ香りをまとっていた小学校の先生を思い出す。まだ存命だろうか。

突然、長く忘れていた記憶がよみがえる。「どんな先生だったっけ。そうだ、クラス全員に手作りのクッキーをプレゼントしてくれたことがあった。いつも優しくて、何かうまくいかないことがあったり、体調が悪かったりすると、すぐに気づいてくれた。あの頃に戻ることができたら楽しいだろうな」

香りには過去の記憶を呼び起こす力がある。それどころか、睡眠中に香りを知覚すると、記憶の定着の促進にも効果があるというのだ。

少し前になるが、科学誌『サイエンス』にこのテーマに関する実験結果が発表された。

実験では、20~30代の被験者が(神経衰弱のように絵札の)メモリーカードで遊ぶ間、バラの香りを室内に漂わせた。その夜、半分の被験者にだけ、深い睡眠の間に同じバラの香りを嗅がせた。

■寝る前に学んだ内容は睡眠中に定着する

その結果は驚くべきものだった。翌日再びメモリーカードに挑戦してもらったところ、睡眠中にバラの香りの刺激を受けたグループは、前日に覚えたカードのペアの位置を、もう一方のグループよりも明らかに多く記憶していたのである。

ドイツの科学者たちも、興味深い発見をしている。

被験者が深い睡眠に入っている間に、ゆっくりとした脳波にシンクロする音を聞かせたところ、長期記憶の形成に関わる脳波(睡眠紡錘波、大脳皮質から発せられるゆっくりとした脳波、そしてリップル波)の相互作用が強化されたのだ。

この知見は、たとえば新しく外国語を学ぶ際に応用できる。

スイスの睡眠研究者たちは、被験者グループが就寝する前に、オランダ語の単語をいくつか教えた。そして彼らの就寝中にも、これらの単語を繰り返し聞かせた。ただし一部の単語を除いて。

明くる日、実験参加者たちは睡眠中に流れていた単語のほうをよく覚えていたという。

だが注意が必要だ。記憶に定着させることができるのは、就寝前に学習した単語だけ。学んだことのない単語を睡眠中に聞いたとしても、残念ながら何の役にも立たない。

■暗記を「長期記憶」として保存するには

睡眠中の記憶定着機能を最大化するためには、どのような行動をとるのが理想だろうか。

次の日に試験があるからといって、深夜遅くまで詰め込み勉強をするのは、とても賢明とはいえない。脳が一時的な情報で溢れかえってしまい、おまけに睡眠が短いために、情報をふるいにかけ、価値あるものだけを長期記憶に保存する機会が与えられない。

その結果、試験中、脳内は混乱を極め、数多の脳回(大脳皮質のしわの隆起部分)の中から正しい情報が格納された記憶の引き出しを見つけ出すのが非常に難しくなる。

ベストの方法は(物事を先延ばしするのが得意な人にとっては悪いニュースだが)、試験の数日前から少しずつ繰り返し勉強すること、そして学んだことを保存し、不要な情報を整理するために学習後に深い睡眠をたっぷりとることだ。

そうすれば、長期記憶が構築され、試験で好成績を収める可能性が高まるだろう。

ウプサラ大学の調査では、ストレス状況下で睡眠が不足すると記憶力の低下を招くことを突き止めている。調査ではメモリーカードを用い、それぞれのペアがどこに置かれているかを記憶するという手法で学生グループに記憶テストを受けてもらった。その日の夜、被験者は睡眠を4時間だけとることが許された。

目を覚ました後、ベッドで伸びる女性
写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

■ストレス+寝不足は大敵

同じ被験者たちは後日、再度メモリーカードのペアの位置を覚え、この日の夜には8時間の睡眠をとった。それぞれの実験の翌日、参加者にカードの置かれている場所をたずねたところ、その結果に睡眠時間の違いに起因する有意な差は見られなかった。おそらく、事実と空間に関する記憶が、おもに睡眠の前半に発生する深い睡眠時に固定されるためだろう。

つまり、これらの記憶の定着は4時間あれば足りるように見受けられる。

次に、試験や仕事でよく見られるストレス状況が記憶のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを検証した。

被験者たちにはまず、騒音により集中力が阻害される環境下で大量の単語を暗記する課題が与えられた。そして、そのあとにもう一度記憶テストを行った。前日に覚えたメモリーカードのペアの場所を思い出してもらったのだ。

今回、4時間の睡眠でストレスの多い状況を経験した被験者たちは、どこにカードが置かれているかを前回ほど順調に思い出せなかった。記憶能力が10%低下したのだ。その一方で、きちんと睡眠をとったあとでは、ストレスによる影響は認められなかった。実験参加者たちは、前回と同様にカードの位置をよく覚えていた。

記憶力の低下は、睡眠不足のあとに決まって起こるわけではないが、ストレスと睡眠不足が組み合わさったときにはマイナスの影響が不可避といえる。

■ストレスと睡眠障害は学校現場でも

まさに、試験やプレゼン、そのほか重要だからこそストレスをともなう可能性のある場面の前には、十分な睡眠の確保がいつにも増して大切になるのだ。

そのように考えると、睡眠障害を抱える人がストレス状況下においても記憶力を維持できるよう、社会の変化を起こすときにきているのではないだろうか。

彼らの睡眠不足を補える支援策としては、たとえば「授業開始時間を遅らせる」「就業時間に柔軟性をもたせる」などが考えられる。

睡眠の乱れや、睡眠不足は、往々にして学業成績の低下につながる。

睡眠と学力の関係を探る研究は数多く存在するが、その中のひとつが、著者ベネディクトが研究チームとともにウプサラ市の2万人以上の生徒を対象に実施した健康とライフスタイルに関する調査だ。

とくに睡眠と学業成績について調べたところ、睡眠障害や短時間睡眠と成績の低下に明らかな関連が認められた。

その結果は専門誌『睡眠医学』にも発表されているが、夜間の睡眠が不足する生徒たちは、授業中の集中力に欠け、知識を吸収する能力も低く、質のよい睡眠が促す学習内容の長期記憶への定着も旗色が悪かった。

■17~18歳の80%が夜間のスマホをやめられない

この傾向は女子においてとくに顕著だった。学力試験の不合格者数を見ると、寝不足(本調査では7時間未満)の女子は適切な睡眠習慣の女子よりも2倍、睡眠が平日・週末ともに7時間未満の女子では5倍も多い。

クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル『熟睡者』(サンマーク出版)
クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル『熟睡者』(サンマーク出版)

だが同調査で得られたデータで最も心配なのは、全調査対象者の3分の1にあたる生徒が「睡眠障害で悩んでいる」または「睡眠不足である」と回答したことだ。生徒たちが本来眠るべき時間帯にインターネットに夢中になっていることが、この睡眠問題の原因のひとつではないかと考えられる。

18万人の児童やティーンエイジャーを対象に実施されたオーストラリアの調査では、7~8歳の子どもたちの4分の1が夜の間に1回以上スマホを使用すると回答している。

17~18歳の間では、その数なんと80%。これらの端末の画面から発せられるブルーライトの影響で、入眠の準備をうながすホルモン・メラトニンの分泌に遅れが生じる。

ソーシャルネットワークへのアクセスも、子どもたちの睡眠に重大な影響を及ぼしているだろう。

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クリスティアン・ベネディクト スウェーデン・ウプサラ大学准教授、睡眠研究者
1976年、ドイツ・ハンブルク生まれ。スウェーデン・ウプサラ大学准教授、神経科学者、睡眠研究者。キール大学の栄養科学修士課程を修了。リューベック医科大学で神経内分泌学を研究、博士号を取得。2013年よりウプサラ大学の教壇に立つとともに、同大学の睡眠研究を牽引。

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ミンナ・トゥーンベリエル ジャーナリスト、作家
約20年にわたり、スウェーデン通信(TT)や日刊紙「スヴェンスカ・ダーグブラーデット」等の主要メディアに健康をテーマにした記事を執筆。

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(スウェーデン・ウプサラ大学准教授、睡眠研究者 クリスティアン・ベネディクト、ジャーナリスト、作家 ミンナ・トゥーンベリエル)

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