これまでの実績やキャリアはまるで通じない…AI時代に「生き残れる人」と「仕事を失う人」の決定的違い
プレジデントオンライン / 2023年8月9日 8時15分
※本稿は、三木雄信『仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■日常業務のなかでジワリと増えてきているある仕事
「プロジェクト的な仕事」の定義とは、次の通りです。
①明確な納期または締め切りがあり、ある一定期間に行う仕事
②(日々継続的に仕事を一緒にしているわけではない)他部門の人、あるいは外部の企業や個人と共同で進める必要がある仕事
③過去にやったことがない仕事で、達成したい目標は定まっているものの、それを実現する具体的な手段や手順があらかじめ明確になっていない仕事
いかがでしょうか。
「プロジェクトなんか関係ない」と思っていた人でも、こんな仕事なら日常業務の中にもたくさんあるのではないでしょうか。
■ルーティンワークはいずれ消える
では、なぜこうした「プロジェクト的な仕事」が増えているのでしょうか。
そこには、ビジネス環境の変化が大きく影響しています。その変化を読み解くキーワードは、「AI(人工知能)化」「グローバル化」「カスタマイズ化」「高速化」です。
「AI化」は、驚くべき速さで世の中を変えつつあります。
いまやAIと無縁のビジネスを探すほうが難しいくらいですし、一見するとアナログに思える作業でも、必ずAIが関わってきます。
2022年11月末にOpenAIがリリースした対話に特化した言語モデルのChatGPTは、あらゆる分野で急速に活用されつつあります。
例えば、メディア企業において動画からテキストベースの記事作りを行ったり、製薬企業での新薬の開発において活用されています。今後、ますますこのようなAI活用は広まっていくでしょう。
そうなれば、ルーティン的なことや組み合わせをたくさん試行錯誤するような仕事は人間の仕事ではなくなってくるはずです。
その時に、人間に残る仕事は「プロジェクト的な仕事」だけになるでしょう。
■一人でどうにかできる仕事がなくなる
「グローバル化」も同様です。
少子高齢化が進む国内市場だけではどのビジネスも成長が難しくなった今、大手から中小零細、創業間もないベンチャーまで、あらゆる企業が海外展開を積極化しています。
となれば当然、現地のパートナー企業や海外でのビジネスに詳しいコンサルタントやアドバイザーと共同で仕事をする機会が増えます。
また、デジタル化やグローバル化が進むと、コンプライアンス部門や法務・税務のプロフェッショナルとの連携も必須となります。
ITであれば個人情報保護や情報開示の問題が、海外展開であれば契約書のチェックや各国の税制への対応などが発生するため、いずれも専門家の助けが不可欠です。
「カスタマイズ化」も、大きなトレンドです。
これは営業の仕事を思い浮かべてみるとわかりやすいでしょう。かつての営業マンは、既成の製品やサービスをそのまま売れば仕事は終わりでした。
しかし今は、「どの商品をご希望ですか」という単なる御用聞きしかできない営業は不要の時代です。
今の営業に求められているのは、顧客のニーズを聞き出し、相手が抱える問題を解決することです。そのためには、自社の製品やサービスを組み合わせたりプラスαを加えたりして、個別にカスタマイズした提案ができなければ競合には勝てません。
ただし、カスタマイズには他部門の協力が不可欠です。顧客が求める納期や品質を予算内で実現できるよう、各方面と調整や話し合いをして実現に持ち込まなくてはいけません。
これはまさに一つのプロジェクトを回すのと同じことです。
■業務のスピード化がもたらす変化
「高速化」は、どの日本企業にとっても大きな課題です。
私が指摘するまでもなく、日本企業が商品やサービスを開発するスピードは、海外の企業に比べて圧倒的に遅いのが現状です。
計画段階に時間をかけ、データをできる限り集めてじっくり検討し、経営陣のゴーサインが出るまで何段階も稟議(りんぎ)が通るのを待つ。
ようやく了承が出て開発を始めても、完璧だと確信できるものができ上がるまでリリースしない。これが一般的な日本企業のスピード感です。
しかし、変化の激しい今の時代にそんな悠長なことをしていたら、ある日突然、海外から新しいプレーヤーが乗り込んできて、あっという間に市場を独占されるのがオチです。
海外におけるビジネスの競争スピードは、日本人が考える以上に加速しています。
例えば現在メタバースについて日本では今から取り組む企業も多いようですが、すでにアメリカのMeta(旧称Facebook社)は、社名変更までしたにもかかわらず、メタバース事業で大規模リストラし、新しい成長分野に注力しようとしています。
この事実を知れば、いかに日本が周回遅れの議論をしているかわかるでしょう。
もちろん、日本企業も自分たちのスピードの遅さに危機感を抱き、何とか海外に追いつこうと必死に策を講じています。その結果、社内だけで新たな部門を立ち上げて事業を育てるのではなく、必要なスキルやノウハウを持った人材を関連部署から横断的に集め、さらに外部の企業やプロフェッショナルと手を組んで、時間をかけずにリソースを揃えてビジネスをスタートアップするプロジェクト型の仕事がますます増えています。
「AI化」「グローバル化」「カスタマイズ化」「高速化」の4つのビジネストレンドは、いずれも「日常業務のプロジェクト化」を推進する強力な要因となっているのです。
■なぜメガバンクが人員削減したのか
さらに、「プロジェクト的な仕事」を今後ますます増加させる大きな要因があります。
それが、AIやRPAです。
AIはご存知の通り、ChatGPTのような人工知能のこと。RPAはRobotic Process Automationの頭文字をとった言葉で、簡単に言えば「ホワイトカラーの定型業務を自動化するテクノロジー」です。
これらは業務の効率化や人手不足の解消を目的として多くの企業で導入が進んでいますが、特にRPAはAIより導入コストが安いこともあって、急速に普及しています。
RPAは、人間が設定した一定のルールに従って作業をこなします。
例えばサラリーマンなら誰もがやっている交通費の精算も、ICカードをかざすだけでデータを読み取り、入力もチェックも自動的に処理してくれます。
他にも日常業務の中には人間が手を動かして入力や処理をしなくてはいけない事務作業がたくさんありますが、これらはすべてRPAが代行してくれるようになるでしょう。
しかも、その変化はすでに始まっています。いずれやってくる話ではなく、今日あなたの会社で起こってもおかしくない変化なのです。
先ほど私が「ホワイトカラーのルーティンワークはいずれ消滅する」と言ったのは、それが理由です。
2018年に入ってから、メガバンクが相次いで大量の人員削減計画を発表して話題となりましたが、これもルーティンワークの激減を見越したものです。
窓口での単純な手続きやそれに伴う事務処理は、すでに大半が機械に置き換わっています。となれば、その業務を担当していた人員は不要になります。
ゼロ金利などの影響で銀行も経営環境が厳しくなっていますから、大胆なリストラをしてでもコスト削減と業務の効率化を進めなくては生き残れない時代になったということです。
![銀行の看板](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/0/1200wm/img_d03a6bcdc9766ce71dc6d49317b55c0d400927.jpg)
■人間が任される仕事とは
では、AIやRPAの導入が進んだら、人間にはどんな仕事が残されるのか。
その答えが、「プロジェクト的な仕事」です。
「定型的で繰り返しの作業」が機械に置き換われば、残るのは「非定型で複数の人が関わる仕事」だけです。つまり、「プロジェクト的な仕事」こそが「AI時代の仕事」だということです。
それは同時に、「プロジェクト的な仕事」ができない人には、機械に仕事を奪われるというシビアな未来がやってくるということでもあります。
■AI時代を生き抜くために必要なスキル
では、そんな未来を生き抜くために必要なことは何か。
答えは一つしかありません。それは、あらゆるビジネスパーソンが「プロジェクト・マネジメント」のスキルを身につけなくてはいけないということです。
役割としては、常にプロジェクト・マネジャー(プロマネ)を務めるつもりで仕事を回していく必要があります。
「プロジェクト」と名がつく特別な仕事に関わる人だけでなく、営業のように個々の独立性が高いと思われていた職種や、これまでルーティンワークが多かったバックオフィスについても、例外ではありません。
どんな日常業務もプロジェクトと捉えて、自分なりにマネジメントしていく。それが、これからの時代に求められるスキルです。
■「縦のコミュニケーション」と「横のコミュニケーション」の違い
とはいえ、これまでプロジェクト型の仕事に参加する機会が少なかった人は、「プロマネとはなんぞや」と思うかもしれません。
プロジェクト・マネジャーの役割とは、ひと言でいえば「コミュニケーションの調整役」です。しかもここで言うコミュニケーションとは、「横のコミュニケーション」であることが最大の特徴となります。
ひと昔前まで、日本の組織では「縦のコミュニケーション」がほとんどでした。社内の一部門だけで完結する仕事が多く、ピラミッド型組織の上下関係に従っていれば意思決定ができたからです。
しかし、プロジェクト的な仕事が増えた今、必要とされているのは、他部門や外部の人・企業と上下関係や肩書に縛られないフラットな「横のコミュニケーション」ができる人材です。
■「プロマネ」の難しさ
ただし、従来の「縦のコミュニケーション」に比べて、「横のコミュニケーション」は格段に難易度が高くなります。
なぜなら、プロマネには人事権がないからです。
プロジェクト・メンバーの配置を決めるのも、評価するのも、その人が本来所属している組織の直属の上司です。
![三木雄信『仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHPビジネス新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/d/1200wm/img_bd5b4dfc97e9a6d1c563ad48cce8efaa264656.jpg)
プロマネには、その権限がありません。よって極論すれば、「プロマネに嫌われても、直属の上司に嫌われなければいい」と考えるメンバーがいてもおかしくないわけです。
同じ社内の人間でもそう考えるリスクがあるのですから、一緒に仕事をするのが外部の人や企業だったら、それこそ「あのプロマネは気に入らないから、自分たちはこのプロジェクトから降りる」と言われかねません。
縦の上下関係の中では、人事権を持つ上司が圧倒的に強い立場なので、多少マネジメント能力に問題がある人でも自分の指示に部下を従わせることが可能です。
しかし、人に関する権限や裁量を持たないプロマネはそれができない。ここに「横のコミュニケーション」で人を動かしたり、チームをマネジメントする難しさがあります。
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トライオン代表取締役
1972年福岡生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンクに入社。2000年、ソフトバンク社長室長。マイクロソフトとのジョイントベンチャーや、ナスダック・ジャパン、日本債券信用銀行買収、およびソフトバンクの通信事業参入のベースとなったブロードバンド事業のプロジェクトマネージャーを務める。2006年にトライオン株式会社を設立、2015年に英語コーチング・プログラム『TORAIZ(トライズ)』を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。『【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術』(PHP研究所)など著書多数。
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(トライオン代表取締役 三木 雄信)
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