1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

"終活"の最大の売れ筋は「樹木葬」自分で墓を買う女性たちがこぞって選ぶコスパ最高の永眠場所

プレジデントオンライン / 2023年7月25日 11時15分

東京都港区虎ノ門の光円寺に設けられた「森の樹木葬」 - 撮影=鵜飼秀徳

■終活中の女性が樹木葬を望むワケ

植物に囲まれた墓「樹木葬」の需要が、急拡大している。10年ほど前までは樹木葬を手がける宗教法人や霊園は、数えられるほどだったが、現在では全国で1000カ所をゆうに超える。その人気ぶりは、一般的な墓や納骨堂以上だ。樹木葬には、終活を進めていく中での「理想」が、凝縮されている。樹木葬の多くが期限付きの永代供養で規模と費用が抑えられる。さらに死後の自然回帰を想起させるようなイメージとデザインが、とりわけ女性に受けているとみられる。

「私は10年以上前から樹木葬を手がけてきていますが、肌感覚でいえば、いま新規でお墓を求められる方の3~4割が樹木葬を選んでいらっしゃるのではないでしょうか」

樹木葬の開発や、コンサルティングを手がける株式会社366(本社:東京都港区)の代表、伊藤照男氏はいう。伊藤氏は、樹木葬のパイオニアとして知られる株式会社アンカレッジ(2009年創業、本社:東京都港区)の設立メンバーで、独立後の2020(令和2)年に同社を立ち上げた。わが国において、樹木葬の動向を最もよく知る人物のひとりである。

366は今年5月、新たに東京都港区虎ノ門の光円寺に、「森の樹木葬」をオープンさせた。神谷町の駅にも近い都会のど真ん中だが、そこは緑に包まれた静寂の空間が広がる。

シンボルツリーの紅葉や季節の花が咲く区画に、自然石の墓石を配したモダンな設計だ。秋の紅葉シーズンには、色づいた紅葉が楽しめる。この樹木葬の良さは、四季折々で表情が変わること。故人にたいする想いと、参拝者の癒やしが、墓参りを通じて調和する。

場所が変われば、樹木葬のコンセプトも変わる。台東区谷中の長明寺で366が展開する別の樹木葬は、樹齢600年の大樹の下に設けた個別納骨型。見上げれば覆い被さるような緑と、そこからの木漏れ日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる中でお墓参りができると、利用者に評判だ。

366が手がける台東区谷中の長明寺樹木葬
撮影=鵜飼秀徳
366が手がける台東区谷中の長明寺樹木葬 - 撮影=鵜飼秀徳

例えば前述の光円寺の樹木葬は、永代供養料7万円~(納骨料、粉骨料など別途必要)となっている。同社では本年中に、京都市伏見区、名古屋市の2カ所で、樹木葬を新規オープンさせる予定だという。

■樹木葬の平均購入金額は約67万円、一般墓は約152万円

樹木葬が、墓の主流になりつつある。日本最大級のお墓探しサイト「いいお墓」によれば、2023年7月17日現在の掲載霊園数は全国で1万199カ所。検索キーワードを「樹木葬」と入れて絞り込むと、うち1275カ所がヒットした。

先述の伊藤氏によれば、同サイトにおける2013(平成25)年時点の樹木葬登録数は、全国でも数カ所程度で、東京23区内では2カ所のみの運営だったという。だが、この10年ほどで新規設置が急増。現在では全霊園の1割強が、樹木葬に置き換わっており、その人気はますます拡大していきそうだ。

データも裏付ける。供養・終活に関する情報を提供する鎌倉新書の調査(2023年、「いいお墓」経由での墓購入者を対象、有効回答数660)によれば、「購入したお墓の種類」では「樹木葬」が51.8%、「納骨堂」が20.2%、「一般墓」が19.1%、「その他(手元供養など)」が8.9%という結果となった。今年、調査以来、初めて樹木葬が過半数を超えた。

なお、本調査では樹木葬の平均購入金額を出しており、66万9000円となっている。なお、納骨堂は77万6000円、一般墓は152万4000円である。葬送にかけるコストを抑える傾向にある昨今、樹木葬価格の手ごろ感も、需要を支える大きな要素といえる。

横浜市健康福祉局が2022(令和4)年に実施したアンケート(20歳以上の横浜市内在住者、有効回答数1822)でも、「樹木葬」へのニーズの高まりを知ることができる。

「取得するのに望ましいタイプの墓」として、「芝生にプレートを設置した、個々に区画されたお墓」(25.7%)が最も多い。次いで「墓石を使った、個々に区画されたお墓(一般墓)」と「樹木を墓標に見立て、遺骨は骨壷ごと土に埋める共同墓」が同率の18.8%となった。

欧米の墓地で主流の、「芝生型(樹木葬)」が日本でも支持を集めつつあるようだ。いずれにしても、植物に包まれる「有機的な墓」が、近年、好まれていることがわかる。

■最終的に合葬される樹木葬がいちばん安心を得られる

この樹木葬の多くが、「永代供養」の形態をとる。永代供養とは「イエ」単位で墓を継承していく従来型の区画墓(一般墓)とは異なり、「個人」を対象として墓地管理者が供養してくれるタイプの墓のことだ。永代供養の定義はさまざまだが、基本は、遺族に代わりに寺院や霊園が遺骨を管理したり供養したりする埋葬法だ。

この永代供養の中でも、需要を集めているのが「当初は骨壷(や、納骨袋)で納骨するが、一定期間が訪れたら合祀(ごうし)(複数の遺骨をまとめて埋葬)される期限付きの墓」だ。永代供養の期限は、埋葬されてから13年間(十三回忌を節目とする)や33年間(同三十三回忌)が多い。「永久に」供養されるタイプのものは、どちらかといえば少数である。

先の伊藤氏は、樹木葬のトレンドの本質は、この「永代供養」にあると分析する。「おひとり様」や、イエで墓を護持していくことを望まない人にとって、最終的に合葬される樹木葬は、安心を得られる埋葬法だからだ。

「現在、生前のお墓の購入比率は2割ほどで、この割合は高まっていくとみています。対して、先祖代々の墓を継承していく従来型の家墓は徐々に減っていくでしょう。近年、巻き起こっている終活は、自分の意思で自分の墓(永代供養墓)を決めるということ。こうした動きは、首都圏から地方へと順に広がりをみせています。その中心にいるのは女性です。樹木葬という、言葉やイメージから入る印象がポジティブだから、終活に意欲をみせる女性たちに受けているということなのかもしれません」(伊藤氏)

ここで樹木葬の歴史を簡単に振り返ってみよう。

■「墓石はいらぬ。椿のみを植えて墓標にしてくれ」

実は、樹木葬の歴史は、筆者が調査した限りでは、江戸時代中期に遡る。松尾芭蕉の門人で、伊賀上野藩士の岡本苔蘇(たいそ)が樹木葬の最初とみられる。

樹木葬の元祖、岡本苔蘇の椿の樹木葬
撮影=鵜飼秀徳
樹木葬の元祖、岡本苔蘇の椿の樹木葬 - 撮影=鵜飼秀徳

岡本苔蘇は、遺言で「墓石はいらぬ。椿のみを植えて墓標にしてくれ」と言い残し、1709(宝永6)年、臨済宗大徳寺派の妙華禅寺(三重県伊賀市)の境内の一角に、侘助椿の樹木葬がつくられた。

無機質な石塔の墓を敬遠し、樹木を墓標にしたいと願ったのは、風流を好んだ俳人らしい選択といえる。この苔蘇の侘助椿の樹木葬は今なお、管理し続けられている。

苔蘇の樹木葬の例はさておき、近年における樹木葬の最初は、臨済宗の知勝院である。同院は1999(平成11)年、岩手県一関市に荒廃した里山を買い取って樹木葬を始めた。霊園の面積は約2万7000m2と広大で、「花に生まれ変わる仏たち」がコンセプトになっている。

ここでは、墓石やカロート(骨壺)などの人工物は一切使用していないのが特徴だ。遺骨は山肌に穴を掘って埋め、その上に墓石の代わりとなるヤマツツジやエゾアジサイなどの低木を植樹する。遺骨はいずれ自然と同化していく仕組み。

この自然回帰傾向が強いタイプを「里山型(樹木葬)」ともいう。里山型は、山の斜面など足場が悪い立地が多いのが難点ではある。

里山型のユニークな例では、島根県隠岐を形成する無人島カズラ島(海士町)に散骨する「カズラ島自然散骨」がある。これは、東京都の戸田葬祭場のグループ会社が手がけるサービスだ。「国立公園内にあって、開発の手が入らず、永遠の静けさが約束された究極の埋葬法」として、人気を博している。

海士町のカズラ島での散骨の様子
撮影=鵜飼秀徳
海士町のカズラ島での散骨の様子 - 撮影=鵜飼秀徳

カズラ島での樹木葬は、地域創生の観点でも注目されている。海士町議会では、島全体を散骨の場にすることに合意。過疎にあえぐ島に、散骨や参拝を通じて「関係人口(地域と多様に関わるよそ者のこと)」を増やしていきたい考えだ。

2022(令和4)年に誕生し、爆発的人気の樹木葬が、福岡県糟屋郡新宮町の「古墳型永久供養墓」だ。全長53メートル、地上高3.5メートルの前方後円墳型。埴輪(はにわ)も置かれている。古代の古墳のように中央部の石室に納骨するのはなく、それぞれに区画を設けて、その下の納骨室に骨壷を納める形式だ。

こちらは無期限(永久)の供養となっている。「樹木葬」とはうたっていないものの、先に説明した「芝生型」だ。時間を経て樹木が育てば、本物の古墳のように森になっていくことだろう。

以上、紹介したように樹木葬といっても、多種多様なのだ。北海道ならハーブやラベンダーの樹木葬、湿気の多い京都であれば苔でできた樹木葬などもすでに存在する。今後も、各地の植生を生かしたユニークな樹木葬が次々と、登場していくことだろう。

合祀型の苔の樹木葬(京都・嵯峨嵐山の正覚寺)
撮影=鵜飼秀徳
合祀型の苔の樹木葬(京都・嵯峨嵐山の正覚寺) - 撮影=鵜飼秀徳

----------

鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

----------

(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください