歯磨きをする場所を変えるだけ…眠りの質が格段に高まる「起床直後の黄金ルーティン」
プレジデントオンライン / 2023年7月29日 19時15分
※本稿は、菅原洋平『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■夜に眠くなる脳をつくる効果的な方法
朝目覚めたら、まず何をしていますか? カーテンを開けて窓際に行く、ということをすでに実行していますか?
目覚めたら、できるだけ早いタイミングで窓から1m以内に入ってみましょう。
脳が朝の光を感知すると、成人では約16時間後に眠くなるリズムがつくられます。夜に眠くなる脳をつくることが重要ですが、そのための行動は、夜眠る前ではなく、朝から始まっているのです。
光によって夜の眠気をつくるには、目覚めた直後に脳に光を届けるのが最も効果的で、時間が経過するほど効果は低くなります。
必要な光の量は、2500ルクス以上です。室内照明では、光の強さは500ルクス程度、晴れた日の屋外では、1万ルクス以上です。室内でも窓から1m以内に入ることができれば、3000ルクス程度の光を脳に届けることができます。
過去の体験で、朝に明るいところに行くと、頭がさっぱりする、目が覚めると感じたことがあるならば、今回お話しする光の法則はあなたに役立つと思います。
というのは、光によって生体リズムが整うには、光感受性が高いかどうか、光をキャッチするOPN4という受容体を多く持っているかどうかが関係するからです。
これは遺伝子のタイプによるもので、光に反応しやすい人とそうでない人がいます。
ただ、光による生体リズムの調整に反応しにくかったとしても、まったく意味がない、というわけではないので、光によって調整されるメラトニンリズムの仕組みは、ぜひ知っておいてください。
光のリズムをうまく扱えると、こんないいことがあります。
・朝起きたときに体の疲れがとれる
・肌のダメージが減る
・体重が減る
・起きる時間と眠る時間を好きなように設定できる
住環境や生活スタイルは様々です。どんな環境でも光のリズムをうまく扱えるように、朝に脳に光を届けると、夜に眠くなる脳の仕組みを少し詳しく知っておきましょう。
■メラトニンが1日を24時間に調整する
私たちの脳や体の中では、時間の経過とともに、様々な物質が増えたり減ったりしていて、それには一定の周期があります。この周期の中で、ある局面、例えば1日の始まりや終わりのことを位相(いそう)と呼びます。
位相が時間の流れの方向に動けば(位相が後退すると言います)、夜更かし朝寝坊になり、時間の流れと逆の方向に動けば(位相が前進すると言います)早寝早起きの生活になります。
この位相の調整をしているのが、メラトニンです。
位相を調整する組織のトップは、脳の視床下部の中にある視交叉上核(しこうさじょうかく)という神経核です。実験によってこの部位が破壊されると、位相が消えてしまい、その後移植すると位相が復活したことから、体内時計の最高司令部、マスタークロックと呼ばれています。
マスタークロックはすぐ後ろにある松果体(しょうかたい)に指示を出し、松果体が交感神経節を介して筋肉や臓器の働きを調整します。
メラトニンが位相を調整する仕組みを見てみましょう。
例えば、24時間より長い体内時計を持っている人がいたとします。体内時計は、起床して脳に光が届いた時点からカウントされます。日中を過ごし日没で周囲が暗くなると、マスタークロックは松果体に命令を出し、メラトニンを分泌させます。
夜は眠くなって睡眠をとりそのまま朝になりますが、社会時間よりも長い体内時計を持っているので、そのままだと社会時間より遅く1日がスタートします。
ここで脳に光が届くとメラトニンの分泌が止まり、位相は前進します。1日のスタート地点がそろえられたのです。
このような仕組みで、人それぞれ体内時計の長さが異なっていてもともに社会生活を送ることができます。マスタークロックが毎朝光を感知して時計の誤差を修正しているのです。
■光を浴びる時間帯が遅い人ほど、BMIが高くなる
位相は、時間の流れの方向に動きます。夜更かし朝寝坊をするのは簡単にできますが、早寝早起きは難しい。それは、朝の光を使ってメラトニンの分泌を止めなければ、簡単に位相が遅れてしまうということの表れです。
大事な予定がある日だけ急に早起きをしても、その日のパフォーマンスは上がりません。これは時差ぼけと同じ症状です。
海外渡航をしたわけでもないのに、時差ぼけ症状が起きることをソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)と呼びます。
リモートワークなどで強制的に外出をしなくてもよくなった人たちに、このソーシャルジェットラグが急増しています。毎朝マスタークロックに光を届けて、時差ぼけが起こらないようにしておくことが大切です。
最近の研究では、光による刺激は、マスタークロックによる位相の調整だけではなく、夜の睡眠を促す働きをしていることも明らかになっています。
また、深部体温のリズムにも影響を与えていて、朝の光を脳に届けていないと、深部体温の上昇が不十分になり、パフォーマンスの低下を招くことも明らかになっています。
さらに、こんな気になる実験もあります。室内照明と同じ500ルクス以上の光を浴びる時間帯が遅い人ほど、BMI(体重と身長から算出される肥満度)が高くなるという実験結果です。
食事や運動に気をつけていても、朝の光を脳に届けないだけで、体内の時計がかみ合わなくなり、睡眠中の脂肪分解が妨げられるという仕組みだと考えられています。
■晴れの日も雨の日も、起床後4時間以内に外を見る
マスタークロックが、位相を調整できる時間は、起床から4時間までです。
起床直後が最も反応が強く、4時間を超えるとかなり反応が弱くなります。7時起床の生活ならば、タイムリミットは11時です。
ここから、「起床4時間以内に1分間、光を見る」という光の法則が導き出されます。
光を浴びる、というと日光浴のような場面をイメージするかもしれません。このイメージでは、隣家の窓がすぐ近くにあるから無理、紫外線が気になるから嫌だ、と思われる人も多いと思います。
ご安心ください。光は網膜から脳に届くので、全身に光を浴びる必要はありません。
朝、起きたら窓から1m以内に入ることができる場所はありますか? 寝室でもリビングでも結構です。
寝室の遮光カーテンを開けて眠ることができる環境ならば、窓から1m以内に頭が入るようにベッドを置いて眠っていれば、自然に脳に光を届けることができます。窓から1m以内ならば、臨床的には5~10分程度あれば、夜の眠気をつくることができます。
光の量は多いほど短い時間で夜の眠気がつくられます。窓を開けてお顔をちょっと外に出すだけで、光の量は10倍以上になります。窓から顔を出したりベランダに出てしまえば、1分程度過ごすだけで大丈夫です。
窓際1m以内は10分、外に出られれば1分と覚えてください。晴れの日のほうが光の量は多くなりますが、雨の日でも室内よりは光の量が多いです。実際には外が明るく見えなくても大丈夫です。
網膜には9つ受容体があり、光の見え方や色が調整されているのですが、そのうちのOPN4という受容体は光に反応してメラトニンリズムを動かしています。光の量は調整されて明るく見えていなくても、OPN4は反応しているので、天候に関わらず、窓際に行ったり外を眺めたりしてみましょう。
■眠りが足りなければ、二度寝は窓際で
朝、光を見るようにしようと目標を立てると、なかなか継続することができません。そこで、目覚めてから窓際に行く生活動線をつくってみましょう。
毎朝決まってやることを窓際に1m以内の場所でやってみることはできますか? スマホを見たり、歯磨きをしたり、ベランダの鉢植えに水やりをするなど、どんな予定の日でも窓際で過ごすような動線をつくってしまえば、何も考えなくても夜に眠くなる脳をつくっていくことができます。
例えば、空の写真をとってSNSに投稿するなど、外を眺めることを社会とつながる活動にしてしまうと実行しやすくなることもあります。
体内時計のスタートをそろえるには、起床時間をそろえるのが良い、とお話ししましたが、朝なかなか起きられず二度寝をする人は、そんなの無理……と思われたかもしれません。そんな場合は、窓から1m以内の場所で二度寝をしてみましょう。目を閉じていても光を感知することはできます。
休日などに目覚めて眠り足りない感じがしたら、窓際に移動してそこで二度寝する。これを続けていれば、メラトニンリズムにより、自然に朝目覚められるようになっていきます。
■朝の光でメラトニンサイクルを回す
メラトニンの原料は、トリプトファンという必須アミノ酸です。
トリプトファンを摂取するためにバナナを食べましょう、と言われることがよくありますが、バナナは嫌いとか、体質に合わないという人でも大丈夫です。トリプトファンは、肉や魚、豆類、豆乳や乳製品などにも多く含まれています。
朝食に、納豆や魚などを食べると、その中のトリプトファンは、セロトニンに変換されます。
セロトニンは、脳の興奮を緩やかに抑えて、突発的な出来事にびっくりせず、落ち着いて行動できるようにする役割を持っていると考えられています。
昼間に安定した気分で充分に能力を発揮したら、セロトニンは、N-アセチルセロトニンになった後、メラトニンになります。
セロトニンとメラトニンの分泌量は、正反対のリズムを持っています。つまり、セロトニンが多くなるとメラトニンは減り、メラトニンが多くなるとセロトニンは減ります。
こうして私たちは、昼間元気で夜ぐっすりの生活をおくることができるわけです。
ここで、メラトニンを増やすのが良い睡眠につながるならば、窓際に行くとか面倒なことをしなくてもサプリメントを飲めばいいんじゃない? と思われた人もいるかもしれません。ただ、残念ながら、1つの物質を摂取すればよいというほど単純ではありません。
実は、トリプトファンは、摂取してもそのままでは脳に取り込まれない物質です。体の血液が脳に入るときに、有害な物質が脳に入らないようにしている血液脳関門を通過することができないからです。
■ただ生活しているだけで、やる気が湧き起こるサイクルへ
トリプトファンは、アルブミンと結合しているのですが、この結合を切ることができてはじめて、血液脳関門を通過することができます。この結合を切る役割をしているのが、インスリンです。
睡眠が不足すると、インスリンが減ってしまいます。つまり、手っ取り早く睡眠を改善しようとトリプトファンを摂っても、夜更かしをしてインスリンを減らしてしまえば、メラトニンを増やすことができなくなってしまうのです。
朝の光でメラトニンを減らす、原料を摂取する、昼間の行動でセロトニンを増やす、夜の暗さでメラトニンを増やす、睡眠量をかせいでインスリンを増やす、という一連のサイクルをかみ合わせることができれば、ただ生活しているだけで、やる気が湧き起こってきます。
このサイクルの中でどれかを実行できればいいのですが、朝窓際に行くことが、一番簡単で継続しやすいです。
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作業療法士
ユークロニア代表。アクティブスリープ指導士養成講座主宰。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。2012年にユークロニアを設立。東京都千代田区のベスリクリニックで外来を担当しながら、ビジネスパーソンのメンタルケアを専門に、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。著書に『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『すぐやる!』(文響社)などがある。
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(作業療法士 菅原 洋平)
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