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今や死ぬ確率は「インフルエンザ」のほうが高い…医師・和田秀樹「コロナは"死を招く病"は刷り込みである」

プレジデントオンライン / 2023年7月30日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seb_ra

パンデミックに直面し、冷静でいられる人と慌てふためく人の違いは何か。医師の和田秀樹さんは「日本人の不安感は、『怖い』『いやだ』という感情ばかり先走り、対策まで結びつかないことが多い。これは控えめにいっても、頭が悪い人の行動だ。頭がいい人は世間の評価に惑わされず、確率で考えることができる」という――。

※本稿は、和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■ニュースになるのは「めったに起こらないこと」

「犬が人を噛(か)んでもニュースにならないけれども、人が犬を噛んだらニュースになる」という言葉があります。

これを言ったのはアメリカのジャーナリストだとか、イギリスの新聞王だとか諸説ありますが、「ニュースとして価値を持つのは珍しいこと、めったに起こらないことである」と端的に言い表しています。

めったにないことにはインパクトがあるので、多くの人が注目します。テレビであれ、新聞・雑誌であれ、ネットニュースであれ、およそニュースと名のつくものはこの基本原則が根底にあると考えていいでしょう。つまり、確率の低いことが、大々的にニュースになりやすいといえます。

私は、現代の日本人に必要なのは、事実を中立的に見たうえで、確率でものごとを考える習慣を身につけることだと思っています。「頭がいい人」の健康法にとって、それが必須の要件になるからです。

今回のコロナ禍は、その典型です。確率がこれほど無視された病気も珍しいのではないでしょうか。たしかに、当初は、新型コロナウイルスによる感染症がどんな病気なのかよくわからないうちに、重症者や死亡者が次々と報じられ、日本全体は強い不安感に包まれました。

■対策まで結びつかない「不安」は頭が悪い人の行動

「不安」という感情そのものは、この先に起こりうる悪い事態を回避するためのものなので、本来、決して悪いものではありません。どのくらいの確率で、どのような事態が起こるか。何をすれば回避できるか。

できなければ、どのようにリカバリーするか。リスクを予測して回避策を考え、場合によっては、プランB、プランCで対応を考える。そうしたさまざまな対策も、不安が出発点となります。

しかし、日本人の不安は、対策まで結びつかないことが多いのです。コントロールが働かず、「怖い」「いやだ」という感情ばかり先走ってパニックになりがちです。これは控え目にいっても「頭が悪い人」の行動です。

コロナ禍では社会全体がパニックに翻弄されました。

新型コロナウイルスの感染拡大により、政府による「緊急事態宣言」が出されて、外出や店舗の営業などの自粛や、マスクの着用が要請されたときに、要請に応じない個人や店舗に対して、激しい批判を浴びせたり、私的な制裁を図ったりする“自粛警察”や“マスク警察”が現れたことは記憶に新しいのではないでしょうか。

自宅でエクササイズバイクで働く認識できない女性のクロップドショット
写真=iStock.com/pixdeluxe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pixdeluxe

この種の歪んだ正義感もパニックの一つの側面であり、頭の働きを悪くします。不安をコントロールできていれば、「こういうやり方もある」と複数の対策を考えられますが、パニックになっているときは一つのことしか考えられません。

「もうダメだ」と悲観的になったり、「考えたくない」と目を背けてしまったり、「あいつが悪いのだ」と誰かに責任を転嫁したりするのです。

■コロナ自粛で大ダメージを被った日本の高齢者

「頭が悪い人」が感情ばかり先走ってパニックになるのとは対象的に、「頭がいい人」は確率で考えることができます。たとえば、コロナ禍での次のような事例を考えると、世の中全体に頭の悪い行動様式が広がっていて、国民全体が損をしたことがわかるでしょう。

国や自治体が、自粛要請をはじめとするさまざまな制限を、国民生活に対して加えることができたのは、感染症法で新型コロナが「2類」の危険な病原体とされたからです。

これが、季節性インフルエンザと同じ「5類」へと移行されたのは、ようやく2023年5月8日のことでした。

この間、3年に及んだコロナ自粛によって、私は日本の高齢者が大きなダメージを被ったと考えています。長期間にわたる自粛を強いられたために、歩けなくなったり、認知機能が大幅に落ちたりする高齢者が、100万人単位で発生すると思われるからです。

たしかに、新型コロナウイルスの流行が始まってしばらくは、感染者が死亡する確率も比較的高かったので、恐れる気持ちはよくわかります。

しかし、2021年の暮れから流行しているオミクロン株は、感染力は強いものの、重症化率や致死率は大きく下がっています。

そのことは早くからわかっていたのですが、感染症法上の位置づけは、デルタ株やアルファ株と変わらず「2類」に相当するとされ、患者さんに対し入院の勧告、就業制限、外出自粛の要請が続きました。

自粛生活により、高齢者は外出しなくなって、歩く機会も距離も大幅に減少しました。また、お腹もすかないので食が細くなって、栄養状態も悪くなったと思います。

■コロナ感染で死ぬ確率、コロナ自粛で要介護になる確率

高齢者専門の精神科医である私は、認知症や老人性うつ病などの患者さんの診察をしていますが、コロナ禍の最中は、本人ではなく家族が薬だけ取りに来院するパターンが増えました。

その際、「足腰は衰えていませんか」「以前と比べて認知症状は悪くなっていませんか」などと、患者さんの様子を家族に聞いていました。

大半の家族からは、「ほとんど外に出なくなった」とか「そのせいでかなり足腰が弱っている」といった答えが返ってきました。なかには、「歩けなくなってしまった」というケースもありました。

これは、使わない機能や器官が短期間で衰える「廃用症候群」と呼ばれる状態です。

とくに高齢者の場合は衰えが激しく、風邪をこじらせて寝込んでしまうと1、2カ月で歩けなくなってしまい、リハビリが必要になることがよくあります。

寝込むほどでなければ、1、2カ月くらい外を歩かなくても、歩行困難になることはまずありませんが、家にひきこもった状態が1年近く続くと、歩行がかなり難しくなることが多いようです。

3年間も続いた自粛生活によって、高齢者の筋力はかなりの確率で衰え、歩行などの運動機能が落ちていると思われます。運動機能の低下は認知機能の低下と大きく関連するので、要介護になる高齢者が急増することが容易に想像できます。

つまり、新型コロナに感染して死ぬ確率からは逃れることができたものの、コロナ自粛によって要介護になる確率は高くなったといえます。数年後に要介護者が急増し、介護費は従来の推計を大きく上回る可能性もあります。

本来であれば、国は、オミクロン株の感染力や重症化率、致死率などの特徴が風邪やインフルエンザと変わらないと判明した時点で、「5類」へと移行し、「高齢者は要介護の予防のために外に出て歩いてください」といった、実質的な安全宣言を出すべきだったと私は考えています。

■「コロナは怖い」という印象が強く刷り込まれた

3年余りのコロナ禍の様子を、当初から少し振り返ってみましょう。

2019年12月に、中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染者が、日本でも見つかったのは翌20年1月のことでした。2月に入ると横浜港に接岸しているクルーズ船で集団感染が起こり、712人が感染し、13人が死亡する事態になりました。

ただ、このクルーズ船を除けば、3月上旬の時点で、国内の感染者は200名を超えたあたりでした。国民の間に不安は高まりつつも、危機感までは広がっていなかったようです。

ですが、3月にコメディアンの志村けんさんが亡くなって、いっぺんに日本中が危機感に包まれます。政府による「緊急事態宣言」が出され、企業も学校もイベントも飲食店も、およそ人が集まるさまざまな場面で活動自粛が要請されました。

いわゆる不要不急の外出を避けたり、マスクを着用したりするよう強く求められ、同調圧力に、先述したような歪んだ正義感も加わって、息苦しい日々が続きました。

普通の風邪のウイルスがのどや気管支で増殖するのに対して、流行当初の新型コロナウイルスは、肺の最奥部の肺胞で増殖するため、いきなり重い肺炎を引き起こしました。

午前中は落ち着いていたのに、午後になって重症化したとか、軽症だったので自宅待機していたところ、急に悪化して死亡したなどといった報道が相次ぎ、日本中がパニックの様相を呈したのです。

2020年4月をピークとする第1波以降、数カ月ごとにピークが訪れる「波」を繰り返しながら流行し、毎日のニュースで、重症者や死亡者の数が伝えられました。

スマホを見て落ち込んでいる女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

こうして「コロナは怖い」という印象が、繰り返し強く刷り込まれていきました。

■70歳以上の致死率は、第1波から第2波で約3分の1へ

流行当初は、重症化するメカニズムも治療法もわからなかったため、呼吸不全になった患者さんにはECMO(エクモ)(体外式膜型人工肺)を使い、肺をまったく使用しなくてもいい状態にして回復を待つしかなかったのです。もともと全身状態の悪かった患者さんは、回復力が低下しているため亡くなるケースが多かったのです。

世界中で研究が進められた結果、重症化するのは免疫システムが暴走し、自分の体を攻撃していることがわかってきました。

重症化リスクの高い人は抗体カクテル療法で重症化を予防し、重症化した場合も別の疾患用の抗ウイルス薬や免疫抑制剤などを転用する治療法が確立して、死亡する患者さんは少なくなりました。

国立感染症研究所の当時の発表をたどると、致死率は第1波では5.8%、第2波では8月19日時点で0.9%。70歳以上に限ると、第1波では24.5%、第2波では8.7%と3分の1程度に下がっています。

国立感染症研究所は、検査対象の拡大によって、より軽症の症例まで診断されるようになったことをその理由としてあげています。

日本は風邪やインフルエンザの治療に慣れていますので、通常の医療が充実していることの効果もそれなりに大きかったのではないかと思います。

■病原性の高い、危険なウイルスが広まる確率はかなり低い

新型コロナウイルスは変異しやすいRNAウイルスに分類されており、流行が始まって数カ月もすると、次々と変異株が登場したことはみなさんもご存じのとおりです。

当初、日本に入ってきたのはヨーロッパと近縁の株で、これで流行の第1波が起こります。そこに、日本国内での変異が蓄積して流行したのが、第2波と第3波。

第4波は「イギリス株」と呼ばれていたアルファ株で、これが2021年の春から夏にかけて猛威をふるいました。

2021年の夏から秋に大流行したのが、インド由来のデルタ株です。感染力が強いとされ、このときの第5波は、新規陽性者数で見れば、それまで最大規模の流行だった第3波の約3倍、およそ20万人が感染しています。

一時期は毎日のように、全国で5000人以上が感染したというニュースが流れていました。

ただ、死亡者数を比べると、第3波の1051人から837人へと減っています。

感染者数から見ると、確実に死亡率は下がっていました。

ウイルスは一般に、感染力が高くなると致死率は下がります。ウイルスの立場では、宿主を殺してしまっては自分も死んでしまうのでそれ以上は増殖できません。したがって、大流行する変異ウイルスほど症状がマイルドになっていくと考えられます。

病原性の高い、危険なウイルスが、突発的に出現する可能性はゼロではありませんが、確率はかなり低いのです。さまざまな変異は毎日おびただしい数で起こっていますが、そのうち感染力が強く、病原性の低いものが生き残るのが普通だからです。

■インフルエンザのほうが死ぬ確率が高い

デルタ株の次に、2021年の暮れから流行の主役となったのがオミクロン株でした。

感染力が強く、第6波は第5波の約3倍となるおよそ84万人、第7波ではおよそ150万人と、第6波の2倍に近づきました。

新型コロナウイルス感染症の重症化率と致死率
出典=『頭がいい人、悪い人の健康法』より

しかし、新規感染者に対する入院患者や重症患者、さらに死亡した人の割合は大きく減っています。

厚生労働省の作成したデータ(図表1参照)によると、デルタ株が流行した第5波の時期、80歳以上の重症化率が10.21パーセント、致死率が7.92パーセントでしたが、オミクロン株が主体となった第7波では重症化率は1.86パーセント、致死率は1.69パーセントへと低下していました。

コロナ禍以前に、毎年のようにはやっていた季節性インフルエンザでは、80歳以上の重症化率は2.17パーセント、致死率は1.73パーセントでしたから、オミクロン株はインフルエンザよりも低いのです。

こうした数字が出てきても、日本では、発生当初の「死を招く病」というイメージはなかなか変わりませんでした。外出や営業の自粛、就業制限など、終わりにしてもよいと思われる段階を過ぎてなお、ずるずると続きました。

■どんなに弱い病気でも、高齢者にとっては命取り

オミクロン株を「5類」に移行するかどうかで議論になっているとき、こんな声もありました。

「オミクロン株では、重症でもないのに死者が出ているじゃないか。危険だ!」

それまでのデルタ株より感染力が強く、感染者が急増していただけに、危機感を感じた人が多かったのでしょう。読者のみなさんのなかにも同意する人がいるかとも思います。

ですが、重症化しないのに死亡する人がいることこそ、普通の風邪と同じなのです。というのも、風邪で亡くなる人は、けっして少なくないからです。

高齢者の場合、風邪で少し体調を崩したといったささいなことから、亡くなることが多いのです。

90代ともなると、日頃は元気に暮らしていても、ちょっと体調を崩しただけでロウソクの火が消えるように亡くなる方もいます。

寝たきりの高齢者の場合、風邪がきっかけで、細菌性の肺炎になって亡くなることも珍しくありません。風邪のウイルスで肺炎になることはまずありませんが、風邪のために体力や免疫力が落ちた結果、肺で細菌が増殖してしまうのです。

この場合、死亡診断書の死因には「肺炎」と書いてあっても、実質的に「風邪をこじらせて亡くなった」といえます。どんなに弱い病気でも、高齢者にとっては命取りになります。

また、脳卒中などで瀕死の状態となっている患者さんでは、風邪をきっかけに容態が急激に悪化して亡くなることがしばしばあります。

こうした例を含め、風邪をきっかけに亡くなっている高齢者は、毎年少なくとも2万人くらいいると推測しています。総務省による2023年5月の「人口推計」では、日本は人口の29パーセント以上、3621万人が高齢者です。

90歳以上の高齢者も250万人以上います。歳をとればとるほど、日頃は元気にしていても、ちょっとした病気から亡くなるリスクが急上昇します。

「要介護5」(ほぼ完全な寝たきり状態)の高齢者も約58万4000人います。こうした人たちも、ちょっと風邪をこじらせると、わりとあっけなく亡くなってしまいます。つまり、高齢化が世界一進んでいる日本は、ちょっと風邪などで“背中を押される”だけで亡くなる人が世界一多い国なのです。

新型コロナウイルスがいくら風邪と同じくらいに弱毒化しても、一定数の死者は出てしまうことになります。でも、ことさらに問題視する必要はありません。超高齢社会の日本では、死亡者の数は年々増えているからです。

死者の数で新型コロナについて判断することは、もうやめなくてはいけません。

■メリットとデメリットを明確にして判断する

先にあげた数字を見るにつけ、1年以上前から私は、このオミクロン株が風邪に近づいているのではないかと主張してきましたが、「5類」への移行を反対する人も多く、自粛の風潮は続いたのです。

先述のとおり、オミクロン株が季節性インフルエンザと同じ「5類」へと移行されるのは、2023年5月8日まで待たなくてはなりませんでした。

和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP研究所)
和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP研究所)

国はもっと早いタイミングで、「高齢者は要介護の予防のためにも外に出て歩きましょう」「以前のような危険はなくなりました」というメッセージとともに「5類」へと移行すべきでした。

マスメディアによるニュースが、「コロナは怖い」という空気をつくりつづけ、自粛を長期間強いたことで、コロナの感染以上に日本人の心身の健康が損なわれたことは間違いなさそうです。

さまざまな自粛によって、コロナの蔓延は多少抑えられたかもしれませんが、高齢者の場合はとくに、「外出しない、出歩かない、人と会話しない」といった日常生活によって、足腰が弱ったり急速に老け込んだりしています。これが要介護へと直結するわけです。

コロナ自粛であれ何であれ、ものごとのメリットとデメリットの両面を明確にしておくことは必須です。ここもまた、頭がいいか悪いかの一つの分岐点です。

メリットとデメリットのそれぞれを明確にしてこそ、差し引きを考えることが可能になります。

さらにまた、よいことであれ悪いことであれ、ものごとが起こるには確率があり、ニュースで話題になっているから、世間が騒いでいるからといって、本質的に重大であるかどうかは関係がない点を忘れてはいけません。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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