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「英語がペラペラ」にならないと一生ヒラ社員か

プレジデントオンライン / 2012年9月21日 10時0分

楽天 人事部葛城 崇氏

■日本人だけの会議でも英語を使う

「英語ができないと、会社にいられなくなる」(楽天勤務女性・後出)。英語はビジネスマンに必須とはいうものの、これまで多くのビジネスマンにとっては、あくまでプラスアルファとして求められる能力だった。しかし最近、耳にするようになったのが「社内の英語公用語化」。書類、会議が英語となるため、話せなければ仕事にならない。英語が苦手な人間にとっては、まさに悪夢のシナリオだ。

一気に英語の社内公用語化にまで突き進んだのが楽天とファーストリテイリングだ。その理由を楽天の三木谷浩史会長兼社長は「楽天を世界一のインターネットサービス企業にするため」(「週刊東洋経済」2010年6月19日号)と語り、ファーストリテイリングの柳井正社長は「グローバル経営が進展し、今までのような『日本人だけ、日本語だけ』のコミュニケーションは限界にきている」(「朝日新聞」10年7月31日)と指摘する。

2人の言い分はもっともとしても、公用語化とは、社員全員が例外なく、会議はもちろん討議資料やメールに至るまで英語化するというもの。企業のグローバル化は必至だとしても、そこまで踏み込む企業は珍しい。日本の外資系企業ですら英語を使うのはせいぜい外国人が参加する経営会議や幹部クラスの会議まで。英語ができない社員も多く、現場の会議は日本語が飛び交っているのが一般的だ。

なぜ英語公用語化なのか。楽天人事部の葛城崇・英語化推進プロジェクトリーダーは「優秀な人材の獲得とリテンション」を第一の目的に掲げる。

「弊社では世界一のインターネット企業を目指すにあたり、ビジネスを積極的に海外展開する予定です。その際、日本人だけで完結するのは難しい。日本語が話せなくても優秀な外国籍の人を採用しリテンションしていかなければならない。しかし従来の日本語のオペレーションスタイルでは入社してもらえないし、働いてもらえる環境を整える意味で社内公用語を英語に切り替えることにした」

グローバル拠点での優秀な外国人の採用と定着に英語公用語化が不可欠との認識だ。現在の楽天の海外拠点は6カ国8拠点、海外売上比率は数%程度だが、将来的には進出国27カ国、海外売上比率を70%に高める構想を描いている。

公用語化の対象者は基本的にグループの全社員。公用語化の範囲は会議、資料、会話の3つにおける英語化だ。資料は法定書類や顧客・サービス向け文書を除く会議資料、議事録、規程類などのマニュアル、電子メールなどのすべての文書が英語化される。

会議の英語化といっても正式な会議もあれば、職場のちょっとしたミーティングなどインフォーマルな会議もあるが「会議と名のつくものは原則英語になる」(葛城プロジェクトリーダー)。しかも日本人同士であってもだ。

「今は移行期間であり、日本人同士であれば日本語でもいいが、11年4月からは一人でも外国人籍の社員がいる場合は英語となる。そして移行期間が終わる12年4月からは日本人同士であっても英語で会議をやることになる」

■イントラネットはすべて英語表記

すでに社内では、イントラネット情報の英語化や会議英語化も始まっている。10年2月からは毎週月曜日朝に開催される全社員参加の「朝会」の資料が英語化され、4月からは三木谷会長兼社長のスピーチをはじめ各事業部のプレゼンテーションも英語に変わった。また執行役員が参加する経営会議も英語で行っている。

社内イントラネット情報の資料はもちろん日本語併記ではなく、すべて英語だ。移行期間であっても英語が不得意な社員は業務に支障を来すことになる。また、「各部署に毎週最低でも1時間、英語だけしか使えない時間を設けている」(葛城プロジェクトリーダー)など否でも応でも英語の習得を迫られることになる。

社内の“英語包囲網”は昇格・昇進にもおよんでいる。係長相当の初級管理職の昇格要件としてTOEIC(990点満点)600点、課長相当の中級管理職クラスは650~750点、執行役員手前の上級管理職は750点以上を設定している。現実に750点に満たない管理職も存在するが「移行期間中の2年以内に取ってくださいと言っている」(葛城プロジェクトリーダー)という。

どんなに仕事の能力があっても英語力がなければ昇進できないのだ。11年度入社予定の社員についても最低でも600~650点レベルの英語力を求め、中途採用の要件も最低600点に設定し、管理職クラスでの採用には社内の昇格要件を適用している。

英語包囲網が狭まるにしたがい社員も英語習得に必死にならざるをえない。会社が大手英会話スクールと提携した英語講座は即座に満杯となった。本社のある品川周辺の英会話学校に通っている楽天社員も多い。

葛城プロジェクトリーダーも「今までは終業後に飲みに行く人が多かったが、今は英会話スクールに通ったり、自宅で勉強している人がすごく増えていると聞いている」と語る。

■楽天の中堅社員は英語習得に必死

全社を挙げた英語公用語化推進の熱意は相当なものだ。しかし日本人同士での会議の英語化など全社員の完全英語化をそこまで推進する必要があるのだろうか。

現時点では海外売上比率は少なく、将来的にも国内市場がなくなるわけではない。全員が海外に赴任するわけでもなく、日本で一生を終える社員もいるはずだ。

葛城プロジェクトリーダーも「全員が必ず海外業務に従事するわけではないだろう」と認める。しかし、たとえ日本勤務であっても英語力は必要だと強調する。

「英語公用語化の副次的効果としてコミュニケーションの効率化と世界規模のアイデア、ノウハウの共有が可能になる。たとえば鹿児島に勤務している社員の企画が成功した場合、同じ企画をフランスでもやりたいということも起こりうる。英語が共通語であればインターネットを通じて直接担当者同士でノウハウを共有できるし、意思決定も迅速になる」

確かにいずれはそういう事態も想定されるかもしれない。しかし、現実の必要性が低い現在、社員を英語化に駆り立てるには相当のエネルギーを要する。社員が英語化に共鳴し、やる意味を感じていれば問題ないが、そうでなければやらされ感と負担感が強くなり、仕事への意欲すら失う可能性もある。社員はどのように感じているのだろうか。

同社の本社に勤務する30代の女性社員に話を聞いた。彼女は英語に関しては苦手の部類である。社内公用語化に対する社員の賛否は半々だという。

「部内に限らず社内には外国人がほんの数人しかいないのにどうして英語でやっているのだろうと皆言っています。それでも会社がやれと言うから、やるしかないという雰囲気。確かに若い人の中にはよい機会だからとポジティブに勉強している人も多いですが、35歳以上の人は、なんで英語をと文句を言いながらも必死です。社内のコミュニケーションが英語で行われる以上、英語ができなければ出世にも給料にも響きますし、実務も滞りますからね。実際、この半年で落ちている営業の数字は英語化の影響、という社内のもっぱらの噂です。実務への影響はすでに出ているわけです。もっとも上層部は多少の売上減もやむをえない、と思っているようですけどね。家庭を持っている中堅社員は、仕事も忙しいうえに、終わると英会話学校にも行かなくてはいけない。見ていてかわいそうになります」

彼女自身の意見を訊ねると「ばかばかしいと思う」と否定的だ。

「強制的というのが嫌だし、好きな人がやればいいじゃないかと思う。考え方や生活スタイル、プライベートの時間の使い方は皆異なる。にもかかわらず今はその時間まで費やして皆が一斉に英語を勉強せざるをえないというのはおかしい。皆英語ができないと会社にいられなくなるから必死にやっているんです」

■日産には英語化のルールや規定はない

ただ彼女は、最終的に12年には楽天の英語公用語化は達成されるだろう、とも言う。(※雑誌掲載当時)

「経営会議に英語で参加している、それほど英語が達者でなかった幹部社員のここ半年の上達には目を見張るものがある。私も含めて一般社員も半年間で英語力はかなりアップした実感があります。まあ会社のおかげというよりは、必死でやっている個々の努力の結果ですけどね」

会社の姿勢とは一転して悲壮感が漂うが、全員が英語を習得する意味を主体的に感じているわけではなく、不満を抱いている社員もいる。当然だろう。1990年代初頭、三菱商事の槙原稔社長(当時)が英語の社内公用語化をぶちあげたことがある。

ところが「日本語で商売するところにまで、なぜ英語を持ち込むのか」という幹部クラスの批判が高まり、結局、断念した経緯がある。差し迫った必要性が感じられない限り納得は得られないというのは楽天にも共通する点だろう。

公用語化という概念はないが、社内の英語化が進んでいるのが日産自動車だ。ただし、英語化に関するルールや規定は存在しない。同社内には220人の外国人が在籍し、あくまで「日本語が話せないスタッフがいるときは英語で話し、日本人同士であれば日本語を話すなど状況に応じて英語を使う」(小阪享司・人事部人事企画グループ主担)スタイルだ。

日産 人事部 人事企画グループ 主担
小阪享司氏

日本企業はグローバル企業でも役員会議は日本語、外国人の採用でも「日本語堪能」を要件にしているところが多い。しかし日産はルノーとの提携によるカルロス・ゴーン社長をはじめとする外国人とのコミュニケーションツールとして英語が必須となった。ゴーン社長が出席する役員会をはじめ、日本語が堪能でない外国人がいる職場の会議は英語で行われることが多い。ましてや外国人の採用に日本語力は問われない。

上司が外国人であればミーティングも英語なら、報告する資料も英語で提出する。だが、資料は英語でも、日本語ができる外国人であれば日本語で会議を行うなど臨機応変に英語と日本語を切り替えている。上長をはじめ全員が日本人の場合は会議も資料も日本語である。全員一律の英語公用語化とは一線を画す。

このように、日産の社員は英語が話せなくても定年まで過ごすことができるが、マネジャーなどに昇進していくには英語能力は必要だ。

小阪主担は「結果的に上位のポジションに就く際には考慮されることはあるだろう。当社の場合は外国人が他の会社より多いため、英語を使う機会も多く海外に行っても頻繁に使うようになっている。これから海外でビジネスを展開する企業も同じであり、英語ができる人がたぶん会社を引っ張っていくことになると思う。ことさらに英語を強調するつもりはなく、あくまでコミュニケーションツールの一つではあるが、英語が重要なツールの一つであることは間違いない」と話す。

■高い英語力を持つ中途入社の社員

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楽天(左)と日産(右)の社員食堂のメニュー。すべて英語で書かれている楽天に対して、英語と日本語で併記されている日産。全社員一律での英語公用語化を目指す楽天と、必要なケースに限り英語を使う日産。それぞれの企業姿勢がメニューにも垣間見える。

日産の場合は、突然トップに外国人がやってきて、必要に応じて現場ごとに英語化が進行した。英語習得にあたっては「このポジションに就く人は、最初から英語が絶対に必要とわかっている場合は、集中英語コースを提供したり、個別にサポートしてきた」という経緯がある。

これに対して、楽天は必要性ではなく、将来展望に基づいてトップダウンによる公用語化を一気に、そして全員一律に推進するという環境的な違いがある。

日産自動車のグローバル本社に勤務する30代の女性社員は楽天の英語化推進について「できないよりできたほうがよい。ただ、できることで給与が上がるとか海外研修のチャンスが与えられるといったメリットが感じられなければ上達しないのではないか。ビジネス的には必要に迫られてやるべきであって、必要でない段階で社員全員が英語でしゃべるというのはすごく効率が悪い」と指摘する。

英語に関して言えることとして、前出した楽天と日産の女性社員が口を揃えるのは、英語の公用語化を打ち出した後の楽天にも今の日産の本社にも、中途で入ってくる転職組の社員はほぼ例外なく英語ができる、ということだ。中途社員ではネイティブ並みの英語力を持つ社員も全く珍しくないという。グローバル化を志向する企業の一員になるためには、英語が必須であることは間違いないようだ。

グローバル化の推進は生き残りをかけた企業の危機感がもたらしたものだ。経営者はそれを痛感していても、現実に必要に迫られない現場の社員と危機感を共有することは難しい。

そうであるならトップダウンで公用語化を図るのもいいかもしれない。ただしそこには、人的資源とビジネス上のリスクが発生する可能性がある。最終的には、グローバル化の進展を社員が身近に感じられる必要性と公用語化をうまくリンクできるかどうかに、成功の帰趨がかかってくるだろう。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 小原孝博=撮影)

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