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今の中国は「日本のバブル崩壊」と同じ…マンション価格の下落が止まらない習近平政権の大誤算

プレジデントオンライン / 2023年7月31日 9時15分

2023年7月18日、北京の人民大会堂でアルジェリアのアブデルマジド・テブン大統領との調印式に臨む中国の習近平国家主席 - 写真=AFP/時事通信フォト

■不動産市況が持ち直すことは難しい

中国で不動産市況の悪化になかなか歯止めがかからない。2020年8月、共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を実施した。それをきっかけに、急速に大手不動産デベロッパーの資金繰りは悪化した。大手デベロッパーである中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)、碧桂園控股(カントリー・ガーデン)、佳兆業集団(カイサ・グループ)の業況が軒並み悪化した。

最近では、かつて“アジア一の富豪”と注目された、王健林氏の率いる大連万達集団(ワンダ・グループ)が苦境に陥った。米ドルなどで発行された債券の利息、元本の支払いが難しくなる不動産企業は、中国全体に広がる恐れも高まっている。

中国政府の政策にもかかわらず、短期的に中国の不動産市況が持ち直すことは難しいだろう。マンション建設は落ち込み、土地や資材などの需要は減少せざるを得ない。地方政府の歳入も細る。これまでのように、景気刺激のため、大規模なインフラ投資などの経済対策を打ちだすことも難しくなる。中国の景気が本格的に持ち直すには時間がかかるとみるべきだろう。

■大手デベロッパーの経営実態は数字以上に悪化か

足許、中国の不動産価格の下落は、経済のデータから確認できる以上に深刻とみたほうがよいだろう。年初以降、主要70都市の前月比でみた新築住宅価格は徐々に下げ幅を縮小したものの、本格的な回復には程遠い状況だ。大手デベロッパーであるエバーグランデやワンダの業況を見る限り、不動産市況の回復が本格化していないようだ。

7月17日、エバーグランデは2021年12月期(4760億元、約9兆円の最終赤字)、2022年12月期(1059億元、約2兆円の最終赤字)の連結決算を発表した。最終損益の赤字は11兆円を超えた。保有資産の評価額が切り下げられたことは大きかった。

会計監査法人は、過去2年間の財務諸表に対して“意見不表明”の立場だ。会計監査法人として、エバーグランデの財務データの正確性、信頼性を証明できない。不動産価格下落によって同社の経営実態は、想定される以上に悪化している恐れが高い。

■不動産市場を襲った「脱コロナ」後の誤算

また、不動産開発を足掛かりに、スポーツ、映画など事業の多角化を強化したワンダ・グループの資金繰り逼迫(ひっぱく)懸念も急速に高まった。ゼロコロナ政策の解除でワンダの業況は幾分なりとも上向くはずなのだが、同社の業績はむしろ悪化した。

中国の需要は長引くゼロコロナ政策、マンション価格の下落などによって沈滞した恐れがある。コロナ禍の中で、所得を消費ではなく債務の返済に回し、バランスシート上の債務の割合の圧縮を優先する家計は増加した。そのため、ゼロコロナ政策解除後、消費や住宅の需要はかつてのような盛り上がりを欠いたと考えられる。

ワンダはそうした変化に直撃されたといえる。5月、同社は資金繰りを確保するために富裕層が多く住む地域のモール売却を検討していると報じられた。それでも収益の減少には歯止めがかからない。7月には、欧米の大手信用格付け業者がワンダの債務不履行懸念が高まったとして格付けを引き下げた。

■不動産投資で経済成長を高めてきたが…

さらに深刻なのが、政府系の緑地控股集団(グリーンランド・ホールディングス)だ。7月、同社が発行した米ドル建ての社債は債務不履行に陥った。グリーンランドのデフォルトは、共産党政権の政策立案、運営力に対する人々の懸念、不安の高まりを示唆する。その裏返しに、エバーグランデなどの経営体力の悪化に歯止めがかかりにくい状況だ。

リーマンショック後、中国経済は不動産やインフラなどの投資を増やし、経済成長率を人為的に押し上げた。それを支えたのが、共産党政権が不動産投資を強化し続け、マンションなどの価格は上昇し続けるという強い期待だ。人口の増加も、住宅需要の増加期待を高めた。過度な期待に支えられ、買うから上がる、上がるから買うという強気心理は膨張した。

それに頼って、地方政府は土地の利用権をデベロッパーに売却し、歳入は増加した。地方政府は、景気刺激のため大規模な景気対策を打ちやすかった。地方政府の共産党幹部は、全国人民代表大会(全人代)で示される経済成長の目標を達成し、出世を目指すこともできた。

■共産党政権の政策運営が問われている

しかし、2020年8月の3つのレッドラインは、不動産神話の価格上昇の期待を打ち砕いた。売るから下がる、下がるから売るという負の連鎖は強まり、エバーグランデもワンダも、他の民間デベロッパーも、業況は悪化した。習近平政権は不動産関連規制を緩和したが、効果は出ていない。

共産党政権の政策運営によって、不動産市況が上向き、景気が安定することは難しいのではないか。そう考える人は増えているだろう。4~6月期の実質GDP成長率が前期比1.8%にとどまったのは、経済政策などへの不安上昇に影響され、個人消費が減少したことが大きい。

北京
写真=iStock.com/dk1234
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dk1234

また、2022年、中国の人口は減少に転じた。今後、住宅の実需も減少する。そうした要素に影響され、グリーンランドは債務不履行に陥った。6月に中国人民銀行は追加の利下げを実施したが、大きな効果は出ていない。共産党政権の政策運営によって中国経済の成長率が向上する展開は予想しづらいとの見方は増えているだろう。

■日本と似た状況に足を踏み入れつつある

不動産、株式など資産価格の下落基調は鮮明化する。経済全体で需要が減少傾向をたどる。バブル崩壊後、わが国はそうした厳しい環境を経験した。よく似た状況に、中国は足を踏み入れつつあるようだ。

わが国の経験にもとづくと、中国は経営体力の喪失が著しい企業、金融機関に公的資金を注入しなければならない。資金繰りを支え、不良債権を処理する。具体的に、不良債権の買取機構を設立し、財政資金などを用いて不良債権を買い取る。

企業の倒産件数は増加するが、一時的な痛みを伴わずして過剰になった債務、生産能力、人員などを整理し、成長期待の高い分野に再配分することは難しい。不良債権処理に合わせて、規制緩和を進めるなどして個人、企業のリスクテイクを促すことも欠かせない。バブル崩壊後、わが国はそうした取り組みが遅れ、長期の景気停滞に陥った。

一方、中国では共産党政権が民間企業に対する影響力を強めた。その気になれば、習政権は公的資金注入、不良債権処理などを迅速に進められるだろう。しかし、そうなっていない。過度にリスクをとり事業運営が行き詰まった民間企業を公的資金で救済すれば民衆の不満は高まる。土地の譲渡益減少によって、地方政府の財政が悪化し、思い切った対策も打ち出しづらい。

■これまで以上に締め付けを強める恐れ

不良債権処理の実施に伴い、若年層を中心に雇用、所得環境の悪化は鮮明化するだろう。民衆だけでなく党内からも、習政権に対する批判は増える恐れが高い。習政権は、そうしたリスクを回避するために、不良債権の温存を目指し、金融、財政政策に頼らざるを得ない。

結果として、不動産などの企業、地方政府の債務問題の深刻化は避けられないだろう。景気下支えのための金融緩和によって米中の金利差は拡大し、海外への資金流出も加速するだろう。オーストラリアなどで不動産を購入し、財産を守ろうとする人も増える可能性が高い。

資金流出を食い止めるために共産党政権はこれまで以上に経済、社会への統制を強めるはずだ。党に対する人々の反発心理は高まり、政策の効果が表れづらくなる恐れも高まる。当面、中国の不動産市況の下落は鮮明化し、景気の停滞懸念も高まりそうだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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