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自由研究はほとんど親の宿題になっている…「夏休み宿題にChatGPT」で危惧される宿題代行業の跋扈とボロ儲け

プレジデントオンライン / 2023年7月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

夏休みスタートで、大量に出された宿題に頭を抱える子供も多い。現役の小学校教員である松尾英明さんは「子供にとっての最難関は読書感想文と自由研究。これらを一律に課すことで結局、親への負担が大きくなってしまうケースが多く、課題を出す意味が変わってしまう。また、ChatGPTなどの生成AI登場によりぼろ儲けする宿題代行業者が増える恐れがある」という――。

■ChatGPTに夏休みの宿題の読書感想文を丸投げ

7月4日、文部科学省より、ChatGPTなどの生成AI利用に関するガイドラインが出た。

いささか婉曲的な表現でわかりにくい部分もあるが、おおむね「現時点での生成AIの使用は禁止までしないが、オススメしない」という方向である、と筆者は解釈した。自分が作成した文章の修正などの限定的使用や、参考文献のように生成AIの使用の明記などに言及していて、あまり積極的に利用してほしくない姿勢が見てとれる。

だが、人間は、自由を制限されるとそれに抗いたくなる心理が働く。ダメと言われるほど逆にそれをやってみたくなる。大人も子供もそれは同じだ。上からやめましょうと言われても、罰則がなければやめないし、好奇心旺盛な子供ならなおさらだろう。

学校の姿勢は文科省と似ているように思えるが、小学校教員の端くれである筆者自身は、この素晴らしい最新テクノロジーを正しく前向きに活用しよう、と提案したい。もちろん、文科省の言い分をしっかりと汲んでルールを守った上で。

生成AIを小学生が上手に活用するにはそれなりの工夫が必要である。例えば、不正利用が最も懸念されている夏休みの宿題の読書感想文。生成AIに丸投げで頼んでみたところで、ろくなものを書けない。そのまま出せる代物にならないことがほとんどである。

「ほとんど」というのは、中には一応書けるものがあるからである。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や夏目漱石の『こころ』といった古典的名作であれば、そのまま提出できそうなものに仕上げるだろう。インターネット上に大量の情報が蓄積されているからである。

しかし、読書感想文コンクールの課題図書のような作品は、比較的新しいものが多い。つまり、インターネット上に情報が少なすぎて「知らないので書けない」と返答されることもある。知らないので、無理矢理書かせても、まともな内容にならない。多少なりとも本人が内容を読んで、大幅な手直しが必要になり、かえって面倒くさい作業を強いられる。

実際に読書感想文を書かせても非常に「浅い」文章にしかならない最大の理由、それは、子供読者の生の体験が全く入らないからである。どう命令して書かせても、物語の上っ面をなでるだけで嘘くさい内容になる。膨大な量の読書感想文にふれてきた教員を含む評価者の厳しい目に耐えられないだろう(まあ、教員までは運よく騙せて校内入選ぐらいはできるかもしれないが……)。

小学生の読書感想文で評価されるのは、生成AIのような理路整然とした感じではなく、むしろ論理はやや破綻していても、「自分はストーリーのこの部分が心に刺さった」という子供の気持ちが子供らしく子供らしい言葉で表現できていることなのだ。

今回の文科省の通達は恐らく、大学の提出レポートなどがこの生成AIによってかなり「荒らされている」という現状を鑑みての判断だろう。「学習者のためにならないから」という判断である。

■ほとんど親の宿題化「自由研究」をChatGPTはできるか

ただ根本的には、生成AIのほうが優れたものを書く、あるいはそれを評価者が見抜けないというのであれば、使用を禁止するよりも、いっそのこと夏休みの宿題を含む従来からの課題そのものの在り方のほうを見直すべきではないか。これに関しては後述する。

前述のように、現時点で読書感想文は生成AIの得意分野ではない。得意なのは既存で既知の内容説明のほうであり、読書感想文コンクール上位入賞作品のようなものは到底書けない。アウトラインを示してもらうぐらいの活用が限界である。これを活用して素晴らしい作品が書けるなら、それはそれで力がある証拠である。

では、同じく夏休みの宿題で多くの子供が悩む自由研究への活用はどうだろうか。子供たちがつまずくポイントは「何をどう研究するか」というテーマ設定。例えば、ここを生成AIに頼むというのはアリかもしれない。頼めば、その子の得意科目や趣味、好きなことなどによってすぐさまアイデアを出してくれる。何をどうしたらいいかわからない子供(あるいは親)にとって、これはかなり助けになる。

さらに、アイデアごとに細かく指示を出して頼んでいけば、研究のアウトラインまで作成してくれる。そしてその先で実際に実験をしたり観察・記録をしたりまとめたりといった生の体験をするのは、子供自身。これならばAIに丸投げしているわけではなく、利用しても何の問題もないだろう。

勉強をする子供
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

ただ、筆者は「夏休みの宿題、とりわけ自由研究=実質、親への宿題」と見ている。自分ひとりの力で完成させる立派な子供も存在するが、ほとんどは親が取り組む羽目になる。特に低学年が自力で自由研究をするなど一部の超優秀な子を除けば、かなりハードルが高い。だから最初からそんな課題は出さないほうがよいと考えている。

ところが、世の中には律儀に頑張ってしまう保護者の皆さんはたくさんいる。休み返上で取りかかり、見事な作品を作りあげる。もちろんヒーヒー悲鳴を上げながら。その結果、夏休み後に教室内で開く自由研究の発表は、あたかも互いの家庭教育力の品評会のようになって残念な結果を招く。これも、わが子にクラスでみじめな思いをさせたくないと必死になってしまう親心の結果である。

低学年の場合、「先日ひらがなを習いたての1年生が作ったとは思えない」というハイレベルな作品群が出てくることもしばしばだ。私は、自由研究は結果的に親に過大な負担と労力を与えるだけの悪習であり、もっといえば宿題ゼロが理想という立ち位置を以前からとっている。ところが、多くの教員は自由研究のような課題が親の宿題になってしまうという認識を持っていない。これは夏休みに限らないが、教員には相手の立場を慮って宿題を出すという認識があまりない傾向にある。「自由」研究なのだから、字面通りあくまでも選択制にすべきである。

自由研究反対派の私だが、前述したようにAIを利用することには賛成だ。一番高いハードルである「アイデア出し」「アウトライン作成」の部分を助けてくれるからだ。

生成AIの使用が制限されている、もしくは使いこなせない子供にとって、それが活用できる親は頼もしく感じられるだろう。親としても自由研究のテーマ設定程度のサポートなら、さほどの労力ではないのではないか。よって、本格的な生成AIが登場して初めて迎える今回の夏休みは、親の腕の見せどころともいえる。

■夏「休み」に宿題を出しても代行業がボロ儲けするだけ

しかし、筆者が夏休みの宿題に関して声を大にして言いたいのは、この令和の新時代に、昭和時代の悪習がそのまま残っているのはおかしいということである。

拙著『不親切教師のススメ』(さくら社)でも書いたように、子供の主体性を伸ばし、個性と多様性を尊重しようという時代に宿題を出すのであれば、個人差への配慮が必須である。それができないのであれば、宿題を出すこと自体を諦めたほうがよい。そもそも夏「休み」なのである。

母親と一緒にロボットのおもちゃを作る子供
写真=iStock.com/simon2579
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simon2579

また昨今、インターネット上に「宿題代行業者」が氾濫して好き放題に大儲けしている惨状に現場の教員たちはみな困り果てている。業者はドリルの宿題への回答はもちろん、読書感想文や自由研究まで「代行」している。もはや学力や学習習慣を身に付けさせているのではなく、お金で解決という処世術を身に付けさせる残念な結果となっている。こうなってくると、宿題を出し続けることが子供のためなのか代行業者を儲けさせるためなのかわからなくなってくる。

こうした長期休暇に「大量の宿題を出す」日本の悪しき文化をいいことに、今夏、かなりの確率で生成AIを「不正活用」する子供たちが出没するに違いない。それは残念な話だが、それ以上に厄介なのが生成AIを駆使した宿題代行業者がさらに跋扈(ばっこ)する恐れがあることだ。

彼ら業者は少ない人数と手間で一挙に処理できるため、より安価に「サービス」が提供できる。つまり、これまで以上に大衆化が進む。「常識」とまではいかないが、宿題の「苦しみ」から逃れるために安易に手を出してしまう親子が多く出てもおかしくない。

そうした業者を少しでも駆逐するためにも、生成AIの使用可否を考える以前に、学校は読書感想文や自由研究を含む大量の宿題を課す現在の教育の在り方そのものを見直すほうが先なのではないか。筆者のそうした意識を共有する教員仲間は数多い。

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松尾 英明(まつお・ひであき)
公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。

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(公立小学校教員 松尾 英明)

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