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日本のゴルフ理論は根本的に間違っている…日本ではNGの「手打ち」が欧米では推奨されているワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月5日 8時15分

写真=『The アプローチ』より

ゴルフでスコアアップするためには、どうすればいいのか。プロゴルフコーチのタッド尾身さんは「ショートゲームスキルを磨くのがおすすめだ。パワー優位のドライバーショットより、繊細で緻密なアプローチ、バンカー、パターを追求することがスコアアップの近道になる」という――。

※本稿は、タッド尾身『The アプローチ』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

■パワーでは欧米人に敵わないことを悟った

19歳だった1994年に単身渡米、暗中模索でゴルフ修業をはじめるや、あっという間に時が過ぎて気がつけば14年。ゴルフを通じてさまざまな体験をしてきました。

アメリカではジュニアや大学生ゴルファーに世界最高級のサポート体制を敷いていますが、私も所属していたサンタバーバラ・シティ・カレッジのゴルフチームで、その多大な恩恵を受けたひとり。アメリカ人をはじめ、デンマーク人、スウェーデン人など国際色豊かなメンバー構成で毎週遠征試合に出ていましたが、プレーフィはプライベートコースでもほぼ無料。

有名なコースでも5ドル程度でラウンドできました。遠征費もすべて無料ならボールやグローブといった消耗品も無料支給され、クラブ購入時にも特別割引が適用されました。そんな恵まれた環境でのびのびとプレーができたおかげで、カリフォルニア州のカレッジ選手権でチーム優勝(個人7位)することもできました。

とはいえ、アメリカの試合ではドライバーショットで50ヤードも置いていかれることが頻繁にありました。欧米人の圧倒的なパワーゴルフを目の当たりにし、パワーではとても敵わないことを悟った私は、アプローチ、バンカー、パターを徹底的に磨いてショートゲームで勝負することにしました。

■「ストックトン・ゴルフ」のメソッド

それが奏功してカリフォルニア州で歴史あるアマチュアトーナメントで優勝し、2003年にプロに転向してからも同地のプロツアーで優勝。ツアープロとして活動しながら、人種も違えば国籍も多岐にわたる多くの人たちにゴルフを指導させていただきました。

そんな中、日本ゴルフ界のレジェンド、倉本昌弘プロを通じて出会ったのがロン・ストックトンでした。父はメジャーチャンピオンのデイブ・ストックトン。デイブはタイガー・ウッズやローリー・マキロイ、フィル・ミケルソンらを指導したこともあり、日本でもショートゲームの名手として知られています。

一方、息子のロンは、かつて109週連続で世界女子ランキング1位に君臨した台湾のヤニ・ツェンやメジャーチャンピオンのモーガン・プレッセルらを指導し続けたキャリアの持ち主です。

彼らストックトン・ゴルフのメソッドは、私にとって目からウロコのことばかり。アプローチのテクニックにはそれなりに自信をもっていましたが、それをさらに強固なものにしてくれました。

■50年間アメリカで受け継がれてきた王道

本稿では私がトーナメントで戦いつつ、自ら研究を重ねて実戦仕様にしたテクニックや、たくさんのゴルファーから得たもの、さらにストックトン・ゴルフで学んだことをミックス。

日本に戻ってからはアメリカ大使館で4~8歳の子どもたちの指導にあたるなど、これまでに延べ1万人を超える方々にショートゲームのレッスンを行ってきましたが、その経験から得た傾向やウィークポイントも加味し、日本人ゴルファーの武器になるようアレンジしたアプローチとバンカーのテクニックを紹介しています。

ゴルフレッスン。若い男の子にゲームレッスンを与えるゴルフインストラクター。
写真=iStock.com/microgen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/microgen

お伝えするアプローチ&バンカーテクニックの根源は、50年以上前から本場アメリカで受け継がれてきた王道。まさしく「The アプローチ」です。昨今はツアープロたちもYouTubeやSNSでさまざまなテクニックを披露していますが、彼らもこの王道を踏まえたうえで自分なりにアレンジしています。

■ショートゲームは一度身につけば大ケガしない

ゴルフではショットが大事ですが、いかんせん水モノ。プロでもなかなか思い通りには打てません。その点ショートゲームは一度身につけば大ケガすることがなくなります。アプローチが安定し「とりあえずグリーン周りに運べればいい」と考えられるようになればリラックスしてショットが打てる。そうなると相乗効果でショットも良くなります。

若いころに比べて力が落ちてきた方にもショートゲームスキルを磨くのはおすすめです。パワー優位のドライバーショットより、繊細で緻密なアプローチ、バンカー、パターを追求することがスコアアップの近道になることは私の例からも明らかです。

私が主宰する欧米式アプローチ研究所ではビギナーが100を切った例は数知れず、日米のレッスン活動で何年も100を切れなかった生徒さんが、わずか6カ月で80台を出したり、平均スコア80の方がアンダーパーでラウンドするなど多くの成果を挙げてきました。

まずはみなさんも王道たる「The アプローチ」への理解を深め、自分なりにアレンジしながらアプローチ&バンカーに臨んでください。苦手だったことがいつの間にか得意になり、そのころには勝手にスコアもアップしていることでしょう。

■アメリカではショットとアプローチは別物

日本ではアプローチとショットを関連づけ、ショットの流れでアプローチを考えますが、アメリカのゴルフではショットとアプローチはまったく別物で、とりわけグリーン周りのアプローチはパッティングに近いと考えます。

というのも、パッティングではショットのように積極的に体を使わないから。パターを腕で振るのに伴い体幹が使われる程度で、下半身を使う意識や体重移動は必要ありません。アプローチもこの要領で行ったほうが距離感も出やすく簡単です。アプローチで求められるのはナイスショットではなくナイスタッチというわけです。

私は日本でもこの考えをもとにレッスンをしていますが、あるときお客さんに「アプローチはパットに近い、という表現は良くないのでは?」と指摘を受けました。理由を聞くと「パットと同じだと横から払い打ってしまう」とのことでした。

アプローチはちょっと上から打ち込まなければいけません。ですから、お客さんのおっしゃることはもっともです。ただ、一方でヘッドが上から入りすぎる人には「横から払う」のイメージが有効だったりもします。つくづく人に伝えることの難しさを感じましたが、それはさておき、みなさんの中にも、そのお客さんのように考える方がおられると思うので、誤解のないよう事前に説明しておきましょう。

■100ヤード以内が覚醒したタイガー・ウッズ

こんなエピソードがあります。プロに転向してからマスターズを初制覇する前後までのタイガー・ウッズは、グリーン周りはめちゃくちゃうまかったものの、40~100ヤードくらいの距離が苦手でした。ヘッドスピードが速すぎるために距離が合わず、合わせにいくと過度にスピンがかかってボールが戻りすぎていたのです。

第1ラウンドの2番でショットを打つウッズ=2022年4月7日、アメリカ・ジョージア州オーガスタ
写真=AFP/時事通信フォト
第1ラウンドの2番でショットを打つウッズ=2022年4月7日、アメリカ・ジョージア州オーガスタ - 写真=AFP/時事通信フォト

どうにかならないかと、私も学んだデイブ・ストックトンに教えを乞うたのですが、そこでデイブはタイガーにこうアドバイスしました。

「タイガー、簡単だよ。君の場合、その距離もスイングとは切り離して短いアプローチの延長で打ったほうがいい。体重移動や体は使わなくていいから手の繊細な感覚を使えばいいよ」

そもそもタイガーはものすごい速さで体を回転させ、体重移動しながら行うフルスイングをスケールダウンするイメージでその距離を打っていました。距離が合わないのはそれが原因だったのです。アドバイスに従ったタイガーはスピンを自在にコントロールするようになり距離が合うようになりました。

■パッティングラインを読んでからアプローチに臨む

繰り返しますが、アプローチがパットに近い第一の理由は、ショットのように能動的に体を回転させたり、体重移動を入れたりしないからです。さらにいうと、左右対称の振り子運動のスイングで打ち、振り幅で距離感を調整するからでもあります。

アプローチを打つ際のイメージの出し方もパットと同じです。

ロングパットでもミドルパットでも、打つ前には「これくらいのスピードで転がり、あそこから曲がって、減速して入る……」といったようにイメージします。アプローチも同じで、20ヤード先のピンに寄せるとしたら「10ヤード先は平ら。そこにキャリーで運んだらどれくらいバウンドして最後の3ヤードをどれくらいのスピードで転がるか」などとイメージします。

「え、そんなことするの?」と思った人がいるかもしれませんが、プロやアプローチ巧者は必ずこうしています。

■プロはタッチとラインをつかめている

その証拠にプロは打つ前にボールの落とし所をチェックし、パッティングラインを見ます。アプローチが寄るのはもちろん、多少距離を残してもそのあとのパットが高い確率で入るのは、アプローチの時点でイメージ出しをしているから。

そこでライン読みが誤っていたら修正し、合っていればそのままのイメージでパットに臨めばいい。アプローチ後のパットでタッチとラインがつかめていないプロはいないのです。

アプローチがうまくいかないアマチュアの方ほど、こういった手はずを整えていません。ボールの飛び方をイメージしていない方さえいます。慣れないうちは面倒かもしれないし、プレーの進行を考えるとやりづらいという方もいるでしょう。

でも、グリーン上でやることを一足早く行うだけですから手間は同じです。たとえそれが直接的に一打を減らすことにはならなくても、積み重ねることで間違いなくスコアは減っていきます。

■アプローチも「テコの原理」を意識する

日本ではアマチュアゴルファーに向け、アプローチもショットの延長で、“ボディターン主体で打つ”と教えることが多いようですが、欧米ではそれはありません。簡単にいうと、“手と腕も積極的に使う”と教えられます。日本ではもっぱらネガティブワードとされる“手打ち”も推奨されます。もちろん結果的にボディはターンしますが副産物にすぎないというわけです。

手と腕で打つとは、ある程度テコの原理を使ってクラブを操作することを意味しています。

たとえば、右手を支点、左手を力点としましょう。アドレスの体勢で力点である左手を下に押し込んで手首を縦(親指方向)に折ると、作用点であるクラブヘッドがスッと上がります。テコの原理を使えば重いヘッドも難なく上がる。

同時に両腕を右に振ればテークバック、右肘を緩めるとバックスイングになります。アプローチはこれさえできれば対応できるジャンルで、それが欧米で腕と手で打つといわれる所以です。

ついでにいえば、腕を伸ばしつつ縦に折った手首を解放して元に戻すと、クラブヘッドも上がったところからアドレスの位置に戻ってボールに当たります。重力に従って落下するヘッドはエネルギーを帯びていますから余計な力を加えなくてもボールは飛びます。フォローサイドでもテコの原理を使ってヘッドを上げればヘッドスピードはさらに上がります。

「グリップをゆるく握りテコの原理を使って打つことによりアプローチの幅は大きく広がり、より実戦的なものになる」
「グリップをゆるく握りテコの原理を使って打つことによりアプローチの幅は大きく広がり、より実戦的なものになる」(写真=『The アプローチ』より)

■力加減は3割以下、「ゆるゆるグリップ」で握る

前置きが長くなりましたが、アプローチでもショットやバンカーショットのようにテコの原理を使って打つのが最もシンプルかつ確実です。ただし、利用するには絶対に欠かせない条件があります。それは、手首が親指方向に折れるようにしておくこと。いいかえればグリップをギュッと握らないことです。

ボディターンで打とうとする方の中にはグリップをキツく握り、クラブと腕でできる角度を固定し、腕さえも曲げずに体を回すだけの人がいますが、これではテコの原理は使えません。打てるかもしれませんがフェアウェイのような平らな場所でしか打てません。

私の場合、グリップは全力の3割以上の強さでは握りません。それ以上強く握るとクラブヘッドが動いてくれないからです。日本でいうところの“ゆるゆるグリップ”ですが、ゆるゆる感は人それぞれなので一概にはいえません。ただ、私が知る限り6割以上の強さで握っているプロは限られていて、平均するとやはり3割くらいだと思います。ちなみに、これはショットでも同じです。

グリップをゆるゆるで握ると肩から力が抜け、腕がダランとして振りやすくなります。脇も締まってクラブを操作するのに最適なセットアップになるのです。

■アマチュアはスタンス幅が広すぎる

日本のアマチュアゴルファーの多くは、アプローチの基本においてもいくつかの勘違いをしています。

構え方、打ち方ともにありますが、まず構え方からいうと、グリーン周りから打つ場合にスタンス幅が広すぎる人が多いようです。

タッド尾身『The アプローチ』(講談社+α新書)
タッド尾身『The アプローチ』(講談社+α新書)

スタンス幅を広くとった場合、体を回転させないとクラブが振りづらくなります。動かないほうが窮屈に感じるので体を使いたくなるのです。

グリーン周りの短いアプローチでは、体の回転を意識する必要はありません。

日本ではもっぱら体の回転で打てといわれますが、これはプロレベルでないとできないこと。プロの場合、ショットからアプローチまで動きをなるべく統一したいのでアプローチも回転で打つイメージをもちたがるのですが、そもそもアマチュアの方は正しい体の回転でショットできていません。それなのに体の回転を使おうとするからクラブがコントロールできない。これはアプローチが安定しない大きな原因になっています。

スタンス幅が狭いと体が回りやすくなるので無理に体を使おうと思わなくても打てます。私のスタンス幅はだいたいボール1個分程度です。

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タッド 尾身(たっど・おみ)
プロゴルフコーチ
本名は尾身忠久。TADGolf 代表取締役。欧米式アプローチ研究所、欧米式コーチ養成プログラムを主宰。1975年、東京都生まれ。19歳より14年間アメリカでゴルフ修業を行う。Santa Barbara City Collegeを卒業後、カリフォルニア州でプロゴルフコーチとして活動しながらミニツアーに参戦。カリフォルニア州のゴルフツアーで4勝。アメリカ人、ラテン人、アジア人、日本人など、日米通算1万人以上にショートゲームを指導する。日本に帰国後は、ゴルフネットTVにてアプローチ・バンカーに特化した「US仕様のショートゲーム」を担当、ゴルフ雑誌ALBAにて「90を切るアプローチレッスン」を連載する。2019年よりInterFM897「Green Jacket」にて「1 Minute Golf English」も担当している。ジュニアゴルフにも力を入れており、アメリカ大使館にて4~8歳の子供たちにゴルフを指導する。

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(プロゴルフコーチ タッド 尾身)

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