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重箱の隅をつつきながら「真剣さが足りない!」そんな冷たい上司に悩む30代社員を前向きにした産業医の言葉

プレジデントオンライン / 2023年8月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

上司と部下の人間関係を良好にするためのコツはあるのか。外資系企業で産業医を務める武神健之さんは「上司には3つの役割がある。それを理解しておくことで部下をメンタル不調に追い込むようなコミュニケーションを防止できる」という――。

■人間関係ストレスは「終わり」が見えない

こんにちは。産業医の武神です。

私の産業医面談の相談内容で多いものの1つに、職場における人間関係ストレス相談があります。そのほとんどは上司との人間関係で、どの年齢層にもいつの時期でも、多々あります。

人間関係ストレスの厄介なところは、終わりがなかなか見えないことです。どちらかが異動や退職をしない限り、明日も来週も来月も来年も続いてしまうのです。そのために、明るい未来が描けず、メンタル不調になってしまう方が絶えません。

そこで今回は、部下との人間関係で上司がやりがちなNG行動を紹介し、部下をメンタル不調にしないために気をつけるべきことを、お話しさせていただきたいと思います。

■睡眠は良好、働き方も変わらないのに「晴れない表情」

数年前の私のクライアントでのお話です。

自ら希望し過重労働面談(長時間労働者の面談)にきたAさんは入社8カ月の30代の独身男性でした。外資系企業での転職は2回目で、今回は、前職での営業成績を買われ契約年収も増え、キャリアアップの転職でした。Aさんは、毎朝7時に出社し、接待がない日は日付が変わる直前まで働き、週末もどちらかは家で働いているとのことでした。家でも会社でも、基本的に接待以外の食事は全てデスクランチで、起きている時間はほぼ仕事のことを考えているとのこと。

前職からこのような働き方なため、この生活に慣れており、面談時点では特に明らかな体調不良や疲労の蓄積はありませんでした。産業医としてはこのまま就業可能と判断しましたが、何かAさんの表情が晴れないことが気になりました。Aさんの前職も私のクライアントであったことから、共通点が多く話しやすかったため、型通りの面談後、しばらく雑談させていただきました。

そこでわかったことは、この会社に来てからも働き方は変わらないのに、なぜかAさん自身の気分が晴れず、かといっていい営業成績を取りたい気持ちはあり、モチベーションが下がっているとは思えず、このままでいいのかわからない気持ちを持っているとのことでした。ちなみに、睡眠は良好、数少ないプライベート時間も楽しめており、メンタル不調を疑う症状はありませんでした。

■上司からは教えてもらえず、褒めや労いの言葉もない

次に上司や同僚たちとの関係性について聞いてみると、上司はあまりAさんに時間を割いてくれず、1 on 1 ミーティングでも基本的にAさんが報告をするのみで、それに対しても「はい、わかりました」の一言で終わってしまうようでした。部署の方針や本部の方針などを聞いても、毎回質問をはぐらかされてしまっているとも教えてくれました。

オフィスでミーティング
写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip

転職してまだ日の浅いAさんは、今の会社でのさまざまな手順や慣習、業務上必要な情報などは仲良くなった同僚や後輩から教えてもらっているようでした。同僚や後輩たちは、それらの情報は上司から教えてもらっているようで、なんとも言えない気持ちだと打ち明けてくれました。このことをネガティブに考えてはいけないと認識しているものの、Aさんの業務活動に対して、褒めたり労ったり感謝したりなどの言葉もないことがわかり、私はそこに原因があると感じました。

■違和感の正体は「承認されている感じがしない」こと

また、上司に怒られたりするのかを聞いてみたところ、怒りもしないが、何か重箱の隅をつつく感じに不十分なところを粗探しされ、改善方法ではなく、ナメているとか、真剣さが足りないなど、直接仕事とは関係ないことを言われるようでした。決して怒鳴られたり叩かれたりするわけではないので、ハラスメントとは思わないが、こういった指導の後は当然、仕事を前向きに考えにくくなってしまうようでした。

Aさんには、彼の頑張りを同僚や後輩は認めてくれているからこそ、仲良くなれたし情報を共有してくれていることを伝えた上で、おそらく上司から承認されている感じがないことが違和感の正体ではないかと伝えました。腑に落ちるところがあったらしく、それがわかれば上司が文句を言えないような圧倒的な成績を出すのみだと、気持ちを新たに働きたいとAさんは言い、産業医面談は終わりました。

■上司の役割は「情報提供」「承認」「指導」の3つ

職場における上司の役割は何でしょうか。

産業医の立場から言えば、上司とは、会社の組織図の中で与えられた役割にすぎません。そして上司の役割とは、部下への情報提供(共有)、承認、指導の3つだと思います。

部下とランチや飲み会をしたり、家族や趣味の話をして親睦を深めることは、いずれも3つの役割を円滑に行うための人間的関係構築手段にすぎません。決して上司だから偉いわけではありません。上司が人として尊敬されるか否かは、この3つの役割をこなす上司を、部下がどう判断するかなのです。

笑顔で外を歩く仕事仲間
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

実際にどのような言葉がけ等でこの3つの役割を上司が実践するかは、無意識ながら上手にできている人、管理職トレーニングなどで学んでできている人などさまざまです。できていない、または、やろうとしない上司たちもいます。

残念ながらAさんに対し、上司はいずれもできていないのかと感じてしまいました。順番に、この上司は何がNGだったのか見ていきたいと思います。

■できる上司は「情報」を伝えるのがうまい

1つめのNG行動は、情報の出し惜しみをすることです。

上司には会社の方針や上層部の決定事項などの情報を、組織ピラミッドを介して部下に共有することが求められています。最近はメールや社内チャットなどのツールの普及により、必要な情報は全社員にすぐに伝えられるため、この点における上司の役割は減ってきていると思います。

そのような中、できる上司とは、単に情報をたくさん知っている(持っている)人ではなく、情報の持つ意味をわかりやすく説明したり、重要部分や不要部分に強弱をつけて伝えられる人になってきました。上司の役割の1つめは、情報を独り占めせず、部下に大きい絵(会社や部門の仕事)の中の、小さい絵(部下の仕事)を任せていることを伝え認識させることなのです。

しかしながら、情報量=自分の偉さと勘違いしているのか、部下に部分的情報しか与えず、自分の職場における優位性を保とうとしている残念な上司もいます。明確な原因がないのに気持ちよく働けていない場合、上司とこのような関係にあることを私は今まで経験してきました。このような上司たちは、決してハラスメント上司ではありませんが、部下からすると、なぜかやり難い、仕事が気持ちよく捗らないボトルネック的な存在となってしまいます。

■「がんばってね」ではなく、「がんばっているね」が言えるか

2つめのNG行動は、部下の存在を認めていないことです。

上司による承認とは何でしょうか。

業務が順調にいっているときに、「うまくいって“いる”ね」と部下を労うこと。業務が遅れそうだったりトラブルにつながりそうな時に早めに部下に、「大丈夫? (何か手伝おうか?)」と確認すること。さらに、なかなか結果が出ないときや部下が試行錯誤しているときに、「がんばって“いる”ね」と結果ではなくその努力や姿勢を認めることだと私は思います。

反対に、部下を承認できていない上司たちが部下にかける言葉は、「うまくやってね」「がんばってね」ばかりです。そして、部下に労いや感謝の言葉をかけず、やって当然、できて当然という態度です。部下の状態は気にせずに、まるで部下の存在自体を認めていないかのようです。

上司からの承認欲求が満たされない部下は、産業医面談では、時間いっぱい仕事の話を聞くだけで、とてもスッキリした顔になります。

上司の皆さん、ぜひ、部下の存在を気にかけてあげてください。がんばってね、とがんばっているね、の違いをよく考えて、声かけをお願いします。

面談
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■指導後に部下を「前向きな気持ち」にできるか

3つめのNG行動は、部下のやる気をなくす指導方法です。

上司の指導とは何でしょうか?

仕事は全てがうまくいくわけではありません。初めての挑戦の時はなおさらです。手取り足取り教えることがいいとは限りませんが、上司がフォローできる範囲内での苦労や失敗を許容し成長の糧としてもらい、大きなトラブルになり得ることは上司が早めに助ける必要があるでしょう。そのためには、まずは、上司自身が自分にフォローできる範囲を把握していなければなりません。自分の許容範囲内のことであれば、上司もきっと落ち着いて感情的にならずに、部下を指導できるでしょう。

そして、上司の指導で大切なのは、部下が壁にぶちあたっていたり失敗したりして指導した後に、部下が未来志向になれているかどうかです。

失敗してもその経験から学ぶことは大切ですので、「どうしてうまくいかなかったのか」と部下に考えさせることは大切です。同時に、「次はどうすれば繰り返さないのか」と部下に考えさせることは、もっと大切でしょう。終わったことをいつまでも責めるのではなく、次はどうするのかと、未来形で接すれば、部下は次こそはという前向きな気持ちに自然となれます。

■数年後、Aさんが上司のポジションになった

時には叱ったり、否定しなければならない部下もいるでしょう。しかしそのような時も、部下の性格を否定するのではなく、具体的な行動や期限として次はどうするのかに焦点を当てることができる上司なら、部下は「叱られやすい=厳しくても指導が上手」と感じます。

その後Aさんは産業医面談に来ることはなくどうなったかはわかりません。が、数年後、当時の上司はすでに退職し、Aさんがそのポジションに昇格したと人づてに聞きました。

Aさんには部下をメンタルヘルス不調にさせない、いい上司になってほしいと思います。

今回の話が皆様のお役に立てば光栄です。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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