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生命維持に不可欠な超重要臓器なのに…肝臓が「痛みを感じない沈黙の臓器」である本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年8月7日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mi-viri

健康で長生きするにはどうすればいいのか。肝臓専門医の浅部伸一さんは「酒飲み、食べすぎ、運動不足が脂肪肝を引き起こす。脂肪肝を放置すると、知らないうちに肝炎、肝硬変、肝臓がんになり命を落とす危険性がある。自覚症状が出てから病院に行っても手遅れになる」という――。

※本稿は、浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■肝臓は「生命の最後の砦」である

肝臓の働きは、大きく分けると、次の3つです。

・代謝…体内で起きている「代謝」の大半は、肝臓が担っている
・解毒…いわゆる「デトックス」「毒出し」も、ほぼ肝臓だけが担っている
・胆汁の製造…「胆汁」を作る機能は、肝臓にしかない

肝臓が弱ると、これらの機能が麻痺してしまいます。こうなると、もはや肝臓だけの問題ではありません。生命の維持に直結するレベルの大問題です。

肝臓は実にしぶとい臓器です。腎臓も心臓も血管も、歳をとればどんどん弱っていきますが、肝臓は違います。

ほかの臓器の老化が進んでも、そう簡単にはダメにならないのが肝臓です。さらに、肝臓の特徴のひとつに「再生しやすい」ということが挙げられます。肝臓の細胞は、壊れても再生する力が強いのです。

このように、肝臓は重要な機能をいくつも担っています。ほかの臓器に比べると非常にタフにできていますが、いったん悪くなると、その重要さゆえに命にかかわります。まさに、生命の最後の砦のような臓器なのです。

■私たちは肝臓の不調を自分で感じ取ることができない

肝臓は丈夫です。細胞のひとつやふたつに何かあっても、強い再生力で元に戻ります。でも、だからといって安心しないでください。ぜひ知っておいてほしいのは、肝臓は「悪くなっても症状が出にくい」ということです。

体調を崩したとき、「胃の調子が悪くて」「のどが少しヘンな感じ」「なんだかダルい」などと言いますが、「今日は肝臓の調子がイマイチだ」と言う人はいません。たとえ肝臓に問題があっても、それを自覚することがほとんどないからです。

肝臓はとても重要な臓器です。にもかかわらず、私たちは肝臓の調子を体で感じることができません。また、健康診断の数値を見ても診断しにくいのが肝臓の厄介なところです。

さらに、肝臓の病気にもいろいろありますが、どれも初期には症状がほとんど出ません。肝臓は、胃や腸や心臓などと違って痛みが出ることもまれなので、よく「沈黙の臓器」と呼ばれます。

なぜ、肝臓が悪くなっても痛みを感じないのか。

それは、肝臓の中には「自律神経」は走っているものの、痛みを伝える「知覚神経」が肝臓の表面にしかなく、肝臓の中まで来ていないからです。ですから、たとえ「脂肪肝」や「肝炎」のような病気が潜んでいても、痛みを感じません。

「痛くないから」「なんともないから」といって安心しているうちに徐々に悪くなっていき、かなり悪くなってから初めて症状を自覚するのが肝臓という臓器の特徴です。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。

■「酒飲み」「食べすぎ」「運動不足」は最恐の3点セット

肝臓といえば「お酒」と結びつける人が多いと思いますが、それだけでは誤ったイメージです。病院で「お酒を飲みすぎてなんだか調子が悪いから、肝臓の数値が悪いはず」と訴える人もいますが、これは思い込みにすぎません。

飲みすぎて調子が悪いと感じるときでも、実際は肝臓の機能が極端に落ちているのではなく、ほかのところがダメージを受けている可能性のほうが高いのです。

飲み会での乾杯シーン
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

ただし、大量のお酒をずっと飲み続けている人は要注意。「肝炎」という状態になっている可能性があります。それは「昨日飲みすぎたから、今日の肝臓の調子が悪い」のではなく、すでに肝臓が病気にかかっているということです。

肝機能が低下したり、肝臓の病気になりやすいのは、お酒を飲む人よりも、むしろ「太っていて、運動をしない人」のほうです。

実際、お酒が原因ではない肝臓病になる人のほうが、お酒が原因で肝臓病になる人よりも多く、特に「運動をしない、肥満気味の人」は肝臓病になりやすい。ですから、お酒をよく飲み、肥満気味で、運動不足の人は、かなりマズいと思ってください。

肝臓が悪くなっていても自覚症状が出にくいことは先ほどお話ししました。もしも「食欲がない」「お腹が張る」などの症状が、本当に肝臓からきているとしたら、すでに深刻な状況です。肝臓がかなりのダメージを受けていて、肝炎や肝硬変になってしまっています。

肝臓は「沈黙の臓器」です。自覚症状が出てから病院に行くのでは「遅い」ということをぜひ覚えておいてください。

■「脂肪肝」を放置するとどうなるのか

肝臓の一つひとつの細胞(肝細胞)に、水滴のような脂肪がたまるのが脂肪肝です。その脂肪によって、肝臓の細胞が少しずつ壊れていきます。

ですが、肝臓は予備力がたっぷりあり、しかも「再生」しやすい臓器です。たとえ細胞がいくつか壊れても、肝臓は何度でもそれを「修復」して再生します。しかも、壊れた細胞は、取り除かれて、分解されて、栄養素として再利用されます。

ところが、です。

肝臓の細胞が壊れるときに、「炎症」が起きることがあります。この「炎症」が問題なのです。

炎症が起きていると、肝臓は再生するときに「結合組織」と呼ばれる余分な物質を作ります。修復や再生を繰り返すうちに、結合組織の厚みがどんどん増していき、組織の中に壁が作られます。その壁は、細胞の横に作られる網目状の布紐のようなもので、「肝臓の線維化」と呼ばれます。

線維化そのものが何かの症状を引き起こすわけではありませんが、肝臓の細胞の一部が線維に置き換わると、そのぶん肝細胞が少なくなって肝臓の機能は低下します。しかも、増えた結合組織が、血液が肝細胞へ流れるのを邪魔するので、ますます肝臓の機能が低下します。

線維化が繰り返されると肝臓は硬くなり、やがて「肝硬変」という深刻な病気へと進んでいきます。ちなみに、肝臓の線維化が起きやすい人と、あまり起こらない人がいます。両者の違いがどこからくるのかは現代医学でもまだ判明していません。

■肝臓が炎症を起こした病気が「肝炎」

前述したように、問題は「炎症」です。「肝炎」は、なんらかの原因で肝臓に炎症が生じる病気です。放置すると、肝硬変や肝臓がんに進行していきます。肝炎は自然に治るケースがある一方で、重症化して「劇症肝炎(急性肝不全)」となり、命にかかわるケースもあります。また、慢性化することもあります。

肝硬変は肝細胞の喪失と肝臓の不可逆的な瘢痕化を伴う肝疾患の合併症である
写真=iStock.com/OGphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OGphoto

肝炎にはいくつかの種類がありますが、そのなかで脂肪肝の人に特に警戒してほしいのは「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」です。

NASHとは、一般的に「脂肪肝炎」と呼ばれる状態で、進行性の慢性肝炎です。つまり悪化が進む、慢性化した病気です。NASHは「肝硬変」や「肝臓がん」という深刻な病気のもとになります。「脂肪肝」→「NASH」→「肝硬変」→「肝臓がん」というプロセスをたどることになる可能性があります。

脂肪肝になった人の10~20%は、NASHになります。10~20%と聞くと少なそうですが、母数が多いので実際の人数はかなりにのぼります。

■酒を飲まない人も無関係ではない

NASHは、お酒をほとんど飲まない人でもかかります。ウイルスに感染していない人でもかかります。実際に肝臓がんにまで進む人の比率は、NASHの人よりも「アルコール性脂肪肝」や「肝硬変」の人のほうが少し高いのですが、NASHの人も数%は最終的には肝臓がんになります。

ここで厄介なのは、脂肪肝の程度がひどくなるほどNASHになりやすくなるわけではないということ。つまり、NASHになるかどうかは、肝臓の脂肪化の程度とは無関係なのです。

脂肪化の程度が軽くてもNASHになる人がいます。そして、そういう人はとても多い。逆に、脂肪肝がひどくなってもNASHに進まない人もいます。こうしたケースを目の当たりにするたびに、世の中はとかく不可思議で理不尽だなと思います。

とはいえ、NASHが「脂肪肝に炎症や線維化をともなう異常が起きる」病気であることは確かですから、脂肪肝の人は誰でもNASHになる可能性があると思って用心しておくのがいいでしょう。

■肝硬変になると、体のあちこちに異変が生じる

肝臓の炎症と線維化によって、「脂肪肝」→「脂肪肝炎」→「肝硬変」→「肝臓がん」と進行していきます。3つめの段階「肝硬変」とは、肝臓が硬くなって機能しなくなる状態です。ウイルス性の肝炎でも、線維化が進むと肝硬変になります。

「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓でも、肝硬変にまで進行すると、さすがに自覚症状が出てきます。疲れやすくなったり、食欲が落ちたりします。体重が減ることもあります。肝臓の血流が滞って、痔になる人もいます。

右側の腹の腹痛を有するアジアの男性患者
写真=iStock.com/Satjawat Boontanataweepol
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satjawat Boontanataweepol

肝硬変になると、肝臓以外にもいろいろな不都合が起こります。肝硬変になると、実際にどんなことが起きるのか、もうすこし説明しましょう。肝硬変の症状を知ることで、ふだん肝臓がいかに重要な役割を果たしているのか、あらためて実感していただけるのではないかと思います。

たとえば、ケガをしたときなどに血が止まりにくくなります。血液の「凝固因子」と呼ばれる物質はたくさんありますが、ほとんどが肝臓で作られていて、肝硬変になると、その血液の凝固因子が作られなくなるからです。

また、免疫力がとても落ちて感染症にもかかりやすくなります。これは、コレステロールをはじめとして、いろいろな免疫系にとって重要な物質が不足するためです。

「アルブミン」というタンパク質も不足します。肝臓は食べ物に含まれたアミノ酸を材料に、タンパク質を作ります。これは代謝の機能のひとつです。タンパク質にもいろいろな種類がありますが、「アルブミン」はその代表格です。肝硬変になると、肝臓の代謝機能が十分に働かず、このアルブミンも減ってしまいます。

アルブミンには血管の浸透圧を保って、血液を安定化させる働きがあります。そのアルブミンが減ってしまうと、血液が血管の中に保たれなくなり、お腹に水(腹水)がたまったり、むくみが出たりします。

肝硬変は進行の度合いに従ってA・B・Cの3つの段階を踏んでいきますが、B段階まで進むと、このような症状が出てきます。肝硬変の患者さんの実に約半数の人が、このレベルにまで進んでいます。

肝硬変になると、肝臓の解毒力も弱まります。体の中で作られた老廃物であるアンモニアを十分に処理できなくなると、血液中にアンモニアが増えていきます。その血液が脳に影響し、脳に障害が起きることがあります。これは「肝性脳症」といって、肝硬変の合併症のひとつです。

肝性脳症になると、意識がなくなることがあります。血糖値の調節がうまくいかないので、食べたあとで血糖値がぐんと上がり、糖尿病にもなります。

■「肝臓がん」に進む前に、肝臓のケアを習慣づけて

命に関わる肝臓の病気はいくつもありますが、言うまでもなく、その最たるものは肝臓がんです。肝臓がんは、いったん治療の効果があっても再発率がとても高い、危険ながんです。

肝臓がんは、原因となる出発点が脂肪肝であろうと、肝炎ウイルスであろうと、あるいは自己免疫疾患であろうと、すべて次のプロセスによって起きます。

浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)
浅部伸一『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』(アスコム)

「肝臓で繰り返される慢性的な炎症」→「肝臓の線維化」→「肝不全(肝臓が機能しなくなった状態)」または「肝臓がん」

健康な肝臓が深刻な病気になるまでには、いくつかの段階を踏んでいきます。進行プロセスをさかのぼると、肝臓がんになる前には、脂肪肝や肝炎という段階を経ています。脂肪肝や肝炎の段階で早期発見し、早期治療を行ない、なんとか肝臓がんになるのを食い止めたい。肥満の人は体重を落とし、いつも飲み過ぎている人はお酒の量を減らしましょう。

肝硬変は薬ですぐに治る病気ではなく、専門医の指導のもとで厳しい食餌療法を行なわなければなりません。できれば脂肪肝の段階でなんとか対処したいところです。私がおすすめしている「12時間肝臓ダイエット」は、肝硬変に至る前の段階の脂肪肝や脂肪肝予備軍の人が自分でできる方法です。

とにかく肝臓に炎症を起こさせないこと。炎症を起こさせないために、生活習慣病としての脂肪肝を予防・改善しましょう。重要な機能をいくつも担う肝臓を大切にケアすることで、全身の健康状態もよくなります。

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浅部 伸一(あさべ・しんいち)
肝臓専門医、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授
1990年、東京大学医学部卒業後、東京大学附属病院、虎の門病院消化器科等に勤務。国立がんセンター研究所で主に肝炎ウイルス研究に従事し、自治医科大学勤務を経て、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科に勤務。現在はアッヴィ合同会社所属。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料はワイン、日本酒、ビール。

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(肝臓専門医、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科元准教授 浅部 伸一)

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